インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

インドネシア中銀、3会合連続で金利据え置きも、政策運営は難路続く

~中銀総裁・財務相人事を巡る混乱は一巡も、景気下支えとルピア安定の「板挟み」は続く~

西濵 徹

要旨
  • インドネシア中銀は9月22~23日の月例理事会で、政策金利(BIレート)を5.75%に据え置き、3会合連続で様子見姿勢を維持した。中銀はルピア安への対応として5~6月に累計100bpの利上げを実施したが、その後もルピア相場は最安値圏で推移している。一方、8月のインフレ率は前年比+3.19%と中銀の目標レンジ(2.5±1%)内に収まっており、これまでの利上げ効果を見極める姿勢を続けたとみられる。

  • 7月以降は、ペリー前総裁の突然の辞任や、政府・与党による中銀への政治介入懸念が市場の警戒感を高めた。政府は後任にデストリ・ダマヤンティ氏を起用し、さらに9月の内閣改造ではペリー氏との対立が指摘されたプルバヤ財務相を更迭してスアハシル・ナザル氏を後任に据えるなど、事態収拾を図った。人事を巡る不透明感は後退したものの、イラン情勢の悪化や原油高を背景にルピア相場の上値は依然として重い。

  • デストリ総裁就任後初となった今回の会合では、引き続きルピア安定、物価目標の達成、持続的な経済成長の下支えを同時に目指す方針が示された。中銀は、ルピア相場の安定に向けて、為替介入や資金流入促進策、マクロプルーデンス政策などを活用する方針をあらためて示した。先行きはイラン情勢や原油価格、FRBの金融政策など外部環境の不透明感が強いうえ、中銀には物価・為替の安定に加えて景気・雇用を支援する役割も求められている。このため、政府からの景気下支え要請と金融市場からの通貨安定要求との「板挟み」となり、難しい政策運営が続くとみられる。

目次

【インドネシア中銀、3会合連続の金利据え置きにより様子見姿勢を継続】

インドネシア銀行(中銀)は、9月22~23日に開催した定例の月例理事会において、政策金利であるBIレートを5.75%に据え置くことを決定した。中銀は、5月の月例理事会において、ルピア相場の安定を目的に50bpの大幅利上げを決定した。その後も金融市場ではルピア安の動きは収まらず、株式、債券も下落するトリプル安に直面した。このため、中銀は6月9日に開催した週次理事会で25bpの緊急利上げに加え、ルピア相場の安定に向けた追加対策を発表した。さらに、中銀は6月の月例理事会においても25bpの追加利上げを実施し、1ヵ月の間に累計100bpもの利上げを実施するなど、通貨安定を目的とする金融引き締めを強化した。

その後は、米国とイランによる「覚書」署名を受けた停戦合意により、イラン情勢が落ち着きを取り戻すとの期待を反映して原油高の動きが一服したほか、これに呼応するようにルピア相場も持ち直す動きをみせた。しかし、その後も米国とイランの協議はこう着状態に陥るとともに、ルピア相場に再び調整圧力がかかるなど最安値圏で推移したにもかかわらず、中銀は7月の月例理事会において、累計100bpの利上げ効果を見定めるべく、様子見姿勢に転じた。さらに、足元では米国とイランによる協議期間が終了して事態のさらなる長期化が懸念されるほか、原油価格は再び上昇するとともに、ルピア相場も上値が抑えられている。一方で、直近8月のインフレ率は前年比+3.19%に加速しているものの、引き続き中銀目標レンジ(2.5±1%)内で推移しており(図1)、中銀は様子見姿勢を維持したとみられる。

図表
図表

【中銀総裁人事、財務相人事を巡る混乱は一巡も、ルピア相場は外部環境次第の展開が続く】

7月会合以降のインドネシア市場では、ルピア安圧力の強まりが懸念される動きが相次いだ。7月27日には、中銀のペリー総裁が任期を2年弱残して突然辞任した。ペリー氏の突然の辞任については、政策運営を巡ってプルバヤ財務相との間で深刻な対立があったとされる。具体的には、プルバヤ氏は景気を下支えすべく、中銀に対して金融市場への潤沢な流動性供給を求めたものの、為替の安定を重視するペリー氏を中心とする中銀の方針と対立した。政府は、後任総裁に上級副総裁であったデストリ・ダマヤンティ氏を指名し、事態収拾を図る動きをみせた。背景には、年明け以降に中銀の独立性が毀損されかねない動きが相次ぎ、金融市場が警戒感を強めたことがある。

1月には、副総裁であったジュダ・アグン氏が任期を1年余り残して突然辞任した。後任には、プラボウォ大統領の甥で財務副大臣を務めていたトマス・ジワンドノ氏が就任した。トマス氏の就任を巡っては、プラボウォ氏の甥であるうえ、与党グリンドラ党の財務担当を務めていたため、金融政策が政府や与党の意向に左右されるとの見方が広がった。これは、プラボウォ氏が任期中に同国の経済成長率を8%に引き上げる目標を掲げており、その実現へ中銀が金融緩和を迫られるとの見方が強まったことによる。さらに、2023年に成立したP2SK法(金融セクター発展・強化法)に伴う中銀法改正や、6月に成立した改正P2SK法を巡っては、中銀の政策運営や人事への政治介入が懸念される動きもみられた。

こうしたなか、政府はデストリ氏を後任総裁に起用して早期の事態収拾を図ったとみられる。さらに、プラボウォ大統領は9月14日に内閣改造を実施し、ペリー前総裁との対立が指摘されたプルバヤ財務相が就任から1年で事実上更迭された(注 )。後任には、2019年からスリ=ムルヤニ氏、プルバヤ氏の下で財務副大臣を務め、財政政策や予算運営に携わってきたスアハシル・ナザル氏が就任した。これは、プルバヤ氏の下で財政悪化が進んだうえ、前述の通り中銀との対立がルピア安を招く一因となったためである。政府としては、そうした懸念の払拭に向けてスアハシル氏の昇格に動いたと考えられる。なお、中銀総裁人事を巡る懸念後退によりルピア相場は持ち直す動きをみせたものの、その後はイラン情勢の悪化が原油価格の上昇を招くなど、ルピア相場は上値の重い展開が続いている(図2)。

図表
図表

【中銀は政府と金融市場の「板挟み」に直面、先行きの政策運営は困難な局面が続くか】

今回の月例理事会は、デストリ氏の総裁就任後初となった。会合後に公表した声明文では、今回の決定について「世界的な不確実性が依然として高いなかでのルピア相場の安定」、「2026年と2027年の物価目標の達成」、「持続的な経済成長の下支え」を目指した政策ミックスの一環との考えを示した。そして、資金流入の促進によるルピア相場の安定に向けたインセンティブ拡充、短期金融市場と外国為替市場の深化・安定化に向けたインセンティブ拡充、包括的なマクロプルーデンス政策の強化、決済システムのデジタル化の拡大に取り組むとした。そのうえで、世界経済について「成長の勢いが弱く、金融市場の不確実性も高い」との認識を示す一方、「2026年の世界経済成長率は+3%となる」との従来見通しを維持した。ただし、イラン情勢の緊張再燃を理由に原油価格が上昇していることを受けて、先行きのFRB(米連邦準備制度理事会)の政策運営について「追加利上げに動く可能性は高い」との見通しを示した。

一方で、同国経済について「引き続き良好に推移している」としつつ、「様々な政策を通じて経済成長のけん引役の最適化を図る必要がある」との認識を示した。「財政政策により家計消費が下支えされており、投資も堅調に推移している」なか、中銀として「金融システムの安定強化と景気下支えに向けた政策の最適化を図る」として、「2026年の経済成長率は+4.9~5.7%になる」との従来見通しを据え置いた。そして、対外収支も「世界的な不確実性の高まりの影響を緩和すべく、国際収支を強化する必要がある」としつつ、「8月末時点の外貨準備高は輸入の5.4ヵ月分を有する」とする一方、前回会合と同様に経常赤字の見通しについて言及はなかった。ルピア相場については「様々な手段の最適化による安定強化を図っている」として、為替介入やインセンティブの拡充に取り組んでいることを示した。物価動向も「政府が設定した目標の範囲内で維持されている」ほか、先行きは「2026年、2027年ともに目標域内に収めるべく、政策ミックスの強化に取り組む」としつつ、見通しについて「エルニーニョ現象によるリスクを加味したもの」との見方を示した。

会合後に記者会見に臨んだ中銀のデストリ総裁は、今回の決定について「世界的な不確実性が高いなかでルピア相場の安定化への取り組みと一致したもの」としつつ、「インフレ率を目標域に収束しつつ、持続可能な経済成長を下支えすることも目指す」とした。そして、ルピア相場の安定化に向けて「為替介入戦略の最適化を図る必要がある」として、「資金流入の活性化、スワップ取引やノンデリバラブルフォワード取引の拡大、貿易相手国とのルピア活用促進に向けたインセンティブ拡充に動く」とした。そのうえで、5月から6月にかけての中銀の利上げ実施について「先制的、かつ前向きな取り組み」との見方を示す一方、先行きは「世界的な不確実性に対応すべくイノベーティブな取り組みを拡充する」とした。足元の金利水準について「現状は適切」としつつ、「経済成長の勢いがある以上、今後も経済成長の後押しも必要」、「インフレ率を目標域に抑える取り組みも強化する」、「エルニーニョ現象による食料インフレが懸念されるため、政府との協業を強化する」とした。

デストリ氏の発言や声明文の内容をみると、中銀は引き続きルピア相場の安定を重視する一方、景気下支えに配慮せざるを得ない難しい政策対応を迫られている。これは、ここ数年の法改正を通じて、中銀の政策目標に物価と為替の安定のほか、経済成長の支援や雇用創出を支援する役割も一段と求められるようになったことが影響している。前述したように、ルピア相場はイラン情勢など外部環境に翻弄される展開が続いている。足元では、サウジアラビアによるEast-Westパイプラインの稼働再開を受けて原油高の動きに一服感が出ているものの、先行きもイラン情勢は見通しの立ちにくい状況が続くと予想される。その意味で、中銀は政府からの景気下支え要請と金融市場からの通貨安定要求との「板挟み」に置かれ、難しい政策運営を迫られる局面が続くことになろう。

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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