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2025.05.15
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救急搬送人員が過去最多を更新
~高齢化の進展と2040年を見据えた救急需要の将来推計~
谷口 智明
1.2024年の救急出動件数・搬送人員は過去最多を更新
本稿では、わが国の高齢化の進展と救急需要の見通しについて考察する。総務省消防庁「令和6年中の救急出動件数等(速報値)」によると、2024年の救急自動車による救急出動件数は771.7万件、搬送人員は676.5万人で、1963年(出動件数23.9万件、搬送人員21.6万人)の集計開始以来、いずれも過去最多を更新した。日本の総人口に対する搬送人員の割合でみると、1963年には約445人に1人だったものが、2024年には約18人に1人へと、およそ27倍に激増している。
資料1は、救急自動車による搬送人員と高齢者人口の推移を示したものだ。日本の総人口は2008年をピークに減少する中、コロナ禍の2020年、2021年を除くと(注1)、高齢者人口の増加とともに搬送人員も増加傾向にあることが確認できる。

2.高齢者の救急搬送が逓増
2024年の救急自動車による搬送人員を年齢区分別にみると、65歳以上の高齢者が428.2万人、成人が196.8万人、乳幼児が27.5万人などである。資料2において、その推移をみると、高齢者が過去最多を更新する一方、新生児から成人までは、ほぼ横ばいとなっている。搬送人員全体に占める割合も、高齢者が増加傾向にあり、2010年の約51%から2024年には約63%(+12%ポイント)となる一方、特に成人は2010年の約40%から2024年には約29%(▲11%ポイント)に減少した。こうした状況から、搬送人員の増加は、主に高齢者の搬送人員の増加に伴うものであることがうかがえる。

3.2040年を見据えた救急需要の将来推計~2030年頃ピークも高水準が続く見通し
そこで、今後の救急需要について、救急自動車による搬送人員と高齢者人口との関連に基づいて考察する。その際、高齢者人口については、75歳以上人口に焦点を当てることとした。総務省消防庁「令和6年版救急救助の現況」によると、高齢者の搬送人員の中でも65歳~74歳が減少傾向にある一方、75歳~84歳および85歳以上は増加傾向にあるためだ(注2)。次に、日本が高齢社会に突入し、総人口がピークに達した2008年から最新データの2024年において、搬送人員と75歳以上人口の関連について回帰分析を試みた。その結果、両者の相関は高く、回帰式の当てはまりの良さを示す決定係数(R2)は0.9859となった(注3)。なお、65歳以上人口で同様に回帰分析したところ、決定係数(R2)は0.8545で、75歳以上人口よりも相関が低かったことを付言しておく。
資料3は、粗い試算ながら、相関の高かった75歳以上の将来推計人口を回帰式に投入して、2025年から高齢者人口がほぼピークを迎える2040年までの搬送人員を推計したものである。推計によると、搬送人員は今後も増加し2030年前後には約720万人(対2024年速報値+44万人)とピークを迎える。その後も2040年にかけて約710万人前後と高水準が続くと見込まれる。

2025年には団塊の世代が全て75歳以上となり、75歳以上人口が急増する。75歳以上になると医療や介護ニーズが高まるとともに、身体機能の低下や基礎疾患、認知症等の増加、独居や老老介護といった社会的要因も重なり、転倒や軽症・中等症でも救急搬送が必要となるケースが増える傾向にある。また自宅だけではなく、高齢者施設等からの救急搬送の増加も見込まれるなど、高齢者救急は地域包括ケアシステムのセーフティネットとして重要な役割を持つとの見方もある(注4)。
そのため、現在、2040年に向けた新たな地域医療構想が検討されており、高齢者救急への対応が課題となっている。医療機関での受入体制を強化するとともに、入院早期から必要なリハビリテーションを適切に提供し、早期に自宅等の生活の場に戻ることができる支援体制を確保することが求められる。
高齢者の救急現場で「会話が困難」「正確な情報が分からない」といった課題も解消し、救急業務を円滑に進めるため、マイナ保険証を活用した救急業務(「マイナ救急」)(注5)も有用と考えられる。マイナ保険証の利用促進(2025年3月現在の利用率27.27%)とマイナ救急の2025年からの全国展開にも期待したい。
【注釈】
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2020年、2021年の搬送人員は大きく減少。新型コロナウイルス感染症の拡大に伴う衛生意識の向上や不要不急の外出自粛といった国民の行動変容により、急病、交通事故及び一般負傷等の減少に繋がったことなどが理由として挙げられる。
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以下のグラフにおいて、平成30年と令和5年の「高齢者」の搬送人員の内訳をみると、この5年間で75歳以上が増加傾向にあることが確認できる。

- 以下のグラフは救急自動車による搬送人員と75歳以上人口(2008年~2024年)について回帰分析したもの。なお、2020年と2021年はコロナ禍の影響で搬送人員が大きく落ち込んでおり、外れ値として対象データから除いた。

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日本老年医学会雑誌57巻2号(2020)「田中裕之 高齢者救急システムをどう地域で構築すべきか?」参照。
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マイナ救急とは、救急隊員が傷病者のマイナ保険証から、氏名や生年月日、病院受診歴、処方薬情報はじめ、搬送先の病院選定や応急処置に役立つ情報を迅速に把握し、救急業務を円滑化する取り組み。谷口智明(2025)「【1分解説】マイナ救急とは?」参照。
【参考文献】
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厚生労働省(2024)「社会保障審議会医療部会『2040年頃に向けた医療提供体制の総合的な改革に関する意見』」
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総務省消防庁(2025)「令和6年度救急業務のあり方に関する検討会報告書」
谷口 智明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

