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今局面二度目の円買い介入実施

~効果は限定的で円安基調も変わらないが、水準修正の介入には注意~

嶌峰 義清

要旨
  • 7月30日の為替市場では、一時円高ドル安が急進する場面が見られ、ドル円相場は1ドル=163円前後から158円程度まで円高が急伸、政府・日銀がゴールデンウィーク以来の円買い介入を実施したとみられる。また、NY連銀によるレートチェックも行われたとの報道もある。
  • 政府・日銀は2022年と2024年にも円買い介入を行っている。今回の介入が過去二回と異なるポイントは、当局が“投機的円売り”と見なしている非商業部門の円売り建玉が一度目の介入時の規模を大きく上回ってもなかなか実施されなかった点だ。したがって、当局は投機的な動きへの牽制というよりも、一段の円安加速を招く前に手を打ったと考えられる。
  • もっとも、為替相場の方向性が変わるには金融政策への期待が大きく転換するなどの条件が必要だ。現状では相場の方向感を変えることは難しく、ファンダメンタルズが変わらない限り円安圧力の高い状態は続こう。ただし、連続的な介入によって相場水準が大幅に修正されるリスクは否定できず、注意は要する。

1. ゴールデンウィーク以来2度目の円買い介入か

7月30日のニューヨーク為替市場で、ドル円相場が1ドル=163円前後から158円前後まで急落(円高)する場面が見られた。ここ数日のドル円相場は同164円程度でもみ合う展開が続いていたことから、特に円高を促す材料がない中での急激な円高は、当局による為替介入によるものであった可能性が高い(その後、政府関係者が為替介入に踏み切ったと報道されている)。また、介入後にはニューヨーク連銀によるレートチェックが行われたとの報道もあるが、事実であれば今年1月以来のこととなる。ニューヨーク連銀によるレートチェックは、円安進展への警戒が日米両国による懸念事項であることを示唆するものであったと考えられる(図表1)。

図表
図表

円買い介入の実施は、今年5月のゴールデンウィーク時に実施されて以来2度目となる。1月のレートチェック、1度目の介入がいずれも同160円程度で行われたのに対し、今回の介入は同164円程度で行われたが、1度目よりも円安の水準で介入が行われるのは2022年以降2度の円買い介入局面と同じパターンである。

2. 過去2回の円買い介入時と異なるのは投機的な売りの放置

一方で、2022年と24年に行われた円買い介入局面とは異なる点もある。それは、過去2回の円買い介入局面では、当局が“投機的な円売り”としている円先物市場における非商業部門の円売り建玉の水準だ。2022年と24年の介入局面では、それぞれ大きく分けて2回介入が実施された。1度目の介入と2度目の介入との間のタイムラグは異なるが、いずれも1度目の介入時の売建玉を上回ったことが明らかになったタイミングで2度目の介入が実施された。

これに対し、今局面では1度目の介入実施から4週間後となる5月27日の週には売建玉が1度目の介入実施時を上回り、その後も拡大基調を辿ったものの、介入は見送られてきた(図表2)。

図表
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政府・日銀は円買い介入については、“ファンダメンタルズにそぐわない投機的な円売りに対しては断固たる措置(円買い介入)を講じる”との方針を打ち出している。その指針とされている先物市場における投機筋の円の過剰な売建玉が積み上がっていることを放置してきた背景には、円買い介入を行ってもその効果が限定的にとどまると判断していた可能性が高い。

すなわち、市場関係者の円安期待が強い環境の中では、介入によって一時的に円の水準を切り上げても、円売りポジションの解消には至らず、(介入によって幾分円高になった水準で)新たな円売りポジションを積み上がらせる機会を提供してしまうことで、介入効果が薄いことを市場に印象づけてしまうリスクを回避していたと考えられる。

これに対し、今回2度目の介入に踏み切った背景には、

  1. FOMCが終了し、ウォーシュFRB議長の記者会見時のコメントから、FRBは利上げを急いでいないとの見方が市場で高まったこと(FF金利先物市場が織り込む先行きのFF金利水準の低下として現れている(図表3:囲い部分))

  2. 1ドル=164円という節目を前に、介入警戒感も手伝ってドル円相場は膠着しており、無条件で突破されれば同165円程度まで一気に円安が進むリスクがあった

  3. 30日に実施された自民党の臨時役員会で、来年4月から食料品の消費税率を2年間1%に引き下げる方針を高市首相が示したことで、市場で燻っていた日本の財政悪化懸念に拍車がかかって円安圧力を高める前に手を打ったなどの要因があったものと推察される。

図表
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すなわち、①でドル高圧力が多少なりとも緩和したタイミングで、②や③のように円安要因に市場の関心が集まって円安が加速する前に手を打ったのではないかと考えられる。

3. 連続介入の可能性は否定できないが、基調的な円高への転換は未だ見えてこない

本稿執筆時点で、ドル円相場は1ドル=160円台後半まで円安が進んでいる。介入によって円高にシフトした水準からは4円近くも円安が進んだことになる。これまでの動きだけから判断すれば、今回の介入においても先物市場における円の買い戻し(ショートカバー)は限定的なものにとどまった可能性が高い。「Global Trends 円買い介入の可能性とその効果~米利上げ観測が残る中では効果は一時的、日銀本格利上げも必要~」(2026/6/12)でも述べたが、為替の行き過ぎた展開を為替介入で一時的に食い止めることはできても、相場の方向性が変わるためには両国(ドル円であれば日米)の金融政策に対する見方が変わる必要がある。

金融政策に関しては、不安定な中東情勢が続く中で世界的にインフレ懸念が蔓延しており、日米とも金融政策は利上げのリスクを意識した展開となっている。金利水準で見れば、日本の方が圧倒的に低いため(実質ベースでも)、根底にはドル高の流れが暫くは継続すると見込まれる。足元では、FRBの利上げ時期に対する市場の「行き過ぎ」がやや修正されたことで、ドル高圧力はやや軽減したとはいえ、7月のFOMCでは3人のメンバーが利上げを主張したことからも明らかなように、米国の利上げ見通しが撤回される状況にはほど遠い。したがって「日銀の利上げのテンポが加速する」といった見方でも台頭しない限り、ドル円相場の基本的な方向性はドル高から変わらないだろう。

以上のことから判断すれば、1ドル164円を超えるような円安加速のタイミングはやや遠のいたものの、ドルの高止まり状態が暫く続く可能性は大きい。それ以外の要素では、市場で円安要因として意識されている日本の財政問題や、政府の金融政策に対する考え方について、市場の懸念を高めるような不用意な発言が、新たな円安のエネルギーとなる可能性には注意が必要だ。

一方で、当局が短期間に連続的な介入を行うことで、相場水準が切り下がる可能性もある。今回、ニューヨーク連銀が再びレートチェックを行ったことで、日米の協調態勢が確立しているとするならば、日米協調での円買い介入が実施される可能性もある。こうした“力業(ちからわざ)”で相場水準を10円程度切り下げることも可能で、円先物市場における売建玉を勘案すれば、ショートスクイーズを巻き込んで10~15円程度も円高修正が起きるリスクも否定はできない。しかし、前述したような金融政策の方向性を考えれば、いずれは円安基調に戻ることになろう。

以 上

嶌峰 義清


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