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2025.04.10
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親世代と祖父母世代の育児観ギャップを乗り越える
福澤 涼子
- 目次
1.長年つづく親世代と祖父母世代の育児方針の違い
国立社会保障・人口問題研究所「出生動向調査(2021年)」によると、乳幼児を育てる夫婦の6割が祖母の手助けを受けている。祖父母は親の育児負担を軽減したり、情緒的な支援をしたりと、今もなお重要な役割を担う。そして、孫との触れ合いや活動は、祖父母自身の心の健康にもプラスの効果をもたらす。
しかし、祖父母世代が子世代の子育てを援助することは、双方に良い影響ばかりとも限らない。最近では「孫ブルー」「孫疲れ」など、孫の世話を負担だとする言葉もよく聞かれる。さらに、親と祖父母の育児方針の違いは長年の課題であり、1960年代頃までは「最新の育児理念を受け入れない祖父母は、子どもの成長にとっても不利益だ」とする論調も多かった(注1)。現代では、三世代同居が減少したこともあり、こうした祖父母批判は下火になったものの、祖父母との育児観の違いに悩む親たちの声は、メディアやSNSなどで散見される(注2)。このような祖父母との育児方針の違いは、親にとってストレスになるだけでなく、祖父母自身の心理的健康にも負の影響を及ぼすことがわかっている(注3)。自分の親世代と祖父母世代の方針の違いによる軋轢は、孫世代にとっても良い影響があるとはいえないだろう。
2.時代ごとに変わる子育ての「正解」
育児方針は時代の影響を受けやすく、今の若い親と祖父母の育児方法や環境には、様々な違いがみられる。たとえば、祖父母が子育てをしていた当時は、離乳食を親が噛み砕いて子どもに与えることが一般的だったが、現在ではむし歯の原因菌がうつる可能性があることから口移しや食器の共有を避ける親も多い。同様に、近年は紫外線による肌への悪影響などから乳児の日光浴に慎重になる傾向があるが、かつては積極的に取り入れられていた。
育児方法だけでなく、「こうあるべき」という育児観も変化している。かつては「子どもが3歳になるまでは母親は育児に専念すべき」という価値観(三歳児神話)も根強く、子どもの出産を機に退職する母親が多かったが、今では子どもが0~1歳のうちから保育園に預け、仕事を続ける母親が増えている。
ただし、祖父母世代にも、その時代ごとに「新しい正解」とされてきた育児理念や方法があり、それを信じて一生懸命に子どもを育ててきた。こうした育児方針をめぐる世代間ギャップが、世代を超えて連綿と続いていくのは、ある意味では避けがたいことともいえる。
加えて、育児の知識や技術の多くは、これまで祖父母世代から親世代へ直接伝えられてきたが、インターネットやスマートフォンの普及によって、祖父母に聞くより先にスマートフォンなどで自ら手軽に調べる親世代が増え、両世代の知識や意識の差がこれまで以上に広がっている。
3.育児方針の違いは、孫とかかわる際の祖父母の意識にも影響する可能性も
第一生命カードサービスと当研究所が2024年に共同で実施した、祖父母向けのアンケート調査(高齢者の生活と意識に関する調査)によると、「孫の育て方の考えや方針が、子ども(孫の親)と合わないと感じる」祖父母は31.5%(「あてはまる」・「どちらかというとあてはまる」の合計)に上り、およそ3人に1人が育児観の相違を自覚していることが明らかになった。図表1は「孫の育て方の考えや方針が、子ども(孫の親)と合わない」祖父母とそうでない祖父母が、孫にかかわる際にどのような意識の違いを持っているかを示したものである。
育児方針が合わない祖父母は、孫の世話をするのは精神的・肉体的な負担感だとする割合が多いうえ(図表内①)、孫を世話することで自分の時間を犠牲にしていると感じることも多い(図表内②)。また、孫とのコミュニケーションには気を遣うケースも多いことがわかった(図表内③)。
これらの因果的な関係までは調査で明らかになっていないが、教育方針が孫の親と合わない場合、祖父母世代が親世代に気をつかい、孫とのコミュニケーションで本音を押し殺したり、祖父母自身が孫にかかわる意義を見出しにくくなると考えられる。その結果として、孫の世話に対して自己犠牲的な意識や精神的・肉体的な負担を感じやすくなるのではないだろうか。

4.世代間の育児方針の違いを乗り越えるためには
冒頭で述べたとおり、祖父母は今なお子育ての担い手として重要な役割を果たしていることは確かである。しかし、第1子が1歳のときに就業していた妻に限定すると、祖父母から手助けを受けた割合は 2000 年代以降、ゆるやかに減少傾向にある。過去は、働く母親ほど祖父母に育児を頼る傾向があったが、保育園など外部化のできる環境が整えられたことで、祖父母による育児支援が外部サービスへと置き換わっていると考えられる。公的支援がさらに充実すれば、子育て方針が合わない祖父母に頼るより、外部サービスを利用するほうが気が楽だという親が増える可能性もある。また、子育て方針が合わない祖父母自身も、わざわざ自分の時間を犠牲にするくらいなら、孫の世話をしなくてよいと考える者が出てくるかもしれない。
しかしながら、祖父母と孫のかかわりは、祖父母・親・孫の3世代にとってそれぞれに良い影響があることも忘れてはならないだろう。たとえば、孫にとっては、祖父母と接することで自分のルーツを知り自尊心を高めるきっかけになったり、親にとっても強力な情緒的な支えになる。さらには、祖父母自身にとっても、孫とかかわることで、生きがいができたり、自分が亡くなったあとも理念や精神が次世代に引き継がれるという安心感が得られ、未来の不安が払しょくされることもある(注4)また、祖父母と親が互いを尊重し合う良好な関係性は、孫に高齢者全体への肯定的な感情をうながす効果があるとも報告されており(注5)、高齢化がすすむ社会全体にとっても大きな意味がある。
だからこそ、育児方針の違いがあっても関わりをあきらめることなく、親と祖父母が協力して乗り越える姿勢が重要なのではないだろうか。そのためにはまず、祖父母自身が現代の子育て環境や方法を学ぶ意欲をもつことが望ましい。各地で開催されている孫育て教室や書籍・インターネットなどで最新の子育て情報やトレンドを得て理解することで、親世代とのギャップを和らげることができるかもしれない。加えて、子どもの親が育児の主体である以上、過度な干渉は控えるような心がけも大切であろう。
一方、親は祖父母に対して、祖父母世代が経験してきた育児や社会環境を尊重する姿勢が求められる。現代の祖父母は、孫育てには干渉してはいけないとする考えを持っており受け身であろうとする傾向もある。そのため親としては、祖父母が何も言わないから納得しているとは思いこまず、「現在の育児はこれが主流だけど、私(配偶者)を育てていた頃はどうだった?」などと情報交換を促してみると、思いがけず育児観の違いに気づいたり、現在の育児に活かせる知識を得られる場合もあるだろう。こうした会話は、孫をきっかけとした親子間のコミュニケーションとしても意味がある。
また、どうしても分かり合えない場合であっても育児方針の相違はひとまず脇におき、孫への愛情や世話に対して感謝の言葉を伝えてみるのも一つの方法である。そうした思いが伝われば、たとえ育児方針にずれがあっても、祖父母は自分がかかわる意義や喜びを感じやすくなるだろう。
親子関係だからこそ、育児方針のすれ違いで、互いに傷ついたり、ストレスを感じることもあるだろうが、子ども(孫)を大切に想う気持ちは共通しているはずである。その原点に立ち返ることで、より良い三世代関係を築く道が開けるのではないだろうか。
【注釈】
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1966年発行の育児書(鈴木栄『育児相談のために』1966年)によると、「祖父母はとかく孫に手をかけすぎ、甘やかし、旧時代的育児法を息子や嫁に強要し、進歩的な育児理念を受け入れようとしない。祖父母の干渉により子供に抱きぐせ、負いぐせ、夜泣きなどの習癖がつくことも多くて、依頼心の強い神経質な子供を作り上げてしまう。父母は新しい育児理念と祖父母に対する従属的観念との間に立ってジレンマに陥り、精神的負担が増大する。ときには子供をめぐって祖父母と父母の間に葛藤が生じ、これが子供に反映して、種々の神経症的症状が現われることさえある。」と祖父母への厳しい批判が書かれている。また、祖父母による孫育児の戦後の言説を調査した先行研究(原葉子「祖父母による孫育児をめぐる戦後の言説変容」2020年)によると、1950~1960年代は祖父母育児の否定の時代であったとして、祖父母の存在が子供のしつけの邪魔だとするメディア報道がなされていたとある。
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東京新聞「祖父母世代の言動に傷つく親世代 「良かれと思って」が裏目に〈子育ての世代間ギャップ・上〉」2023年5月/産経新聞「祖父母も働く時代の「孫育て」 世代間ギャップや負担感も」2024年12月など
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祖母が孫との関わりを持つことと心の健康の影響を調べた研究(宮中文子「中高年女性(祖母)の子育て参加と心理的健康との関連について―心の健康にプラスとなる孫との関わり方-」2001年)によると、「子育て参加に関しては、育児方針の違いが心の健康に影響していた.母親との間で、教育方針について話し合うことが具体的には必要である.」とある。
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こうした感覚は、「ジェネラティビティ」とも言う。ジェネラティビティはアメリカの発達心理学者のEriksonにより提唱された概念で、日本では「世代性」「世代継承性」などと訳される。中高年者が次世代に対して、自分自身が身に着けてきた技術や文化を伝えるなど、利他的な行動をとること、あるいはその感覚を持つことによって、人生の後半、終わりが見えてきた絶望感を乗り越えていき、幸福感などにつながるとされている。
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自分の親の祖父母や他の高齢者に接する様子や、祖父母の親に接する様子は大学生の肯定的な高齢者イメージにもつながることがわかっている/奥村由美子,久世淳子「講義による高齢者イメージの変化-発達過程における他世代とのかかわり経験との関連-」2016年
【参考文献】
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E.H.エリクソン,J.M.エリクソン,H.Q.キヴニック,朝長正徳・朝長梨枝子訳『老年期 生き生きしたかかわりあい』1997年
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安藤究『祖父母であること 戦後日本の人口・家族変動のなかで』2017年
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安藤究「近年における「祖父母・孫関係」研究の動向」『家族関係学』39巻 2020年
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石井邦子,井出成美,佐藤紀子,林ひろみ「孫育児に参加する祖父母が持つ孫育児支援に対するニーズ」『千葉看護学会会誌』Vol.16 2011年
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鈴木栄『育児相談のために』金原出版株式会社1966年
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狩野鈴子「祖父母の育児支援に関する文献概観」『島根県立大学短期大学部出雲キャンパス研究紀要』第5巻 2011年
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環境省「紫外線環境保健マニュアル」2023年
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公益社団法人日本小児歯科学会「学会からの提言『乳幼児期における親との食器共有について』」2023年
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河村都『子や孫にしばられない生き方』 産業編集センター 2017年
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国立社会保障・人口問題研究所『現代日本の結婚と出産-第16回出生動向基本調査(独身者調査ならびに夫婦調査)報告書-』2023年
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小屋野 恵『孫育ての新常識: 幸せ祖父母のハッピー子育て術』メイツ出版 2017年
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曽山小織,吉田和枝,米田昌代「祖母の子育て経験と孫育てに対する意識との関連」『日本看護研究学会雑誌』Vol.38 2015年
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野中響子,奥野雅子「孫・祖父母関係と家族機能の関連」『家族心理学研究』第35巻 第1号 2021年
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原葉子「祖父母による孫育児をめぐる戦後の言説変容-1970年代までの新聞記事を手がかりに―」『子ども学研究紀要』第8号2020年
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福江里美,福岡欣治,荒井佐和子「過去の祖父母機能が大学生の心理的発達と高齢者イメージに及ぼす影響」『川崎医療福祉学会誌』Vol.30 2020年
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宮中文子「中高年女性(祖母)の子育て参加と心理的健康との関連について―心の健康にプラスとなる孫との関わり方-」『日本女性心身医学会雑誌』Vol.6 2001年
【関連レポート】
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福澤涼子「上の世代との会話は学びか、苦痛か~効果的な世代間交流のあり方とは~」第一生命経済研究所,2023年10月
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福澤涼子「世代をつなぐ「学び合い」の可能性~続・効果的な世代間交流のあり方とは~」第一生命経済研究所,2024年1月
福澤 涼子
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。