インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国、AI・半導体需要が景気に追い風も、政治への逆風は止まず

~不動産高騰や株価低迷、インフレ懸念が支持率を圧迫、日韓関係への影響にも注目~

西濵 徹

要旨
  • 韓国経済は、世界的なAI・半導体需要の拡大を背景に輸出が大幅に伸びており、9月の輸出額は前年比+83.5%と過去最高を更新するなど、外需主導による高成長が期待されている。一方、李在明政権の支持率は3割台に低迷しており、ソウルを中心とする不動産価格の高騰や、対策に伴う副作用への不満が重しとなっている。また、ウォン相場は持ち直す一方、サムスン電子やSKハイニックスの株価低迷を受けて株式市場は軟調な推移が続き、家計や投資家心理への悪影響も懸念される。さらに、イラン情勢によるエネルギー高、成果給拡大に伴う賃金上昇、スーパーエルニーニョによる食料価格上昇など、インフレ圧力も政権への逆風となる可能性がある。若年層を中心に支持離れが進むなか、李政権は現時点で「実利外交」を維持しているものの、与党内には対日政策を巡る反発も残っており、良好な日韓関係が持続するか、国内政治の動向を注視する必要がある。

足元の韓国経済を巡っては、世界的なAI(人工知能)・半導体関連需要の拡大が追い風となる動きが続いている。韓国は、DRAMやNAND型フラッシュメモリ、広帯域メモリ(HBM)などメモリ半導体の大規模量産で世界トップクラスの競争力を有する。こうしたなか、9月の輸出額は前年比+83.5%と前月(同+68.7%)から伸びが加速し、単月ベースの輸出額も過去最高額を更新している(図1)。韓国経済は、GDPに占める輸出比率が4割を上回り、アジアのなかでも構造面で外需依存度が相対的に高い。このため、外需拡大の動きは景気を大きく押し上げることが期待される。事実、中銀は8月の定例会合に際して、2026年通年の経済成長率が+3.3%と5年ぶりの高成長に、2027年も+2.9%と高水準で推移するとの見方を示している(注1)。

図表
図表

こうした状況にもかかわらず、李在明(イ・ジェミョン)政権の支持率は低水準で推移している(注2)。主要な世論調査では、政権支持率が3割台まで低下する一方、不支持率は5割を上回る水準にある。背景のひとつには、首都ソウルを中心とする不動産高騰に歯止めがかけられないことがある。李政権は昨年来、様々な不動産高騰対策を打ち出したものの、一連の対策では実需層の資金調達が困難になる一方、規制対象外の地域で不動産価格が上昇するなど「副作用」も顕在化した。また、政府は超高額物件を対象とする課税強化、非居住者に対する増税を目指したものの、中高所得者層などからの反発を受けて撤回に追い込まれた。さらに、こうした不動産対策への不満は、6月に実施された首都ソウル特別市長選で与党候補が敗北した一因との見方もある。その後も不動産価格はソウルを中心に上昇が続いており(図2)、李政権を取り巻く状況は厳しさを増している。

図表
図表

AI・半導体関連を追い風とする輸出拡大により貿易黒字を計上しており、中銀のタカ派姿勢も重なり、ウォン相場は大きく持ち直している。一方で、サムスン電子とSKハイニックスの2社で主要株価指数(KOSPI)の構成銘柄全体の時価総額に占める割合が5割を上回るなか、2社の株価の動向に左右される形で株価は低迷し、足元ではピークを3割近く下回る。こうした金融市場の不安定化も、家計や投資家の心理を通じて政権への評価に影響している可能性がある(図3)。さらに、イラン情勢の悪化によるエネルギーインフレに加え、半導体産業の一部企業で営業利益などの一定割合(N%)を従業員の成果報酬の原資とする「N%成果給」が導入され、他産業でも導入を求める動きが広がるなど賃金インフレも警戒される。さらに、スーパーエルニーニョの発生により、韓国では高温や少雨による悪影響が農業生産に出るほか、世界的な干ばつや洪水による食料価格の上昇によるインフレも懸念される。こうした状況も李政権にとって逆風となる可能性がある。

図表
図表

韓国では、革新派の支持層が3割弱とされるが、足元の支持率低下の動きは若年層を中心に加速しており、支持層をつなぎとめることが困難になりつつある可能性も高まっている。韓国の歴代政権では、支持率が低下する局面で対日政策が厳しくなるケースが散見された。しかし、李政権は発足以降国益を重視した「実利外交」を掲げており、現時点においてそうした兆しはみられない。とはいえ、李政権の実利外交を巡っては、与党・共に民主党の主流派を中心に反発が根強くあり、党内に対立構図があるなかで火種となる可能性は残る(注3)。現在の良好な日韓関係が今後も続けられるか否か、韓国国内の情勢を見極める必要性は高まっている。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ