1分でわかるトレンド解説 1分でわかるトレンド解説

時評『Withコロナの観光再生に向けて~次期「観光立国推進基本計画」改定に望む~』

今泉 典彦

2021年度内に次期「観光立国推進基本計画」の5年ぶりの改定が予想される。

前回2017年に改訂された「観光立国推進基本計画」では、“観光はわが国の成長戦略の柱”、“世界が訪れたくなる「観光先進国・日本」への飛躍を図る”という認識のもと、観光立国の実現に向けた数値目標として一時有名になった、訪日外国人旅行者数2020年4,000万人などを掲げた。この基本計画を背景に2019年訪日外国人旅行者数は3,188万人まで急増し、東京五輪による需要見込みもあり2020年4,000万人も視野に入っていた。そこに今回の新型コロナ禍が起こり、2020年3月以降、訪日旅行の海外需要は蒸発し、国内需要も2019年比▲8~9割水準が続いてきた。

ここにきて、ワクチン接種の普及等によってようやく感染防止と経済社会活動の両立を考えられるようになってきたが、ワクチンの普及、経口治療薬の実用化等が進むなかでも、世界的規模で海外旅行者が復活し、コロナ以前の活況を取り戻すには数年間はかかると考えておいたほうがよいだろう。今すべきことは、日本の観光業界の抱える問題の解決である。すなわち、観光の「質」の向上を追求することが喫緊の課題である。以下、次期基本計画に盛り込むべき事項を考える。

まず第一に、ワクチンパスポートの普及である。新型コロナ感染症の拡大を防ぎつつ、経済社会活動を早期の回復へ導く際に有効な手段が、個人のワクチン接種記録の真正性を簡便に担保し、デジタル形式で示すワクチンパスポートである。安全・安心の確保に向けて、基本的な感染防止策に加えデジタル形式のワクチンパスポートの導入や活用を進めることが必須である。

次に、「稼ぐ力」の発揮である。官民連携でマーケティングを強化し質の高いサービス提供を実現する必要がある。需要面で観光客一人あたりの消費額を引き上げ、供給面での生産性向上と提供サービスの高度化・高付加価値化を通じて、観光の「稼ぐ力」を飛躍的に向上させるべきである。

需要面では、短期的には、GoToトラベル事業の復活をはじめとする需要喚起策が必要である。GoToトラベル事業は一昨年の夏にスタートし、同年秋の国内旅行の回復に大きく貢献した。今後は太く短くではなく、細く長く支援を継続すべきであろう。中期的には、ワーケーションの推進定着も必要である。ワーケーションは仕事と旅行の両立を可能とし、平日への旅行需要の分散化や滞在期間の延長につながる。こうした需要の平準化の他、価格の適正化、国際MICEの誘致等も観光産業の多様化・高付加価値化には欠かせない。 

供給面では、観光業におけるDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠である。わが国の観光産業は中小企業も多く、紙媒体での顧客管理、対面・電話での顧客対応などアナログな側面が残るため、ICTを活用した作業の効率化など生産性の向上余地がある。顔認証等の先端技術の活用など一層のストレスフリーな旅行環境の実現、映像・音響技術の活用による付加価値の高いコンテンツ造成等々、統計データ等のビッグデータを活かした生産性向上を実現すべきである。

最後に、地域主導の自律、すなわち、観光の業際の集まりではなく、地域・官民・業界の垣根を越えて、観光を軸に一体となって「観光地域経営」を行うことが非常に重要である。地域においてその実情を知るDMO(観光地域づくり法人)等の担い手が自らの選択に基づいて特色ある観光地を形成し、「持続可能な観光」の推進を図る。観光×地域経済・伝統文化、観光×自然など自然・文化・地域等と観光が一緒になって発展することが不可欠である。

基本計画改定に際して、政府は今一度、観光立国の基本理念「住んでよし、訪れてよしの国づくり」に立ち戻って、成長戦略と地方創生の実現の手段として観光を位置づけるべきだ。Withコロナのなかで観光が「不要不急」とされないように、「観光産業」の重要性に対する地域や社会の理解促進を図ることの必要性にも言及しておきたい。

今泉 典彦


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。