米国の老後資産取り崩し法を試してみた

~4%ルールは本当に役に立つのか~

重原 正明

目次

1. 米国の老後資産取り崩しに関する手法

米国では、老後の生活に備えて蓄え、増やしてきた資産(以下「老後資産」)について、リタイア後も、資産寿命を延ばすべく、運用を続けながら徐々に取り崩すのが一般的となっている(重原(2026))。この取り崩し法については、いくつかの代表的な方法が知られている。

本レポートでは、代表的な取り崩し法についてモデル計算を行い、その特徴を示し、使い方について考察する。取り崩し方法については、4%ルールのもととなったとされるBengen(1994)等、多くの研究がすでに行われているが、本レポートのモデル計算は、このような手法に馴染みのない読者にも、各方式の違いを感じていただけるよう、大幅に単純化したモデルにより計算を行うものである。

このような目的から、モデル計算の設定は、実態を反映した数値、例えば日本の高齢者の平均的な資産額や運用状況を前提としたものではないことに留意されたい。

2. 代表的な取り崩し法

米国の老後資産の代表的な取り崩し法として、年金シニアプラン総合研究機構(2018)に紹介されている5つの方式を以下に示す。各方式の解説は筆者による。

(1) 定額法

毎年一定額を引き出す方式である。名目額を一定とするのではなく、前年の取り崩し額をインフレ率に応じて増額する方式は、後述する4%ルールおよびその類似法となる。

(2) 定率法

ある引き出し率を決めて、毎年対象資産総額に引き出し率を乗じた額を引き出す方式。

(3) N分の1法

老後資産を使い果たす期間(N年)を決め、取り崩し開始年には対象資産の残高の1/N,次の年は残高の1/(N-1)、…を取り崩していき、(N-1)年後に資産残高の1/1、つまりすべてを取り崩して、N年経過時点では資産がなくなるという方式。資産運用収益がゼロならば毎年の取り崩し額は同額となるが、資産運用収益がプラスで推移する場合には、取り崩し額が徐々に増加する。

この方式の変形として、各年齢での平均余命+αで資産残高を割った金額を取り崩すという方式がある。これは米国税法上の強制引出要件(RMD)の金額設定で用いられている方法であることからRMD方式と呼ばれているが、本レポートではモデル計算の対象としない。

(4) 4%ルール

取り崩しを開始する年に、老後資産の4%を取り崩し、その後は前年の取り崩し額をインフレ率だけ増やした額を取り崩していく方式である。3%ルール等初回取り崩し率を変えた類似法もある。

(5) ガードレール方式

4%ルールの変形で、基本的には4%ルールに従うが、取り崩し額の老後資産残高に対する割合が前年より一定以上(例えば20%以上)変化する場合には、その変化を抑えるため、前年度の取り崩し額とインフレ率から計算した額に対し、割合の変化と反対方向の調整(例えば±10%)をかける。例えば老後資産価値が市況により下落して、前年取り崩し額とインフレ率から計算した取り崩し額の、老後資産残高に対する割合が、前年より20%以上増えた場合には、取り崩し額を計算値より10%減らす。インフレ対応をしながら、老後資産の運用状況に応じて取り崩し額の調整を行う方式である。


以上の5方式が、米国で一般的に知られている取り崩し法と考えられる。

3. 取り崩し法のモデル計算

以下の仮定で、前章で示した5つの取り崩し法に対するモデル計算を行う。なおこれは各方式の違いを示すための仮定で、現実の特定の世帯や平均的な高齢者像を再現するものではないことに留意されたい。

  • 取り崩し開始時(65歳)の老後資産残高:3,000万円

  • インフレ率:3%固定

  • 資産運用利回り:平均5%、標準偏差15%

  • 定率法引き出し率:4%

  • 定額法引き出し額:年1,200,000円(定率法と初回の引き出し額を合わせる)

  • N分の1方式のN:17(65歳男性の平均余命を参考に設定)

  • ガードレール方式:資産残高に対する引き出し額の割合が±10%以上変化したら、引き出し額を逆方向に5%調整する。

この仮定の下、資産運用利回りのシナリオを500本作成し、その同一の運用利回りシナリオを用いて、各方式について100歳までのモンテカルロシミュレーションを行った。なお老後資産残高がマイナスになった場合、残高を0としその後の計算を打ち切っている。

結果を、各年齢で老後資産残高が正となったシナリオの比率(資料1)、および取り崩し額(正のもののみ)の平均額(資料2)、それぞれのグラフで示す。

資料1でまず目立つのは、定率系の手法(定率法、N分の1法)は老後資産残高が正の期間(以下「資産寿命」)が明確に予測できることである。定率法であれば資産がなくなることはなく、N分の1法ではN年で確実に資産を使い切る。一方定額系の手法(定額法、4%ルール、ガードレール方式)では資産運用状況により資産寿命が異なる。ただその中でも、インフレ率に従い取り崩し額を増やす4%ルールやガードレール方式は、定額法より資産寿命が短くなる。4%ルールよりガードレール方式のほうが資産寿命は長くなるが、本モデル計算ではその差は限定的であった。

図表
図表

図表
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一方、資料2の取り崩し額をみると、資産をN年で使い切るN分の1法が最も高く、名目取り崩し額を一定とする定額法が最低水準となっている。この試算では運用・取り崩しによる資産残高の変化を反映する定率法がその次で、インフレのみを考慮する4%ルール等がそれより高い取り崩し額となっている。ここは資産寿命とは逆の結果になる。またガードレールのない4%ルールの方が、ガードレール方式よりわずかに取り崩し額は大きくなる傾向にある。

以上のモデル計算の結果を踏まえると、定率法は取り崩し額が少ないが残高がゼロになることはないので、資産寿命を重視する人に向いた取り崩し方と思われる。また資産運用利回りが引き出し率を超える場合にはインフレ対策としての効果もある。一定期間で使い切りたい人はN分の1法、一定の引き出し額を確保したい人は定額法、定率法よりさらにしっかりとインフレ対策をしたい人は4%ルールやガードレール方式ということになるだろう。

ただしこの結果は仮定の置き方の影響を受けている。運用環境やインフレ率等で変化し得るので、注意が必要である。

4. おわりに

米国で一般的に知られている老後資産の取り崩し法について、モデル計算に基づいて比較してみた。老後資産の取り崩しフェーズ、つまりデキュムレーションに関しては、日本では最近ようやく関心が高まり始めたというのが現状であろう。4%ルールという言葉も、初めて目にした読者も少なくないだろう。

本レポートのモデル計算は単純なものであり、限界はあるが、読者にとってデキュムレーションを考える一助となれば幸いである。

以 上

【参考文献】

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

重原 正明

しげはら まさあき

政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示

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