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揺らぐドイツ極右排除の「防火壁」

~AfD出身の州首相は誕生するか?~

田中 理

要旨
  • ドイツでは政権に参加する二大政党の支持が低迷するなか、各種の世論調査で極右政党が最多の支持を集めている。主要政党はこれまで連邦や州レベルでは、極右の政権参加や法案成立での協力などを排除する「防火壁」を設けてきた。だが、市町村や郡レベルでは、極右出身の首長が誕生し、法案成立で協力するケースも増えている。9月の旧東ドイツ地域で行われる州議会選挙では、極右の議席占有率が4~5割に達する。ドイツの戦後史上で初の極右が主導する州政府が誕生する可能性がある。

ドイツではメルツ首相が率いる中道右派の「キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)」と中道左派の「社会民主党(SPD)」による大連立政権の支持が低迷している。8月の世論調査では政権の仕事を評価する回答は13%にとどまり、85%が否定的に評価している(図表1)。

図表
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政権に対する厳しい評価の背景には、①メルツ首相は実業界や金融業界で成功した経験を持ち、経済再建や産業再生での手腕が期待されたが、目立った成果が出ていないこと、②SPDと手を組んだことで、保守寄りの有権者からは「CDUが保守政党としての輪郭を失った」との不満が広がっている一方、最大野党「ドイツのための選択肢(AfD)」に対抗する形で移民政策を強化した結果、中道寄りの有権者からは「AfDに接近している」との不満が広がったこと、③連立内の調整の難航や内閣改造時の混乱などを受け、メルツ首相の指導力や調整能力に疑問が呈されていることなどがある。政権発足後に30%を超えていたCDU・CSUの支持率は20%台前半に低下し、20%台後半の支持を集める極右の最大野党「ドイツのための選択肢(AfD)」にリードを許している(図表2)。

図表
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2013年に誕生したAfDは、2017年の連邦議会選挙で初の議席を獲得し、2025年には20%以上の票を獲得し、野党第一党の座を手にした(図表3)。当初は旧東ドイツ地域での支持獲得が目立ったが、最近では旧西ドイツ地域でも着実に支持を伸ばしている(図表4)。主要政党は反イスラムや反移民などを掲げ、時に排外主義的な政策主張も繰り返すAfDの連立参加や閣外協力から距離を置いてきた。こうした極右との連携を排除する姿勢は「Brandmauer(防火壁)」と呼ばれ、これまで連邦・州レベルでAfDが政権に参加したことはない。

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AfDの協力で州首相を選出したケースがあるが、早期退陣に追い込まれた。2019年のチューリンゲン州の州議会選挙後、リベラル政党・自由民主党(FDP)のケーメリッヒ候補が、CDUとAfDの協力で州首相に選出されたが、「民主主義を破壊する行為である」として、他の主流派政党や市民が猛反発し、メルケル首相(当時)による異例の政治介入もあり、就任から僅か2日後に辞任を表明する事態に発展した。州支部への統率が取れなかった責任を取り、メルケル氏の後継者と目されていたCDUのクランプ=カレンバウアー党首が辞任に追い込まれた。当時のドイツ政界で、AfDとの協力がいかにタブー視されていたかが窺える。

既に市町村や郡レベルでは、AfD抜きの行政・議会運営は困難になりつつある。2023年6月にチューリンゲン州ゾンネベルク郡でAfD出身の首長が初めて誕生したことを皮切りに、同年7月にはザクセン=アンハルト州ラグーン=イェスニッツ市で初の市長が、同年12月にはザクセン州のピルナ市で初の中核都市の市長が誕生した。特に旧東ドイツ地域の地方議会では、CDUなどが提出した議案がAfDの賛成で可決するケースも見られ、防火壁が形骸化しつつある。

メルツ首相はAfDとの連携や協力を否定するが、野党党首時代の2025年1月には、移民規制や治安対策を強化する動議を連邦議会に提出し、AfDの賛成票でこれを可決したことがある。メルツ氏は法案協力でのAfDとの事前交渉はなかったと釈明したが、野党勢や党内の慎重派からは、「AfD排除のタブーを破った」、「AfDの政治的な正常化につながりかねない」と非難された。

メルツ首相が率いる連立政権に対する国民の評価は厳しいが、ドイツでは議会の機能不全がナチ台頭を招いた反省もあり、首相の罷免や議会の前倒し解散の制度的なハードルは高い。連邦議会の任期満了は2029年で、次の連邦議会選挙はまだ先とみられるが、州レベルではAfDに対する防火壁が突破される可能性のある州議会選挙が近づいてきた。各種の世論調査によれば、9月に行われる3州の州議会選挙のうち2州で、AfDが第一党の座を手にしそうだ。

これまでの州議会選挙でAfDが獲得した得票率の上位は、2024年のチューリンゲン州(32.8%)、同年のザクセン州(30.6%)、同年のブランデンブルク州(29.2%)と続き、30%前後にとどまっていた(図表4)。ところが今回の州議会選挙では、メクレンブルク=フォアポンメルン州で30%台半ば、ザクセン=アンハルト州で40%を超える。少数政党の乱立を防止するため、ドイツの連邦・州議会選挙では、5%の得票率に満たなかった政党は議席を獲得できない。世論調査での支持率が5%未満の政党を除き、支持率に応じて議席を割り振ったところ、AfDが獲得する可能性がある議席の定数に対する占有率は、メクレンブルク=フォアポンメルン州で40%程度(図表5)、ザクセン=アンハルト州で50%近くに達する(図表6)。

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一部の州では、もはやAfDを排除しての州議会運営が難しい段階に入りつつある。なかでも注目されるのが、ザクセン=アンハルト州だろう。最近の世論調査でAfDの支持率は40%を上回り、2位のCDUを20ポイント近く引き離している。今回の選挙では、SPD、環境政党「緑の党」、FDP、新興左派政党「ザーラ=ワーゲンクネヒト同盟(BSW)」が議席獲得に必要な5%のボーダーライン近辺にいる。議席を獲得できない政党が増えれば、AfDの議席占有率が得票率を上回り、単独過半数の議席獲得が視野に入ってくる。単独過半数に届かなくても、AfD抜きで安定した州政府を組織することは難しくなる。2020年のチューリンゲン州では、AfDが賛成票を投じて州首相が選出されただけでドイツ政界を揺るがす政治危機となった。それから僅か6年で、今度はAfD自身が州政府を主導する可能性が現実味を帯びている。極右排除の「防火壁」がなお機能するかの試金石となる注目のザクセン=アンハルト州議会選挙は9月6日に迫っている。

以 上

田中 理


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