- Research Report
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2026.09.02
資本市場
日本経済
運用戦略・運用商品
イノベーション
オルタナティブ投資
一般投資家にベンチャー投資の門は開くか
~未上場株の仲介に特化した証券会社の誕生~
重原 正明
- 要旨
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- 2026年8月に、既発・新発の未上場株式を扱う証券会社が金融庁に登録された。一般投資家はこの証券会社と取引することは原則としてできないが、この登録は未上場株の市場(特に二次市場)整備の動きの一つと考えることができる。
- 未上場株の市場整備の動きの背景には、ベンチャー企業の育成上、企業が未熟のまま急いで上場させる「小粒上場」がその後の成長を妨げているという問題意識がある。
- 一般投資家が未上場株に投資する方法として「株式型クラウドファンディング」「株主コミュニティ制度」「未上場株を組み入れた投資信託の購入」の3つがある。
- 今回の登録は、非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う第一種金融商品取引業者に対する登録要件緩和措置を利用したものである。非上場有価証券特例仲介等業務は基本的に一般投資家向けのものではないので、一般投資家が直接未上場株に投資する道を広げるものではないが、未上場株を組み入れた投資信託の組成等に影響を与える可能性が考えられる。
- ベンチャー企業への投資はリスクも大きく、また周辺の体制整備についても注目されるところである。一方、ベンチャー企業への投資は、日本経済の成長力やイノベーションを支えるうえでも重要である。健全な形で、ベンチャー企業をはじめとする未上場株への資金提供が進んで行くことを期待したい。
1. 未上場株を扱う証券会社の登録
2026年8月21日、ベンチャーサポート企業スマートラウンドは、既発・新発の未上場株式を扱う証券会社として、子会社が第一種金融商品取引業の登録を完了したと発表した。後に述べる通り一般投資家はこの証券会社と取引することは原則としてできないが、この登録は未上場株の市場(特に二次市場)整備の動きの一つと考えることができる。本稿では未上場株市場整備の背景と、未上場株への投資手段が、特に個人等の一般投資家についてどう変わるかを論考する(注1)。
2. 上場の「ゴール」を急がされていたベンチャー企業
ベンチャー企業の資金需要への対応は、主に新興企業への投資を専門に行うファンドであるベンチャー・キャピタル・ファンドが担ってきた。しかしベンチャー・キャピタルの組成するファンドの多くには存続期間が定められているため、期間内に保有株式を売却するなどして投資資金を回収し、出資者に分配する必要がある。
企業ごと既存企業に買収してもらうなどの手段もあり得るが、それができない場合、日本では未上場株の取引を行う二次市場がほとんど存在しない。このため、ベンチャー企業を上場させて株式を市場で売却するのが最も現実的な現金化の手段となる。かくしてベンチャー・キャピタル・ファンドの投資回収(エグジット)の手段である(主に新興市場への)上場が、ベンチャー企業にとっても目指すべき「ゴール」とされていった。
ただ、これには問題もあった。ベンチャー企業の関係者の多くが上場を急ぐ傾向から、企業が資本・戦略・ガバナンス等の面でまだ大きく成長できるような状態になっていない段階での「小粒上場」が増加したことである。実際に上場後に企業が成長しないケースが多く、日本では大規模な新興企業は諸外国に比べわずかしか輩出していない。
経済産業省スタートアップ・ファイナンス研究会(2024)でも、「『小規模上場だから悪いのではなく、小規模上場後に置かれる環境下で成長を続ける戦略や資本を準備せずに上場してしまうことが非成長の要因である』、『いわゆる死の谷に落ちないために、流動性の確保やIR上の経営努力の重要性を伝えていくことが必要』といった指摘があった。」と記載されている(注2)。またベンチャー企業による粉飾決算などの事件も起こっている。今後は東証改革により、新興向けのグロース市場も含めて上場維持基準が厳しくなり、上場後の一層の成長が求められるようになる。上場前に企業を育てる仕組みや、その段階で資金を提供する仕組みの必要性が増している。
一方で未上場株の二次市場など、上場以外の出口に関する整備を求める声は従来からあり、様々な制度整備も進められてきた。今回のスマートラウンドの子会社登録もその制度の一つを用いたものである。
3. 一般投資家の未上場株への投資方法
これまでも未上場株への投資機会の拡大に向けた取組みが行われてきた。ベンチャー企業に直接的なつながりのない一般投資家が未上場株に投資する仕組みは主に3つ存在する。
1つは株式型クラウドファンディングである。第一種金融商品取引業者または第一種少額電子募集取扱業者(注3)が、新たに発行される株式の募集または私募の取扱いをインターネット上で行う仕組みであり、ベンチャー企業の報告義務を簡略化するために、実務上1銘柄1億円未満で行われている(注4)。購入人数の制限はない。株式型クラウドファンディングは個人に直接新株が渡ってそこで取引が完結するしくみであり、一部の投資型クラウドファンディングのように購入者集団によるファンドが組成されるわけではないので、投資型クラウドファンディングの一種ではあるが、購入型のクラウドファンディングに近い性質も持っている。
2つ目は株主コミュニティ制度を活用して購入する方法である。株主コミュニティ制度は、2015年5月に日本証券業協会において創設された制度で、日本証券業協会が指定した証券会社が、特定の非上場企業ごとに株主コミュニティを組成し、参加者に対してのみ投資の機会を提供するものである。主に地場の非上場企業の流通取引・資金調達に用いられているが、ベンチャー企業の利用実績もある。個人で証券会社にコミュニティに入りたいと申し出ることはできるが、株式発行会社の役職員や既存株主を除いて、証券会社からの勧誘は行えない。
3つ目は未上場株を組み込んだ投資信託を購入する方法である。法令上は未上場株を組み入れた投資信託を組成することは認められていたが、運用上の規則等が未整備であった。投資信託協会が2023年12月に「投資信託等の運用に関する規則」等を一部改正した(2024年2月15日より実施)ことで実際の組成が可能となった。2024年8月に、証券会社系投信委託会社とベンチャー・キャピタルが協業して、未上場会社の上場前後の時期のファイナンス(クロスオーバー・ファイナンス)を組み入れた日本株公募投資信託を提供したのが日本初の事例とされ(注5)、現在複数の投資信託が存在するが、確認した範囲では、日本株公募投資信託での未上場株投資範囲は上記の意味でのクロスオーバー・ファイナンスに限定されている。
このほか、発行会社から直接取得する方法や、相続・贈与、ストックオプションの行使などによって未上場株を取得する場合もある。ただし、これらは一般投資家に広く投資機会を提供する仕組みとはいいにくい。また、特定投資家向け銘柄制度である J-Shipsは、原則として特定投資家を対象としている。
4. 今回の登録で未上場株への投資方法は拡大するのか
今回のスマートラウンド子会社の証券会社としての登録は、2025年5月1日に施行された改正金融商品取引法による、第一種金融商品取引業者の登録要件の緩和措置を利用したものである。非上場有価証券特例仲介等業務のみを行う場合、第一種金融商品取引業者としての登録要件が、最低資本金などについて緩和される(注6)。
ただし非上場有価証券特例仲介等業務は、非上場の有価証券の募集・私募の取り扱いや売買の媒介などであるが、一般投資家を対象とするものは原則除かれている。言い換えると原則として特定投資家のみに向けて未上場株式等の売買等ができる(注7)。一般投資家が直接、非上場有価証券特例仲介等業務を行う第一種金融商品取引業者で未上場株式を購入・売却することができるようになったわけではない。
今回の登録は、プロ向けの未上場株式市場、特に二次市場を整備することが目的であり、一般投資家に直接未上場株式へ投資する新たな手段を与えるものではない。一方で、今回の登録は、未上場株式の流通を仲介する事業者が増えるという意味で、二次流通の活性化に向けた動きの一つと位置付けられる。
未上場株式の二次市場が活性化すると、それらを投資信託に組み込むことがいままでに比べて容易になる可能性はある。またベンチャー企業への資金提供は、これまでは早期段階での比較的低額の出資に偏っていると言われていた。二次市場の整備により、基本的に上場を待つクロスオーバー・ファイナンスに加えて、さらに様々なステージのベンチャー企業へ資金を提供する投資信託が組成される可能性も高まろう。
これらの投資信託やその他の二次市場参加者が、ベンチャー・キャピタル・ファンドのエグジットの相手となれば、小粒上場を急ぐ必要も減ると思われる。また二次市場の拡大が、未上場株の一次市場の拡大へと波及することがあれば、ベンチャー企業自身にとっても、上場しないままでの資金調達の手段が広がることとなる。
もちろん、ベンチャー企業への投資は大きなリスクが伴う。新事業が利益を得るまでには時間がかかり、事業が成功するかどうかもわからない。ベンチャー企業には、開発の失敗(魔の川)、製品化のための資金不足(死の谷)、市場での競争(ダーウィンの海)という3つの障害があると言われているが(資料1)、それを乗り越えられるかどうか見極めることは一般的には難しい。

このような危険性はあり、一般の投資家は未上場株のリスクには注意を払わなければならない。投資信託等に組み入れる場合も、リスクの説明は丁寧に行う必要があるだろう。また非上場有価証券特例仲介等業務を行う取引業者自身のガバナンスなど、周辺の体制整備についても、注目されるところであろう。
だが一方、ベンチャー企業への投資は、日本経済の成長力やイノベーションを支えるうえでも重要であり、また投資家にとっては大きな利益を生む可能性もある。政府が2026年7月に閣議決定した「日本成長戦略」においても、8つの分野横断的な課題の一つとしてスタートアップが挙げられ、「特に、ディープテック・スタートアップは17の戦略分野における技術革新や成長投資の先導的な担い手であり、ユニコーンに成長する潜在力を有するが、収益化までに長期間と大規模資金を要するため、その壁を乗り越えるための支援の強化が課題である。」と記されている。
健全な形で、ベンチャー企業をはじめとする未上場株への資金提供が進んでいくことを期待したい。
【注釈】
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「未上場株」ということばにはやがてどこかの公開市場に上場するという意味が含まれているようにも見えるが、本稿では一般的に上場していない株式が「未上場株」と呼ばれていることを考慮してこの用語を用いている。将来の上場を前提にした意味では使用していないことに留意されたい。
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「死の谷」については第4章で後述する。
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金融商品取引法第29条の4の2に規定されている。
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金融商品取引法施行令第15条の10の3では発行価額総額を5億円までとしているが、過去には発行総額1億円以上の場合は有価証券届出書等による法定開示が必要であったため、主にベンチャー会社側の負担の問題から、実際には1億円未満に抑えて募集が行われた。2026年の金融商品取引法の改正で、法定開示の要件は発行総額5億円以上に引き上げられているが、その条項が施行されるのは2027年4月からである。執筆時点で日本証券業協会Webサイトに掲載されている株式型クラウドファンディング業務を行う金融商品取引業者5社のWebサイトを調査したところ、5社すべてが株式型クラウドファンディングについては1億円未満を取扱限度としていた(2026年8月27日調べ)。今後は法改正に合わせ、上限を引き上げる会社が出てくる可能性もある。
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野村アセットマネジメント等(2024)参照。
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金融商品取引法第29条の4の4に規定されている。
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発行会社の役職員に対しては未上場株式の売買の仲介などを行うことができる。
【参考文献】
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経済産業省スタートアップ・ファイナンス研究会(2024)「スタートアップ・ファイナンス研究会とりまとめ~ガバナンス向上とファイナンス手法の多様化を通じたスタートアップ・エコシステムの拡大~」2024年6月24日
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重原正明(2026)「一般投資家にも企業の構造改革への投資機会を~増加するMBOへの対応 その2~」
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重原正明(2022)「注目のキーワード『クラウドファンディング』」『第一生命経済研レポート』2022年9月号
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スマートラウンド(2026)「スマートラウンド証券、第一種金融商品取引業(非上場有価証券特例仲介等業務)の登録を完了」2026年8月21日
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内閣官房(日本成長戦略会議事務局)(2026)「日本成長戦略」
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野村アセットマネジメント・野村證券(2024)「創業期から上場直前までの未上場株投資を含む 国内初の日本株公募投資信託を提供~野村アセットマネジメントとジャフコが共同で開発、野村證券にて募集~」2024年8月2日付ニュースリリース
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日本証券業協会Webサイト
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e-GOV 金融商品取引法、金融商品取引法施行令
※法令の条項は執筆時点のもの。
重原 正明
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 重原 正明
しげはら まさあき
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政策調査部 シニア研究員
専⾨分野: 社会保障・保険・年金、リスク管理・保険数理、会計・開示
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