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- 原油価格の再高騰とECBの追加利上げ
- 要旨
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- 6月に利上げを開始したECBは、7月の理事会で政策金利を据え置いた。利上げ開始後にイラン和平の進展期待で原油価格が下落したが、その後に中東情勢を巡る緊張が高まっており、原油価格やガス価格が再高騰している。声明文の微妙な変化、既に7月に利上げを検討すべきとしたメンバーがいた事実、9月までのデータを注意深く観察するとの発言からは、ECBが9月の追加利上げに傾いていることが示唆される。
6月の理事会で利上げを開始した欧州中央銀行(ECB)は、23日に終わった7月の理事会で政策金利を据え置いた(図表1)。だが、声明文の冒頭では、「(エネルギー価格の先行きは)不確実性が引き続き高く、エネルギー・ショックによるインフレへの影響は、まだ完全には現れていない」と述べ、先行きの利上げ継続の可能性を示唆した。

6月17日に米国とイランが停戦に向けた覚書を交わして以降、戦闘終結とホルムズ海峡の封鎖解除への期待から、北海ブレント原油先物価格(期近物)は一時期、2月下旬の空爆開始以前とほぼ同水準に下落する局面もあったが、中東情勢を巡る緊張が再び高まっており、足元では原油価格が100ドル/バレル台を再び窺う状況にある(図表2)。ユーロ圏のエネルギー価格との連動性が高い天然ガスの先物価格(TTFオランダ)が60ユーロ/MwHを超え、2月末の空爆開始後のピークを上回って推移しており、今後のエネルギー価格への影響が懸念される。理事会後の記者会見でエネルギー価格について問われたラガルド総裁は、「原油価格だけでなく、欧州の在庫水準が依然として低い状況を踏まえ、精製マージンやガス市場の動向についても注視している」と答えた。

声明文では最近の経済・物価環境について、「新たに得られた情報は、インフレ見通しに関する理事会のこれまでの評価と概ね整合的である。対外環境は依然として極めて不確実であるものの、最近の展開は、6月のスタッフ見通し(図表3)におけるベースラインシナリオと概ね一致している」と述べた。声明文のリスク判断では、「エネルギー価格の高止まりが長引けば長引くほど、間接的および二次的な影響を通じて、より広範なインフレを押し上げる可能性が高まる」と指摘し、先行きの物価上昇への警戒を滲ませた。

ラガルド総裁は、「一部のメンバーが7月の利上げについて議論すべきかを検討したが、最終的には全会一致で政策金利を据え置くことを決め、新たに入手可能な経済データを待って9月に利上げの是非を決断する」と述べた。9月の理事会までには、2ヶ月分の消費者物価、4~6月期の国内総生産(GDP)、2ヶ月分の家計マインド、1四半期分の1人当たり雇用者報酬、2ヶ月分の購買担当者指数(PMI)、四半期に1回のECBスタッフによる経済・物価見通しが発表され、ラガルド総裁は「これらのデータの全てを注意深く観察する」と述べた。
9月の理事会での利上げの可能性を問われた総裁は、「先行きの金融政策の指針(フォワード・ガイダンス)を提供することはせず、データに基づいて理事会毎に判断する」との原則論を述べるにとどめた。また、「エネルギー価格の上昇による二次的効果を確認しているか」を問われた総裁は、「直接的や間接的な影響は確認されるが、二次的効果の兆候はない」との認識を述べた。つまり、エネルギー価格の上昇を受けての企業の価格転嫁の動きが確認されるが、物価高を反映した賃金上昇と人件費の増加に伴う販売価格への転嫁が自己増殖的に発生する状況は、今のところ確認されていない。
6月29日~7月1日にポルトガルのシントラで行われた毎年恒例の金融政策フォーラムで、ラガルド総裁は「ユーロ圏の物価の上振れリスクと景気の下振れリスクは、数週間前と比べてよりバランスの取れたものになっている」と発言し、追加利上げへの切迫感が後退していることを示唆した。だが、その後の中東情勢の緊張再燃やエネルギー価格の再高騰を受け、ECBの警戒姿勢は強まっている。ラガルド総裁は理事会後の記者会見で「現在の政策スタンスが適切な状況にあると考えているため、現時点では(for the moment)金利を据え置くことを決めた」と述べ、先行きの利上げの可能性を否定しなかった。
中東情勢やエネルギー価格を巡る不確実性の高さに鑑みれば、先行きの利上げを縛る形の約束をこの段階でするのは得策ではない。だが、声明文の微妙な変化、既に7月に利上げを検討すべきとしたメンバーがいた事実、9月までのデータを注意深く観察するとの発言からは、利上げ見送りを正当化する余程の証拠が出てこない限り、ECBが9月の追加利上げに傾いていることが示唆される。その後の利上げ継続や利上げペースについてのヒントは現時点で少ないが、このままエネルギー価格の高騰が定着すれば、ECBは追加利上げでインフレ圧力の封じ込めに動かざるを得ない。賃金指標や期待インフレ率が比較的安定しているのであれば、今回と同様にスタッフ見通しの発表月でない10月の理事会では利上げを見送ったうえで、スタッフ見通しの発表月である12月の理事会で利上げに動く可能性が出てくる。
田中 理
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