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2026.08.21
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協調介入により円売り超過ポジション解消
~介入名目解消で、市場のタガが外れれば円安止めにくくなる~
嶌峰 義清
- 要旨
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7月末に実施された今年2度目の円売り介入は、日米協調によるもので効果は絶大だった。これにより、政府・日銀が介入の理由として挙げていた、先物市場における非商業部門の円売り超過は相当程度解消した。この状況が維持されれば、政府日銀が追加の介入を行う名目は立ちにくくなる。
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介入により一時1ドル=155円台をつけたドル円相場だが、その後はじりじりと円安が進み、足元では同159円前後で推移している。ファンダメンタルズ面からはドルの優位性が強いものの、同160円を超えると介入警戒感が増すという心理的な強い抵抗がドルの頭を抑えている。
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過度な米利上げ期待の後退、日銀の早期利上げ観測の高まりが円高圧力となっているものの、米国の金融政策に対する市場の見方は変化しやすい。利上げを急ぐのではないかとみられている日銀に対する政府の対応などにも市場は敏感に反応するとみられ、再び円安が加速するリスクは残る。
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1. 日米協調介入の効果により過度な円売りポジションは解消
7月末に行われた円買い介入は、米国による協調介入(米国はユーロ売り円買い介入)もあって、かなりの効果を見せた。「今局面二度目の円買い介入実施~効果は限定的で円安基調も変わらないが、水準修正の介入には注意~」(2026/7/31)で指摘したように、連続介入による効果は大きかった。
介入前、1ドル=164円程度にあったドル円相場は、介入により一時同155円台をつけた(図表1)。また、米国のユーロ売り円買い介入もあり、ユーロ円相場は1ユーロ=187円台半ばから同179円台まで円高が進んだ。
介入の効果は円相場の水準よりも、円の先物市場におけるポジションにより明確に現れた。当局が“投機的な円売り”の指標としている先物市場における非商業部門の円売りポジションを見ると、買建玉(ロング)から売建玉(ショート)を引いた差引は、介入前の16.3万枚の売り越しから、介入後には4.5万枚にまで11.8万枚縮小した。今年一度目の介入局面であるGWの介入時の縮小幅は4万枚だったことと比べると、非常に大きな効果があったと評価することができる(図表2)。

直近では4.2万枚の売り越しと、売り越し規模の縮小ペースは鈍化した。このことから、介入によるポジション解消の動きは一巡した可能性はある。しかし、その規模がかなりの程度縮小したことで、当局が「投機」を理由に追加の円売り介入を行い「づらい」環境になったとも言える。
2. 再び慎重に進む円安
日米協調介入から約3週間が経過したが、ドル円相場は緩やかな円安基調を辿り、8月10日以降は同159円台を軸とした推移が続いている。
円安基調を辿っている背景には、ドル円相場を巡るファンダメンタルズに変化がないことが挙げられる。すなわち、日米の実質短期金利差(米金利-日金利)はプラスを維持している。日米の金融政策に対する市場の見方に多少の変化は見られるものの、実質金利差が逆転に向かうといったような相場観の変更を促すような材料はない。
景気面を見ると、米国では7月分の雇用統計が市場予想を下回る弱めの結果となったものの、季節要因による下振れリスクは事前に予想されており、米景気は好調を維持するとの見方は揺らいでいない。日本では、生産活動は好調な一方、家計消費の停滞が顕著となっており、物価高への警戒感が強い。
イラン情勢は、6月に結んだ覚書が期限切れとなるなど、先行きの見えない状況が続いている。不透明なイラン情勢は、潜在的な米ドルへの需要を下支えする要因となっている。
一方、160円を前にして円安の足が止まっているのは、今回の介入により、追加介入を市場が強く警戒していることを示している。今回の介入は日米協調となったが、これは2011年の東日本大震災直後に行われた円売り介入以来約15年ぶり、円買い介入での協調としては1998年のアジア通貨危機時に実施されて以来約28年ぶりとなる“まれ”なものとなる。特に円買い介入時において米国が協調することは、介入規模の制限がなくなることもあり、インパクトは大きい。
したがって、流れとしてはドル高円安が続いているものの、160円という(心理的な)壁に堰き止められて膠着しているのが、最近のドル円相場ということになる。
3. 日米金融政策に対する市場の期待の変化が、ドル円相場を再び動かす材料に
膠着しているドル円相場を再び動かす材料となるのは、やはり日米の金融政策に対する見方だろう。
米金融政策については、一時は年内に複数回の利上げを織り込むような動きがFF金利先物市場に見られたが、弱めとなった7月分雇用統計を受けて年内1回の利上げを想定した水準へと変化した(図表3)。
一方、日本の金融政策については、①7月末に開催された金融政策決定会合後に発表された「展望レポート」で、景気や物価のリスクバランスが上方修正された、②8月上旬に公表されたインタビュー記事で、ベッセント米財務長官は日本の早期利上げへの期待を示した、③8月中旬に公表された日銀の7月会合の「主な意見」で、早期利上げに前向きと捉えられる発言が目立った、ことなどから、これまでの半年に一回の利上げペースが加速し、9月か10月に追加利上げが実施されるとの見方が高まっている。
こうした日米金融政策に対する市場の見方は、円高ドル安をフォローする材料となっている。もっとも、日米共に年内1回の利上げであれば、年末時点での日米の政策金利差は変わらない。その後の金利差については、今年後半の日米の経済指標や物価動向を見極めながら予測が形成されていくため、現状ではドル円相場を変動させる材料になるとは考えにくい。

当面のドル円相場に変動のエネルギーを与えるとすれば、やはり年内の金融政策に対する見方に変化が生じた場合だろう。
まず、米金融政策については、ウォーシュFRB議長の下でFOMCメンバーによる先行きの見通しが開示されなくなる可能性がある。そのため、市場の金融政策に対する見方は、経済指標に一喜一憂する度合いが高まる公算が大きい。特に、市場の注目度が高い雇用統計については、7月分が下ぶれたことで、今後は逆に上振れして再び利上げ警戒感を強めるリスクがある。
日本の金融政策については、次の利上げが9月、ないしは10月に実施されることで、3~4ヶ月に一度の利上げペースが定着するのかどうかは、日米の政策金利差の方向性を見るうえで重要なポイントだ。すでに、政策金利が中立水準の上限に達していると判断される米国は、利上げが継続するとしても、インフレが加速する兆候を見せない限り、慎重で緩やかなテンポ(年1~3回程度)にとどまると見込まれる。これに対し、日銀の利上げが年3~4回のテンポへ加速すれば、日米の政策金利差は縮小傾向を辿る。日銀の審議委員の中でタカ派とみられるメンバーの任期が切れる来年7月までに、政策金利を中立水準半ば程度となる2%まで引き上げるとの見方もあるが、これを実現するためには今後2会合に1回のペースでの利上げが必要となる。そのためには、遅くとも10月会合での利上げが必要であり、且つ政策金利を中立水準半ばまで引き上げることが正当化されるとの景気や物価認識が求められよう。
ただし、日銀による利上げテンポの加速は、積極的な財政政策を伴う経済政策を打ち出している政府との軋轢を生むリスクがある。首相や財務相は、日銀の独立した判断による金融政策運営をフォローする発言を行っている。政府の骨太の方針に「適切な金融政策運営が行われることも非常に重要」と明記する案が報道されたことをきっかけに、日銀の独立性に対する市場の懸念が高まったこと(いわゆる「骨太ショック」)を踏まえたものと推察される。もっとも、積極財政政策による金利上昇圧力を緩和するために、金利を抑制した金融政策を望む声は多いだろう。万一、そのような発言が政府筋、あるいは与党から漏れ伝われば、市場は再び円売りを強めるリスクが高まる。
このように、米利上げ懸念が再び高まることや、日本での利上げを牽制するような動きが出た場合には、ドル円相場は再び160円の壁を越えるエネルギーを持つ可能性がある。そのような局面においては、先物市場での円売りも積み上がるものと見込まれる。しかし、過去においては円売り超過の規模や期間が為替介入の引き金を引くポイントとなっていただけに、これまでと同水準(160~164円)に達した場合にすぐに円売り介入を実施することが可能かどうかは分からない。
また、今回はユーロ売り円買い介入を行った米国だが、ECBへの事前通告無しでのユーロ売りをECB側が問題視しているとの報道もあり、それが事実であれば米国も追加介入にはより慎重な姿勢で臨む可能性がある。再び160円を突破して円安に弾みがつくような局面になった場合、165円を超える円安に繋がるリスクもある。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

