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2026.03.17
日本経済
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高市政権
裁量労働制見直しの論点整理
~導入が進まない実態と労使対立を踏まえた検討課題~
岩井 紳太郎
- 目次
1. 高市首相は施政方針演説において、裁量労働制の見直しに言及
高市首相は2026年2月の施政方針演説において、裁量労働制の見直しの方針を示した。演説では、裁量労働制は副業・兼業時の健康確保措置やテレワークと並び、柔軟な働き方の拡大に向けた検討事項の1つに位置づけられている。見直しの狙いは明示されていないが、演説の文脈を踏まえると、成長力の強化を念頭に置いたものとみられる。こうした中、既に3月からは、日本成長戦略会議の労働市場改革分科会や厚生労働省の労働政策審議会において議論が始まっている。
そこで本稿では、現行の裁量労働制とその実態、労使双方の主張を踏まえ、今後の論点を整理する。
2. 現行は専門業務型と企画業務型の2種類
裁量労働制とは、業務の遂行方法や時間配分等を労働者の裁量に委ねることを前提に、実際の労働時間にかかわらず、あらかじめ合意した「みなし労働時間」を働いたものとみなして賃金を支払う制度を指す。
労働者の誰もが適用可能ではなく、対象業務が「専門業務型」と「企画業務型」の2種類に限定されている。前者は、新商品・新技術の研究開発業務、情報処理システムの分析・設計業務やM&Aアドバイザー業務などの20業務が対象である(資料1)。後者は事業運営に関する企画・立案・調査・分析業務を対象としており、①業務が事業の運営に関するものであること、②企画、立案、調査及び分析の業務であること、③業務遂行の方法を労働者の裁量に委ねる必要があると客観的に判断される業務であること、④使用者が具体的な指示をしない業務であること、の4要件すべてを満たす必要がある。

3. 導入企業は少ない一方で、労働者の適用ニーズは一定程度ある
裁量労働制は仕事の進め方や時間配分が労働者の裁量に委ねられるため、労働者が時間に縛られず高度な専門性や創造性を発揮しやすい点がメリットとされる一方で、制度を導入する企業は少ない。
厚生労働省「令和7年就労条件総合調査」によると、企業の導入率は、専門業務型が2.1%、企画業務型が1.0%に留まる。1,000人以上企業で専門業務型8.7%・企画業務型5.0%、300~999人で4.4%・1.6%、100~299人で2.7%・1.2%、30~99人で1.4%・0.7%と、企業規模が大きいほど導入率は高い傾向にあるが、1,000人以上企業においてもいずれも1割に満たない水準となっている(注1)。
なぜ導入率が低いのか。同省の調査によれば、制度を導入していない理由として「対象となる労働者がいないと思うから」が40.2%と最も多く、対象範囲が限定的であることが挙げられている(資料2)。そして、「メリットが感じられないから」(20.0%)、「フレックスタイム制など、他の労働時間制度を活用することで足りるから」(19.3%)、「裁量労働制の制度を詳しく知らないから」(15.8%)が続く。

導入企業が極めて少ない中で、労働者は裁量労働制をどのように捉えているのか。経団連「ホワイトカラー労働者の裁量労働制適用ニーズ等に関する調査結果」では、現在裁量労働制を適用されていない労働者のうち、33%が適用を希望しているとされる。理由としては、「メリハリをつけて自分のペースで働きたい」(79.3%)、「就労時間が短くても一定額の裁量労働手当等がもらえる、成果に応じた処遇が受けられる可能性がある」(34.2%)、「業務を通じて、自分の知識や経験・スキルを伸ばしたい」(28.3%)が上位に挙げられる。労働者は自分の裁量で柔軟に働けること、成果に応じた評価・処遇、自己成長に期待していると考えられる。
4. 労使の意見は対立
裁量労働制の見直しをめぐっては、労使間で意見が対立している。経団連は、対象業務の拡大を繰り返し求めてきた。2026年版経営労働政策特別委員会報告においても、より柔軟で自律的に働ける環境整備として、裁量労働制の拡充を訴えた。具体的には、対象業務範囲の狭さと企業による適用可否の判断の困難さを課題に挙げ、政府に対して、長時間労働の是正と健康確保を大前提に、労使で対象業務を決定できる仕組みの創設を求めている。
一方で、連合は、裁量労働制は適正運用が確保されなければ長時間労働を助長しかねないとして、適用範囲の拡大や要件緩和に慎重な姿勢を示している。
5. 見直しにあたって、長時間労働への懸念、裁量の担保等の課題も
政府は2026年3月5日に働き方の実態とニーズの把握を目的とした「働き方改革関連法施行後5年の総点検」の調査結果を公表した(注2)。こうした調査も踏まえ、日本成長戦略会議の労働市場改革分科会や厚生労働省の労働政策審議会にて、議論が本格化するとみられる。現時点では見直しの具体的な方向性は明らかになっていないが、労使の主張やこれまでの議論を踏まえると、論点の1つは対象業務の拡大の是非になると考えられる。ただし、見直しにあたってはいくつかの課題もある。
1つ目は、連合も言及の通り、長時間労働への懸念だ。制度適用者の労働時間が非適用者よりも長い傾向を示すデータもあり(注3)、労働時間の把握方法に加え、例えば、終業から次の始業まで一定の休息時間を設ける「勤務間インターバル制度」も含め、どのような健康確保措置が適切かを同時に検討する必要がある。
また、裁量の担保も挙げられる。厚生労働省の資料では、業務の遂行方法や出退勤時間等に関して、実際には裁量が与えられていないにもかかわらず裁量労働制が適用された場合、労働時間の長時間化や健康状態の悪化等につながる傾向が示されている(注4)。企業の取組事例があればそれらも参考にしながら、どのように裁量を担保するのか議論が求められる。
さらに、企業・労働者における裁量労働制の理解を高める取組みも重要だ。先述の通り、制度を詳しく知らない、メリットを感じていない企業も一定程度存在し、労働者側も理解促進が課題となりうる。労働者の多くがメリットと感じているメリハリのある働き方は、裁量労働制を導入せずともコアなしフレックスタイム制の導入等で一定程度対応できる。メリハリのある働き方や柔軟な働き方を期待して導入・適用したとしても、労働者の意思に反する長時間労働につながる可能性がある。企業・労働者が制度を理解し、導入の是非、適用可否を適切に判断できるようにする必要がある。
対象拡大の是非の議論にあたっては、上述の3点も含めた検討が重要となる。もっとも、現時点ではなお不透明な点も多く、今後の動向を注視したい。
【注釈】
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本文では企業における裁量労働制の導入率を示した。なお、適用労働者の割合をみると、専門業務型が1.1%、企画業務型が0.3%となっている。
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厚生労働省は「労働時間等に関する労働者の意識・意向アンケート調査」および企業・労働者への「ヒアリング調査」を実施した。企業ヒアリング調査では、裁量労働制について、「対象労働者の範囲や適用業務など、判断に迷うことが多く、わかりづらいため、明確にしてほしい。」、「現行の裁量労働制は、対象業務や対象者が限定的で、国際競争力の観点から言えば、マイナスだと感じる。」といった対象範囲の狭さと企業による適用可否の判断の困難さに関する意見がみられた。また、労働者ヒアリング調査においては、「裁量労働対象者についても過重労働になっている者はおらず、自分の裁量で研究に従事できるため、良い制度だと思っている。」といった意見もあった。
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厚生労働省「裁量労働制実態調査」によれば、裁量労働制適用と非適用労働者の1週間の平均実労働時間は、それぞれ45時間18分、43時間2分となっている。
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厚生労働省第179回労働政策審議会労働条件分科会の資料「裁量労働制実態調査及びその分析の結果について」において、業務の遂行方法、時間配分や出退勤時間の裁量の程度が、労働時間、健康状態、メンタルヘルス、満足度に与える影響が異なること(裁量が小さいほど不利で、大きい場合は影響が低減する傾向)が示されている。
【参考文献】
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日本経済団体連合会(2026)「2026年版経営労働政策特別委員会報告」
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日本労働組合総連合会(2026)「経団連『2026年版経営労働政策特別委員会報告』に対する連合見解」
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厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(2024)「専門業務型裁量労働制の解説」
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厚生労働省・都道府県労働局・労働基準監督署(2024)「企画業務型裁量労働制の解説」
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岩井紳太郎(2026)「【1分解説】日本成長戦略会議とは?」
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岩井紳太郎(2025)「【1分解説】裁量労働制とは?」
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岩井紳太郎(2024)「【1分解説】勤務間インターバル制度とは?」
岩井 紳太郎
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。

