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イタリア歴代最長政権に忍び寄る影

~新興右派台頭と選挙法改正の行方~

田中 理

要旨
  • イタリアのメローニ首相の在任期間は9月4日に第2次ベルルスコーニ政権を抜き、史上最長を更新する。だが、連立パートナーの「同盟」は支持率低迷が続き、同党を離党したヴァンナッチ氏が率いる「国の未来」が同盟を上回る7~8%程度まで支持を伸ばしている。

  • メローニ政権は来年の総選挙での続投を睨み、「比例代表制+多数派ボーナス」を柱とする選挙制度改革を進めている。ただ、新興右派の台頭で右派票が割れ、当初想定していた改革では続投を確実にできない可能性が高まっている。

  • そこで与党内では、国の未来を正式に右派の選挙連合に取り込まずとも、同党支持者の票を取り込める決選投票制を改革案に追加する案が浮上している。最終的にどのような選挙制度が成立するかが、メローニ首相の続投を占う重要な焦点となる。

7月1日付けレポート「パクス・メローニの不安材料」では、メローニ首相の在任期間が今年5月に歴代2位に浮上したと伝えたが、9月4日には第2次ベルルスコーニ政権の1412日を超え、歴代最長を更新する。メローニ首相が率いる「イタリアの同胞(FdI)」の支持率は、2022年の前回総選挙での得票率をやや上回っている。一方、かつて右派の最大政党だった連立パートナーの「同盟(Lega)」が党勢低迷に苦しんており、右派勢力全体の支持率を考えた場合、来年の総選挙でメローニ首相が続投できるかどうかは必ずしも盤石ではない。

強硬な移民政策などで支持を集めた同盟は、メローニ首相の人気に押され、イタリアの同胞に右派の最大政党の座を明け渡した。連立政権への参加後は、反体制・批判政党としての存在感も薄れている。党勢回復を目指した2024年の欧州議会選挙では、移民や多文化主義を厳しく批判する元軍人のヴァンナッチ氏を擁立し、その個人的な人気を取り込もうとした。だが、同氏は今年2月に同盟を離党し、新たな右派ナショナリスト政党「国の未来(FN)」を結党した。結党直後に2~3%程度にとどまった同党の支持率は、同盟などから強硬保守票を奪う形で最近では7~8%に上昇し、5~6%程度で低迷する同盟を上回っている。

メローニ政権は来年の総選挙での続投を目指し、選挙制度改革を進めている。改正案は7月16日に下院を通過し、9月9日に上院の本会議での審議入りを予定している。下院を通過した改正案は、小選挙区制と比例代表制を組み合わせた現行制度を改め、比例代表制を基本に、一定の得票率を超えた政党・選挙連合に多数派ボーナスを付与する内容となっている。だが、ここにきて与党内で決選投票制を組み込む案が急浮上している。背景には、国の未来の支持拡大により、当初想定した選挙制度改革ではメローニ首相の続投を確実にできなくなっていることがある。

最近の世論調査に基づけば、国の未来を右派の選挙連合に取り込まない限り、多数派ボーナスの獲得に必要な得票率に届かず、左派陣営に多数派を奪われる恐れがある。現実的な政権運営で欧州連合(EU)との衝突を回避してきたメローニ首相は、国の未来を右派陣営に組み込むことに否定的とされる。国の未来との連携は、EUとの関係悪化や中道票の離反を招く恐れがあるほか、ヴァンナッチ氏の新党結成で打撃を受ける同盟への配慮も必要となる。ヴァンナッチ氏側も無条件でメローニ陣営に加わる考えはない。

そこで浮上しているのが決選投票制だ。初回投票で何れの陣営も所定の得票率に達しなかった場合、上位陣営による決選投票を行えば、国の未来を正式に選挙連合に組み込まなくても、同党の支持者が決選投票でメローニ陣営を支持することが期待できる。国の未来の支持者が左派陣営に投票する可能性は低く、メローニ首相としてはヴァンナッチ氏との正式な連携を回避しつつ、再選の可能性を高める手段となり得る。

現在、上院には複数の改正案が提出され、与党内で最終案の調整が続いている。与党内の一部で導入論が高まる一方、同盟は慎重な姿勢を崩していない。何れにせよ、下院を通過した改正案がそのまま上院で可決される可能性は低い。上院で法案が修正されれば、下院に差し戻して再可決する必要がある。

与党は上下両院で過半数の議席を持ち、今回の選挙法改正は通常立法よりも厳格な成立要件が課される憲法改正を伴うものではない。このため、議席数だけをみれば成立のハードルは高くなく、与党は年内成立を目指している。但し、決選投票制を巡る与党内の意見対立が残るうえ、過去には憲法裁判所が選挙法の一部を違憲と判断したこともある。メローニ首相の続投を占ううえで、最終的にどのような選挙制度が成立するかが、今後のイタリア政局の重要な焦点となる。

以 上

田中 理


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田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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