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2026.09.08
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日銀の利上げ加速期待が支える円相場
~チャート上は2025年以来の円安トレンド終了を示唆~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 7月末の日米協調円買い介入後、再び円安傾向を辿ったドル円相場だが、9月に入ってからは自律的な円高が進み、介入時の円高水準を下回る1ドル=154円程度をつけた。自律的な円高進展の背景には、日銀が9月の金融政策決定会合で追加利上げを行った後も、四半期に一度のペースで利上げを継続するという期待が市場で高まったことが挙げられる。日銀の利上げ加速期待の高まりは、ベッセント米財務長官の発言なども後押ししている。
- テクニカル分析の観点からは、短期的には円は買われすぎていることを示唆している。しかし、7月の日米協調介入を受けて、2025年4月以来の円安トレンドをサポートしてきたトレンドは崩れたと見られる。日銀が市場の期待通りのテンポで利上げを行うのであれば、暫くは円高傾向が続く可能性はある。
- ただし、円先物市場における非商業部門の円の売り越し幅は再び拡大、今年GWの円買い介入時と同規模となるなど、先行き円安期待は根強い。FRBの利上げ期待も高まっており、日銀の利上げテンポがドル円相場の行方を左右することとなろう。
1. 日銀の利上げ加速期待の高まりを背景に、ドル円相場は自律的な円高進展
7月末に実施された日米協調による円買い介入は、ドル円相場を1ドル=164円程度から同155円台にまで押し下げた(円高進展)。その後、ドル円相場は再び緩やかな円安基調を辿り、8月28日には再び同160円台に乗せた。日米協調介入が市場に与えたインパクトは大きかったものの、ドル円相場を取り巻くファンダメンタルズ(日米金利差や財政状況など)が特段変化したわけではなく、自然体では円安に振れやすい環境にあることが裏付けられた格好だ。
しかし、9月2日には2円程度円高が進んで同158円台をつけると、7日には同154.08円と介入後の円高水準を超えた。そのきっかけの一つが、G20財務相・中央銀行総裁会議前後におけるベッセント米財務長官の、日銀の利上げによる円安阻止をサポートする趣旨の発言だ。米国によるサポートを得られることで、日銀は1.75~2.00%程度と市場で考えられているターミナルレート(到達金利:市場が予測する中央銀行が目指す政策金利水準)に向けた利上げを粛々と進めるとの期待が高まり、円を押し上げる(円高)一因になったと考えられる。
日銀サイドからも、高田日銀審議委員が利上げ幅は0.25%だけではないとの趣旨の発言があり、日銀が本格的な利上げに着手する期待を窺わせた。
2. 短期的には円高行き過ぎも、円安トレンドは一服か
1ドル=160円を割り込んでから2営業日での5円の円高進展は、短期的には行き過ぎ感が強いことを各種テクニカル指標が示している。
相場の過熱感を示すオシレーター系の代表的なテクニカル指標の一つであるボリンジャーバンドを見ると、足元のドル円相場は-2σを下回り、ドルが売られすぎていることを示している(図表1)。2026年以降、ドル円相場が-2σを超えたのは1月の米国によるレートチェック、4月末と7月末の円買い介入時に続き4度目となる。過去3回は、その後20日移動平均水準まで円安方向へ修正が進んだ。今局面でも同様の展開になる場合、9月末にかけて同158円台まで円安に戻す展開が想定される。同様に、RSIやストキャスティクスも、短期的にはドルが売られすぎの状態にあることを示唆している(図表2)


一方、2025年以降のドル円相場の日次チャートを見ると(図表3)、同年4月につけた1ドル=139.88円を底に続いていた円安基調のサポートライン(下値抵抗線:図中赤線)を、7月末の日米協調介入で切り下がったことが分かる(図中青丸)。一般的に、サポートラインを切り下がった場合、相場の方向性が暫く変わるケースが多い。特にこのサポートラインの場合、サポート期間が長く、同ラインで相場がサポートされて切り返したケースが多いことを勘案すれば、今後はこのサポートラインが円安方向へのレジスタンスライン(上値抵抗線)へと変わる可能性は高いと判断される。実際、協調介入後は同ラインが円安へのレジスタンス(障害)となっている。同ラインは右肩上がりの形状となっているため、円高トレンドへの転換を意味するわけではなく、円安へのレジスタンスラインとも厳密には言えないものの、短中期的には一方的な円安トレンドとは言い切れなくなったと解釈できよう。前述したオシレーター系のテクニカル指標を合わせて考えれば、一旦は円高のスピードは鈍るものの、暫くは円高基調が続く可能性もある。

3. FRBの利上げ期待もあり、日銀の利上げテンポが円相場を左右
円先物市場の動向を見ると、7月末の日米協調介入で大幅に縮小した非商業部門の円の売り越し規模は、その後再び拡大傾向を辿っており、直近(9月2日時点)で9万2千枚(1兆1528億円)の売り越しとなった。これは、GWの介入直前時の売り越し規模(10万2千枚(1兆2757億円))とほぼ同等である(図表4)。協調介入後縮小した売建玉(ショート)は緩やかながらも拡大しており、市場において円の先安感が根強いことを示唆している。

円の先安感が払拭し切れていない背景には、日本固有の材料(財政懸念など)の他に、米国においても利上げ期待が高まっていることが挙げられる。
協調介入直前に開催された7月のFOMC(28~29日)では、12名のFOMCメンバーのうち3名の地区連銀総裁が利上げを主張して金利据え置きに反対票を投じたものの、5会合連続での政策金利据え置きが決まった。その後に行われたウォーシュFRB議長の記者会見では、「(長期金利などの上昇による引き締め効果などもあり)政策金利の引き上げだけが(金融引き締めの)手段ではない」と述べたことから、利上げが切迫しているわけではないと市場は解釈した。
しかし、8月28日に行われたジャクソンホール会議での講演では「足元の政策金利が景気抑制的になっている兆候はほぼ無い」、「クレジット市場とローン市場は政策による引き締まりの兆しをほとんど示していない」などと、7月FOMC時の自らのコメントを否定するような内容となった。これは、現行の政策金利の水準では、十分なインフレ抑制効果が働いていない可能性を示唆したと捉えられる。その上で、ウォーシュ議長は「基調インフレ率が目標に向かうと確信を持てないなら、やるべき仕事がある」と述べた。すなわち、7月FOMC時に語った“FRBが動かなくても市場の動きで(インフレ圧力を)抑制できる”というスタンスから、“(確信が持てないなら)FRBが自ら動く必要がある”と、能動的に金利を引き上げる必要性に言及した。
ウォーシュ議長の一連の発言は、近い将来に利上げが必要になることを示唆したものではない。とはいえ、ジャクソンホールの講演では景気について「良好」と強気の見方を示す一方で、インフレについては「今夏の指標からは基調的なトレンドが大きく改善したようには見えない」、「過去2年間の改善ペースは緩やかなものにとどまった」と、インフレを望ましい水準にするには十分な力が働いていないことを示唆している。
これをきっかけに、FF金利先物が織り込む9月FOMC(15~16日開催)利上げ確率は、一時60%以上となるなど、FRBも早期利上げに傾いているとの見方が強まった。その後、FF金利先物が織り込む9月利上げ確率はやや低下したものの、2027年にかけて利上げ基調が続くことを織り込んでおり、年内に1回以上、来年夏までに3回程度の利上げを織り込んだ水準にある(図表5)。

一方、市場では日銀も来年夏までにターミナルレート(1.75~2.00%程度)まで政策金利を引き上げるとの見方が強まっている。これは、これまでの半年に一回(0.25%)の利上げペースから、四半期に一回の利上げへと、ペースが倍になることを示している。
今後、ファンダメンタルズ次第で日米の金融政策に対する見方も大きく変化すると見込まれるものの、足元では来年夏までに日本が3~4回、米国が3回の利上げを織り込んでいる。このことは、来夏時点での日米の政策金利差はほとんど縮小しないことを意味している(日銀が4回利上げしたとしても、金利差は現状より0.25%しか縮小しない)。したがって、為替相場が金利差によって変動圧力を受けているとすれば、ドル円相場にかかっている圧力は大きく変化したわけではないと言える。
米国経済が、年内利上げを求められるほどインフレ圧力が強い状況にあるかどうかは疑わしいものの、その好調な姿が続く間はFRBの利上げ期待がドルを支える力を持とう。一方で、足元の自律的な円高への動きが日銀の利上げ加速への期待を主な材料としているならば、その期待が(ファンダメンタルズの変化無しに)崩れるようなことがあれば、円高修正への動きも終わる可能性がある。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

