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座談会特集『2025年の日米欧金融マーケット」

~日経平均は最高値更新も~

田中 理 、 桂畑 誠治 、 藤代 宏一

座談会の風景
座談会の風景

2024年は、日銀のマイナス金利解除や利上げ、米欧の利下げ開始など、各国の金融政策が大きく転換しました。為替や株価への影響も大きく、日経平均は終値として初の4万2000円台をつけた後、「ブラックマンデー」に次ぐ下落率を記録しました。トランプ米大統領の就任、各国での政治的不透明感や地政学リスクの高まりのなか、2025年の金融マーケットはどうなるのでしょうか。第一生命経済研究所のエコノミストが金融政策、為替、株価の行方を探ります。

金融政策について

米国の金融政策の見通しは?

桂畑 先の大統領選でトリプルレッド(共和党が大統領職と上下両院の過半数を占める状態)となり、トランプ氏の掲げる政策が実現しやすくなりました。景気もそこまで悪化しないなか、トランプ氏の掲げる関税引き上げや移民抑制はインフレを加速させるため、「インフレ対策として利下げペースを抑制せざるを得ない」という見方が今は強まっています。ただ、政策が実現するかどうかは、トランプ次期政権の人事次第だと思います。また、財政面でも、大規模減税はすぐに実施されるわけではないですし、25年末で期限が切れる個人所得減税なども、26年に恒久化できるかは難しいと思います。

トランプ氏の政策によるインフレ懸念を織り込みすぎている、ということでしょうか?

桂畑 そうですね。25年の利下げは、現時点で市場が予想しているよりは、積極的な利下げになるかと思います。ただ、25年は利下げを継続することで米国経済のソフトランディングの可能性は高まりますが、25年に法人税率の引き下げや減税政策の延長を行えば、その効果が26年に出てくるため、26年は今までの利下げの効果と併せて景気が拡大し、再び利上げに転じる可能性も出てくると思います。

欧州の金融政策の見通しは?

田中 欧州は主要先進国のなかで最も景気が弱く、特にユーロ圏の経済大国であるドイツで景気後退のリスクも出ているため、利下げペースが加速する可能性があります。ただ、現時点ではまだプラス成長を続けているうえ、確認すべき経済指標も十分に出そろっていないため、目先については、欧州中央銀行(ECB)は淡々と利下げを継続していくと思います。ECBは24年6月に利下げを開始したわけですが、7月には十分なデータが揃っていないということで利下げを見送っています。その時には、四半期ごとに▲25bpsのペースで利下げを行うと予想されていましたが、9月、10月と連続で利下げを行いましたので、今後についても毎理事会ごとに利下げを継続すると思います。このペースでいけば、25年の半ばごろに、ユーロ圏の中立金利(景気を過熱も抑制もしない金利)の水準まで、政策金利が下がることになります。そこから先、中立金利を下回る水準で利下げを継続するのか、中立金利あたりで様子見に転じるのかは判断が分かれるところで、ドイツなどの景気動向や、トランプ次期大統領の関税引き上げで、欧州経済がどの程度下押しされるか次第かと思います。

欧州で他に注目すべき点はありますか?

田中 ドイツで景気後退のリスクがあります、とお話ししましたが、現状はゼロ成長が続いている状況です。一方で、スペインやアイルランドは今のところ景気が良く、ユーロ圏の成長を牽引している形です。ドイツの本格的な景気悪化だけでなく、南欧諸国の景気が崩れた場合も、もう少し積極的な利下げを行う必要が出てくるかもしれません。政治環境ではドイツとフランスに注目しています。

日本の金融政策の見通しは?

藤代 日銀を取り巻く環境を整理すると、まず賃金は30数年ぶりの高水準なので文句なくOK、物価水準も2%を上回っていますので、賃金と物価だけ見ると、「なぜ日銀は利上げをしないのか」と不思議に思う人は多いと思います。30年前の1990年代前半は政策金利も2~4%あった時代ですので、賃金・物価の上昇率だけみれば政策金利も2~4%まで上げてもおかしくないわけです。では、なぜ利上げをためらうかというと、「個人消費が弱いから」です。GDP統計で見ても、個人消費は24年1-3月期まで4四半期連続で前期比マイナス成長になっていたこともあり、この1、2年でみるとほぼゼロ成長です。一方の米国は、個人消費が強く、需要と供給がバランスして物価が上がっているため、景気をある程度冷やす目的で利上げをしていた、ということになります。日本は賃金・物価が高いけれども、個人消費が強くないため、「景気を冷やす金融引き締めをする必要があるのか」という議論になっており、個人消費が戻ってくれば、利上げをする条件が揃うと認識しています。現状では、個人消費はほぼ増加していませんので、日本の潜在成長率が0%台半ば~後半ということを踏まえても、個人的には、お世辞にも「個人消費は強い」とは言えないと思っています。ただ、難しいのは、日銀は「ゆるやかな増加基調にある」という基調判断をしていますので、日銀から見ると、個人消費は増えているという整理になっています。ですので、日銀の判断としては、「賃金・物価が高いなかで、個人消費も増加しているため、利上げの条件が揃っている」と読むのが正しいかと思います。よほど大きな経済ショックがない限り、四半期ほどのペースではないにせよ、半年に一度ぐらいのペースで利上げがあってもおかしくないと思いますので、25年の後半にかけて、政策金利を1%程度まで引き上げるというのは十分に考えられます。

為替について

ドル/円の為替レートの見通しは?

桂畑 トランプ氏の政策は円安方向に影響すると思いますが、政策金利の見通しが、今の市場予想より「FRBは25年にもう少し利下げできる」という見方に変わっていく可能性が高いと私は思いますので、円高の方向に進んでいくだろうと思います。ただ、24年に進行した円高の水準を超えてくるかというと、そこまでいくには、「24年に円高が進行した際に市場が期待していたFRBの利下げ幅」以上にFRBが大きく利下げをする、という観測が出てこないと難しいと思います。一方、一部の人は、「円安がどんどん進む」と考えているかもしれません。日米の金利差を考えると、短期の金利差と長期の金利差はその時々で、為替への影響度合いが違うとは思いますが、これからは財政に対する懸念がマーケットで材料になりやすくなると思いますので、長期金利の金利差も為替に大きく影響する可能性があります。では、米国の10年債金利がどんどん上がり、ドルが買われようになるかといえば、そこまで上がる要因は大きくないと思っています。たしかに、米国の財政赤字は懸念されますが、過去に財政赤字懸念が表面化したときに長期金利の水準が切りあがったかというと、そのようなことはなく、どちらかと言えば、インフレ懸念などで大きく上昇していました。トランプ氏の掲げる政策はインフレ方向に働くものが多い一方で、原油の増産を掲げていますし、サウジアラビア等も原油を増産する可能性を考えれば、エネルギー価格を中心に、インフレ率の上昇は限定的になる可能性があります。そうなると、インフレ率が予想より上昇しないことで、長期金利も抑えられるかと思います。一時的に24年の円安の水準にタッチすることはあるかもしれませんが、その円安の水準が維持されることは想定しにくく、レンジ相場になると思います。

藤代 私も今のところ、25年は大幅な円高も円安もないと思っています。というのも、一般的に円高と言われる「トランプトレード」の大部分は、既に為替レートに織り込まれていると認識しています。私の感覚では、金融市場は少なくとも24年の春ぐらいから、「トランプ氏の勝利」というシナリオで動いてきたと認識していますので、トランプ氏の政策が実行に移されることは、ある程度、為替レートにインプットされていると思います。なぜトランプ氏でドル高になると言われているのか、改めて整理すると、「トランプ氏の政策でインフレが再加速し、FRBが利下げをストップする、ないしは、場合によっては利上げもあり得る」という憶測が流れているということです。当然、関税を引き上げれば米国の財物価が上昇しますし、安価な労働力としての移民が米国の賃金インフレの抑制に貢献してきたことは間違いないため、移民を抑制することで再び賃金が上昇する、と考えられます。為替市場でも、その点は既に相当に織り込まれています。そう考えると、追加的なドル高・円安の圧力というものはあまりないのかな、と思います。ただ、市場参加者のなかで、「今の市場予想よりも米国の金利は最終的に下がっていく」と強い自信をもっている人もあまり多くないとは思います。米国の利下げの終着点がどこかという議論がありますが、利下げを開始した24年9月のFOMCの前後ぐらいには2.8%程度とされていて、「25年末までにかけて、強烈なペースで利下げが進む」というのが共通の認識になっていました。今は、3.5%を超える水準まで切りあがっています。現状では、ここからさらに金利の終着点が上がることも考えにくいですし、9月時点の2.8%を下回る水準で利下げが進むと市場が織り込まなければいけない事態も考えにくいと思います。ですので、現状ではドル高とドル安の材料が拮抗している印象があります。日銀の見通しに関しても、積極的な利上げは考えづらいです。仮に、日銀の利上げが大幅な円高につながってしまうような場合は、利上げの方針を撤回するというのが24年の7、8月に起きたことですので、今後も日銀は為替従属的なスタンスを維持するのではないかと思います。

田中 トランプ氏の政策が、米国の景気やインフレに与える影響は相当に織り込まれているとのことですが、日本や欧州への影響はどの程度織り込まれているのでしょうか?そこの想定が崩れると、やはり為替にも影響が出てくるということですか?

藤代 判断が難しいところですが、例えば、トランプ氏の原油増産の政策で原油安になった場合というのは、25年の日本経済、為替を読むうえで不透明要因だと思っています。一般的には、原油価格が下がって、消費者物価指数が下がると、「日銀の利上げはしなくてもよいのではないか」という議論になりそうですが、一方で、原油安は日本経済にとってはプラスに働きますので、日銀は利上げの手を止めないという可能性も考えられます。みんなが把握しているトランプトレードというのは、「関税引き上げや移民抑制がインフレ方向に働く」という話ですが、エネルギー価格が下がるというシナリオが金融市場でどう織り込まれていくのかは、正直判断が難しいところで、25年の注目点かなと思っています。

田中 そういう意味では、トランプ氏の政策の具体的な内容が明らかになるタイミングが為替にとっても重要だと思います。関税引き上げや原油増産など、具体的な内容や明らかになるタイミングはどう考えておけばよいでしょうか?

桂畑 関税の引き上げについては、あれだけ公約で掲げていたので、就任から100日以内には第一弾の内容を決めるだろうと思います。特に、中国への関税は、現行の水準でも米国企業にそこまで悪影響は出ていないと判断していると思いますので、大統領権限で早期に引き上げると思います。他の国については、一律10%の引き上げと言っていましたが、一律で同じタイミングに引き上げると米国のインフレ率が上昇するリスクが相応にあるため、米国経済への影響を評価してから引き上げる必要があり、早くても25年の半ば頃かと思います。原油については、価格が下がると石油業界の企業としては採算が取れなくなり、投資がしづらくなるという面もありますので、米国の原油増産は、どれだけ企業への優遇措置を取るのか次第かと思います。ただ、中東諸国については、ある程度、トランプ政権に配慮する形で、減産幅の縮小から増産という方向に変わっていく可能性は高いと思いますので、原油価格は25年の早い段階で、今の1バレル70ドル前後という水準からは低下していくと思います。ただ、米国の景気が底堅いなか、中国も追加で景気対策を打つような場合は、原油の需要が押し上げられる可能性があります。25年は、原油の増産で価格は下がるとは思いますが、需要も相応に増加するため、その下がり方は限定的になると思います。1バレル50ドル、60ドルという価格水準で定着するようなことは考えにくいです。

田中 日本企業の経営に関わる方からすると、関税の引き上げが日本の製品も対象となるのか、関税回避の交換条件に何を要求されるのかにも、関心があるような気がしますね。

桂畑 前回のトランプ政権の1期目では貿易協定を結びましたが、内容はかなり日本にとって不公平なものでした。米国はTPPから離脱したのに、TPPと同じような効果を得られる一方、日本は、TPPでは将来的に下がるはずだった米国向け自動車の関税が下がらない、という内容です。今回の2期目も、トランプ次期政権はそういった圧力をかけてくる可能性は高いと思います。具体的には、日本の自動車に対する関税の引き上げで圧力をかけてきて、日本はそれを避けるために、米国からの輸入と米国への投資を増やす、という交渉をすることで、大幅な関税引き上げを回避するのではないでしょうか。

株価について

日本株の見通しは?

藤代 日経平均の現状3万8,000円という水準からすると、25年は若干上昇するかなとは思います。ただ、24年の前半みたいに、3万3,000円だったものが一気に4万円まで20%上昇するようなフェーズは終わったのかな、と思っています。やはり、いま日本株を見るうえで、データで一番説得力があるのは半導体関連の情報で、いろいろなデータを見ると、そろそろピークアウト懸念を意識させるようなレベルまできています。やはり株価が一番上昇するタイミングというのは、これから景気の上振れリスクが増えていく場面というよりは、景気の下振れリスクが減ってきてみんなが安心する場面です。相場の格言にも「強気相場は、悲観の中に生まれ、懐疑の中に育つ」というものがありますが、今の半導体サイクルはもう楽観に近いようなところまできていますので、「20%、30%上昇していく」というフェーズはもう終わったのだろうと思います。ただ一方で、日本はインフレの追い風もありますし、東証の資本効率改善の要請の話もあるということで、自社株買いなどは年間16~17兆円のペースで進んでいます。半導体サイクルのようなグローバルなマクロの波以外の要因で、それなりに日本株が押し上げられることを踏まえると、24年7月につけた史上最高値の4万2,224円をもう一度超えてくる可能性はあるかと思っています。


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田中 理 、 桂畑 誠治 、 藤代 宏一


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘等を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針等と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

桂畑 誠治

かつらはた せいじ

経済調査部 主任エコノミスト
担当: 米国経済

藤代 宏一

ふじしろ こういち

経済調査部 主席エコノミスト
担当: 金融市場全般

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