インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

米中間選挙での民主党躍進は、トランプ米政権のイラン政策を変えるか

~議会の制約強化で軍事行動に慎重姿勢も、外交交渉の停滞や紛争再拡大のリスクは残る~

西濵 徹

要旨
  • 米国では、11月3日に実施された中間選挙において、野党・民主党が上下院双方で多数派を奪還する見通しとなり、トランプ米政権のイランに対する政策にも影響が及ぶとみられる。2027年1月に新たな議会が発足すれば、民主党による軍事行動への監視や予算面での制約が強まると予想される。とはいえ、トランプ米大統領の軍事行動に対する裁量が直ちに失われるわけではなく、如何なる対応をみせるか注意を払う必要性は引き続き高い。
  • 先行きの米国のイランに対する政策については、①経済制裁と限定的な軍事圧力を維持する「現状維持」、②外交交渉を通じた段階的な停戦・核合意の実現、③新議会発足前の軍事的圧力の強化、④イスラエルなどの動きを契機とする紛争の再拡大、という4つのシナリオが考えられる。現時点においては、経済的圧力を維持しつつ外交交渉を模索する第1のシナリオが基本路線になると見込まれる。しかし、イランの対応、イスラエルの動向によっては、軍事的緊張が再燃するリスクが残る可能性には注意が必要である。
  • 日本経済にとっては、ホルムズ海峡の航行を巡る不透明感が原油やLNG、石油化学製品、肥料などの供給制約や価格上昇を通じて、幅広い分野にインフレ圧力を波及させるリスクがある。こうした状況を勘案すれば、中間選挙の結果をもって直ちにイラン情勢が安定化するとは限らないと言える。今後も米国とイランの外交交渉の進捗や、中東諸国を巡る動き、イスラエルの対応、ホルムズ海峡の航行状況などを引き続き注視する必要がある。
目次

【米中間選挙は民主党が上下院で多数派を奪還する見通し、トランプ米政権の外交政策にも影響】

米国では、11月3日に連邦議会の中間選挙が実施された。報道によれば、野党・民主党が上院で多数派を奪還し、下院でも多数派を獲得する見通しとなっている。今回の選挙を巡っては、物価高や生活費負担の増大に加え、イラン情勢の悪化が長期化していることに対する有権者の不満が、民主党にとって追い風となった模様である。民主党が上下院双方を掌握することが確定すれば、トランプ米政権は2期目の後半2年間において、議会との対立を抱えながらの政権運営を余儀なくされると予想される。

こうした政治状況の変化は、トランプ米政権が進めてきた対イラン政策にも影響を及ぼすと見込まれる。米国とイスラエルは2月末にイランへの大規模な軍事攻撃を開始し、イラン側による報復攻撃やホルムズ海峡を巡る対立を通じて、中東情勢は不安定化した。その後、6月17日には米国とイランが軍事行動の停止、核開発問題、海上交通の安全確保などを柱とする14項目の覚書に署名したものの、8月には合意が失効し、双方による軍事的対立が再燃した。足元では、カタールなどを仲介役とする外交交渉が続いているものの、米国による経済制裁や軍事的圧力も維持されるなど、事態打開への道筋は依然として不透明である。

トランプ氏は10月8日、中間選挙までイランへの新たな攻撃を行わない方針を表明するなど、選挙日程を意識して軍事行動を抑制してきた。その後も同氏は、攻撃再開の判断を急がない考えを示すなど、外交交渉を模索する余地も残してきた。このため、選挙後の対イラン政策を巡っては、民主党による議会の制約強化が軍事行動の抑制につながる可能性がある。その一方、同氏が自らの指導力を誇示すべく、短期的な軍事的圧力の強化に動く可能性も残っている。

【民主党が上下院を掌握することで、トランプ米政権による軍事行動の自由度が狭まる可能性】

今回の選挙結果が米国の対イラン政策に与える影響を考えるうえでは、米国の大統領と議会の権限の違いに留意する必要がある。米国では、大統領が外交・安全保障政策を主導する一方、議会には宣戦布告や予算の承認、軍事行動への監督などの権限が与えられている。民主党は、トランプ米政権が議会の正式な承認を得ずに開始したイランに対する軍事行動に批判的な立場を示しており、これまでも戦争権限法に基づく軍事行動の制限や米軍撤収を求める決議を繰り返し提出してきた。

民主党が上下院の多数派を掌握すれば、今後はこうした動きが一段と強まる可能性がある。具体的には、軍事行動に関する公聴会の開催や、政府高官による説明要求、軍事作戦の追加予算に対する条件付与、イスラエルなどへの武器供与の審査強化などが考えられる。今後もイランに対する軍事行動が長期化すれば、財政負担の問題が議会で取り上げられる可能性もある。

しかし、こうした制約がトランプ米政権による軍事行動を直ちに停止させるわけではない。大統領には一定の軍事的裁量が残るほか、仮に議会が軍事行動を制限する法案を可決したとしても、大統領が拒否権を行使することが可能である。その場合、法案を成立させるには、上下院でそれぞれ3分の2以上の賛成が必要となる。そのうえ、イランによる核兵器保有を阻止することを巡っては、共和党のみならず、民主党の間でも一定の共通認識がある。このため、民主党が議会上下院双方で多数派となったとしても、イランに対する強硬姿勢そのものが大幅に修正されるとは限らない。

また、今回の選挙で選出された議員で構成される新たな議会の任期は、原則として2027年1月3日に始まる。このため、年内は共和党が多数派を占める現議会が存続することにも注意が必要である。トランプ氏にとっては、新たな議会による制約が本格化する前に軍事的成果を確保しようとする誘因が働く可能性がある一方、選挙で示された有権者の不満を踏まえ、大規模な軍事行動を回避しようとする誘因も働くと考えられる。

【シナリオ①:経済制裁と限定的な軍事圧力を継続するいわゆる「現状維持」の路線】

第1のシナリオとしては、トランプ米政権がイランへの経済制裁や海上封鎖などの圧力を維持しつつ、大規模な軍事攻撃を控えるとともに、外交交渉を継続する展開が考えられる。トランプ米政権内では、イランとの合意を優先する立場に加え、軍事衝突の再拡大を避けつつ、経済的圧力によって譲歩を引き出すべきだとの立場もみられる。なかでも、イランに対する制裁を強化することにより同国の経済状況を一段と悪化させることができれば、追加的な軍事行動を実施することなく、交渉上の優位性を確保できるとの判断が働く可能性がある。

この場合、トランプ米政権としては、民主党が多数派を占める新たな議会との全面的な対立を避けつつ、イランに対して強硬姿勢を維持することが可能となる。一方で、イランにとっても、米国の議会構成の変化によってトランプ米政権の行動が制約されると判断すれば、交渉を長期化させつつ、米国側の譲歩を待つ戦略を採用する可能性がある。とはいえ、こうした両国による駆け引きが続けば、核開発問題やホルムズ海峡の航行を巡る対立が解消されないまま、緊張状態が長期化することも考えられる。

このシナリオの下では、大規模な軍事衝突に発展する可能性は相対的に抑えられるものの、金融市場においては、イラン情勢に対する地政学的リスク・プレミアムが残存し、原油価格が高止まりすることが予想される。そのうえ、米国が中国企業などに対する二次制裁を強化すれば、米中の間で新たな経済摩擦に発展していく可能性もある。

【シナリオ②:外交交渉を加速させることを通じて、段階的な停戦と核合意を目指す路線】

第2のシナリオとしては、中間選挙での共和党の敗北を受けて、トランプ米政権が軍事行動を通じた問題解決の限界を認識し、外交交渉による事態打開に重点を移す展開が考えられる。足元においても、カタールなどの仲介国を通じて、ホルムズ海峡の航行再開や経済制裁の緩和などを巡る協議が継続的に行われている。11月初旬には、ホルムズ海峡の航行再開と米国との交渉再開を短期間で実現する枠組みも議論されており、外交的な解決への糸口は残されている。

こうしたなか、トランプ米政権が2028年に実施される次期大統領選挙を見据えて、外交的成果の実現に動く可能性はある。具体的には、ホルムズ海峡での商船の安全航行と、米国による一部制裁緩和を組み合わせた暫定合意を実現したうえで、イランによる核開発の制限や国際的な査察体制の整備を巡る協議へと移行する展開が考えられる。トランプ氏としては、軍事作戦の拡大による犠牲や財政負担を回避しつつ、イランに対する政策で一定の成果を挙げたと国内向けに訴えることも可能となる。

とはいえ、こうした外交的解決には課題も山積している。イランは、中東地域における米軍の軍事的なプレゼンスの縮小のほか、経済制裁の解除などを求めており、双方の要求には依然として大きな隔たりがある。さらに、イスラエルは、イランの核開発能力や軍事力の再建に強い警戒感を示しており、仮に米国とイランの交渉が前進した場合においても、イスラエルとの調整が難航する可能性はある。

仮にこのシナリオが実現すれば、ホルムズ海峡の航行正常化に伴って原油供給の不確実性が後退するとともに、高止まりしてきた原油相場が落ち着きを取り戻すことが見込まれる。さらに、エネルギー価格の安定化は、米国のインフレ圧力を和らげるだけでなく、イラン情勢の悪化に揺さぶられてきた世界経済にとっても好材料となることが期待される。

【シナリオ③:新たな議会が発足する前に、トランプ米政権が軍事的圧力を強化していく路線】

第3のシナリオとしては、トランプ氏が、民主党による議会上下院掌握を自らの政治的な求心力に対する打撃と捉えるとともに、外交・安全保障政策での主導権を維持すべく、イランに対する軍事的圧力を再び強化する展開が考えられる。トランプ氏は、中間選挙前の追加攻撃を見送る方針を示していたものの、選挙後の軍事行動については選択肢を残してきた。また、イスラエルのネタニヤフ首相は、イランとの交渉に懐疑的な姿勢を示すとともに、軍事行動の再開を支持していると報じられている。

この場合、トランプ政権は2027年1月に新たな議会が発足する前に、イランの核関連施設や弾道ミサイル関連施設などを対象とする限定的な攻撃に踏み切る可能性が考えられる。短期間で軍事的成果を挙げ、イランの脅威を低下させたと宣言することができれば、民主党による政権批判をかわすとともに、共和党内の支持基盤を維持することにもつながると考えられる。

しかし、こうした戦略には大きなリスクが伴う。イランが米国による軍事攻撃への報復として、中東の米軍基地のほか、イスラエル、湾岸産油国のエネルギー関連施設への攻撃を拡大させれば、紛争が再び広域化する可能性は高い。加えて、イランがホルムズ海峡の航行を妨害する動きを一段と強めれば、原油価格が急騰して米国のインフレ圧力が再び高まることも考えられる。これは、中間選挙で明らかとなった生活費負担に対する有権者の不満を一段と強めるとともに、トランプ米政権にとって政治的な逆風となりかねない。

また、新たな議会が発足した後には、民主党が軍事行動の正当性や追加的な戦費負担を厳しく追及することが予想される。このため、トランプ米政権が軍事的圧力を強化する場合においても、地上部隊を大規模に投入するような長期的な軍事作戦ではなく、限定的な軍事攻撃によって短期間で成果を確保する戦略が優先される可能性がある。ただし、足元の状況と同様に、実際の軍事行動が当初の想定を超えて拡大していくリスクは極めて高いと考えられる。

【シナリオ④:米国の意向とは別に、中東地域において紛争が拡大していく路線】

第4のシナリオとしては、トランプ米政権が当初は外交交渉を優先していたとしても、イスラエルとイランの軍事的対立や、イランと関係の深いイエメンのフーシ派などの活動などを通じて、米国が中東地域に広がりをみせる紛争の再拡大に巻き込まれる展開も考えられる。

特に、イスラエルがイランの核開発や軍事能力の再建を重大な脅威と判断して、独自に軍事攻撃を実施した場合、イランによる報復を通じて米国が軍事介入を迫られる可能性は考えられる。さらに、ホルムズ海峡で米軍艦艇や商船が攻撃を受ける事態となれば、米国が自国の安全保障や国際的な海上交通の確保を理由として軍事行動を拡大させる可能性も否定できない。

この場合、民主党が議会上下院双方において多数派を掌握していても、米国に対する差し迫った脅威への対応そのものを阻止することは難しい。さらに、米国とイランの対立が軍事的な報復の連鎖に発展すれば、外交交渉の再開は一段と困難となり、中東地域の不安定化が一段と長期化していくリスクも高まることは避けられない。

【先行きは経済的圧力の維持が基本も、外交交渉の進展と軍事的緊張の再燃の双方に注意が必要】

こうした状況を踏まえると、現時点においては、トランプ米政権がイランへの経済的圧力を維持しながら、外交交渉を模索する第1のシナリオが基本路線になると想定される。民主党が議会上下院双方で多数派を掌握することは、大規模な軍事作戦の継続に対する政治的な制約を強めるとみられ、軍事行動による原油価格の上昇や生活費負担の増大が再び共和党への批判につながることは、トランプ政権としても避けたいところであろう。

一方で、トランプ米政権が外交的な成果を確保するためには、イランによる譲歩が不可欠となる。しかし、イランが今回の選挙結果をトランプ政権の求心力低下と捉え、交渉で強硬姿勢を維持すれば、かえって交渉が停滞する可能性もある。さらに、イスラエルによる軍事行動が米国の政策判断に影響を与えることも想定される。このため、米国の中間選挙において民主党が躍進したことのみを理由に、イラン情勢が直ちに安定化に向かうと判断することはできない。

日本経済への影響を考えるうえでは、ホルムズ海峡を巡る情勢が重要となる。原油の調達については、ホルムズ海峡を迂回する代替輸送ルートの活用や調達先の多様化などを通じて、安定調達を図る取り組みが進められている。しかし、こうした取り組みには限界もあるうえ、代替調達に伴う輸送費用の増大などを背景に、原油の調達コストは高止まりしており、国内のエネルギー価格を押し上げる一因となっている。さらに、原油以外にも、LNG(液化天然ガス)やナフサなどの供給が中東情勢の影響を受けるほか、中東地域が国際的な供給において重要な役割を担う尿素などの窒素系肥料についても、価格上昇圧力が強まっている。このため、ホルムズ海峡の航行を巡る懸念は、エネルギーや石油化学製品、肥料などの供給制約や価格上昇を通じて、幅広い分野にインフレ圧力を波及させている。その意味では、国民生活への影響が避けられない状況にある。

このため、今後は2027年1月に発足する新たな議会におけるイラン政策への姿勢だけでなく、米国とイランの外交交渉の進捗、イスラエルによる軍事行動の可能性、ホルムズ海峡の航行状況などを総合的に見極める必要がある。中間選挙の結果によって、トランプ米政権の軍事行動に対する政治的な制約は強まるものの、それが外交的解決につながるかどうかは、イランの対応や中東情勢の行方にも大きく左右される展開が続くと予想される。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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