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2026.09.10
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イラン情勢悪化が南アフリカ経済を直撃
~インフレ加速と景気失速が併存、SARBの政策運営は一層困難も、ランドは金・ドル相場次第~
西濵 徹
- 要旨
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- イラン情勢の悪化による原油高を受け、エネルギー輸入依存度の高い南アフリカではインフレ圧力が強まっている。4月のインフレ率はSARB(中銀)の目標レンジ上限を上回り、SARBは5月に3年ぶりの利上げに踏み切った。ただし、その後も物価上昇が続いたにもかかわらず、景気下振れへの懸念から7月会合では金利を据え置いた。足元では原油価格の再上昇に加え、エルニーニョによる農業生産への悪影響も懸念されており、エネルギーや食料品を中心にインフレが長期化するリスクが高まっている。
- SARBが懸念していた景気下振れは早くも顕在化し、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.96%と7四半期ぶりのマイナス成長となるなど、景気に急ブレーキが掛かっている。輸出や個人消費は比較的底堅いものの、先行き不透明感や利上げ観測を背景に固定資本投資は低迷している。さらに、在庫投資が成長率を大きく押し上げていることを踏まえると、実際の需要環境はGDPの数字以上に厳しい可能性がある。鉱業や製造業、建設業でも生産が低迷しており、SARBはインフレ抑制と景気下支えの難しい政策運営を迫られている。
- 先行きは、反移民感情の高まりも景気下押し要因となり得る。建設、農業、小売、運輸などでは外国人労働者への依存度が高く、移民排斥の動きが強まれば労働力不足を通じて経済活動が制約される可能性がある。こうした厳しい実体経済とは対照的に、通貨ランドは金価格や米ドル相場など外部要因に左右される展開が続いている。今後もランド相場は、国内要因よりもFRBの政策運営や金相場、対円では米ドル/円相場の動向がカギを握るとみられる。
- 目次
【イラン情勢の悪化でインフレ顕在化も、SARBは景気への影響を警戒して金融引き締めに慎重】
イラン情勢の悪化を受けた原油高は、世界的にエネルギーインフレを招いている。南アフリカはプラチナや金、鉄鉱石など様々な鉱物資源の生産国である一方、原油・石油製品などエネルギー資源のほぼすべてを輸入に依存する。原油・石油製品、天然ガスなどエネルギー資源の貿易収支はGDP比▲4%程度の赤字を抱えると試算される。さらに、原油輸入の4分の1はサウジアラビア、石油製品の半分以上はオマーン、UAE(アラブ首長国連邦)、バーレーンといった中東諸国からの輸入が占める。このため、イラン情勢の悪化は価格・数量の両面で同国経済に悪影響を与えるほか、輸入増による対外収支の悪化やインフレなど経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の悪化を招くことが懸念される。
実際、イラン情勢の悪化を受けてインフレは加速して4月に前年比+4.02%とSARB(南ア準備銀行)の目標レンジ(2~4%)の上限を上回る伸びとなった。このため、SARBは5月会合で3年ぶりの利上げに舵を切るなど金融引き締めに動いた。その後もインフレ率は一段と加速したにもかかわらず、SARBは7月会合では金利を据え置く予想外の対応をみせた。その理由について、SARBはインフレリスクを認識する一方、景気の下振れリスクも高く、物価と景気の間で板挟み状態にあることが慎重姿勢を後押ししたと説明した。なお、米国とイランによる停戦合意を受けて原油高が一服したことを受けて、7月のインフレ率は前年比+4.26%に鈍化しているものの、引き続き目標レンジを上回る伸びで推移している(図1)。食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率も7月は前年比+4.19%と目標レンジを上回るとともに、2年ぶりの高い伸びとなるなど幅広くインフレ圧力が強まっている。

足元ではイラン情勢の不透明感が高まるなかで原油価格は再び上昇しており、エネルギーインフレが長期化する懸念が高まっている。さらに、エルニーニョ現象の発生により、同国では少雨・高温となることが予想されており、水供給のひっ迫によるかんがい用水の制約が生じることで主食のトウモロコシをはじめとする穀物生産の減少が懸念される。このため、エネルギーと食料品といった生活必需品を中心とするインフレが長期化するとともに、幅広い経済活動に悪影響を与えることが懸念される。
【イラン情勢の悪化を受けて景気に急ブレーキ、景気実態は数字以上に厳しい可能性も】
前述したように、SARBはインフレリスクを認識しつつ、景気への悪影響を警戒して金融引き締めに慎重な姿勢をみせたものの、早くもそうした懸念は現実のものとなっている。4-6月の実質GDP成長率は前期比年率▲0.96%と7四半期ぶりのマイナス成長となり、足元の景気に急ブレーキが掛かる動きが確認されている(図2)。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+0.9%と2四半期ぶりに1%を下回る伸びにとどまるなど、頭打ちの動きを強めている。このため、先行きもインフレの長期化につながる材料は山積しているものの、SARBにとっては政策運営のハードルが高まることは避けられそうにない。

需要項目別では、イラン情勢の悪化による原油高を受けて、世界的に石炭需要が高まっているほか、輸出の2割を占めるEU(欧州連合)景気の持ち直しの動きも追い風に、輸出は拡大傾向を強めている。また、インフレ加速による実質購買力の下押しが懸念されたものの、個人消費は底堅い動きをみせるとともに、政府消費にも堅調さがうかがえる。一方で、景気の先行き不透明感の高まりに加え、SARBによる利上げ観測も足かせとなる形で企業部門の設備投資意欲は低迷しており、固定資本投資は2四半期連続のマイナスとなった。なお、全体としての個人消費は拡大基調が続いたものの、インフレやSARBによる利上げを警戒して耐久財の需要が押し上げられる一方、半耐久財や非耐久財の需要は力強さを欠くなど対照的な動きをみせており、先行きはその反動が出ることが懸念される。さらに、在庫投資による成長率寄与度は前期比年率ベースで+2.22ptと試算されるため、足元の景気の実態は数字が示す以上に厳しい状況にあると考えられる。
分野ごとの生産動向についても、個人消費の底堅さを反映してサービス業の生産は拡大したものの、石炭をはじめとする鉱物資源に対する需要拡大が期待されるにもかかわらず、鉱業部門の生産は減少したほか、製造業の生産も減少傾向で推移するなど厳しい状況が続いている。さらに、設備投資需要の弱さや公共投資の進捗低迷が重なり、建設業の生産も力強さを欠いている。なお、農林漁業関連の生産はわずかに拡大したものの、成長をけん引するには力強さに乏しい状況にある。このように、幅広い分野で生産が低迷しているにもかかわらず、前述したように在庫が積み上がる動きが確認されたことは、足元の需要環境が急速に厳しくなっていることを示唆している。
【労働力不足が経済の足かせとなる懸念も、ランド相場は米ドルや金相場しだいの展開が続く】
先行きの同国経済を巡っては、労働力不足が幅広い経済活動の足かせとなる懸念が高まっている。同国では6月末、反移民を掲げるデモが全土で実施された(注1)。背景には、高い失業率や治安悪化、社会経済格差に対する不満が、同国に根強く残る外国人嫌悪(ゼノフォビア)と結び付いて周辺国からの移民に対する反発につながったとの見方がある。さらに、同国では11月に統一地方選挙が予定されており、反移民や不法移民の排斥を主要な公約やイデオロギーに掲げる政党がこうした動きを扇動しているとされる。今月にも、同国東部の港湾都市ダーバンにおいて、反不法移民デモの参加者と外国人グループが衝突し、治安当局の鎮圧に伴い多数の負傷者が出たほか、逮捕者も発生する事態に発展している。同国では、建設業や農業のほか、小売・運輸といったサービス業などが長年外国人労働者に依存しているとされ、広大なインフォーマルセクターも含めて幅広い分野で労働力不足が経済活動の制約要因となる可能性が考えられる。世論調査では、ラマポーザ政権を支える最大与党ANC(アフリカ民族会議)の支持率が低下し、その批判票の受け皿としてズマ前大統領が率いるMK(民族の槍)、左派のEFF(経済的解放の闘士)といった「反移民」色の強い政党が支持率を上昇させている。このため、先行きの同国経済は厳しい展開が続くと予想される。
こうした状況にもかかわらず、同国の通貨ランド相場は金価格に連動する展開が続くなど、実体経済の動きとはやや乖離する形で推移してきた。一方で、SARBが7月会合で予想外に政策金利を据え置いたことを受けて、金融引き締めが後手に回るとの観測が強まるとともに、ランド相場が調整する動きもみられた(注2)。このところの金融市場においては、米ドル高の動きに一服感が出ているほか、世界的な「米ドル離れ」の動きも追い風に金価格が持ち直しの動きをみせたことが下支えしている(図3)。先行きのランド相場についても、同国に起因する材料は見出しにくく、FRB(米連邦準備制度理事会)の政策運営を受けた米ドルの動きのほか、金相場など外部環境に左右される展開が続くと予想される。一方で、日本円に対してはこのところの円高の動きを反映して上値が抑えられているが、先行きについては米ドル/円相場の動向がカギを握るであろう。

注1 7月2日付レポート「南アフリカで反不法移民デモ拡大、その背景と今後の影響は」
注2 7月24日付レポート「南ア準備銀行、事前予想に反して金利据え置き、ランド相場はどうなる?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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西濵 徹

