インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

韓国・李政権の支持率は「危険水域」に、当面は外交の動きに要注意

~不動産高騰、インフレ、株価乱高下のなか、国民生活を無視した政局争いも影響か~

西濵 徹

要旨
  • 李在明政権への支持率低下が止まらない。足元では政権支持率が最低水準を記録し、不支持率も過半数に達した。政権発足以来、支持率は高水準を維持してきたが、発足1年を迎えた6月頃から陰りがみえ始めた。統一地方選・国会議員補欠選挙では与党・共に民主党が全体で圧勝したものの、注目のソウル市長選では最大野党候補が勝利した。一部で投票用紙不足や出口調査結果の事前流出など、選挙の公平性を巡る問題も発生し、抗議デモにも発展した。首都圏を中心とする不動産高騰は長年の政局の火種であり、李政権は様々な規制を相次いで打ち出したが、実需層の資金調達難や規制対象外地域での価格上昇といった副作用が表面化した。ソウル市長選で与党が敗北した一因には、不動産対策への不満が指摘されている。
  • コーポレートガバナンス改革の推進やAI・半導体投資期待を背景にKOSPIは急上昇し、当初は支持率を押し上げたが、サムスン電子・SKハイニックス2社への時価総額集中により株価は乱高下し、足元ではピークから約25%下落している。加えて、イラン情勢悪化に伴う原油高がエネルギーインフレを招き、インフレ率は中銀目標の2%を大きく上回っている。中銀は連続利上げに踏み切り「タカ派」姿勢を強めた結果、ウォンは2年ぶりの高値まで急伸しており、為替を通じたインフレ懸念は後退している。しかし、エネルギー価格の高止まりやスーパーエルニーニョによる農業被害、食料価格上昇、さらに「N%成果給」導入拡大に伴う賃金インフレ圧力など、新たな懸念材料が浮上している。
  • 与党内では、李氏主導の「実用外交」路線を巡り、鄭清来前代表ら党内主流派との対立が激化してきた。2026年8月の党代表選では李氏側近の金民錫氏が勝利し一定の影響力を維持したが、最高委員5人中3人が鄭氏に近く、党内対立は解消していない。党内融和を狙った8月末の内閣改造は、登用議員のスキャンダルや慣例無視への批判を招き、逆に支持率低下を加速させた。不動産・インフレなど国民生活に直結する課題より政局争いを優先する姿勢への批判も強まっており、若年層を中心に支持層離れが進行している。政権にとっては「危険水域」に近づきつつあり、局面打開に向けた外交戦略への影響も注視が必要になろう。
目次

【不動産高騰に有効な対策を打ち出すことができず、政権支持率は過去最低を更新】

韓国の李在明(イ・ジェミョン)政権への支持率低下に歯止めがかからない。世論調査会社の韓国ギャラップが9月4日に発表した最新調査では政権支持率が40%、リアルメーターが9月7日に発表した最新調査では37.4%とともに最低水準となった。また、ギャラップ調査では不支持率が51%、リアルメーターでも59.5%と、ともに半数以上が政権を支持していない。2025年6月に李政権が発足して以降、支持率は高水準で推移してきたものの、政権発足から1年となる2026年6月からその勢いに陰りが出るなど、政権への逆風が強まっている(注1)。

李政権に対する「中間評価」として注目された統一地方選挙と国会議員補欠選挙では、全体としては与党・共に民主党が圧勝した。しかし、最も注目された首都ソウル特別市長選では、最大野党・国民の力の候補が勝利した。さらに、統一地方選では、多くの選挙区で投票用紙が不足して投票が一時中断されたほか、投票できなかった有権者も出たとされる。また、一部の有権者は出口調査の結果が報道された後に投票するなど、投票の公平性への問題が生じる動きもみられた。その後は中央選挙管理委員会が公職選挙法違反で捜査を受けたほか、抗議デモが活発化する事態に発展した。

近年の韓国では首都ソウルを中心とする不動産高騰が社会問題化するとともに、政局の火種となってきた。李政権は、2025年6月に首都圏の住宅ローンの上限枠を6億ウォンに一律制限し(6.27融資規制)、9月には2030年までに首都圏で計135万戸の住宅着工・供給を行う構想(9.7供給対策)を発表した。さらに、2025年10月にはソウル全域や京畿道の指定地域を対象に、LTV(住宅担保貸出比率)の70%から40%への引き下げ、住宅価格に応じたローン上限設定など融資厳格化策(10.15対策)を発表した。しかし、一連の対策では居住を目的に購入する層の資金調達が困難になる一方、指定地域外での不動産価格が上昇するなど「副作用」が顕在化した。また、政府は2026年8月に超高額物件を対象とする課税強化、非居住者に対する増税を含む税制改正案(8.3対策)を発表したものの、中高所得者層から反発が強まり撤回に追い込まれた。首都ソウル特別市長選で与党候補が敗北した背景には、高額不動産を所有する有権者による一連の不動産対策への不満が影響したとの見方もある。とはいえ、足元の不動産価格は上昇が続いている(図1)。

図表
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【ウォン安懸念は後退する一方、株価の乱高下やインフレ懸念も支持率低下を後押しか】

李政権は尹錫悦(ユン・ソンニョル)前政権によるコーポレートガバナンス(企業統治)改革を継承・強化するとともに、韓国企業の相対的低評価(コリアディスカウント)の解消に向けて、商法改正などコーポレートガバナンス(企業統治)強化の取り組みを進めた。金融市場では、こうした動きに加え、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の拡大期待の高まりも追い風に、時価総額上位の半導体関連株を中心に主要株価指数(KOSPI)は急上昇してきた。株価上昇の動きは、政権支持率が高水準で推移する動きを後押ししてきた。しかし、サムスン電子とSKハイニックスの2社で主要株価指数(KOSPI)の構成銘柄全体の時価総額に占める割合が5割を上回るなか、2社の株価の動向に左右される形で株価は乱高下しており、足元ではピークを25%程度下回るなど、政権支持率の低下を促しているとみられる(図2)。

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イラン情勢の悪化を受けた原油高はエネルギーインフレを招いており、足元のインフレ率は中銀目標(2%)を大きく上回る伸びとなっている(図3)。金融市場での通貨ウォン安は輸入物価を通じてインフレ加速を促したため、こうした動きも政権支持率の低下を促した。こうしたなか、中銀は2026年7月に3年半ぶりの利上げに舵を切るとともに、8月にも2会合連続の利上げに動き、先行きの追加利上げを示唆するなど「タカ派」姿勢を強めている(注2)。その結果、足元のウォン相場は2年ぶりの高値となるなど急伸しており、輸入物価を通じたインフレへの懸念は大きく後退している。しかし、イラン情勢は不透明な展開が続くなかで原油やLNG(液化天然ガス)などエネルギー資源価格は高止まりしている。また、スーパーエルニーニョの発生により、韓国では高温や少雨による悪影響が農業生産に出るほか、世界的な干ばつや洪水による食料価格の上昇によるインフレ懸念も高まっている。加えて、半導体産業の一部企業で営業利益などの一定割合(N%)を従業員の成果報酬の原資とする「N%成果給」が導入され、他産業でも導入を求める動きが広がるなど、賃金インフレ圧力が広がりをみせる可能性も高まっている。

図表
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【国民生活を無視した政局争い、内閣改造の失敗も離反加速か、外交面の動きに要注意】

足元で政権支持率が急落している背景には、与党・共に民主党内で李大統領の求心力に陰りが出ていることも影響している。不動産高騰対策で政権が十分な成果を上げることができず、イラン情勢を受けたインフレ対策に苦慮するなか、同党内では主導権争いが激化してきた。背景には、李氏が主導する「実用外交」に基づいて日本とシャトル外交を展開していることに対し、党内主流派の鄭清来(チョン・チョンレ)前代表などは、政権運営を公然と批判する動きをみせてきた。2026年8月に開催された同党の代表選では、新代表に李氏の側近である金民錫(キム・ミンソク)前首相が勝利を果たした。党代表は、大統領選や総選挙の候補者の公認権を有しており、2028年4月までに実施される次期総選挙、2030年3月に予定される次期大統領選に向けて李氏は一定の影響力を維持した格好である。一方で、執行部である最高委員5人のうち3人は鄭氏に近く、党内の対立構図や火種は解消にほど遠い状況にある(注3)。

このため、李氏は党内融和を図るべく、8月末に実施した内閣改造で6人の閣僚を入れ替え、党内の伝統支持層に依然影響力を有する曺国(チョ・グク)元法相に近い李海珉(イ・ヘミン)議員をAI未来企画首席秘書官に登用した。しかし、この内閣改造では、登用された議員にスキャンダルが噴出するとともに、慣例を無視した対応も批判を招くなど、かえって政権支持率のさらなる低下を招いている。さらに、前述のように、不動産高騰やインフレなど国民生活に直結する課題が山積しているにもかかわらず、政局をめぐる駆け引きに終始していることも支持率の低下を招いているとの見方もある。韓国では、革新派の支持層が3割弱とされるが、足元の政権支持率は若年層を中心に低下しており、支持層をつなぎとめることが困難になりつつある可能性も示唆される。その意味では、李政権は「危険水域」に達しつつあると捉えられ、局面打開に向けて外交戦略などに影響が出る可能性にも注意が必要になっている。

以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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