インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

内外経済ウォッチ『アジア・新興国~南ア、政局は一旦落ち着くも、不安山積~』(2023年2月号)

西濵 徹

南アフリカでは、議会の独立調査委員会がラマポーザ大統領に対する汚職疑惑を巡る偽証を示唆する判断を下したことを受け、政局が混乱する可能性が懸念された。ラマポーザ氏が率いる与党ANC(アフリカ民族会議)は昨年12月に党大会を開催し、その際に実施される議長選で同氏の再選が確実視されていたが、疑惑噴出により不透明感が高まった。他方、ラマポーザ氏は調査委員会の報告に異議申し立てを行うとともに、憲法裁判所に対して報告結果の審査を求めたほか、与党ANCは議会に同氏への弾劾を求める動きが出た場合には一致して反対する方針を決定するなど、政局の安定化を図る動きをみせた。

その後、議会下院で弾劾の是非を審議する委員会の設置案が上程されたが、反対多数で否決された。しかし、議会下院でANCは240議席と多数派を維持しているものの、反対票は214に留まり、一部のANC所属議員が賛成票や棄権に回るなど党内結束の足並みに乱れが生じた。その後に実施されたANCの議長選ではラマポーザ氏が勝利し、議長として2期目に突入するとともに、来年の次期総選挙を経た上での政権2期目入りに向けた一歩目を踏み出した。ただし、疑惑噴出前には2倍以上の得票によるラマポーザ氏の圧倒的な優勢が伝えられていたが、実際にはラマポーザ氏の得票数は2,476(得票率56.6%)、ムキゼ氏の得票数は1,897(同43.4%)となるなど疑惑噴出が影響した模様である。

図表1
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与党ANCを巡っては、マンデラ元大統領を中心に同国で長年に亘り行われたアパルトヘイト(人種隔離政策)の撤廃に尽力したほか、1994年に実施された全人種参加による総選挙を経て以降、常に与党の座を維持してきた。しかし、ここ数年はズマ前大統領の汚職問題なども理由に、総選挙、及び統一地方選においてANCの得票率は低下傾向が続いてきた。さらに、2021年の統一地方選挙では初めてANCの得票率が50%を下回るなどANCを取り巻く環境は厳しさを増している。ラマポーザ氏が議長選で猛追を受けた背景には、疑惑噴出により『脛に傷を持つ』トップを擁立することへの忌避感が影響した可能性はある。

他方、党大会で選出された党最高幹部人事では、2017年の前回党大会後にラマポーザ氏が政敵であるズマ前大統領の側近を排除してきたなか、今回もラマポーザ氏の側近が多数を占めるなど党内基盤は一段と強化されている。金融市場ではラマポーザ氏による議長再選を受けて政局の安定を好感する向きもあるが、党内力学と世論とのギャップが拡大する傾向が強まっていることを勘案すれば、来年の次期総選挙に向けては左派政党の躍進、ANCの分裂といった不確定要素が顕在化する可能性も考えられる。ラマポーザ氏は当面の正念場を乗り切ったが、本当の意味での山場は今後待ち受けているほか、今後はANC自身が厳しい状況に直面することは避けられないと予想される。

図表2
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西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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