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英BOEは政策金利を据え置き

~二次的効果は確認されず、様子見継続へ~

田中 理

要旨
  • BOEは7月の金融政策員会で6対3の賛成多数で政策金利を据え置いた。中東情勢を巡る不透明感が払拭されず、物価の上振れリスクが高まれば、必要な措置を講じる準備があるとの警戒姿勢を維持している。だが、エネルギー価格の上昇が賃金や価格決定に二次的効果を及ぼす兆しが現時点ではほとんど見られないとしており、利上げに対する切迫感は感じられない。同時に発表された金融政策レポートの消費者物価見通しは、中心見通しだけでなく、中東情勢緊迫時のサブシナリオも下方修正された。こうした点を踏まえると、エネルギー価格が大幅に高騰し、それが長期化しない限り、今後も政策金利を据え置くと考える。

英イングランド銀行(BOE)は7月の金融政策委員会(MPC)で、6対3の賛成多数で政策金利を3.75%に据え置いた。声明文では、「中東情勢を受け、原油および精製エネルギー価格は引き続き変動が激しく、紛争前の水準を上回って推移している」、「物価目標を達成するために必要な政策スタンスは、エネルギーショックの規模と期間、並びに、それらが金融情勢などを通じて、経済全体にどのように波及するかによって左右される」、「足元でインフレ率の鈍化が進んでいるが、エネルギー価格の上昇の影響が波及するのに伴い、今年後半には上昇が加速することが予想される」、「価格や賃金決定時の二次的効果のリスクは、エネルギー価格の高止まりが長期化すればするほど高まる」、「現時点で二次的効果を示唆する証拠はほとんど見られず、最近のデータは引き続き、基調的なディスインフレのプロセスが継続していることを示唆する」、「インフレ見通しに対するリスクが、7月の金融政策レポート(旧物価レポート)における中心見通しに比べて上振れ方向にあると判断しているが、中東情勢の展開次第では、見通しが大幅に変化する余地がある」と総括したうえで、インフレ率が中期的に2%の目標を達成する軌道に復帰することを確保するため、必要な措置を講じる準備があることを示唆した。

現状維持を主張したベイリー総裁を含む6人の委員は、「政策金利の据え置きは、紛争開始後の金融情勢の大幅な引き締めと相俟って、エネルギー価格の変動に起因する物価の上振れリスクに対する十分な保険を提供する」、「これにより、さらなる証拠を観察する時間を確保し、将来的に政策金利を変更する選択肢を残すことが可能となる」、「二次的効果の兆候が現れた場合、追加的な金融引き締めが必要となる可能性がある」、「その一方で、物価の上振れリスクが持続的に後退し、基調的なディスインフレのプロセスが継続する場合、戦略が変更される可能性もある」と指摘した

反対票を投じたのは、前回も利上げを主張したピル委員(チーフエコノミスト)とグリーン委員に加えて、マン委員が新たに利上げ支持に加わった。3委員は、「基調的なディスインフレのプロセスが続くことへの確信が弱く、二次的効果が重大なものとなることを懸念している」、「紛争が今後どのように展開するかに関する不確実性が依然として高く、リスク管理の戦略が適切である」、「先手を打って政策金利を引き上げれば、二次的効果が生じる確率を低減できる」、「二次的効果がより強くなることを想定して政策を策定し、実際にはその影響が小さかった場合に軌道修正を行う方が、その逆を行うよりもコストが低い」とし、0.25%の予防的な利上げを主張した。

4月に公表した前回の金融政策レポートでは、中東情勢を巡る不透明感が高かったことから、3つのシナリオ毎にエネルギー価格などの前提を置き、それぞれの物価見通しを提示していた。今回、新たに公表した金融政策レポートでは、従来通り、1つの前提条件に基づく中心見通しを提示したうえで、代替シナリオとして、「深刻シナリオ」と「穏健シナリオ」を作成した。消費者物価の新たな中心見通しは、6月の前年比+2.6%から、7~9月期に同+2.9%、10~12月期に同+3.2%に加速、2027年1~3月期も同+3.2%で推移した後にピークアウトし、2028年1~3月期以降は、2%の物価目標を下回ると予想する(図表1)。物価のピークは、前回4月時点の3シナリオ別のピーク(シナリオAが10~12月期に同+3.6%、シナリオBが2027年1~3月期に同+3.7%、シナリオCが2027年1~3月期に同+6.2%)を何れも下回る(図表2)。深刻シナリオのピークも2027年4~6月期に同+4.5%で、4月のシナリオCに比べて引き下げられた。

図表
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図表
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議事要旨にある通り、委員会の大勢意見は7月の中心予想よりも物価が上振れする可能性があると考えているが、早期の利上げ開始に向けた切迫感はない。また、議事要旨に掲載された各政策委員の発言要旨からは、今回政策金利の据え置きに投票した委員の中で、利上げ支持に傾いていることを伺わせる発言はなかった。委員会の政策議論を主導するベイリー総裁は、「中東情勢を背景にエネルギー価格の変動が激しく、インフレの短期的な推移は不透明である」、「紛争が繰り返し再燃する可能性に加え、欧州のガス備蓄量が例年より少ないことや、世界の精製能力が減少していることから、エネルギー価格には上昇リスクがある」、「紛争前に見られた基調的なディスインフレのプロセスは依然として進行中で、インフレの持続性が従来想定されていたよりも弱くなる可能性がある」、「労働市場は緩和基調にあり、需要環境も依然として軟調である」、「二次的効果を示す証拠は今のところほとんどないが、過度な安心感を抱くには時期尚早である」、「紛争発生以来、金融情勢は引き締まっている」、「世界情勢の不確実性が高く、インフレ傾向が高まっているが、国内の物価見通しは全体としてより緩やかな状況にあり、政策金利を据え置くことが適切である」と発言した。

こうした内容を踏まえると、BOEの大勢意見は警戒姿勢を続けているものの、今のところ二次的効果が確認されず、ディスインフレ基調が続いていることから、利上げを急ぐ必要はないと考えていることが窺える。中東情勢の緊迫化でエネルギー価格が大幅に高騰し、それが長期化しない限り、筆者はBOEが2026年を通じて政策金利を据え置くと考える。

以 上

田中 理


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

田中 理

たなか おさむ

経済調査部 首席エコノミスト(グローバルヘッド)
担当: 海外総括・欧州経済

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