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2026.09.28
アジア経済
米中関係
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トランプ政権
トランプ関税
米中首脳会談で鮮明になった「対立の管理」
~協力と競争が併存するなか、日本には歴史認識を巡る新たな外交課題も~
西濵 徹
- 要旨
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米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席は9月24日、約4ヵ月ぶりとなる首脳会談を行い、「尊重、公平、互恵」に基づく建設的な関係を構築する方針を確認した。米中間では通商、先端技術、重要鉱物、台湾問題など幅広い分野で対立が続く一方、経済的な相互依存も大きい。このため、5月の首脳会談以降、対立そのものを解消するより、関係全体の悪化を防ぐ「対立の管理」を重視する姿勢が強まっている。
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今回の会談では、非センシティブ品目への関税優遇や農業分野の市場アクセス、米国産石炭の対中輸出、投資協議の枠組みなど、経済・通商分野で一定の前進がみられた。また、AI(今後、SIと呼称)分野でも対話の枠組みを新設し、競争が予期せぬ摩擦につながることを回避する姿勢を示した。さらに、ウクライナ、朝鮮半島、イラン情勢など国際問題についても意見交換し、利害が一致する分野では部分的な協力余地が確認された。
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一方、レアアースなど重要鉱物や先端半導体を巡る対立に抜本的な解決策は示されず、台湾問題でも双方の立場には大きな隔たりが残る。このため、米中関係が本格的な「融和」に転じたとは言い難く、今後も競争を維持しつつ、協力可能な分野では協力し、衝突を回避するための「対立の管理」が続くとみられる。
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また、日本にとっては歴史認識を巡る動きも注目される。トランプ氏と習氏は第2次世界大戦当時の米中の協力関係に言及し、中国側は対日戦勝の歴史を強調した。中国が近年、日本の安全保障政策を「新型軍国主義」と批判するなか、こうした言説が国際社会に広がる可能性もある。このため、日本には自国の歴史認識や戦後の歩み、安全保障政策について、国際社会に継続的かつ丁寧に説明していく外交努力が一段と求められる。
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米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席は9月24日、ホワイトハウスで首脳会談を行った。両国の首脳会談は、トランプ氏が5月に中国を訪問して以来、約4ヵ月ぶりとなる。5月の首脳会談では、両国が「公平と互恵」に基づく「建設的な戦略的安定関係」を構築することで一致しており、今回の会談は、そこで示された方向性を具体化する場と位置付けられた。米国側も今回の会談後、両国が「尊重、公平、互恵」に基づく建設的な戦略的安定関係を構築することで一致したとしている。
米中関係を巡っては、トランプ政権の発足後、関税政策をはじめとする通商問題に加え、半導体などの先端技術、レアアースなど重要鉱物、台湾問題など幅広い分野で対立が続いてきた。一方で、両国経済の相互依存関係は依然として大きく、米中双方にとっては際限のない対立の激化を回避する必要性も高まっている。こうしたなか、5月の首脳会談をきっかけに、米中間では対立そのものを解消するよりも、対立が両国関係全体の決定的な悪化につながることを避ける「管理」の色合いが徐々に強まっている。中国側も今回、今後の米中関係について「協力を主とし、競争を適切な範囲にとどめ、相違を管理する」関係を目指す考えを示している。
今回の会談では、経済・通商分野で一定の前進がみられた。5月の首脳会談を受けて創設された「米中貿易委員会」では、米中双方が300億ドル規模の非センシティブ品目について、優遇的な関税措置を勧告することで一致した。米国から中国への輸出では農産物、水産物、木材、化粧品、医療機器など、中国から米国への輸出では小型家電、玩具、ホリデー用装飾品、チャイルドシートなどを対象とした。また、農業分野における市場アクセスを協議する作業部会を設けるほか、中国が2027、28年に少なくとも1,000万トンの米国産石炭を輸入することでも合意した。さらに、両国間の投資機会や投資上の障壁について協議する「米中投資委員会」も本格的に始動することとなった。
しかし、今回の合意で米中間の経済摩擦が後退したとみるのは早計であろう。なかでも、米国が問題視してきたレアアースをはじめとする重要鉱物については、米国側の発表でも「供給不足を巡る米国の懸念について引き続き取り組む」との表現にとどまり、抜本的な解決策が示されたわけではない。中国は世界のレアアースのサプライチェーン(供給網)で大きな存在感を有する一方、米国は半導体など先端技術分野における対中規制を外交・通商上のカードとしてきた。こうした事情を勘案すれば、米中間の対立軸は従来の関税を中心とする貿易摩擦から、重要鉱物や先端技術など経済安全保障に直結する分野へと広がっており、両国による駆け引きが収束する状況にはない。
他方、今回の会談では、米中双方が競争関係にあるAI(人工知能)について、トランプ氏が提唱するSI(超知能)と呼称することで合意し、協議枠組みを設けるなど、協力の対象を広げる動きも確認された。中国側によれば、習氏は米中両国が競争する可能性を認めつつ、リスクや便益について対話を続け、悪用防止に協力する必要性を指摘した。トランプ氏も米中間の対話と協力の必要性に言及した。米国側はさらに、リスクや便益について意見交換する米中間の対話(米中SI対話)を創設し、11月までに次回協議を行うほか、両国間に連絡チャネルを設けるとしている。米中が世界的に技術開発競争を展開する分野で対話の枠組みを構築したことは、技術競争そのものを止めるというより、競争が予期せぬ摩擦につながることを回避しようとする動きと捉えられる。
さらに、両首脳はウクライナや朝鮮半島、イラン情勢といった国際問題についても意見交換を行った。米国側の発表では、イランによる核兵器保有を認めないことに加え、いかなる国や組織も国際水路に通航料を課すことは認められないとの認識を共有したとしている。トランプ氏は習氏に対し、世界的な供給安定化に向けて石油製品の増産も求めた。イラン情勢の悪化を受けて、ホルムズ海峡を巡る不透明感が世界的なエネルギー供給への懸念につながるなか、中国も世界最大級の原油輸入国としてエネルギー市場の安定化には利益を有する。もっとも、両国は安全保障面の認識に隔たりがあり、両国の利害が一致する分野では部分的な協力余地があることを示唆している。
一方で、台湾問題を巡る両国の認識の隔たりは依然として大きい。中国側の発表によれば、習氏は今回の会談で、中国の「国家統一と領土保全」に関する立場を改めて示したうえで、米国側に対して「台湾独立」に反対する立場を維持し、台湾問題を慎重に扱うよう求めた。これに対し、米国政府が公表した今回の会談の成果文書では台湾問題について明示されていない。これは、通商やAIなど実務的な分野で対話や協力の枠組みが整備される一方、台湾をはじめとする安全保障上の根本的な問題では双方の立場に大きな隔たりが残されていることを示唆する。
今回の首脳会談を受けて、米中関係が本格的な「融和」に転じたと判断するのは難しい。むしろ、双方は経済、安全保障、先端技術など幅広い分野で競争関係を維持しつつ、双方の利害が一致する分野では協力し、対立が制御不能な状況に陥ることを回避する関係を模索していると捉えるのが適当であろう。中国側が今回、「協力を主とし、競争を適切な範囲にとどめ、相違を管理する」と表現したことは、こうした方向性を端的に示している。
したがって、先行きの米中関係をみるうえでは、首脳会談の開催そのものや個別の合意だけでなく、今回整備・拡充された協議の枠組みが実際に機能するかが重要となる。レアアースなど重要鉱物を巡る問題や、先端半導体をはじめとする技術覇権を巡る競争、台湾問題など、両国関係を不安定化させる材料は引き続き山積している。仮に、米中両国が際限なく対立を深めれば、両国のみならず世界経済にも大きな悪影響が及ぶことは避けられない。このため、当面の米中関係は「対立か協調か」という二者択一ではなく、対立を抱えつつも相互依存関係を維持し、衝突を回避するための「対立の管理」が続く可能性が高い。今回の首脳会談は、そうした米中関係のあり方が一段と鮮明になった場と位置付けられよう。
ただし、今回の会談では日本にとって無視できない動きも顕在化した。トランプ氏は、歓迎式典の場で「共通の利益の追求が、多くの相違を乗り越えて両国民を結び付け、第2次世界大戦ではわれわれを同盟国にした」と述べた。これに呼応するように、習氏は、会談後の晩餐会で「中米両国の人々は協力して日本軍国主義の侵略者と戦った」、「血と炎の中で築かれた友情は世代を超えて受け継がれていく」などと主張した。もっとも、第2次世界大戦当時、米国がともに戦ったのは蒋介石氏が率いた中華民国である。トランプ氏の発言は歴史認識を巡る問題をはらむうえ、中国共産党が率いる現体制が第2次世界大戦の戦勝国の継承者であるとの習氏の意向に沿うものとなった。
こうしたなか、高市首相は国連総会において、旧敵国条項の削除を求める発言を行った。同条項を巡っては、1995年に「時代遅れ」と確認され、2005年には中国を含む加盟国が削除への決意を表明した。一方で、このところの中国は、高市首相による台湾有事を巡る国会答弁、日本政府の防衛費の増額決定などを理由に、日本への経済的威圧を強め、日本を批判する際の「ナラティブ(物語)」として「新型軍国主義」との主張を展開している。こうした中国の批判は根拠に乏しいものの、中国の友好国のなかにはこの動きに同調する流れもある。さらに、米国の公表資料に「米国と中国が第2次世界大戦において同盟国として肩を並べて戦い、勝利を収めた」と記されたことは、日本にとっても外交上注視すべき論点となる。このため、日本として自国の歴史認識や戦後の歩み、安全保障政策の位置付けについて、国際社会に継続的かつ丁寧に発信する外交努力の重要性が一段と高まっている。
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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