- Research Report
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2026.08.27
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国内PEファンドの大型化はなるか
~金融庁「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2026」から読み解く課題~
重原 正明
- 要旨
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金融庁は「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2026」を2026年7月24日に公表した。その中で、PE(プライベートエクイティ)ファンドについて1章を設け、日系PEファンドの大型化を目指す方向性を打ち出している。
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PEファンドはMBOを含むTOBやカーブアウト、新興企業の事業拡大といった場面で、資金を提供する重要な役割を果たしている。現在日系PEファンドは中小案件を中心に手掛けており、1千億円を超える大型案件は一部を除き外資系ファンドが受け皿となっている。
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日系ファンドは一般的には拡大を志向しているが、その際、「管理能力」「資金調達」「開示」の3点が主な課題として挙げられる。
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大型案件では、場合によっては海外展開をしている企業が投資先となることもある。それらの企業に対する管理能力がファンドに必要であり、能力の向上が必要とみる出資者もいる。
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資金調達の面では海外からの出資が約3分の2を占める状況にある。国内の出資者では金融機関が多くを占めるが、資本規制による出資枠がある中、分散小口投資をしているのが現状である。開示に関する整備により金融機関などからの大口出資を推進する努力とともに、専用投信などを通した個人出資を増やす必要がある。
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開示や投資家とファンドの対話については、出資者金融機関の規制対応・リスク管理の面で重要であるとともに、投資家による優良なファンドの選別の手がかりを与える。
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今後事業承継案件も増えてくる中、適切なPEファンドの活用による事業再編は日本経済全体にとっても重要な事項である。関係者の努力により課題が解決され、日系大型ファンドが世界で活躍する日を望みたい。
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- 目次
1. PEファンドとプログレスレポート
PE(プライベートエクイティ)ファンドとは、私募ファンドのうち、株式(主に未公開株)に投資するファンドのことである。新興企業への資金提供、企業買収(MBOを含む)、カーブアウト(注1)などの事業再編に際して新株発行や株式買収に必要な資金を提供し、将来的に取得した株式を売却して利益を出資者に分配する。投資対象によりバイアウトファンド(企業の株式を購入して経営に関与し、企業価値を高めた上で売却する)、ベンチャーキャピタル(創業間もない、または成長の初期段階にある企業の株に投資する)、グロースファンド(一定の事業基盤を確立している企業に更なる成長のための投資を行う)、事業再生ファンド(経営不振や債務超過状態にある企業に投資する)などの種類に分けられる。最近は国内での事業承継や事業再編などの案件が増え、バイアウトファンドの重要性が増しているが、日系のファンドは後で述べる通り比較的小規模である。
金融庁は、「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2026」(以下「プログレスレポート」)を2026年7月24日に公表した。同レポートは、金融庁が資産運用サービスの高度化に向けて実施したモニタリングの結果を、毎年取りまとめているものである。資産運用サービス全般を対象にしているが、その中で、今回初めてPEファンドについて1章を設け、日系PEファンドの大型化を目指す方向性を打ち出している。。
本レポートではプログレスレポートの記載をもとに、独自の分析・考察を加えながら、日系PEファンドの現状と、大型化に向けた課題について、必要に応じて海外PEファンドや海外投資家との比較を交えながらまとめる。本稿では、とりわけ大型案件を担うことの多いバイアウトファンドを中心に考察する。
2. 日系PEファンドの大型化に向けた課題~「管理能力」「資金調達」「開示」~
プログレスレポートにも記されているが、日系のPEファンドは中小案件を主に扱っており、大型案件は外資系のファンドに委ねることが多い。日本での2025年のPEファンドの出資案件規模上位10件のうち、日系PEファンドが取り扱ったものは2件のみである。経済安全保障上重要な企業が投資対象となる場合には、重要技術や事業基盤の国外流出などをめぐり、慎重な審査が必要となることもある(注2)。
そのため、プログレスレポートでは、国内PEファンドの大型案件取り扱い能力の向上を目指す方向性を示し、いくつかの考察・調査をしている。PEファンド、および利用者である投資家へのインタビュー調査や、実際の取引実態についての調査も示されている。
これらから見える日系PEファンド大型化のための課題は、「投資先管理能力の向上」「国内資金調達比率の増加」「開示など、投資家との対話の充実」の3点にまとめられると、筆者は考える。
a. 投資先管理能力の向上
大型投資案件の対象となる大企業に対し、投資者としてのPEファンドが管理するためには、管理能力の一層の向上が必要になる。大型案件の場合、投資先企業は海外に拠点を持っている場合も多いと思われる。プログレスレポートによると投資家側もファンドの専門性向上を求める意見を出している。海外事業所などを含む大組織を、大株主としてとしてどのように管理していくか、その能力が問われる。
b. 国内資金調達比率の増加
現在の日系PEファンドの運用資金は、概ね3分の2が海外投資家から獲得されており、日本からの資金提供は全体の1/3程度に過ぎない。国内分の内訳を見ると金融機関が69%を占めており、海外に比べると個人など「その他」の割合が極端に少ない(資料1)。

筆者は企業の構造改革にたいする投資機会を個人投資家にも提供すべきである、と以前レポートに記した(重原(2026))。また政府の「成⾧投資を促進するための金融戦略 -資産運用立国のアップグレード-」では、「プライベートアセットへの投資に特化した新たな個人投資家向け投資信託の枠組みを整備する」と記している(注3)。
プログレスレポートでは、ファンド運営の安定性や経済安保案件への取組の可能性などの理由から、国内と海外の資金調達割合は50:50が良い、という日系大手PEファンドの声を紹介している。今の日系ファンドへの海外からの拠出をそのままに、投資余力があまりないとの声もある金融機関(注4)、および投資配分に公共の場での検討が求められる場合がある公的機関(注5)以外からの国内からの拠出を増やすことによって内外50:50を達成することを考える。
プログレスレポートにある、投資家種類別の平均拠出額と投資家数のグラフをもとに概算すると、個人や民間の年金基金などからの日系PEファンドへの投資額をファンド1件につき900億円程度増やさないといけない計算となる(資料2)。元の数値がファンド規模に応じた加重平均であるなど数値の計算方法に不明な点はあるが、この値が概算値として正しければ、達成できない数値ではないように思われる。

年金基金などからの調達にかかる障害を取り除く政策も併用して、国内からのPEファンドへの拠出を政策的に増やしていくことが求められよう。
c. 開示など、投資家との対話の充実
開示などについては3つの点からその必要性が指摘されている。
1つは「投資家側の規制対応・リスク管理上の必要性」である。銀行などの金融機関では、ファンドに投資した際に、そのファンドの投資先まで遡ってリスクを把握し、自社のリスク管理に反映する「ルック・スルー」によるリスク管理が求められており、規制対応上もそのような情報が必要となる。ファンド側はそのような出資者のニーズに対応した情報を提供する必要がある。
2つ目は「PEファンドに対する理解と信頼の向上」である。個別性が高いPEファンドについては、その内容や現状に関する情報の提供が、上場証券に関するファンド以上に重要になる。特に投資の拡大を求めるとすれば重要な要素となろう、
3つ目は「PEファンドに関する選択の基準としての情報提供」である。プログレスレポートにも、PEファンド側の声として「リスク分散の観点から多くのファンドに均等に少額を投資する投資家が多い」「LP 投資家の分散投資により、能力に関わらず多くのファンドが容易に出資を得ることができると、健全な競争・成⾧を阻害。(中略)LP 投資家には能力あるファンドを見極め、より集中的な出資を希望する。」などの意見が示されていた。投資案件の大型化には、各ファンド均等割りではないまとまった投資が行われることが望ましい。それを可能にするような投資先ファンドを選別するための情報が、比較可能な形で提供されることが求められる。
プログレスレポートでは多くの投資家(正確には有限責任(LP)投資家)が期待する投資環境の整備項目として次の5点を挙げている。

最後の1項目を除いて、「開示など」の項目に関する要望であり、その必要性は理解できる。一方で、定型的な業務が多い金融機関の特性が現れている感もあり、長期的な視野で個別性の高い企業の価値向上を目指すという、PEファンドの特性が、このような定型的な開示によって損なわれないか心配な面もある。また海外ファンドも含めての報告の統一などは難しいと思われるが、できることは実現してほしいと思う。
プログレスレポートは、日系ファンドの大型化のための方策を明示的には示していないが、記載されている事項を筆者なりにまとめると、以上の3点が重要と考えられる。
3. 能力ある日系PEファンドの育成に向けて
今回プログレスレポートで新たにPEファンドが取り上げられたことには、事業承継や事業再編ニーズの増加により、PEファンドの必要性が増していることが背景にある(資料3)。

事業承継については高齢化の中で、特に中小企業の経営者が高齢化していることが背景にある。また事業再編については、産業構造の変化とともに、企業ガバナンスの強化とそれに伴う上場基準の厳格化も、その推進要因の一つとなっている。
国内と海外のPEファンドを比較すると、規模感、企業管理能力、自己管理能力のどれをとっても大きな差がある印象は否めない。ただ、これはスポンサー付きの買収という文化が日本に根付いていなかったことの表れでもある。実際に地方の中小企業(ローカル交通、醸造など)を買収して再生させている企業は国内に存在することを見ると、日本人だからできない、ということはないように思える。
将来遠い先になるかもしれないが、世界で他の国際的なファンドと対等に活躍する、日系のPEファンドが現れることを期待したい。
【注釈】
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カーブアウトとは、企業の一部門を切り出して別会社として独立させることを言う。主な事業と関係の薄い事業や採算性の低い事業について企業本体から切り離す場合や、社内ベンチャーの事業をさらに発展させるために独立させる場合などに用いられる。
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実際に2025年に発表された海外ファンドによる機械メーカーの買収計画(株式公開買付、TOB)が、国家安全保障上の理由から、外為法による中止勧告を受け断念に至った例がある。
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内閣官房(2026)「1-1.官民金融機関による資金供給・成長支援機能の強化」(3)⑤に記載されている。
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銀行や保険会社などの金融機関は、BIS規制などの最低資本規制があり、リスクの大きいオルタナティブ投資に資金を振り分ける余力はあまりないと思われる、保険会社においては変額年金などの商品を活用し投資余力を増やせるかもしれないが、顧客への説明など課題は大きい。
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例えばGPIFの基本ポートフォリオの変更の際の議論は、奥田(2026)に記載されている。
【参考文献】
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奥田宏二(2026)「GPIFの基本ポートフォリオを再検証する~国内債券比率引き上げの可能性~」2026年7月28日
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金融庁(2026)「資産運用サービスの高度化に向けたプログレスレポート2026」2026年7月
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重原正明(2026)「一般投資家にも企業の構造改革への投資機会を~増加するMBOへの対応 その2~」
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内閣官房(日本成長戦略事務局)(2026)「成長投資を促進するための金融戦略 - 資産運用立国のアップグレード -」
重原 正明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 重原 正明
しげはら まさあき
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政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示
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