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- 9月13日のスウェーデン総選挙は、アンデション前首相率いる社会民主党を中心とする野党陣営が優勢で、4年ぶりの政権交代が視野に入る。2022年の前回選挙では、移民・治安問題への懸念を追い風にスウェーデン民主党が右派最大政党に躍進し、穏健党など3党による連立政権を閣外から支える「ティードー体制」が誕生した。この4年間で移民政策の厳格化や犯罪対策の強化が進み、スウェーデン民主党は正式に入閣しないまま主要政策に大きな影響を及ぼしてきた。今回の選挙では医療、教育、介護など福祉政策の重要性が高まり、社会民主党に追い風となっている。政権交代すれば、福祉支出や再分配、気候政策の強化が予想されるが、移民・治安政策の厳格化やNATO加盟、防衛力強化が大幅に巻き戻される可能性は低い。今回の選挙は政権選択と同時に、スウェーデン民主党の台頭で進んだスウェーデン政治の右旋回がどこまで定着したかを問うものとなる。
9月13日のスウェーデン総選挙は、アンデション前首相が率いる社会民主主義系・中道左派の「社会民主党(S)」を中心とする野党陣営が優勢のまま選挙戦の終盤に入っている。世論調査では社会民主党が30%超の支持を集め、現政権を率いる保守系・中道右派の「穏健党(M)」や現政権に閣外協力するナショナリスト系・右派ポピュリスト政党の「スウェーデン民主党(SD)」を大きくリードしている(図表1)。何れの政党も単独で過半数に届く見込みはなく、政権発足には複数政党間の協力が必要になりそうだ。
2022年に行われた前回総選挙では、社会民主党が最多議席を獲得したものの、同党の首相続投を支持・容認する政党の合計議席が173議席と過半数(175議席)に僅かに届かず、これに対抗する右派4党が176議席を確保した。右派の最大勢力となったスウェーデン民主党の正式な政権参加には抵抗が強く、第三党の穏健党を率いたクリステンション氏が首相に就任し、キリスト教民主主義系・中道右派の「キリスト教民主党(KD)」とリベラル系・中道右派の「自由党(L)」が連立に加わり、スウェーデン民主党が閣外協力する形で右派政権が誕生した(図表2)。こうした政権協力の枠組みは、4党合意をまとめたストックホルム近郊のティードー城にちなんで、「ティードー体制」と呼ぶ。


前回総選挙後のスウェーデン民主党の政権への閣外協力は、スウェーデン政治にとって大きな転換点となった。主要政党は、極右政党と評されることもあるスウェーデン民主党との協力をこれまで否定してきたが、前回総選挙後は閣外協力という形ながら、同党が政策決定に関与するようになった。同党は連立政権には正式に参加せず、閣僚ポストが配分されることはなかったが、政権協力の枠組みを定めたティードー協定に基づき、①経済成長・家計支援、②治安対策、③移民・統合政策、④気候変動・エネルギー政策、⑤医療政策、⑥教育政策については、政策協議、予算編成、法案作成などに関与してきた。言わば、準連立メンバーのような立場にある。
とりわけ移民政策や治安対策の分野では、スウェーデン民主党の主張の多くが政権の方針に取り込まれた。スウェーデンは伝統的に寛容な移民政策を採用してきたが、EU法で要求される以上に寛容な政策を採用しない方針に改め、従来の政策を大幅に軌道修正した。具体的には、家族の呼び寄せ、福祉給付、就労許可、永住・滞在許可、国籍取得の条件を厳格化したほか、自主的な帰国や他国への再定住を奨励する移民に対する給付を増額し、不法滞在者に対する警察の捜査権限を強化し、罪を犯した外国人の国外退去を容易にするなどの措置を導入した。治安対策では、ギャング間抗争が頻発する指定区域での警察の身体・車両検査を容易にし、犯罪捜査を目的とした通信傍受の対象範囲を拡大し、ギャング犯罪の刑罰を厳格化し、子どもを犯罪活動に勧誘する行為を厳罰化するなどの改革を行った。
スウェーデン民主党は1988年に結党され、初期には反ユダヤ主義や白人至上主義的な運動に関わった人物が参加し、過激思想や極端な政策主張も目立ったため、排外主義的な極右政党として警戒されてきた。2005年にオーケソン党首が就任すると、「過激な反移民政党」から、より幅広い有権者に受け入れられる「社会保守政党」への転換を進めた。人種差別的な発言をした党員を除名処分にし、党員の服装、言葉遣い、ソーシャルメディアでの発言内容などを徹底した。党のイメージ刷新を象徴するのがロゴマークで、「青と黄色のたいまつ」から「青と黄色のアネモネの花」に変更した。前者はスウェーデン国旗と同じ色の組み合わせで、愛国主義を連想させ、欧州の多くの民族主義・極右政党が用いてきたシンボルとも重なる。後者はスウェーデンの森に自生する花で、スウェーデンの自然、郷土、伝統、素朴さ、芽吹きを連想させる。
2010年に国政進出を果たすと、2015年の欧州難民危機やギャング犯罪の増加も追い風となり、総選挙毎に得票率を伸ばし、2022年の前回選挙では社会民主党に次ぐ第二党、右派勢力内で第一党に躍進した(図表3)。移民の大幅な削減、犯罪対策の強化、スウェーデンの文化や伝統の重視、欧州連合(EU)の統合深化への慎重姿勢など社会保守的な政策主張が目立つが、支持基盤には労働者層も多いことから、福祉国家を維持しつつ、給付対象を自国民に優先する立場を採る。ポピュリスト政党の多くは、野党の立場から政権や主流派政党を批判することで、現状に不満を持つ有権者の支持を集める傾向にあるが、政権を率いる側に回ると、現実的な政策への軌道修正を余儀なくされ、有権者の離反や党勢低迷を招くことが少なくない。スウェーデン民主党の場合、移民・治安問題が近年の国民の関心事で、同党の主張の多くが政策に盛り込まれたこともあり、政権への閣外協力後も支持率が維持された。

前回総選挙が行われた2022年は、ギャングによる犯罪や銃撃・爆破事件が相次いだ時期で、長年の移民の受け入れと統合政策の失敗が犯罪増加の一因になったとの見方も加わり、治安問題や移民政策が選挙戦の大きな争点となった。また、同年3月のロシアによるウクライナへの侵攻を受け、スウェーデンの北大西洋条約機構(NATO)への加盟問題、エネルギー価格の上昇と物価高も重要な政治課題となった。今回の総選挙では、治安や移民問題が引き続き重要な争点だが、過去4年間で治安対策の強化や移民政策の厳格化が進められてきたこともあり、医療、教育、介護など伝統的な福祉国家に関連した政策が上位に並ぶ(図表4)。経済面での課題も、エネルギー政策よりも、家計の購買力や経済成長率をどう高めるか、雇用をどう増やすかなどに関心が移っている。
各種の世論調査で、主要政党の支持率が前回総選挙から大きく変わっていないなか、自由党の支持が議席獲得に必要な4%のラインを下回っている。現時点では野党陣営が政権交代に近い位置にあるが、自由党が4%の阻止条項を突破できるかが、最終的な議席配分を大きく左右する。リベラル層を地盤とする自由党は、スウェーデン民主党と協力するティードー体制に参加したことで、党内の亀裂が深まり、支持者離れを引き起こした。右派政党内で最大の支持を集めるスウェーデン民主党は、支持率低迷に苦しむ自由党への戦略投票の可能性に否定的で、右派陣営内で両党の亀裂が表面化している。

このまま世論調査通りの結果に終われば、社会民主党が主導する連立政権が誕生し、アンデション氏が首相に復帰する可能性がある。ただ、現野党の左派政党の「左翼党(V)」、環境政党の「緑の党(MP)」、リベラル系・中道政党の「中央党(C)」の間には、経済運営などを巡って意見対立もあり、4党全てが政権に参加するかどうかは不透明だ。左派政権が誕生する場合、福祉・再分配・気候政策が修正される可能性が高い一方、移民・治安・防衛分野では2022年以前への回帰は起こりにくい。具体的には、児童・学生手当の引き上げ、医薬品の家計負担軽減、若年層の歯科医療の無償化、インフラ投資の拡大、住宅建設の支援、職業訓練の充実、若年層の失業対策など、福祉分野での歳出拡大、高所得者課税強化など所得分配の重視、気候変動対策の再強化などが予想されるものの、現政権下で厳格化した移民政策や治安対策の大幅な巻き戻し、NATO加盟や防衛力強化の方針撤回は考えにくい。右派が予想以上の支持を集め、右派政権が存続する場合、現政権と同様にスウェーデン民主党が閣外協力にとどまるか、連立政権に正式に参加し、政権を主導するかが注目を集めよう。今回の総選挙は、政権交代の是非だけでなく、過去4年間に進んだスウェーデン政治の右旋回がどこまで定着したかを問う選挙でもある。
田中 理
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