二季化が進む日本、熱中症から命と暮らしを守る

~2025年救急搬送者数は過去最多、都道府県別地域差も明らかに~

谷口 智明

目次

1. 2025年の猛暑で熱中症救急搬送者数は過去最多の10万人超

2025年夏は記録的に早い梅雨明けとなり、観測史上最も過酷な猛暑に見舞われた。春と秋が短くなり、夏と冬の二つの季節が長期間続くという、気候の極端化を示す語「二季」が、同年の新語・流行語大賞ノミネート語に選出されたことも、この傾向を象徴している。こうした気象条件の下、総務省消防庁が2025年10月に公表した「令和7年(5月~9月)の熱中症による救急搬送状況」では、救急搬送人員が調査開始以来最多を記録した(資料1)。本稿では、消防庁や気象庁等のデータを基に、気温と熱中症による救急搬送状況や都道府県別の地域差を分析し、気候変動下で高まる熱中症リスクと政策的示唆について考察する。

図表
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2. 夏の気温偏差と熱中症救急搬送~特定の層・場所に集中する傾向

気象庁は、地球温暖化を含む長期的な気候変動の監視指標として、日本の夏(6~8月)の「平均気温基準値(1991~2020年の30年平均)からの偏差」(以下、気温偏差)を公表している。資料1のとおり、2025年夏の気温偏差は+2.36℃で、1898年の統計開始以来最高を記録した。2023年・2024年(いずれも+1.76℃)に続き3年連続で記録が更新され、気温上昇の加速を強く印象づけた。

熱中症による救急搬送人員は、気温偏差の上昇とともに増加傾向にあり、2025年は100,510人で、過去最多となった。なお、熱中症の危険度を判断する指標には、「暑さ指数(WBGT)」(注1)もあるが、本稿では気温偏差との対比にとどめる。

年齢区分別では、高齢者(65歳以上)が57,433人で全体の57.1%を占め、成人(18歳以上65歳未満)が33.9%と続く。時系列でも高齢者が最も熱中症リスクに直面する層といえる。発生場所別では、住居が38.1%で最も多く、次いで道路19.7%、公衆(不特定者が出入りする場所の屋外部分)12.1%であり、日常生活の空間にリスクが集中している。こうした結果から、救急搬送者は、比較的限られた層・場所に集中する傾向がみられる。搬送者の傷病程度別では、軽症(外来診療)が63.1%を占める一方、中等症・重症(要入院)は36.4%にのぼる。すなわち、搬送者の約3人に1人が入院を必要とし、重篤例も少なくない。

厚生労働省「人口動態統計月報(概数)」によれば、2025年の全国の熱中症死亡者数は未集計であるが、2024年は5~9月で2,098人(年間2,160人)と過去最多であった。これは同年の交通事故死亡者数(2,663人)に匹敵する水準だ。熱中症は高温多湿の環境下で発生する全身性障害とされ、適切なエアコンの使用で予防できる一方、エアコンが使用されない・使用できないことで死亡につながる例が多い。東京都23区のデータでは、2025年6~10月の屋内での熱中症死亡者のうち、約85%はエアコン未使用(含未設置)であった(資料2)。

図表
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3. 都道府県別にみた熱中症救急搬送率と地域差

全国の概況に続き、本章では都道府県別データを用いて熱中症リスクの地域差を考察する。その際、絶対数での比較は人口の大きい大都市圏が上位となるため、都道府県別に人口規模を補正した「人口10万人あたりの熱中症救急搬送人員」(以下、総人口搬送率)、および熱中症救急搬送の割合が高い高齢者(65歳以上)に焦点を当てた「高齢者人口10万人あたりの熱中症救急搬送人員」(以下、高齢者搬送率)を算出し、各地が直面する相対的な深刻度を比較した(資料3)。

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高齢者搬送率の上位と下位を比べると、2倍以上の差がみられる。特に高いのは、岡山県、大分県、佐賀県、沖縄県、奈良県などであった。これらは大都市圏ほどの搬送人員ではないものの、他地域と比べて高齢者が熱中症にかかる確率が高いといえる。また、高齢者搬送率の高い都道府県は総人口搬送率も高い傾向にあり、高齢者搬送率が全体の搬送率に大きく影響している。なお、全ての都道府県で高齢者搬送率が総人口搬送率を大きく上回っており、高齢者の熱中症リスクが共通課題であることを物語っている。

一方、搬送人員の絶対数では、東京都(9,315人)を筆頭に、大阪府、愛知県、埼玉県、神奈川県といった大都市圏が突出する。国立環境研究所(2024)は、東京都において「21世紀半ばや21世紀後半において、熱中症のみで救急車の稼働率が100%を超える救急搬送困難事案の発生が予測される」と分析し、医療崩壊に直結しかねないリスクが示された。つまり、大都市圏では救急隊が夏季に熱中症患者の対応に追われることで、他の傷病者への対応が遅延するなど、救急医療体制への負荷が懸念される。

4. 猛暑はもはや災害か~熱中症から命と暮らしを守る

気象庁(2025)は「2025年の夏に観測された記録的な日本域の高温は、地球温暖化がなかったと仮定すると、ほぼ発生し得ない」と指摘する。猛暑が今後常態化する可能性を踏まえると、熱中症は個人の健康問題にとどまらず、台風や地震、豪雨と並び、社会的・災害的な影響をもたらし、いわば「猛暑災害」「熱波災害」と呼んでも過言ではないかもしれない。そこで、気候変動の影響にあらかじめ備えておく適応策が重要だ。

都道府県別地域差の詳細な要因分析には限界があるものの、熱中症による死亡の多くは適切な対策により予防できる可能性があるとの指摘もある(注2)。特に重要なのは、暑さ指数や熱中症警戒アラートに応じた行動判断、こまめな水分・適度な塩分補給、適切なエアコンの使用、外出時の暑さ回避といった予防リテラシーの向上および日常的な予防行動である。その上で、リスクの高い高齢者の増加が避けられないなか、次のような対策が肝要だ。例えば、高齢者世帯の見守り体制の強化など地域包括ケアシステム(注3)との連携、エアコンの使用支援や断熱改修といった住環境の改善、猛暑期に特化した救急医療体制の強化、避難・冷却拠点(クールシェルター)の整備やヒートアイランド対策などの都市計画があげられる。国や地方自治体は、猛暑を前提に、命と暮らしを守るための包括的な対策への転換・推進が求められよう。

以 上

【注釈】

  1. 環境省が提供する「暑さ指数(WBGT:Wet Bulb Globe Temperature)」は、人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい①湿度、②日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、③気温の3つを取り入れた指標である。

  2. 東京都監察医務院HP「熱中症について」によれば、その年の気温等によって、熱中症の死亡者数に違いはあるが、亡くなられる方の特徴は毎年同じであり「熱中症死亡は、『予防可能な死』」と指摘。その上で次の点に注意して熱中症を防ぐよう注意喚起している。「喉の渇きを感じる前に、水分補給を」「エアコンの使用はためらわない」「夏が来る前に、エアコンの故障はないか、確認を」「自宅内を片付け、風通しをよくする」。

  3. 高齢者が住み慣れた地域で自立した生活を安心して続けられるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される社会的な仕組みのこと。

【参考文献】

谷口 智明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

谷口 智明

たにぐち ともあき

政策調査部 フェロー
専⾨分野: 財政・社会保障、教育

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