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- パクス・メローニの不安材料
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就任前の不安とは裏腹に、イタリアのメローニ首相は、EUとの対立を避け、現実的な政権運営を行っている。国内での政治基盤も安定し、今年9月には戦後最長の政権在任期間の更新が視野に入る。
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盤石にみえるメローニ政権だが、来年の総選挙を控え、幾つかの不安材料が浮上している。野党勢力が共闘に傾いているほか、新たな極右政党が支持を伸ばしている。左派が統一会派を結成し、連立与党と新興極右の間で保守票が分断すれば、首相続投が危ぶまれる。
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与党は政権基盤の安定を目指し、選挙制度改正案を提出し、年内の成立を目指している。選挙制度改正の行方、野党が左派会派を結成できるか、新興極右を右派会派に取り込むかが、勝敗の鍵を握りそうだ。
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■歴代最長に迫るメローニ政権
元欧州中央銀行(ECB)総裁のドラギ首相が率いる挙国一致政権が崩壊した後、2022年9月の前倒し総選挙で勝利した右派政党「イタリアの同胞(FdI)」は、統一会派を組む極右政党「同盟(Lega)」、中道右派政党「フォルツァ・イタリア(FI)」、小規模な中道政党とともに同年10月に右派の連立政権を発足した。FdIのメローニ党首が第68代イタリア首相に就任し、同国史上初の女性首相が誕生した。
FdIはムッソリーニ支持者の元ファシスト幹部が第二次世界大戦後に設立した政党の流れを汲み、同党のロゴがムッソリーニ支持を象徴すると解釈されたことや、前身となる政党の青年部に所属していた当時10代のメローニ氏がムッソリーニを擁護する発言をしたことなどを問題視する声も聞かれた。FdIを極右政党と位置づける見方もあり、首相就任当初は、EUとの関係悪化、ウクライナ支援や対ロシア制裁の継続、財政運営を巡るEUとの衝突などを不安視する声もあった。
だが、政権発足後は、EUとの衝突を避け、欧州委員会のフォン・デア・ライエン委員長や欧州の首脳らと良好な関係を築き、ウクライナ支援や対ロシア制裁を支持し、EUの意向に沿った堅実な財政運営を続けるなど、現実的な政権運営を行ってきた。一方、国内政策では、移民対策の強化、伝統的家族観の重視など、明確な保守傾斜がみられる。
少数政党が乱立し、短命政権が多いイタリアにあって、メローニ政権は発足以来、安定した政権運営を続けており、FdIも高い支持を維持している。2018年の総選挙で4%強だったFdIの得票率は、2022年の総選挙で26%に大幅に躍進したが、その後も党勢を維持し、政権発足後の各種世論調査の支持率も30%前後で推移している。中道左派の野党「民主党(PD)」が、左派系ポピュリストの野党「五つ星運動(M5S)」などから支持を奪い、20%台前半に支持率を回復して追い上げるが、FdIとの差はなお大きい。メローニ政権の在任期間は今年5月に、第二次世界大戦後の歴代政権で第二位に浮上し、9月には第二次ベルルスコーニ政権の1412日を超え、歴代第一位を更新することが予想される。
■政権存続の鍵を握る選挙制度改正
盤石にみえるメローニ首相の政権運営だが、ここにきて幾つかの不安要素も浮上している。3月に政権主導で行われた司法制度改革の憲法改正の是非を問う国民投票は、賛成47%、反対53%で否決された。イタリアでは憲法改正を伴う法律案は、上下両院の3分の2以上の賛成多数で可決されない場合、国民投票に諮られる。今回の改正は、同一組織に所属する裁判官と検察官の分離、司法評議会(CSM)の役割見直し、懲戒裁判所の委員抽選制などを通じて、司法の中立性や公正性を高めることを目的としていた。イタリアの右派には長年、司法が左派寄りであるとの不信感があり、改革を通じて司法の権限を弱める狙いもあったとされ、野党勢などの反対派は今回の改革が政府による司法介入を招くと批判した。
メローニ首相は、イタリアの統治機能の不安定さが政策遂行の妨げになっているとし、首相公選制の導入、首相権限の強化、選挙制度改正などを目指してきた。前2者は、国民が首相を直接選び、首相の解任を難しくし、連立離脱時の政権崩壊を防ぐなどの狙いがあり、法制化には憲法改正が必要となる。後者は、選挙で勝利した会派に上乗せ議席を配分し、安定多数を確保しやすくするもので、憲法改正を伴わない通常の立法手続きで実施できる。国民投票の否決を受け、権力集中という批判に晒されやすい首相公選制の内容やタイミングを巡って、戦略の再考を迫られている。
連立与党は来年に予定される次の総選挙(議会任期満了時は12月22日以前に実施)を新たな選挙制度の下で戦うことを目指し、5月末に選挙制度改正案を提出し、6月末に下院の憲法委員会での採決を開始した。議会の夏季休会に入る前に下院を通過させ、夏季休暇後の秋に上院での審議を開始し、年内の成立を目指している。現行の選挙制度は、議席の約3分の2が比例代表制、約3分の1が小選挙区制で争われる。2022年の前回の総選挙では、右派が統一会派を組んだ一方、PDとM5Sが別々に戦い、左派票が分断したため、小選挙区の議席の多くを右派が獲得した。
現在、PDとM5Sは共闘に傾いており、両党を軸に左派が統一会派を結成した場合、右派を僅かに上回る支持を獲得する可能性があり、次の総選挙後のメローニ政権の存続が危ぶまれる。PDとM5Sは、ウクライナへの軍事支援、どちらが統一会派の主導権を握るか、誰を首相候補とするかなどを巡って意見相違が続くが、メローニ政権打倒の立場で一致しており、一部の地方選挙で統一候補を擁立し、司法制度改革の阻止で協力した。
与党の改正案は、全選挙区を比例代表で争い、約42%以上の支持を獲得した会派にボーナス議席を配分し、50%以上の議席が割り当てられる。統一会派を結成するには、事前に首相候補を一本化することが必要としている。右派がメローニ首相での一本化が比較的容易な一方、PDとM5Sの首相候補の一本化は容易でなく、左派の統一会派結成を阻止する狙いもあるのだろう。
連立与党は上下両院で過半数を持ち、選挙制度改正法が成立する可能性が高い。野党は770を超える修正案を提出し、議会審議を遅らせようとしている。また、憲法学者や憲法裁判所の長官など145名は、政府の改正案が民主的平等を損なうとする公開書簡を公表している。過去には、多数派にボーナス議席を付与する選挙制度が憲法裁判所によって違憲と判断され、廃案に追い込まれたことがある。今回の改正案は過去の判決内容を加味して、法的問題をクリアする形で改正案を設計したとされるが、法的論争に発展する恐れもある。
■新たな極右政党と保守票分断の恐れ
政権奪還を目指すPDは、2023年にシュライン氏が同党史上最年少の37歳(当時)で、女性初の書記長(党首)に就任した。同氏は中道に傾斜した党の再左傾化を進めているほか、若者・女性・市民運動家・都市部の高学歴層の支持が広がっており、一定の党勢回復に成功している。同氏は幅広い中道左派勢力の結集を目指し、M5Sや他の左派政党との連携を模索している。
対するM5Sは、反既存政党・反エリートを掲げ、「右でも左でもない」素人による政治刷新を標榜し、かつてはPDを腐敗した既成政治の象徴として敵対視してきた。だが、2018年の総選挙で勝利して誕生したポピュリスト2党による連立政権は、Legaの連立離脱に伴い崩壊した。2019年には政敵であるPDとの間で新たな連立政権を発足したほか、2021年に誕生したドラギ氏が率いる挙国一致内閣にも参加するなど、近年は反体制色を薄めてきた。首相も務めた法学者出身のコンテ氏が2021年に党首に就任し、創設者であるグリッロ氏の影響力が低下した後は、中道左派寄りの政策主張が目立つ。
左派が統一会派を結成した場合、新たな選挙制度の下でも右派が勝利するとは限らない。右派の統一会派の支持率が伸び悩んでいるのは、Legaを離党した陸軍出身のヴァンナッチ氏が結党した新興の右派ナショナリスト政党「国の未来(FN)」に支持を奪われていることがある。FNはLegaよりもナショナリズム色が強く、不法移民対策の強化と国境管理の厳格化、イタリアの主権回復とEUの権限縮小、伝統的家族観の重視、治安対策や防衛力の強化、中小企業の支援や減税などを訴えている。EUとの協調路線を維持したいメローニ政権は、これまでFNとの連携から距離を置いている。だが、保守票の分断がメローニ首相の続投を難しくする恐れがあり、今後の選挙制度改正や世論調査の動向次第では、同党を統一会派に取り込むか否かを巡って、右派内の議論が本格化する可能性がある。
田中 理
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