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- 欧州を襲う熱波の影響は?
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欧州各地を熱波が襲っている。エアコンや飲料需要の増加を見込む声も一部にあるが、外出手控えによる飲食・小売需要の減少、訪問客減少など観光産業への打撃、農産物被害や電力需要の増加に伴う物価上昇、河川の水位低下による物流への障害、健康被害や労働時間の減少などによる経済活動への悪影響が予想される。
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今回の熱波による経済活動の下押しや物価の押し上げがどの程度の規模になるかは、発生時期、持続期間、地理的な広がり、干ばつなど他の自然災害の発生有無、政策対応、インフレ圧力の持続性などに依存する。現時点でその大きさを定量的に示すのは困難だが、ECBは過去の熱波時に、ユーロ圏の経済活動が約1%押し下げられ、食品価格が0.7%ポイント押し上げられたと試算している。
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このところ欧州各地を猛烈な熱波が襲っており、多くの都市の最高気温が40℃を超え、観測史上で最も高い記録を更新している。気温上昇の背景には、北アフリカ(サハラ砂漠)から欧州に暑い大気が流れ込み、ギリシャ文字の「Ω(オメガ)」の形に似た気圧配置「オメガブロック」が発生することで、高気圧が同じ場所に停滞しやすくなり、温かい空気が閉じ込められる「ヒートドーム」現象と重なり、猛暑が継続する。
欧州の住宅の多くにはエアコンが設置されていない。家庭のエアコン普及率は、ギリシャ、スペイン、イタリアなど、気温が上昇しやすい南欧諸国で70%前後と比較的高いが、夏場も比較的過ごしやすいアルプス以北の欧州諸国では、フランスで20%程度、ドイツで10%程度、英国で5%程度と低く、欧州全体でも20%程度にとどまる。近年は歴史的な猛暑が相次いでいることから、新築住宅を中心にエアコンの普及が進んでいるほか、暖房目的で導入したヒートポンプの冷房利用も進んでいる。だが、①多くの国ではこれまで、夏の平均最高気温が20℃台半ば程度で、猛暑日が年に数日にとどまり、わざわざエアコンを導入する必要がなかったこと、②石造りやレンガ造りの古い住宅が多いことや、景観保護などの観点で室外機の設置や外壁工事が制限されるケースもみられ、建物の改修が難しいこと、③一般に環境意識が高く、日本より電気料金が高い国も多いことから、冷房利用に対する心理的な抵抗や経済的な負担が大きかったことも、エアコンの普及を遅らせている。
欧州各地での最近の猛暑発生を受け、エアコンや飲料需要の増加、夏物商戦の長期化などを見込む声も一部にあるが、外出手控えによる飲食・小売需要の減少、訪問客減少など観光産業への打撃、農産物被害や電力需要の増加に伴う物価上昇、河川の水位低下による物流への障害、健康被害や労働時間の減少などによる経済活動への悪影響が予想される。既に、フランスでは1000人を超える超過死亡(通常を上回る死亡者)が報告されているほか、河川の気温上昇で、原子炉を冷やす冷却水が十分に使えなくなり、原子力発電所が出力を抑制している。ドイツでも鉄道の運休や速度規制のほか、山火事が発生している。イタリアでは干ばつが発生し、農作物の被害や水力発電への影響が拡大している。
気候変動の分析や政策提言を行うドイツのシンクタンクClimate Analyticsは1、2004~2022年の欧州の家計データを分析し、①熱波と干ばつが同時に起こることで、健康被害の拡大、労働生産性の低下、食料生産の減少、河川輸送やエネルギー生産の抑制などで、家計の平均所得が約3%押し下げられる、②低所得者ほど影響が大きく、所得格差が拡大し、数百万人が貧困のリスクに晒される、③今後も有効な対策が取られない場合、2100年までに世界の平均気温が約2.7℃上昇し、欧州の平均的な世帯の所得が27%減少する可能性があると指摘する。
熱波は短期的な経済活動を下押しした後、中長期的には災害からの復旧や被害の再発防止に向けた投資拡大などが経済活動を押し上げるとの見方もある。だが、熱波・干ばつ・洪水による被害が中長期的に欧州経済にどのような影響を及ぼすかを分析したUsman, Fernández & Parker (2025)2によれば、熱波に見舞われた地域の経済活動の下押しは2年後も続き、当該地域のGDPを約1.5%押し下げると試算している。干ばつや洪水では中期的な経済活動の下押しがさらに大きくなり、4年後のGDPを各々約3%押し下げると分析している。影響が長期化するのは、異常気象による不確実性、所得の喪失、被害地域からの人口流出などにより、経済活動や雇用の低迷が持続し、潜在成長率を押し下げるためだ。
気候変動に起因するインフレ圧力は、金融政策運営を難しくする。英イングランド銀行(BOE)のディングラ委員は最近の講演3で、①気温や降水量の極端な変動、自然災害、異常気象の発生が主に食料生産の減少を通じてインフレ圧力を高める、②これらの影響は非線形的で、事態が深刻になると、インフレの押し上げ効果が加速度的に大きくなる、③気候リスクが世界的な商品市況やサプライチェーンを通じて波及するため、先進国もその影響を免れることができないと論じている。供給ショックによる一時的な物価の上昇に対応して政策金利を引き上げれば、生産や雇用を不必要に下押しする可能性がある一方、より広範で持続的なインフレ圧力につながることを防止するため、賃金決定、インフレ期待、価格設定などを通じて二次効果の兆しがあれば、より強力な政策対応が正当化されると説明する。
今回の熱波による経済活動の下押しや物価の押し上げがどの程度の規模になるかは、発生時期(収穫期、観光シーズン、電力需要のピーク時期と重なるか)、地理的な広がり(ドイツやフランスなど大国に同時波及するか)、干ばつなど他の自然災害の発生有無(農業被害、河川輸送、原発の出力抑制などに影響が広がるか)、政策対応(電力補助、農家支援の有無や規模)、インフレ圧力の持続性(賃金決定、インフレ期待、価格転嫁が広がるか)などに依存する。現時点でその大きさを定量的に示すのは困難だが、欧州中央銀行(ECB)は4、2025年の熱波がユーロ圏の経済活動に約1%のマイナス影響を及ぼしたことや、2022年の熱波がユーロ圏の食品価格を0.7%ポイント押し上げたと試算している。
1 Climate Analytics (2026), As Heatwave Sweeps Europe, Study Warns of Growing Toll on Household Incomes.(閲覧日:2026年6月29日)
2 Usman, M., Fernández, C., and Parker, M. (2025), "Going NUTS: The Regional Impact of Extreme Climate Events over the Medium Term," European Economic Review, Vol. 178.
3 Dhingra, S. (2026), Running on Empty: Climate Risks and the Fragility of Global Energy and Food Supply Chains, Speech at the World Resources Institute, Bank of England, 24 June 2026.(閲覧日:2026年6月29日)
4 Parker, M. (2025), “Has the Heatwave Been Driving You Nuts?”, The ECB Blog, European Central Bank, 13 July 2025.(閲覧日:2026年6月29日)
田中 理
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

