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ここが知りたい『国連未来サミットでSDGsの次の目標としてウェルビーイングがテーマの一つに』

村上 隆晃

目次

国連未来サミットとは

国連未来サミット(Summit of the Future)は、2024年9月に開催予定の国連の重要なイベントである。このサミットでは、2045年の国連100周年に向けて、世界が直面する重大な課題に対する協力の強化とSDGsの次のグローバル・アジェンダを議論することを目的としている。

日本においても上川外務大臣が国会内でウェルビーイング(幸せで満ち足りた状態)について講演する中で「ポストSDGsにウェルビーイングが重要」と強調し、「ポストSDGs」の策定をにらんで外務省内に有識者懇談会を立ち上げたとの報道がなされている(日本経済新聞2024年6月4日「上川外相『ポストSDGsにウェルビーイングが重要』」)。

国連未来サミットの背景には、2020年の国連創設75周年記念宣言がある。この宣言は、不平等や貧困、飢餓、武力紛争、気候変動、パンデミックなど、世界が直面する様々な課題に対する国際協調を促すものであった。2021年には、国連のグテーレス事務総長が「私たちの共通のアジェンダ」報告書を発表し、SDGs達成の加速と75周年記念宣言の推進を提案した。

国連未来サミットでは、SDGsの次のグローバル・アジェンダのキーとなる枠組みとして"Beyond GDP"(GDPを超えて)を議論しようと提唱されている。GDPは各国経済の成長や分配を表す指標として幅広く使われており、その重要性は疑いようがない。一方で、GDPは国民の豊かさの実感やウェルビーイングを表す指標として十分ではないという議論も多年に渡ってなされてきた。

例えば、2009年にフランスで発表された「経済パフォーマンスと社会の進歩の測定に関する委員会報告」では、「GDPに代表される現在の統計では経済社会の実態がうまく捉えられていないのではないか」という問題意識が示され、「社会の幸福度を測定しようとすればそれにふさわしい指標が必要になる」との提言を行っている。

こうした流れを受けて、国連の「世界幸福度報告」やOECDの「より良い暮らし指標」など、ウェルビーイングを測定する新たな指標が開発されてきた。Beyond GDPの枠組みは、これらの研究や議論を踏まえて提案されたものである。

Beyond GDPとは

Beyond GDP枠組みではグテーレス事務総長の指示を受けて、国連内外の既存組織が収集する各国の経済活動や社会開発、環境の持続可能性を測定するデータから、10~20で構成される指標を作成しようとしている。

Beyond GDP枠組みは大きく目指すべき「アウトカム」(成果)と、その実現のための持続的な変化の原動力となる「プロセス」の二つで構成される(資料)。

資料Beyond GDPの基礎的な枠組み
資料Beyond GDPの基礎的な枠組み

まず、3つのアウトカムであるが、包摂的(誰一人取り残さない)で持続可能な社会の実現に向けた重要な要素を示しており、SDGsに影響を与えた1987年の国連ブルントランド報告書(Our Common Future)で示された要素に由来する。

①ウェルビーイングと主体性

ウェルビーイングは、物質的・金銭的側面だけでなく、健康、安全、自己実現、社会的関係性など、幅広い要素を含むものとされる。主体性は、自律的に人生の決定を行い、積極的に社会参加する能力を指す。

②生命と地球の尊重

生命と地球の尊重は、人間や動植物、自然環境の保護・保全を意味し、持続可能性や生物多様性の維持を含む。これはサステナビリティの概念に一致するものと考えられる。

③ 不平等の縮小と連帯の拡大

不平等は経済面だけでなく、健康、安全、教育、社会参加、経済的安定、政治参加、個人生活、自己表現など、多面的に捉えられている。連帯は、これらの不平等を是正するため、共通の利益や目的、共感を通じて社会の絆を強化することを指す。

これらのアウトカムを実現するための3つのプロセスについては以下のような内容になっている。

①参加型ガバナンスとより強固な制度

国連のアナン元事務総長によると、国家の「グッドガバナンスとは、人権と法の支配を尊重し、民主主義を強化し、行政の透明性と能力を促進すること」とされる。ガバナンスが機能するには、政府の有効性や市民の政治参加、法の支配、説明責任といった国の制度の強固さが必要である。

②革新的で倫理的な経済

革新的経済とは、人々のウェルビーイング向上と持続可能性を高める製品やサービスを提供する経済を指す。一方、倫理的経済は、サプライチェーンとバリューチェーンの両方で倫理的状態を維持することを意味する。

③脆弱性からレジリエンスへ

脆弱性は様々な要因により、国家がストレスやショックに曝されやすい状態を指す。一方、レジリエンスは、ショックを吸収し回復する能力を意味し、リスク管理や基本構造の強化によって達成される。

これらのプロセスを通じて、目指す「アウトカム」の実現が図られる。

Beyond GDP枠組みに関する今後の展望

国連は2025年までにSDGsの次の目標としてBeyond GDP枠組みを位置づけるための政治的な挑戦を提案している。現時点で示されているスケジュールによると、2022年から現在までは2024年9月の国連未来サミットに向けた非公式協議が行われている。9月の国連未来サミットでは成果文書(未来のための協定:Pact for the Future)の第5章「グローバル・ガバナンスの変革」で変革を成し遂げるための重要な要素としてBeyond GDP枠組みの策定がコミットされる予定である。2025年以降については、年次総括と3~5年ごとのレビュー実施が予定されている。

冒頭で紹介した外務省の動きのように日本も積極的にこの枠組み作りの議論に参加すべきと考える。特に、東アジア的な価値観(例えば京大の内田教授が提唱する協調的幸福感尺度のような概念)をBeyond GDP枠組みに反映させていくことは国民が納得感をもって自らのウェルビーイング向上を図る意味でも重要と考えられる。

国連未来サミットは、これらの課題や新たな指標を踏まえ、より包摂的で持続可能な未来に向けた国際協力の強化を目指している。人々のウェルビーイング向上を中心的な課題とし、経済成長だけでなく、生活の質や環境保護なども考慮した新たなグローバル・アジェンダの策定が期待される。

村上 隆晃


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村上 隆晃

むらかみ たかあき

総合調査部 研究理事
専⾨分野: well-being、生命保険マーケティング

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