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ロシア下院選、与党・統一ロシアが3分の2超の議席を維持

~選挙結果は政権に追い風も、石油製品不足とインフレ再加速で国民生活には逆風が続く~

西濵 徹

要旨
  • ロシアでは9月18~20日に、ウクライナ戦争開戦後初となる連邦議会下院(国家院)総選挙が実施された。ロシア経済は、欧米の制裁下でも中国やインドなどとの経済関係や軍需関連産業の拡大を追い風に持ち直してきたが、足元ではウクライナによる製油所やエネルギー・輸送インフラへの攻撃が活発化し、石油製品の不足と価格上昇が国民生活を圧迫している。

  • 総選挙では、反戦候補の多くが立候補を認められないなど政治活動への厳しい統制が続くなか、与党・統一ロシアが得票率57.97%を獲得し、355議席を確保する見通しとなった。投票率も59.32%と前回を上回り、同党は憲法改正に必要な3分の2以上の議席を維持した。他の議席獲得政党も主要政策では政権と歩調を合わせることが多く、議会は事実上の「総与党状態」にある。表面的には、選挙結果はロシア国内の結束を示すものとなった。

  • 一方、石油製品価格の上昇を背景にインフレ率は再加速しており、ロシア中銀は9月に11会合ぶりに政策金利を据え置いた。今後は天候不順による食料価格上昇も懸念され、エネルギーと食料という生活必需品を中心に国民生活への負担が一段と強まる可能性がある。総選挙では政権与党の優位が確認されたが、その背後では経済・生活環境の厳しさが増している。

ロシアでは、9月18~20日の日程で連邦議会下院(国家院:定数450)総選挙が実施された。ロシア経済を巡っては、ウクライナ戦争の開戦から4年半以上が経過するなど「戦時経済」が長期化している。開戦当初には、欧米などによる経済制裁の強化を理由に、景気に大幅な下押し圧力が掛かる事態に直面した。しかし、その後は中国やインドなど多くの新興国が欧米などの動きに同調せず、結果的に経済制裁の「抜け穴」となる動きがみられた。さらに、軍事費の増大や、軍需関連産業を中心とする生産拡大の動きも追い風に、景気は持ち直しの動きを強めた。一方で、このところはウクライナが製油所、エネルギー・輸送インフラといった兵站関連インフラへのドローン攻撃を活発化させており、その悪影響が顕在化している(図1)。その結果、産油国であるにもかかわらず、石油生産が落ち込んで広範な地域でガソリン・軽油など石油製品が不足している。多くのロシア国民にとってウクライナ戦争は長らく「他人事」であったとされるものの、石油製品価格の急上昇を受けて、身近な問題と認識されるようになっている模様である。こうした状況が選挙に影響を与える可能性も懸念された。

図表
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今回の総選挙は、ウクライナ戦争の開戦以降初めての選挙となった。ただし、ロシアでは、過去にも政権に批判的な政治活動が違法とされ、メディアや非政府組織(NGO)などの活動が制限されたほか、関係者による立候補が禁止されるなど、厳しく統制されている。今回も、反戦を掲げる候補者の大多数が立候補を認められず、プーチン政権を支える与党・統一ロシアが優位を維持する形で選挙戦が行われた。投票率は59.32%と、2021年の前回総選挙(51.72%)を大きく上回り、今回の総選挙をウクライナ戦争への支持を測る「試金石」と位置付けてきたプーチン氏にとって望ましい結果となった。電子投票の導入に加え、組織票の動員が投票率の押し上げにつながったとみられる。さらに、統一ロシアの得票率も57.97%と前回総選挙(49.82%)を上回るとともに、獲得議席数も小選挙区の結果を含めて355議席となる見通しで、憲法改正に必要な3分の2以上を維持した。なお、獲得議席数は過去最多となった2016年総選挙(343議席)を上回り、史上最多となる見通しとなった。同党以外の党では、共産党、極右・自由民主党、新しい人々、そして公正ロシアの4党が議席を獲得した。とはいえ、これらの政党は近年、主要な政治課題を巡って統一ロシアと同じ投票行動を取ってきたことを勘案すれば、議会下院は「総与党状態」にあると捉えられる。一方で、反戦を掲げる野党・ヤブロコ(統一民主党)は、候補者の多くが総選挙への立候補を阻まれたものの、一部の地方議会でわずかに議席を獲得した模様であるが、政治的なうねりにはつながらなかった。このため、表面的にみれば、選挙プロセスが比較的円滑に進むとともに、その結果もロシアが結束していることを国内外に示すという、プーチン政権にとって望ましい形になったと捉えられる。

とはいえ、前述の通り足元のロシア経済を取り巻く環境は厳しさを増している。ロシアでは、2025年はじめからインフレ率が鈍化したため、中銀は2025年6月に約3年ぶりの利下げに舵を切り、その後も10会合連続で累計700bpの利下げを実施するなど金融緩和を進めてきた。しかし、ガソリン・軽油など石油製品の需給ひっ迫、価格上昇を理由に、インフレ率は加速に転じている(図2)。このため、中銀は9月の定例理事会で11会合ぶりに金利を据え置くなど政策変更を迫られている(注1)。先行きは、天候不順が穀物生産に悪影響を及ぼせば、食料価格を押し上げる可能性もある。このため、エネルギーと食料という生活必需品がインフレを促すことも予想される。総選挙では、国民がプーチン政権を支持したことが示されたものの、その背後で国民生活は一段と厳しいものとなる可能性には注意が必要であろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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