インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

イラン情勢悪化でも中国経済の耐性は比較的高い

~エネルギー供給の安定確保の一方、企業物価上昇や大気汚染など「副作用」も顕在化~

西濵 徹

要旨
  • 中国は、イラン情勢の悪化に伴う原油高や供給懸念に直面しているものの、ロシア産原油の輸入拡大や調達先の多様化、国内石炭の活用などにより、他のアジア諸国に比べてエネルギー供給面での耐性は比較的高い。一方で、政府は国家備蓄の取り崩しには慎重で、価格統制によって家計への影響を抑えてきた。ただし、石炭火力の稼働率上昇により大気汚染が再燃するなど、エネルギー安定供給を優先することの「副作用」も顕在化している。
  • 企業部門では、商品市況の再上昇を背景に物価上昇圧力が再燃している。8月の生産者物価は調達価格(前年比+5.8%)、出荷価格(同+3.8%)ともに伸びが加速し、原材料価格の上昇が製品価格に転嫁される動きがみられる。ただし、内需の弱さから消費財への価格転嫁は限定的であり、企業はコスト増を十分に吸収できない状況に直面している可能性がある。
  • 家計部門では、燃料や生鮮食品を中心に生活必需品の価格が上昇しているものの、8月の消費者物価上昇率は前年比+0.8%、コアインフレ率も同+1.0%にとどまり、政府目標の2%前後を大きく下回っている。サービス物価も弱く、内需の力強さを欠く状況が続いている。足元の人民元は米ドル高の一服やAI・半導体関連輸出の好調、巨額の貿易黒字を背景に約3年ぶりの高値圏にある。人民元高は輸出競争力を低下させる可能性がある一方、輸入インフレの抑制には寄与する。このため、当局は堅調な外需を見極めながら緩やかな人民元高を容認する可能性があるものの、引き続き急激な上昇は避ける展開が続くとみられる。
目次

【中国はイラン情勢悪化への耐性が比較的高い一方、「副作用」とも呼べる動きが顕在化】

イラン情勢をきっかけとする原油高は、世界的なインフレを招いている。イランによるホルムズ海峡の事実上の封鎖を受けて、米国も逆封鎖に動いた結果、同海峡を取り巻く環境は悪化した。さらに、米国とイランによる攻撃の応酬を受けて、同海峡を航行する船舶は大幅に減少して供給懸念も高まった。その後は、米国とイランによる停戦合意を受けて、原油高に一服感が出るなど落ち着きを取り戻す動きがみられた。しかし、米国とイランの協議は平行線をたどるとともに、イランはイエメンの親イラン勢力(フーシ派)を通じてバブ・エル・マンデブ海峡の封鎖を示唆する動きをみせた。フーシ派はサウジアラビアに海上封鎖を宣言し、サウジが主導する有志連合も武力で対応する方針を示したことで、戦火が中東全体に拡大する懸念が高まった。8月には停戦期限が終了したことを受けて、米国はイランに対する経済的圧力を一段と強める動きをみせた。その後も、米国とイランは散発的に攻撃を応酬させているほか、フーシ派もサウジアラビアに攻撃をしかけており、事態収拾の道筋はみえず、原油価格も再び上昇基調を強めている。

供給懸念が高まったにもかかわらず、中国政府は国家戦略備蓄の取り崩しに慎重な姿勢をみせてきた。一方で、価格統制を通じて物価への影響を抑える戦略を取った。そのうえ、ウクライナ戦争を受けて、欧米などはロシアへの経済制裁を強化したものの、中国はこうした動きに与せずロシア産原油の輸入を拡大させてきた。さらに、ここ数年の米中摩擦が激化する背後で、中国は原油やLNG(液化天然ガス)の調達多様化を図ってきたため、他のアジア諸国に比べて供給懸念に対する耐性が比較的高い状況を維持してきた。加えて、中国は一次エネルギーに占める石炭比率が6割を上回るなど、石炭への依存が高く、国内において石炭の採掘が可能であることも相まって、エネルギーの安定供給を優先させた。なお、近年は習近平指導部が主導する「グリーン経済」の実現に向けた取り組みもあり、大気汚染問題は小康状態となってきたものの、石炭火力の稼働率上昇を受けて、足元では大気汚染が再燃するなど副作用が顕在化している。

【原油価格などの再上昇を受けて、企業部門では物価上昇圧力が再燃する動き】

政府による価格統制の影響が及ばない企業部門においては、過去数ヵ月はイラン情勢の悪化を受けた原油など商品市況の上昇に直面する展開が続いてきた。なお、米国とイランによる停戦合意を受けて、その後は原油高に一服感が出たことを反映して、企業部門が直面する物価も上昇圧力が後退する動きがみられた。しかし、8月の生産者物価(調達価格)は前年同月比+5.8%となり、前月(同+5.5%)から再び加速に転じた(図1)。前月比も+0.3%と前月(同▲1.0%)から3ヵ月ぶりの上昇に転じており、物価上昇圧力が再燃している様子がうかがえる。非鉄金属など一部に物価が下落する動きがみられるものの、燃料関連のほか、幅広く素材・部材関連など原材料価格が上昇しており、川上段階において物価上昇圧力が強まっている。

図表
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川上段階で物価上昇圧力が強まっていることを反映して、生産者物価(出荷価格)も前年同月比+3.8%と前月(同+3.5%)から伸びが加速している。前月比も+0.4%と前月(同▲0.7%)から3ヵ月ぶりの上昇に転じており、原材料価格の上昇が製品価格に転嫁される流れがみられる。ただし、比較的価格転嫁を行いやすい生産手段(前月比+0.4%)に比べて、内需の弱さが足かせとなる形で消費財(同+0.2%)の上昇ペースは緩やかなものにとどまるなど、川下段階への価格転嫁が難しい様子がうかがえる。もっとも、消費財のうち日用品や生活必需品については出荷価格が下落している一方、耐久消費財は久々に上昇に転じており、企業部門において原材料価格の上昇を製品価格に転嫁せざるを得ない状況に直面している可能性がある。

【生活必需品で物価上昇もインフレ率は落ち着いた推移、当局は緩やかな人民元高を容認か】

原油価格が再び上昇するなどエネルギーインフレが再燃しているほか、中国においても異常気象の頻発や世界的な肥料価格の高騰などを理由に食料インフレの動きが強まっている。こうしたなか、8月のインフレ率(消費者物価上昇率)は前年同月比+0.8%と前月(同+0.5%)から加速したものの、3月の全人代(全国人民代表大会)で定められた2026年のインフレ目標(2%前後)を大きく下回る伸びが続く(図2)。前月比は+0.4%と前月(同▲0.1%)から4ヵ月ぶりの上昇に転じており、ガソリン・軽油などの燃料(前月比+6.6%)で大幅に物価が上昇したほか、野菜(同+5.5%)や卵(同+2.0%)、豚肉(同+1.3%)・牛肉(同+1.3%)など生鮮品を中心とする食料品価格も上昇するなど、生活必需品で物価上昇圧力が強まったことが影響している。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.0%と前月(同+0.9%)からわずかに伸びが加速しているものの、ヘッドライン同様に政府目標を大きく下回る推移が続いている。前月比も+0.1%と前月(同+0.3%)から上昇ペースは鈍化しており、一部の消費財に価格転嫁の動きを反映して物価上昇圧力がかかっているものの、サービス物価は低迷する対照的な動きがみられる。

図表
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金融市場においては、米ドル高の動きに一服感が出ていること、世界的なAI・半導体関連需要の旺盛さが輸出をけん引するとともに巨額の貿易黒字を計上するなど対外収支を下支えしていることも追い風に、人民元相場は緩やかに上昇して約3年ぶりの高値となっている(図3)。人民元高は輸出競争力の低下を通じて外需の足かせとなることが懸念されるものの、世界的に中国製品に対する旺盛な需要を反映して輸出は堅調に推移しており、景気をけん引する展開が続いている(注1)。一方で、人民元高は輸入物価を通じてインフレ圧力を抑えることが期待されるため、当局は外需の動向を見極めつつ、緩やかな人民元高を志向する可能性が考えられる。とはいえ、当局が急激な人民元高を許容するとは見通しにくく、中銀(中国人民銀行)による基準値設定などを注視する展開が続くであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


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西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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