注目のキーワード『基軸通貨』

星野 卓也

基軸通貨(Key Currency)とは、国際貿易取引や金融市場において中心的な役割を果たす通貨を指します。現在、この役割を担っているのはアメリカのドルです。

かつて、基軸通貨の地位にあったのは英ポンドでした。しかし、二度の大戦を経て多額の戦費支出を行ったことなどから、長い時間をかけてポンドは基軸通貨としての地位を喪失していきました。代わって、軍需を追い風に経済発展を遂げたアメリカ・ドルが国際取引で存在感を高めていきます。1944年のブレトンウッズ体制で金1オンス=35ドルの固定レートが設定され、ドル基軸体制が確立。その後は1971年のニクソンショック、1973年の変動相場制への移行、1985年プラザ合意などドル安政策を続けてきた歴史があります。

基軸通貨を持つアメリカは、自国で国際通貨のドルを発行できるという特権を持つことになります。アメリカ政府・企業・金融機関は為替リスクを負うことなく、かつ低い借入コストで資金調達できます。また、アメリカはドルを中心とした経済体制において、決済システムの統制力やそれによる地政学的影響力を持ちます。一方で、世界中から需要のある基軸通貨は実力以上の通貨高に直面することになります。それに伴う輸出競争力の低下が製造業・輸出企業やその労働者に不利益をもたらすことになります。目下、アメリカの金融機関や多国籍企業が世界経済で強い影響力を発揮していること、アメリカが特に経済格差の大きい国と評されていることはドル基軸の通貨システムと無縁ではないでしょう。現在、トランプ政権の打ち出している関税政策は自国の製造業を保護するもので、この「基軸通貨国であることのコスト」を緩和することも念頭にあります。基軸通貨ドルの副作用を被ってきた人たちからの支持が、トランプ政権を生んだ、という整理もできそうです。

通貨には、ネットワーク性(みんなが使っていることが使う理由になる)があるほか、アメリカもドル基軸の放棄までは謳っておらず、簡単にドル基軸体制は揺るがないでしょう。ポンド基軸からドル基軸への移行も長い時間を経たものです。しかし、ドル依存の経済構造のひずみ、米国経済の弱体化などの中で、ドル基軸の転換が少しずつ始まっていくのではないか。トランプ政権発足をきっかけにそんな議論も出てきています。

星野 卓也


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