プライベートエクイティはなぜ保険事業への投資を拡大しているのか

~保険事業への参入の手法・メリット・今後の見通し~

重原 正明

要旨
  • 他の金融業態と同様、保険会社(保険引受会社)もM&Aによる再編が盛んである。従来は保険会社同士のM&Aが多かったが、最近はプライベートエクイティ(以下、PE)による保険会社の実質的な買収が目立つようになっている。

  • 保険会社は事業の性格上、M&Aによるシナジー効果が期待しにくいことから他の業態に比べ再編は遅れたが、1990年代の金融自由化がM&Aの契機となった。その後資本政策の強化が契機となり、最近は事業再編のための再保険による実質的な部門買収が盛んに行われている。

  • 保険会社の資本取引を伴わない実質的な買収、特にPEの設立した再保険会社による実質的な買収には、資産集約型再保険(Asset Intensive Reinsurance, AIR)という、主として年金・貯蓄性保険などを対象に、保険負債と対応資産に係るリスクを再保険者へ移転する再保険が多く用いられている。

  • PE側から見た保険事業参入のメリットとしては、長期安定的な保険会社の負債に対応する資産の運用機会を取得できることが大きいと思われる。

  • PEの持つ資産運用技術が活かせることもメリットの一つだが、運用手法については再保険会社も保険会社としての規制を受ける。国際的な規制の違いの影響、再保険による契約の複雑化、特定の再保険会社へのリスク集中、PEと再保険会社の協働による元受保険会社に対する利益相反行為等については保険監督当局も注意事項として監督体制を整えつつある。

  • 現在のPEの保険への投資は資本規制を契機とするものであるので、今後も継続して行われるかは、保険会社側のリスク管理手法として定着するかどうかなどに拠る。保険などへのオルタナティブ投資は、投資先にとっても長期的な利益となるのであれば、永続的に発展していくこととなろう。

目次

1. はじめに

企業の合併・買収(M&A)は世界的に活発に行われており、金融業界もその例外ではない。保険会社(本レポートでは保険契約を引き受ける会社を指すこととし、販売会社やブローカー等は含めない)については、他の業態に比べあまりM&Aは行われてこなかったが、最近は国際的なものも含めて保険会社のM&Aが多く行われ、巨大保険会社グループが形成されている。

従来は保険事業の特殊性から、保険会社(再保険会社も含む)同士のM&Aがほとんどであったが、近年プライベートエクイティ(Private Equity, PE)(注1)による保険会社の買収(実質的な買収を含む)が増加している。本レポートではこの傾向について取り上げ、PEが保険会社を買収する狙いや今後の動向について考察する。

第2章では保険会社のM&Aの流れについて概説し、第3章で特にPEにおいて実質的な買収の手法として使われる資産集約型再保険について解説する。第4章でPEにとっての保険事業買収メリットについて、第5章で保険監督規制との関係についてそれぞれ考察し、第6章で今後の動向について考え、まとめとする。

本稿ではPE側の保険事業への参入について主に述べ、保険業界側のPE参入の影響については補足的に述べるに留める。ご了解いただきたい。

2. 保険会社のM&Aの最近の流れ~事業拡大から部門買収へ~

本章では、保険会社のM&Aに関する歴史的推移、特に通常の株式購入による買収から再保険を活用した実質的な部分買収に移行してきた推移について説明する。

保険会社には株式会社形式と相互会社形式(注2)の会社があるが、株式会社形式の保険会社に関しては、他の株式会社と同様、株式を購入することにより買収することができる。

しかし、保険会社の買収は、特に生命保険会社の場合、契約の長期性とそれに伴うシステム統合の難しさ、異なる会社間の商品の微妙な違いなどがあり、買収によるシナジー効果をあげることが難しいとされてきた。また異なる国の会社間では、規制の違いがこれに加わる。そのため、銀行や証券会社に比べ、保険会社は世界的に再編が遅れ、また他業態の資本が進出することも少なかった。結果として、国内市場が大きい日本や米国の保険会社が世界的にも大きい保険会社となっていた。

この傾向が変わった原因としては、1990年代の金融自由化が主なものと考えられる。

米国では、1999 年のグラム=リーチ=ブライリー法(GLB 法)により、グラス=スティーガル法や銀行持株会社法に基づく銀行・証券・保険各業態間の相互参入規制が緩和され、金融持株会社を通じた総合金融サービスの提供が可能となった。保険会社も多くの会社が金融コングロマリットを目指した(注3)が、シナジー効果が大きくなかったことからその後多くが解体し本業(保険業)回帰に向かった。しかしその過程で多くの相互保険会社が株式会社化した。

一方、欧州では、1992年採択のEU第3次保険指令により、EU加盟国の保険会社はEU全体で保険事業を展開できるようになり、域内の相互参入が進んだ。国を超えた合併も起こり、いくつかの欧州を代表する巨大保険会社が誕生するに至った。

この時期の保険会社のM&Aは、基本的に保険事業の拡大を主目的としたものであったので、通常の株式購入による買収の形態を採っていた。しかしその後、欧州における保険会社向けの新しい必要資本規制であるソルベンシー2の導入(2016年施行)、世界金融危機時の米大手損害保険会社の救済(2008年)などを経て、世界的に資本規制の高度化・厳格化が進められた。

このことで保険会社側では、規模拡大ではなく既存の事業の見直し・再構築というニーズが生まれた。この手段として行われたのが、再保険による実質的な部門買収である(再保険については次章で解説する)。保険会社が既存契約ブロックを再保険により再保険会社に移転して、自社の必要資本額を減少させることが、戦略として多く行われた。そしてそのための再保険商品である、資産集約型再保険(Asset Intensive Reinsurance, AIR)は、資本要件上身軽になりたい既存生保と、長期の負債を引き受けることで投資機会を獲得したいPEの両方のニーズを満たすものとして、急速に利用が広がった。現在ではPEに保有される、既契約ブロック買収専業の保険会社も多く存在する(注4)。

以上が保険M&Aの最近の流れの概略である。

3. 再保険による実質的な買収とは~資産集約型再保険のしくみ~

最近の保険会社の、資本取引を伴わない実質的な部門買収に用いられる、資産集約型再保険の仕組みについて、IAIS(2025)の記載をもとに解説する。

再保険とは、保険会社が引き受けた保険契約のリスクについて、その全部または一部を、他の保険会社に引き受けてもらう契約であり、保険契約の一種である。その中でも資産集約型再保険は、保険契約の将来の保険金等の裏付けとなる資産の運用リスクが主な要素となる再保険である。ただし、資産運用リスクだけを切り離して移転するのではなく、一定の保険引受リスクも併せて移転される。保険引受リスクの実質的な移転を欠く場合、再保険としての会計・規制上の取扱いが認められない可能性がある。

再保険の多くは保険契約をまとめた保険契約群団(例えばある時点以前に契約が行われた一時払養老保険契約の集まり)について契約が行われ、資産集約型再保険も一定の種類の保険契約群団に対して行われる。もととなる契約を引き受けた保険者(元受保険者)が再保険を引き受ける保険者(再保険者)に対して再保険料を支払い、対象となる保険群団で再保険協約(注5)に定める保険事故(例えば個々の契約の満期)が生じた場合には、それに応じた再保険金(例えば満期保険金相当額)を再保険者が支払う。対象となる保険事故は再保険協約ごとに定める。資産集約型再保険では、規模の大きな既契約の群団を一括して再保険に出すことが多いこともあり、多くは契約時に一時払で多額の再保険料が元受保険者から再保険者に支払われる。

また、再保険においては、契約締結時に再保険手数料として一定の金額を再保険者から元受保険者に支払うことがある。さらに再保険者から元受保険者へ、今後保険事故が生じた際に再保険金が支払われることをより確実とするために、担保を差し出すことがある。この場合は担保資産などについて、再保険協約の一部である担保協約に定めることとなる。

図表
図表

再保険の対象となる契約に、すでに元受保険者内で蓄えられている資産(責任準備金の裏付け資産)がある場合、その運用者は元受保険者の場合、再保険者あるいは外部のファンドの場合、その混合の場合など様々あり、再保険協約で定められる。PEがスポンサーとなって設立された再保険会社が資産集約型再保険を引き受ける場合は、得られた資産(再保険料)をPEが委託を受けて運用する場合も多いと考えられる。

資産集約型再保険契約を結んでも、保険契約者と(元受)保険者との関係は変わらない。一方、契約の内容によっては再保険の対象となった契約群団に関する資産の運用などの業務については再保険会社あるいは運用委託先のPE等に移管されたことになる。契約内容によっては、既契約ブロックに係る保険負債と対応資産のリスク、その経済価値や資産運用機能の相当部分が再保険者側へ移る。この意味で、経済的には既契約ブロックの一部を移転したのに近い効果を持つ。ただし、株式取得や事業譲渡を伴うものではなく、保険契約者に対する直接の責任は引き続き元受保険会社が負う。このため「実質的な部分買収」と見ることができるが、資本取引を伴うものではない。

4. PE側からの資産集約型再保険のメリット

先にも述べた通り、元受保険会社側からは、再保険の活用で必要資本(具体的には資産運用リスクなど)を減らし、余った資本をより成長性の高い分野に投下することができる、といったことが、資産集約型再保険の最大のメリットと言えよう。端的に言えば事業構造の改善に役立つということである。

では再保険を引き受ける再保険者、特にそのスポンサーとして登場することの多くなったPEの側のメリットは何だろうか。

PEが保険会社を持つメリットとして、保険リスク(死亡リスク等)と市場リスクとの独立性が挙げられることもある。ただ、資産集約型再保険で移転されるリスクの中で保険リスクの割合は一般に小さい。

メリットとしては、PEの資金源として、安定性の高い保険負債に対応した資産の運用機会が得られることのほうが大きいのではなかろうか。PEの資金はLP(Limited Partner,有限責任組合員)からの資金が主力となる。一般の投資家より長期視点を持つ傾向は強いと思われるが、一般に PE ファンドには存続期間があり、その期間内に投資家(特にLP)が期待する水準以上のリターンを実現して資金を回収することが求められる。保険負債には予定利率や保証などに基づくコストがあるものの、そのキャッシュフローは契約条件により比較的長期にわたって見通しやすい(注6)。このため、その裏付け資産の運用受託は、PE 運用会社に継続的な運用機会と手数料収入をもたらし得る。

5. 規制裁定については保険監督者が注視中

もう一つ考えられる理由として、保険会社自身で運用するよりもPEの方がより多様な運用手段を利用できるため、高い利回りを得られる可能性がある、ということがある。ただしこれには注意が必要である。

保険会社に対する規制は、保険契約者の保護と金融秩序の維持のために設けられているものである。保険会社の資産を資産集約型再保険で外出しし、PEに移すことで、その規制が適用されなくなる可能性がある。もちろん再保険会社も保険会社であり運用規制を受けるが、特に国際的な再保険の場合は、規制の比較的厳しくない法域で業務を行う「規制裁定」を目的とした再保険が行われ、元受会社に対する規制の意図が損なわれることになっていないか、ということが問題になる(注7)。

保険監督当局もこの点に注目しており、PEの保険業界への進出は、大きな検討課題の1つとされている。IAIS(2025)では、資産集約型再保険に関する保険監督上の主な課題として

  • 再保険締結の目的(元受会社の規制回避のための利用)

  • 取引の複雑性の増大

  • (特定の再保険会社への)リスク集中の可能性

  • (再保険会社の破たん等による)再保険解消時の問題(担保価値の問題も含む)

を挙げ、それ以外の論点として

  • 監督地域間の知識の差

  • 情報交換に関する障害

  • 資産運用者と再保険者が同じグループに属する際の両者の利益のための連携
    (元受保険者に対する利益相反の可能性)

  • 会計基準の遵守

  • 元受保険と出再された保険の裏付け資産の区別

を挙げている。

そして日本の金融庁も、このようなIAISの見方に沿った形で、「保険会社向けの総合的な監督指針」を2026年7月1日に改正した(注8)。

保険監督当局は、PEの保険業界参入について、否定的な見方をしているわけではない。PEの保険業界への参入が、監督規制上の課題についても整理され、秩序だって進むことを願いたい。

6. 再保険を通じての保険投資は今後も続くか

このようにPEによる再保険を通じての保険投資は活発化している。この動きは保険業に対する資本規制の強化を契機に生じたものであるため、今後も必ず続くものとはいえない。保険会社側が資本規制への対応を進め、資本規制前からの契約が減っていくにつれて、資産集約型再保険の利用も減る可能性はある。一方で、リスク管理の手法として定着すれば、保険会社の資産集約型再保険の利用は継続的に行われていくかもしれない。永続的に資産集約型再保険の活用が続くためには、PE側の保険に対する十分な理解により、再保険が元受保険会社側にメリットを与え続けることが必要であろう。

保険への投資と同じことは、インフラ投資など他のオルタナティブ投資にも共通する点があるように見える。それらのオルタナティブ投資についても、社会全体の変化への対応力を増すなど、投資される側にとっても長期的に役立つ方向で活用されていくようであれば、永続的に発展していくこととなろう。

以 上

【注釈】

  1. PEの他にもプライベートデッドなどが保険事業に出資等することも考えられるが、本レポートでは主力と考えられるPEによる買収等に絞って考える。

  2. 相互会社とは保険契約者自身が株式会社の株主のような会社の共同所有者となる会社の形態であり、多くの国で保険会社の形態として認められている。

  3. 実際には多くの保険会社がGLB法成立前から貯蓄銀行の設立や証券会社の買収をしていたため、GLB法成立と同時に多角化が始まったわけではない。

  4. 資産集約型再保険による実質的な買収は貯蓄性のある商品を販売する、主に生命保険について適用される手法である。一方、引き受けた保険をそのまま再保険に出してしまうという形での実質的買収(あるいは業務委託)も考えられるが、これは生損保両方で行える手法である。

  5. 再保険契約に関する種々の取り決めを記した文書を、生命再保険では「協約書」と呼んでいる。「契約書」と呼ばないのは、個別の契約についての取り決めではなく、類似の契約(今後発生する契約を含む場合もある)についての取り決めを一括して記しているためと思われる。

  6. キャッシュフローの不安定要因として解約があるが、保険契約の場合保障要素があることなどから金利感応的な解約は他の金融商品ほど多くはない。ただし市場的あるいは非市場的理由による大量解約に関しては注意が必要である。

  7. 保険監督者国際機構(IAIS)は各国の規制内容が異なることについては問題としていない。ただし各国間で連携が取れ、元受保険会社や再保険会社の存在する国の監督者がそれぞれの会社の現状を正しく把握でき、それに基づき正しく行動できることは重視している。

  8. 7月1日以降の改正をも反映した本レポート執筆時点の「保険会社向けの総合的な監督指針」は金融庁(2026)参照。2026年7月1日改正の内容については金融庁(2026a)参照。

【参考文献】

重原 正明


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

重原 正明

しげはら まさあき

政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示

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