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2025.05.19
SDGs・ESG
コーポレート・ガバナンス
「『稼ぐ力』強化に向けた」会社法改正の審議がスタート
~できるだけスピーディな審議で実効性の高い改正実現を~
河谷 善夫
1. 会社法改正の検討が本格的にスタートした
2025年4月23日、法務省法制審議会の下に設けられた会社法制(株式・株主総会等関係)部会(以下、「会社法制部会」)にて、会社法改正の検討が始まった。これは、2025年2月に法務大臣から法制審議会に向けて出された諮問に基づいている。
会社法は2005年に、旧商法第2編「会社」と、「有限会社法」、及び「株式会社の監査等に関する商法の特例に関する法律」を併せて、文語体・片仮名文字であったものを現代語にして創設され、以降、現在まで2014年と2019年に2度、実質的な改正が行われてきた。
会社法は、株式会社の根幹を定める民事基本法であり、法務省が所管官庁であるが、その実質改正の際には各関係者が集まり、様々な観点からの慎重な検討がなされる。今回の改正も企業にとって大きな意味を持つことになる。
本レポートでは、まず今回の改正のこれまでの動きと今後の想定スケジュールを示す。そして、今回の改正のポイントを紹介し、今後の検討への期待について述べたい。
2. これまでの動きと今後の見通し
資料1は、今回の会社法改正に係る政府・法務省関連の現在までの動きである。

今回の改正に向けた検討の特徴としては、従来主なテーマであった「企業統治の在り方」即ち「ガバナンスの在り方」よりも、「企業経営の自由度を増す」という岸田政権が主導した規制改革の一環としての性格が強いということが挙げられる。今回の検討の下敷きとなる資料は、2025年4月の第一回会合でも提示された公益社団法人商事法務研究会の「会社法制研究会報告」となるが、この内容は、これよりも先に経済産業省の「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会から公表された「会社法の改正に関する報告書」と共通する部分が多い。今回の法制審議会への諮問は、資料2の通りである。

必ずしも、今回の改正が企業の経営の自由度を増し「稼ぐ力」を強化させることのみに焦点を当てているとはいえないが、企業の「稼ぐ力」を強化するという経済産業省の打ち出した方向と、会社に関連する既存制度や各者間の利害を如何に調整していくかという性格が強いといえる。
会社法改正には、慎重な議論が求められ、今後は月1回程度の議論を重ね、資料3のような時間軸での検討が予想される。改正法施行まではまだかなり時間があり、議論には紆余曲折もあるかもしれない。

3. 今回の改正のポイント
2025年4月の会社法制部会第一回会合では、経済産業省産業組織課がまとめた「会社法の改正に関する論点について」という資料が提示された。これは、前章で紹介した商事法務研究会の「会社法制研究会報告」、そして経済産業省がまとめた「会社法の改正に関する報告書」を踏まえたもので、今回の改正のポイントを示したものといってよい。
この資料では、まず「はじめに」として日本企業が「稼ぐ力」を強化し成長する必要性と、それを促進するための法制度の整備について述べられている。日本企業は複雑な経営環境の中で競争優位を持つ成長戦略を構築し、実行することが求められ、そのために、株主や投資家との対話を通じて信頼関係を築くことが重要とされている。そして、政府は企業経営者が積極的に成長戦略を実行できるよう制度環境を整備する必要があり、会社法制の見直しが必要とされている。
具体的論点としてはまず、企業の選択肢の拡大・成長戦略実行の障壁の解消が挙げられている。業務執行取締役に対する責任限定契約(注1)や非上場企業における書面決議、キャッシュ・アウト(注2)など、企業が大胆な経営改革を行うための障壁を解消する措置が示されている。
次に、企業と株主との建設的・実効的な対話(エンゲージメント)を促進するための制度見直しも論点とされている。具体的には、株主総会の手続きの効率化、株主提案権の見直しなどが挙げられている。
その他にも、調査者制度や臨時株主総会招集請求権、株主代表訴訟、有価証券の総会前開示に向けた環境整備など、企業経営に関わる他の法的な論点についても幅広く検討事項とされている。
これらの改正を通じ、日本企業が持続的な成長を追求できる環境を整えることが目指され、今後、主としてこのような論点について会社法制部会で幅広い観点からの検討が行われることになる。
4. 今回の改正の検討への期待
今回の会社法改正は、我が国企業の「稼ぐ力」の強化に重点を置き、規制緩和の性格が強いと捉えられる。近年の我が国企業の経営環境はめまぐるしく変化している。企業がこれに適切に対応するには、企業の迅速な行動の選択肢を増やすことも重要である。一方、これらの選択肢には少数株主等の権利を制限する面もあり、反論も予想されるところだが、会社法の規律を緩和していくことは必要で、今回の会社法改正の検討は、時宜を得たものであると評価できる。
改正法施行までには前章でみたように一定の時間を要するが、過度に時間がかかるのも望ましくない。実際の検討は、会社法制部会という、有識者・関係者の場に委ねられるが、どのような議論が行われているか、法務省HP等でできるだけ早く確認することも有益である。幅広い関係者が、自身も当事者であるとの認識をもち検討をフォローすることも重要だ。拙速な検討は論外だが、できるだけスピーディに、実りのある議論が行われ、我が国企業の競争力の強化に的確に繋がる結果を期待したい。
【注釈】
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責任限定契約は、会社法第427条に規定されているもので、会社の社外取締役、監査役、会計監査人などが職務を行う際に、善意かつ重大な過失がない場合、損害賠償責任の範囲を限定する契約。
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キャッシュアウトは、一般的には資金が外部に流出することを意味するが、企業再編に関する用語としては、会社の株式の多くを保有する株主が、買収者として現金を対価に少数株主の保有する株式を強制的に全て取得することを指す。
【参考文献】
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河谷善夫(2025) 「【1分解説】キャッシュアウトとは?」
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経済産業省「稼ぐ力」の強化に向けたコーポレートガバナンス研究会 (2025) 「会社法の改正に関する報告書」
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公益社団法人商事法務研究会(2025)「会社法制研究会報告書」
河谷 善夫
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。
- 河谷 善夫
かわたに よしお
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総合調査部 研究理事
専⾨分野: 規制、ガバナンス
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