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2021.06.11
新興国経済
金融市場
新型コロナ(経済)
南アフリカ経済
底堅い景気が確認された南アフリカに新型コロナ禍再燃の兆候
~国際商品市況を追い風に資金流入は続くも、今後は金融市場の「風向き」への注意が必要になろう~
西濵 徹
- 要旨
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- 足下の世界経済は、主要国で感染一服やワクチン接種などを背景に景気回復が進む一方、新興国で感染再拡大による行動制限が広がるなど好悪両方の材料が混在する。ただし、国際金融市場は活況を呈して高い収益を求める動きが活発化しており、国際商品市況の底入れも相俟って資源国への資金流入が進む。南アフリカは感染拡大一服の動きも相俟って資金流入が進み、通貨ランド相場は強含む展開が続いている。
- 足下の南ア経済は、商品市況の底入れが景気押し上げに繋がる一方、電力不足に伴う計画停電が足かせとなる展開が続くが、1-3月の実質GDP成長率は前期比年率+4.62%と3四半期連続のプラス成長となるなど底入れが確認された。ただし、家計消費や政府消費が景気を押し上げる一方、世界経済の回復にも拘らず外需は弱含み、企業部門の設備投資も低迷している。足下の企業マインドは一段と改善するなど景気の底入れを示唆する一方、感染が再拡大する「第3波」の兆候が出るなど状況が一変する可能性も出ている。
- 世界的にワクチン接種が「切り札」となるなか、同国をはじめとするアフリカ諸国はワクチン調達に手間取るなかで接種率は極めて低水準に留まり、経済活動の正常化には時間を要すると見込まれる。足下の国際金融市場は商品市況の底入れを追い風に資金流入を活発化させているが、経済のファンダメンタルズの脆弱さなど一変する要因は山積しており、先行きは金融市場の「風向き」に注意する必要が高まっている。
足下の世界経済を巡っては、欧米や中国など主要国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染が一服するとともに、ワクチン接種の拡大を背景に経済活動の正常化が進むなど景気回復を促す動きがみられる一方、新興国では感染力の強い変異株により感染が再拡大して行動制限が再強化される動きが広がり景気に冷や水を浴びせる懸念が高まっており、好悪双方の材料が混在している。なお、主要国を中心とする景気回復が進展する一方、全世界的な金融緩和を背景に国際金融市場は『カネ余り』が続いている上、先進国における低金利環境の長期化も相俟って世界的なマネーはより高い収益を求める動きを活発化させており、国際金融市場は活況を呈するなど『マッチポンプ』のような状況が続いている。さらに、世界経済の回復による需要回復を期待して国際商品市況は底入れの動きを強めるなか、鉱物資源を輸出するいわゆる『資源国』への資金流入の動きが活発化しており、アフリカ有数の資源国である南アフリカでは通貨ランド相場は上昇傾向を強めている。こうした背景には、上述のように新興国において変異株による感染再拡大の動きが広がりをみせる一方、南アフリカでは昨年末以降に変異株による感染拡大の『第2波』に直面したものの、1日当たりの新規陽性者数は年明け直後を境にピークアウトするとともに、その後は比較的低調な推移をみせるなど事態打開に向けた兆候がみられたことも影響したと考えられる。ただし、先月末以降の新規陽性者数は再び拡大傾向を強めるなど、感染拡大の『第3波』の兆候が出ているほか、その動きに呼応するように死亡者数も緩やかに拡大傾向を強める動きをみせており、感染収束が期待された状況は一変する可能性が高まりつつある。


一方、足下の南アフリカ経済を巡っては、世界経済の回復を追い風にした国際商品市況の底入れの動きが交易条件の改善を通じて実体経済にプラスに寄与することが期待される一方、慢性的な電力不足に伴う計画停電の実施が幅広い経済活動の足かせとなることで景気回復に冷や水を浴びせるなど勢いに乗れない展開が続いてきた。ただし、昨年の新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)を受けて深刻な景気減速に見舞われたこともあり、その後の政府及び中銀は財政及び金融政策を総動員する形で景気下支えを図る姿勢を強めたほか、政府は財政資金の一部をIMF(国際金融基金)からの緊急融資を通じて融通するとともに、中銀は量的緩和政策に動くなどなりふり構わぬ姿勢をみせている。こうした動きに加え、世界経済の回復による外需の改善も追い風に昨年後半以降の同国経済は押し上げられており、1-3月の実質GDP成長率も前期比年率+4.62%と3四半期連続のプラス成長となるなど景気は底入れしている。ただし、中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率は▲3.2%と依然としてマイナスで推移している上、実質GDPの水準も新型コロナウイルスのパンデミックの影響が及ぶ直前の一昨年末と比較して▲3.2%下回るなど、その影響を克服出来ていない様子もうかがえる。なお、分野ごとの生産動向については、農林漁業関連で弱含む動きがみられるほか、昨年末にかけて拡大の動きがみられた建設業の生産も一服する一方、製造業に底堅い動きがみられるなか、国際商品市況の底入れを受けた鉱業部門の生産拡大の動きやサービス業の堅調さが景気を下支えしている様子がうかがえる。他方、需要項目別では世界経済の回復にも拘らず輸出は弱含む動きがみられる一方、感染一服を受けた行動制限の緩和によるペントアップ・ディマンドの発現を反映して家計消費に堅調な動きがみられるほか、政府消費も景気を下支えする動きが確認されたものの、企業部門による設備投資意欲は乏しく固定資本投資に下押し圧力が掛かるなど、自律回復は道半ばの状況にある。さらに、前期比年率ベースの成長率寄与度をみると、在庫投資による寄与度が+8.7ptと成長率自体を上回る水準となっている上、前期から2四半期連続の大幅プラスとなるなど、その内容は極めて厳しい状況にあると判断出来る。ただし、足下の企業マインドは製造業のみならず幅広い分野で改善の動きをみせているほか、年明け直後をピークに新規陽性者数は鈍化傾向を強める展開をみせてきたことで人の移動は底入れの流れを強めるなど景気の底入れを促す動きが確認されている。よって、電力不足による計画停電といった足かせはあるものの、足下にかけて同国経済は堅調な推移をみせてきたことが推察される。しかし、上述のように先月末以降は新規陽性者数が再び増勢を強める動きがみられるなど、感染状況の悪化は景気に冷や水を浴びせることが警戒される。


なお、欧米などの先進国のほか、中国においてはワクチン接種の進展が経済活動の再開及び正常化に向けた『切り札』となっているが、南アフリカをはじめとする新興国においてはその調達を国際的な供給スキーム(COVAX)に依存するなか、平時において世界のワクチン生産の6割を占めるインドが感染爆発に直面するとともに、事実上ワクチンの禁輸に動いたことで全世界的に供給が滞る事態となっている 1 。足下ではインドの感染状況には改善の兆しがみられるものの、同国政府が発表した無計画なワクチン接種計画の影響で国内のワクチン不足が顕在化したため、ワクチン輸出が事実上禁止されたのみならずワクチン及び原材料の輸入を拡大させるなど、世界的な需給は一段とひっ迫する事態を招いている。こうしたなか、南アフリカはCOVAXに加えて製薬企業との個別契約を通じて確保に取り組んできたものの、政府は年内を目途とする全国民の3分の2に当たる4,000万人を対象とするワクチン接種計画を掲げるなか、足下のワクチン接種率(完全接種率(必要な接種回数をすべて受けた人の割合)と部分接種率(少なくとも1回は接種した人の割合)の和)も2.57%と低い水準に留まる。アフリカ全体についてもワクチン供給が遅れており、足下の完全接種率は0.77%、部分接種率も2.16%に留まることを勘案すれば、地域としても集団免疫の獲得に相当の時間を要することは避けられず、主要国で経済活動の正常化が進むなかで取り残されるリスクも高まることが懸念される。同国は昨年、新型コロナウイルスのパンデミックを受けて主要格付機関が相次いで格下げを実施する『格下げドミノ』に直面したが 2 、足下では短期的な経済及び財政状況の改善を理由に各社が格付を据え置く決定を行っており、追加格下げに動く可能性は後退している。ただし、昨年末時点における公的債務残高はGDP比8割弱に達するなど他の新興国と比較して突出した水準にある上、外貨準備高もIMFが示す国際金融市場の動揺に対する耐性を示す『適正水準』を大きく下回るなど 3 、国際金融市場におけるマネーの動向の影響を受けやすい特徴がある。足下の国際金融市場においては、国際商品市況の底入れを追い風に南アフリカへの資金流入の動きが活発化する動きがみられるものの、足下で感染再拡大の兆しが出ているほか、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)の脆弱さなど状況が反転する材料は山積しており、今後は国際金融市場の『風向き』を注視する必要性は高まっていると判断出来る。


1 5月21日付レポート「感染爆発が続くインドの行方が世界経済に与える影響とは」
2 2020年5月1日付レポート「南アフリカ、新型肺炎を理由とする「格下げドミノ」に直面」
3 4月28日付レポート「感染再拡大の「中心地」となっている新興国の「体力測定」」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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