足下の中国景気は外需に底堅さも、内需は一段と弱含む展開

~当局の現状認識に対するズレは政策対応の遅れに繋がる懸念、適時適切な対応が望まれる局面に~

西濵 徹

要旨
  • 中国では、6中全会で「歴史決議」が採択され、来秋の共産党大会での習近平指導部の異例の3期目入りが前進した。他方、足下の中国経済は様々な「政策の失敗」が重なり景気は頭打ちの様相を強めている。今月11日はいわゆる「独身の日」としてECサイトの大規模セールが実施され、売り上げは過去最高を更新するも、「共同富裕」が足かせとなる動きがみられるなど、政策リスクはこれまで以上に意識される状況にある。
  • 当局の「ゼロ・コロナ」戦略は雇用の重石となるなか、10月の小売売上高は名目ベースでは前年比+4.9%と伸びが加速したが、物価上昇を受けて実質ベースでは同+1.9%と鈍化するなど頭打ちしている。他方、新型コロナ禍からの景気回復をけん引してきた固定資産投資は年初来前年比+6.1%と不動産関連を中心とする資金繰り懸念が重石となる動きがみられた。また、鉱工業生産は前年比+3.5%と底打ちしたが、堅調な外需と力強さを欠く内需といった跛行色が一段と鮮明になるなど、中国経済を巡る状況は厳しさを増している。
  • 国家統計局は、足下のスタグフレーション懸念に対して一時的要因によるとの認識を示したが、現状認識が些か楽観に傾いている。政策余力を勘案すれば景気に急ブレーキが掛かる事態は想定しにくいが、認識のズレは政策対応の遅れに繋がる可能性があり、今後は適時適切な政策対応がこれまで以上に望まれる。

中国においては、8日から11日までの日程で開催された6中全会(中国共産党第19期中央委員会第6回全体会議)においていわゆる「歴史決議」が採択され、来年秋に開催予定の共産党大会(中国共産党第20回全国代表大会)において習近平指導部が異例の3期目入りを果たす道筋が大きく開かれたと捉えられる(注1)。他方、足下の中国経済を巡っては、当局による『ゼロ・コロナ』を前提とする強力な感染対策に加え、身の丈に合わない環境対応を目指したことや石炭価格の急騰などに伴う電力不足、不動産大手の恒大集団のデフォルト(債務不履行)懸念を契機とする金融市場の動揺など『政策の失敗』の連鎖のほか、世界的なサプライチェーンの目詰まりや国際商品市況の上昇などが企業部門のマインドの重石となるなど、景気の足かせとなる動きがみられる(注2)。さらに、先月半ば以降は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新規感染者数が再び拡大傾向を強めており、当局が堅持する『ゼロ・コロナ』戦略の下で感染者数の水準自体は引き続き小規模に留まるものの、大規模な強制検査のほか、局所的な都市封鎖(ロックダウン)が実施されるなど、幅広い経済活動に悪影響を与えることが懸念される(注3)。なお、中国では今月11日はいわゆる『独身の日』とされ、2009年に大手EC(電子商取引)サイトが大規模セールを仕掛けて大成功して以降、ここ数年はECサイト間の熾烈な競争が展開されてきた。ただし、今年は習近平指導部が盛んに訴える『共同富裕』というスローガンの下で大手IT企業に対する『締め付け』の動きが強まるなか(注4)、事前には国営メディアによる報道が控えられたほか、一部で批判の動きがみられるなど例年のお祭りムードにはほど遠い状況となった。こうした状況にも拘らず、セール期間中の大手ECサイトの売り上げは過去最高を更新するなど、商戦そのものは活況を呈する動きがみられる一方、規制当局は大手ECサイトによる不当な価格操作の公表を機に消費者の間にはセール合戦の過熱に対して冷めた動きもみられるなど、家計消費の取り込みに向けた動きは岐路に差し掛かっている。習近平指導部は6中全会で採択した「歴史決議」においても自身の功績を自画自賛するとともに、『共同富裕』や科学技術の『自立自強』を目指すなどの目標を掲げている模様であるが、企業部門にとっては当局の政策変更リスクにこれまで以上に晒されやすくなることが予想される。

当局による『ゼロ・コロナ』戦略は幅広い経済活動に悪影響を与えるなか、足下の企業マインドの動きをみると幅広い分野で雇用に調整圧力が掛かる動きがみられるなど、家計消費の回復の重石となる状況が続いている。一方、昨年来の新型コロナ禍対応を目的に政府及び中銀(中国人民銀行)は財政及び金融政策の総動員による景気下支えを図った結果、金融市場においては『カネ余り』が意識される状況が続くとともに、不動産をはじめとする資産価格は上昇傾向を強めるなど経済格差が一段と拡大する動きに繋がってきた。習近平指導部が盛んに共同富裕を訴えている背景には、こうした景気の『K字化』の解消を狙っているものと捉えられる一方、恒大集団のデフォルト懸念をきっかけにした金融市場の動揺など新たな問題を招いているほか、家計消費も回復感に乏しい展開が続くなど現時点において十分な成果には繋がっていない。家計消費の動向を示す10月の小売売上高(名目ベース)は前年同月比+4.9%と前月(同+4.4%)から緩やかに伸びは加速しているほか、前月比も+0.43%と前月(同+0.30%)から拡大ペースも加速するなど底打ちが進んでいるようにみえる。しかし、足下では昨年後半以降における国際原油価格の上昇によるエネルギー価格の上昇や生鮮品をはじめとする食料品価格の上昇など、生活必需品を中心にインフレ圧力が強まる動きがみられるなか(注5)、物価の影響を除いた実質ベースでは前年同月比+1.9%と前月(同+2.5%)から伸びが鈍化しているほか、10月の消費者物価は前月比+0.7%と前月(同+0.0%)から上昇ペースが大幅に加速していることを勘案すれば、実質ベースの前月比は減少に転じているとみられる。なお、これまで家計消費を押し上げてきたECを通じた小売売上高は年初来前年比+14.6%と小売売上高全体の伸び(同+14.9%)を下回るなど、価格競争が激化していることも相俟って勢いに陰りが出つつある様子もうかがえる。他方、財別では世界的な半導体不足に伴う自動車生産の低迷を反映して自動車(前年比▲11.5%)は引き続き弱含む動きをみせる一方、ペントアップ・ディマンドの発現などを反映して通信機器(同+34.8%)や宝飾品(同+12.6%)は引き続き高い伸びをみせているほか、不動産需要の堅調さを反映して建築資材(同+12.0%)も拡大が続くなど、富裕層や中間層で国内旅行に代わる形で消費活動が活発化する動きがみられる。その意味では、習近平指導部の思惑にも拘らず、足下の家計消費の動きは二極化が一段と進んでいると捉えられる。

上述のように家計消費は二極化の様相を強めている一方、昨年来の景気回復のけん引役となってきた固定資産投資については、共産党及び政府が不動産投資の活発化による市況のバブル化などを警戒して昨年末以降関連融資を絞るなど事実上の引き締め姿勢に転じた結果、恒大集団をはじめとする不動産関連企業のデフォルト懸念を招く一因となってきた。10月の固定資産投資も年初来前年比+6.1%と前月(同+7.3%)から伸びが一段と鈍化しており、当研究所が試算した単月ベースの前年同月比は2ヶ月連続のマイナスとなっている上、マイナス幅も拡大するなど下振れしている様子がうかがえる。単月ベースの前月比も+0.15%と前月(同+0.15%)と同じペースで拡大しているものの、昨年末以降の拡大ペースは過去数年に比べて見劣りする水準での推移が続いており、頭打ちの様相を強めている。実施主体別では、国有企業(年初来前年比+4.1%)が引き続き全体を下回る伸びとなるなど足を引っ張っている一方、民間企業(同+8.5%)は伸びが頭打ちしているものの、国有企業に対して民間投資が依然として投資をけん引していると捉えられる。さらに、投資対象別では設備投資(年初来前年比▲2.5%)が前年を下回る伸びが続くもマイナス幅が縮小するなど底打ちの兆候がうかがえる一方、建設投資(同+10.0%)は全体を上回る伸びが続くも鈍化の動きを強めるなど頭打ちの動きを強めている。こうした動きを反映する形で不動産投資も年初来前年比+7.2%と前月(同+8.8%)から伸びが一段と鈍化している。住宅(同+9.3%)は頭打ちの様相を強めるも引き続き堅調な伸びをみせる一方、商業用不動産(同▲1.8%)やオフィス向け不動産(同▲4.9%)は一段と弱含む動きをみせており、恒大集団のデフォルト懸念をきっかけに関連企業の資金繰りに対する不透明感が高まっていることが活動の足かせになっているとみられる。他方、分野別では当局による政策支援の効果を受けて、特殊装置関連(年初来前年比+25.9%)や電気機械関連(同+25.0%)やコンピュータ・通信機器・電子部品関連(同+22.5%)、鉄道・船舶・航空宇宙関連(同+22.1%)、医薬品関連(同+17.8%)などで堅調な動きがみられる一方、自動車関連(同▲5.5%)や鉱業関連(同+5.0%)などは力強さを欠く動きが続いている。電力不足を受けて当局は国内での石炭生産拡大を目指す動きをみせているものの、鉱業関連の投資が引き続き勢いを欠く展開となっていることは、電力不足を巡る問題が一朝一夕には改善しにくいことを示唆している可能性が考えられる。

このように家計消費と固定資本投資は力強さを欠く動きをみせているものの、10月の鉱工業生産は前年同月比+3.5%と前月(前月+3.1%)から伸びが加速しており、頭打ちの動きを強めてきた流れが底打ちしている。前月比も+0.39%と前月(同+0.05%)に大きく下振れした状況から底入れしている。国内においては消費及び投資活動がともに弱含む展開が続いている一方、欧米など主要国を中心とする世界経済の回復の動きが続いており、外需の堅調さが生産を下支えしているとみられる。また、9月は多くの地域で電力不足が顕在化して経済活動の足かせとなる動きがみられたものの、当局が石炭をはじめとする鉱物資源関連の生産拡大に向けた『大号令』を発したことを反映して、生産が押し上げられたことも影響している。ただし、前月比のペースは一昨年までの状況や、新型コロナ禍からの回復局面において拡大ペースが堅調な推移をみせてきたことを勘案すれば、昨年後半以降は一転して頭打ちの様相を強めている。なお、政府による大号令を反映して電気・熱供給・ガス・水関連(前年比+11.1%)の生産は伸びが加速しているほか、石炭をはじめとする鉱物資源関連の生産拡大の動きを反映して鉱業部門(同+6.0%)の生産の伸びも加速している。さらに、外需の堅調さを反映してハイテク関連(前年比+14.7%)の生産も拡大ペースを加速させており、当局による政策誘導の動きが生産を左右している様子がうかがえる。他方、実施主体別では国有企業(前年比+5.2%)や公営株式会社(同+4.2%)の生産は伸びが加速している上、全体を上回る伸びが続いている一方、外資系企業(同+1.3%)、民間企業(同+2.4%)の生産は頭打ちする動きがみられるなど、生産活動においてもいわゆる『国進民退』の色合いが一段と強まっている。業種別では、世界的な半導体不足による影響を受けて自動車製造業(前年比▲7.9%)は引き続き弱含んでいるほか、非鉄金属加工業(同▲12.8%)の生産に一段と下押し圧力が掛かる一方、世界的なワクチン需要の旺盛さを反映して医薬品製造業(同+16.3%)は引き続き高い伸びをみせている上、コンピュータ・通信機・電子設備製造業(同+14.0%)も堅調な動きをみせるなど、外需関連産業で生産拡大の動きが続いている。その意味では、これまで以上に内需と外需を巡る跛行色が拡大していると言えよう。

10月の経済指標の公表に際して、国家統計局の付凌暉報道官は足下の景気動向について「安定的な回復が続いている」との認識を示す一方、「景気回復の安定を図るためには依然として努力を払う必要がある」との考えを示すなど、厳しさが増していることを匂わせた。その上で、足下で企業部門を中心に物価上昇圧力に直面していることに対して「スタグフレーションの兆候が出ているのは短期的要因によるもの」との見解を示すとともに、「消費者物価は依然として緩やかな上昇に留まっており、景気回復が続くと見込まれる」とするなど、消費者段階で物価上昇圧力が高まっていないことを好感する見方を示した。また、先行きの投資活動については「資金繰りを巡ってロールアウトが進むなかでインフラ投資の底入れが期待される」としたほか、雇用についても「緩やかな改善が見込まれる」とするなど、景気回復に自信をのぞかせた。ただし、足下の物価動向を巡っては、雇用回復が遅れるなかで当局による『指導』も影響して消費財への価格転嫁が難しくなっているほか、家計消費の弱さも相俟ってインフレ圧力が高まりにくい一方、企業部門が直面する生産者物価は上昇傾向を強めるなど『ワニの口』状態となっており、現状認識について些か楽観に傾いている感は否めない。政策余力の大きさを勘案すれば中国経済に急ブレーキが掛かるとは見通しにくいものの、現状認識のズレは政策対応を遅らせることで実体経済を取り巻く状況を一段と悪化させる懸念があり、今後は適時適切な政策対応が望まれる。

以 上

西濵 徹

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最新レポート

関連記事

関連テーマ

Recommend

おすすめレポート