- HOME
- レポート一覧
- 経済分析レポート(Trends)
- ロシア、財政運営はウクライナ戦争のさらなる長期化を鮮明に
- World Trends
-
2026.10.02
新興国経済
原油
ロシア経済
ウクライナ問題
安全保障
防衛
ロシア、財政運営はウクライナ戦争のさらなる長期化を鮮明に
~2027年度予算案はウクライナ戦争の長期化を前提、対日関係改善の道筋も見えにくい~
西濵 徹
- 要旨
-
-
ロシア政府が提出した2027年度予算案では、歳出48.8兆ルーブルのうち国防費が17.1兆ルーブルと全体の35%を占め、今年度予算から4割以上増加するとしている。安全保障機関向けを含めれば関連支出は歳出全体の4割を上回り、プーチン政権がウクライナ戦争のさらなる長期化を財政面で織り込んでいることがうかがえる。
-
一方、戦争の長期化と国防費の膨張により財政状態は悪化している。2027年の歳入は43.3兆ルーブルを見込み、原油・ガス収入の伸び悩みを、付加価値税や法人税などの税収増や追加増税で補う方針である。財政赤字はGDP比▲2.2%と今年度の▲3.2%から縮小する想定としているが、歳出・債務を機動的に増やせる制度が整えられているため、さらなる財政悪化の可能性は残る。公的債務残高も2027年末時点でGDP比21.7%と、政府が従来「安全ライン」としてきた20%を上回る見通しであり、戦費確保と財政健全性の両立が課題となる。
-
こうしたなか、プーチン大統領は日本との協力に関心を示す一方、日本の「軍事化」やアジア太平洋地域での安全保障枠組みに懸念を表明し、政治・安全保障面で日本をけん制した。また、ウクライナ戦争終結後の日ロ関係改善にも言及したものの、2027年度予算案は戦争の早期終結を前提としておらず、短期的には困難な状況にある。日ロ間では政治・安全保障上の対立が続くため、経済関係だけを切り離して改善することは容易ではなく、日本にはロシア側の具体的な政策・行動を見極めながら慎重に対応することが求められる。
-
【2027年度予算で国防費は前年比4割超増、戦争継続と財政健全化の両立に難題】
ロシア政府は9月30日、2027年度予算案を連邦議会下院(国家院)に提出した。ウクライナ戦争の開戦から4年半以上が経過するなか、ロシア経済にとっては軍事関連が一大産業となっている。そのため、予算案における軍事費の動向は、ウクライナ戦争の先行きに加え、ロシア経済の行方を大きく左右することが予想される。2027年の歳出規模は48.8兆ルーブルとなり、そのうち国防費は17.1兆ルーブルと歳出全体の35%を占める。国防費の規模は今年度予算(12.1兆ルーブル)から4割以上増加、従来計画(13.5兆ルーブル)と比較しても3割弱膨らんだ。なお、国防費とは別に連邦政府の安全保障機関(対外情報庁(SVR)や連邦保安庁(FSB)など)に関連予算が計上されており、これらを合わせると歳出全体の4割以上にのぼる。こうした予算配分を勘案すると、プーチン政権がウクライナ戦争のさらなる長期化を前提としている様子がうかがえる。
ウクライナ戦争の長期化やそれに伴う国防費の増大を受けて、財政状況は急速に悪化している。予算案では、2027年の歳入規模を43.3兆ルーブル、そのうち原油・ガス関連収入は7兆ルーブルとした。前提となるウラル原油価格は1バレル=53ドルとしている。足元の原油価格は高止まりしているものの、今年度の原油・ガス関連収入を8.9兆ルーブルから7.6兆ルーブルに下方修正している。背景には、原油価格やウラル原油のディスカウント、原油・ガスの生産・輸出動向など複数の要因があるとみられる。一方で、足元ではインフレが加速するなか、付加価値税(VAT)や物品税、輸入関税などの税収は今年度予算から1割程度の増加を見込むほか、法人税も同様に増加するとの見方を示す。さらに、膨張する国防費を賄うべく、金融所得などを対象とする追加増税も検討しており、財政悪化に歯止めをかけたいとの狙いもうかがえる。
その結果、2027年の財政赤字は5.5兆ルーブル、GDP比で▲2.2%となる。足元の財政状況が悪化していることを受けて、今年度の財政赤字はGDP比▲3.2%と当初案(同▲1.6%)から赤字幅が大幅に引き上げられたものの、一転して来年度の赤字幅は縮小するとしている。ただし、今年6月に連邦議会は予算法の改正を経ない形で歳出、債務の拡大を可能にする法律を可決しており、国防費をはじめとする歳出を機動的に増加させることが可能となっている。政府によれば、2026年だけを対象とする特例措置としたものの、先日実施された総選挙では与党が3分の2を超える議席を獲得しており(注 )、先行きもなし崩し的に同様の対応が進む可能性には注意が必要である。公的債務残高は2027年末時点でGDP比21.7%と国際的には低水準にとどまるものの、政府がこれまで「安全ライン」とみなしてきた20%と上回る。このため、戦争継続に伴う歳出圧力と財政健全性の維持をいかに両立させるか、ロシア政府にとって一段と重要な課題となろう。
【安全保障面で日本をけん制する一方、経済協力の余地は残したいロシア】
プーチン大統領は1日、国内外の有識者が集まる国際会議(ワルダイ会議)に登壇し、日本との関係について、協力に関心があるとする一方、日本の「軍事化」の動きに懸念を抱いていると述べたと報じられている。プーチン氏はこのところ、中国が国際場裡で日本を批判する際に用いる「新型軍国主義」とのナラティブ(物語)に歩調をあわせる動きをみせており、今回の発言もそうした文脈の延長線上にあると考えられる。また、アジア太平洋地域の安全保障環境を巡って、軍事・政治的なブロック形成に懸念を抱いていると述べるなど、日米豪印戦略対話(Quad)や米英豪による安全保障枠組み(AUKUS)を念頭に置いた可能性がある。一方で、ウクライナ戦争の終了後には日ロ関係が改善するとの見通しを示し、日本側に関係改善に向けた対応を求めた。しかし、2027年度予算案の内容は、早期にウクライナ戦争が終結する可能性が低いことを示唆しており、現実的ではないと捉える必要があろう。プーチン氏の発言は、政治・安全保障面で日本をけん制する一方、経済面では協力の余地を残したいとの意図がうかがえる。しかし、日ロ関係を巡る政治・安全保障上の対立が続くなか、経済関係のみを切り分けて改善することには相応の難しさが伴う。このため、日本にとってはロシア側の今後の具体的な政策や行動を見極めつつ、慎重に対応する局面が続くと考えられる。
注1 9月24日付レポート「ロシア下院選、与党・統一ロシアが3分の2超の議席を維持」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
-
経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
執筆者の最近のレポート
-
オーストラリア、8月インフレ率は加速も、コアインフレ率は横ばい ~世界的なAI・半導体需要の旺盛さを反映して、9月の韓国輸出は過去最高額に~
アジア経済
西濵 徹
-
タイ、洪水被害が景気の新たな重石に ~経済活動への影響が広がるなか、債務増大と金利高止まりが財政対応を制約~
アジア経済
西濵 徹
-
ニュージーランド総選挙は新興政党がカギを握る、NZドル相場は? ~政権交代観測とRBNZのマンデート変更がNZドルの重しに~
アジア経済
西濵 徹
-
韓国、AI・半導体需要が景気に追い風も、政治への逆風は止まず ~不動産高騰や株価低迷、インフレ懸念が支持率を圧迫、日韓関係への影響にも注目~
アジア経済
西濵 徹
-
中国、当局は景気下支え策を強化も内需回復は道半ば ~PMIは幅広く改善、人民元高基調が続く一方で雇用環境には不透明感が残る~
アジア経済
西濵 徹
関連テーマのレポート
-
メキシコ中銀、政策判断の自由度を重視 ~3会合連続で金利据え置き、FRB利上げへの機械的追随を否定、ペソ相場はどうなる?~
新興国経済
西濵 徹
-
景気減速にもかかわらず南ア中銀は2会合ぶりの追加利上げを決定 ~原油高やサービス物価を警戒、ランド相場は外部環境に左右される展開が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ロシア下院選、与党・統一ロシアが3分の2超の議席を維持 ~選挙結果は政権に追い風も、石油製品不足とインフレ再加速で国民生活には逆風が続く~
新興国経済
西濵 徹
-
ブラジル中銀は5会合連続の利下げも、緩和継続には慎重姿勢 ~景気減速を重視する一方、原油高・異常気象・財政運営が引き続きインフレリスクに~
新興国経済
西濵 徹
-
「トランプ・インフレ」に翻弄される新興国経済 ~スーパー・エルニーニョも加わり、インフレと通貨安への警戒感が強まる懸念も~
新興国経済
西濵 徹

