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2025.06.30
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サステナビリティ情報の開示基準及び保証業務基準(8)
~専門グループで「サステナ保証の担い手を巡って意見割れ」も~
水口 啓子
- 要旨
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- 金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(以下、WG)の意見を踏まえ、保証業務についての詳細を議論することを主眼に「サステナビリティ情報の保証に関する専門グループ」(以下、専門グループ)が新設され、第4回会合が5月27日に開催された。専門グループの議論の中で特にサステナビリティ情報の保証の担い手について未だメンバーの意見が大きく割れている。
- 具体的には、保証の担い手は「監査法人の独占業務とする論理に乏しく、市場での競争を通じた質の高まりを期待すべき」、「企業に保証の担い手の選択肢が与えられるべきであり、また、既に行われている任意保証を考慮すると、必ずしも監査法人に限定すべきではない」など、保証の担い手を監査法人に限定すべきでないとの意見が聞かれた。
- 他方で、「SSBJ(我が国の「サステナビリティ基準委員会」)基準で開示が求められるサステナビリティ情報は、財務情報との関連性が重視されていること」、「財務諸表監査人は、既に有価証券報告書のサステナビリティ情報に対する通読・検討を行っていることから、財務諸表の監査を担う監査法人に限定することが合理的である」といった、保証の担い手は監査法人に限定すべきとの意見があった。
- さらに「当初の保証対象となる企業数が限られていること、保証の義務化までの時間的制約などを考慮すると、まずは監査法人からスタートし、適切なタイミングでそれ以外の者への拡大を図ることが、効果的かつ現実的」などの指摘もあった。
- 保証の担い手のあり方は、登録要件や自主規制機関を始めとする保証の規律のあり方全体に大きく関わる。専門グループで議論された内容を考慮の上、WGにおいて引き続き柔軟に対応し、グローバルな潮流を踏まえた上で予見可能なロードマップを示すべく、WGで出来るだけ早期に結論を出すことが期待される。
- 目次
1. はじめに
金融審議会「サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ」(以下、WG)では、SSBJ基準に基づく有価証券報告書におけるサステナビリティ関連財務開示に対する保証業務の担い手については、監査法人か否かにかかわらず、新たな登録制度の下で登録を受けた保証業務実施者とする方向性が示された。また、保証の担い手が必要に応じて、外部専門家を活用するといったイメージも示された経緯がある。こうした中で、保証業務実施者に関する規律につき詳細な議論を行うことは専門グループに委ねられてきた。今後も継続的に開催される専門グループでの議論も受けて、WGメンバーの意見が聴取されることが想定される。
サステナビリティ情報の開示・保証制度のグローバルな潮流の中で、EU(欧州連合)のサステナビリティに関する規制の簡素化に関わる「オムニバス法案」が公表された。オムニバス法案は、①現行のCSRD(企業サステナビリティ報告指令)の適用対象のうち非上場大企業(以下、Wave2)及び上場中小企業(以下、Wave3)に対する適用時期を2年間延期(加えてCSDDD(コーポレート・サステナビリティ・デューデリジェンス指令、注1)の国内法への移行期限・適用時期の延期)、②対象企業の縮小(CSRD適用対象企業の閾値としての従業員数を250人超から1,000人超への引き上げ)、ESRS(欧州サステナビリティ報告基準)の簡素化、合理的保証の中止などの2つの法案からなっている。①を受けて、4月3日に欧州議会、4月14日にはEU理事会において、CSRDのWave2及びWave3への適用を2年間延期することが承認されている。この可決内容は、原則、大手企業への規制の変更を意図していない点を強調したい。
我が国に目を向けると、専門グループでの議論は、第1回会合からメンバーの意見は多岐にわたり、特にサステナビリティ情報の保証の担い手については収束の道筋は見えていない。WG(第7回)では、専門グループで意見が大きく割れたサステナビリティ情報の保証の担い手に関する意見を以下のように大別する形で、専門グループの座長より報告があった。
以下、本稿セクション2、3及び4においてWG(第7回)での専門グループ座長による報告を踏まえて、専門グループメンバーのサステナビリティ情報の保証の担い手に関する意見の概要を紹介・考察する。
2. サステナビリティ情報の保証の担い手を監査法人に限定すべきではないとの意見
企業、弁護士などの専門グループメンバーを中心に「サステナビリティ情報の保証の担い手を監査法人に限定すべきではない」との意見が聞かれた(資料1)。

Scope1・2などの任意保証については、従来から複数の企業がNon-PAから保証を受けているのが現状である(注2)。既に企業がサステナビリティ情報の保証を受けているNon-PAについて、業務管理体制確立している可能性があるとのメンバーの発言もあったが、Non-PAの管理体制の実態の検証も踏まえた議論にも期待したい。
3. サステナビリティ情報の保証の担い手は監査法人に限定すべきとの意見
監査法人、投資家、一部学者などの専門グループメンバーを中心に「サステナビリティ情報の保証の担い手は監査法人に限定すべき」との意見が示された(資料2)。

仮に業務執行責任者に会計、監査、関連法規等の知識・能力を高いレベルで求める制度設計としたら、実質的には業務執行責任者を担うのはPA(Professional Accountants, 職業会計士、以下PA )に限定される可能性も否めない。PAが財務諸表監査に従来割いてきた時間がサステナビリティ情報の保証業務に割かれて、財務諸表監査の品質レベルが下がるケースも想定され得るかもしれない。多くの投資家は、財務情報とサステナビリティ情報との関連性の確保に期待しつつも、財務諸表監査及びサステナビリティ情報の保証の品質が担保されるかについて高い関心を持っている。財務諸表監査及びサステナビリティ情報の保証の質の担保の観点から「PAに限定されない(profession-agnostic)制度」の実効的な枠組み構築に向けた議論に期待したい。PAとNon-PAの連携も含めた諸観点から「profession-agnosticな制度」を導入している欧州の法域の事例の検証も有用であろう。
4. 当面監査法人に限定、段階的にNon-PAの活動を拡大すべきとの意見
さらに、「はじめに」のセクションで紹介した3つに大別された意見のうち、③「まずは監査法人をサステナビリティ担い手として、段階的にNon-PAの活動の場を検討すべき」との意見が、専門グループにおいて聞かれた(資料3)。

また、①、②、③以外では、様々なバックグラウンドのメンバーがいる中、「保証業務実施者に求められる規律の水準をどうすべきかをまず議論した上で、その水準で保証を担えるのは誰か検討していくべき」、「現行制度等様々なこと考えると、監査法人を担い手とするのが合理的だが、新しい制度のため競争政策という観点も考慮すべき」、「監査法人の水準にそろえるのであれば、その水準にその他の保証業務提供者(Non-PA)が対応できるか検討していき、対応できないとなった場合に、それでも競争政策上、その他の保証業務提供者に門戸を開放するということであれば、保証基準や品質管理等の水準を下げる必要が出てくるが、そうした影響も検討が必要」などの意見もあった。
一連の議論の中で、EUや英国などの海外事例も参考にする余地を指摘するメンバーの意見もあった。ちなみに、本連載において既に紹介した通り、EUにおいては、既に多様なトピックス(気候変動に加えて、人権、生物多様性などを含む)対象としたサステナビリティ報告基準(ESRS)が既に明確化されている。サステナビリティ情報の保証を行うに当たって、保証業務実施者に対して、サステナビリティ開示・保証の試験(サステナビリティ報告、保証に関する作成基準や要求事項等)・実務訓練を要求することが有用であろう。将来に向けては資本市場におけるサステナビリティ情報の信頼性を担保するうえで、サステナビリティ情報の保証の概念の深い理解に基づき、多様なテーマごと(例えば、気候変動、人権、生物多様性など)の保証手続きにそれぞれ習熟した人材が保証実務に携わることへの関心は高い。
サステナビリティ情報の保証の担い手の業務品質を考察する際には、現状より広範なトピックスに関わる開示基準に加えて、保証基準のあり方がどのように定まるかも重要な判断材料となり得るだろう。専門グループの議論の中で、欧州においてCSRDの適用を受ける企業(注3)の負担を軽くするという点でも、欧州における保証業務実施基準、品質管理、倫理規定、独立性等と同じレベルとすべきであるとの意見もあった。一貫した質の高いサステナビリティ情報の保証提供に向けたグローバル基準として開発されたISSA5000(国際監査・保証基準審議会(IAASB)による「国際サステナビリティ保証基準」)(2024年11月公表)及び、IESSA(国際会計士倫理基準審議会(IESBA)による「国際サステナビリティ倫理・独立性基準」)(2025年1月公表)を踏まえた諸施策に期待したい。
欧州におけるCSRDとの関係で、欧州子会社によるサステナビリティ情報の保証免除規定の適用を受けるためには、日本の保証業務実施者に係る規律が、連結ベースで欧州の規律と同等性が認められるようなものであることが要求される。投資家の視点からは、CSRDの適用義務があるグローバルに事業展開をする日系企業が、欧州のステークホルダーにCSRDの要求に応えていると評価されることで、当該企業の商品・サービスが欧州のステークホルダーに選好される形で競争力を発揮するか否かについても関心があるところであろう。
5. 小括
サステナビリティ関連の制度策定に加えて、実効性のある制度のあり方を考察する際に、信頼できるサステナビリティ情報の提供の前提となる情報の保証品質に資する体制整備の現状掌握及び将来シナリオの具体像に、高い関心を持つ投資家等も少なくない。
サステナビリティ情報の保証に関わる人材への需要が高まる中、いかに我が国における実効性のあるサステナビリティ情報の保証に関わる人材も含めた体制整備を図り得るのか。自主規制団体である日本公認会計士協会による情報の提供もあり、PAに関わる情報は入手し易い一方で、Non-PAの実態の掌握は容易ではない。Non-PAに関するさらなる情報収集を含め、我が国全体を俯瞰する形でサステナビリティ情報の保証に関わる現状及び将来シナリオを掌握した上で、有用な情報が議論の基礎として提供されることが望まれる。
専門メンバーの意見が収斂しない中、議論の深化に役立つ情報を踏まえた議論が専門グループ及びWGにおいて展開され、実効性のある諸施策につながることに期待している。
今回は専門グループにおける議論を取り上げたが、WG(第7回及び8回)における議論の解説に関しては次回に譲ることとする。なお、WG(第7回)(6月5日開催)では、①サステナビリティ情報開示及び保証制度の導入に係るロードマップ、②サステナビリティ情報に係る見積りの更新、③有価証券報告書におけるSSBJ基準の適用に係る用語の整理に関しWGメンバーの意見が聴取されている。さらに、WG(第8回)(6月27日開催)においては、金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ「中間論点整理(案)」が事務局より提示されている。
【注釈】
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CSDDDは、企業に対して自らの活動が人権と環境に及ぼす悪影響の特定・予防・緩和に関わるデューデリジェンスを義務付けるものである。
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金融審議会 サステナビリティ情報の開示と保証のあり方に関するワーキング・グループ 中間論点整理(案)は「我が国においては、Scope 1及びScope 2のGHG排出量について、現状、時価総額5,000 億円以上のプライム市場上場企業のうちの約 97%が自主的に自社ウェブサイト等に開示しており、約76%が自主的に第三者による任意の保証を受けている。また、任意の保証を受けている企業のうちの半数以上が監査法人(そのグループ会社を含む。)以外の者から保証を受けている。」としている。
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CSRDは、2028会計年度(3月決算企業の場合は 2029 年3月期)から、EU域内での一定規模以上の経済活動のあるEU域外に本社のある企業グループに対しても、CSRDに基づく連結ベースでの第三者保証付きのサステナビリティ情報開示を義務付けている。
水口 啓子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。