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2026.09.11
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トランプ政権
イラン情勢
原油高・金利上昇・円安を招いたトランプ発言
~戦争長期化とバラマキ懸念が市場の潜在的な懸念を表面化~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 中間選挙中としては異例の開催となった共和党大会において、トランプ米大統領は対イランとの戦闘が11月の中間選挙後まで続くと述べた。また、中間選挙に共和党が勝利した場合、成人一人あたり5,000ドルを支給するとも述べた。
- イランとの戦闘長期化は、ホルムズ海峡の封鎖が長期化することを意味する。同日のWTI原油先物価格は1バレル=104ドル台と、5月半ば以来となる水準へ急騰した。原油価格の高騰に加え、バラマキを示唆した政策案は、インフレ加速懸念と財政悪化懸念を高め、いずれも金利の押し上げ要因となった。米10年債利回りは2023年10月以来となる5%乗せ寸前まで上昇したうえ、米ドルの押し上げにも繋がった。
- 米国とイランの軍事攻撃が目立ってきたこともあり、原油価格が徐々に水準を切り上げ、これにつれて市場でもインフレが容易には落ち着かないことを危惧する見方が出ていたが、共和党大会でのトランプ大統領の発言は、そうした市場の懸念を一気に表面化させたと考えられる。市場の変調を受けたトランプ大統領の言動の変化にも注目だ。
1. 戦闘長期化発言で原油価格は4ヶ月半ぶりの100ドル台、インフレ加速・利上げ懸念高まる
10日に開催された米国共和党大会で、トランプ大統領はイランとの戦闘が11月の中間選挙までには終わらないと発言した。
通常、党大会は大統領選挙の年に開催され、中間選挙前に行われることは共和党では初めてだ(民主党は1970年代から80年代にかけて開催実績あり)。そうした異例の党大会が開催されたことは、それだけトランプ大統領が中間選挙に危機感を持っていることを裏付けている。
トランプ大統領の支持率は低下傾向を辿っており、中間選挙では少なくとも下院で民主党が過半数を獲得するとの見方が多い。そうなれば、トランプ大統領の任期後半は厳しい政局運営が迫られることは確実で、これを避けるために支持者へのアピールを行う場として共和党大会は開催されたものと考えられる。したがって、その場では支持率の回復に繋がるような発言が行われると予想された。
トランプ大統領の支持率低下の背景には、MAGA派の批判が強いイランへの関与があり、合わせて物価高への批判も大きい。したがって、イラン戦争の早期終結と、原油価格の下落に繋がる政策をアピールするものと考えられたが、結果はこうした期待とは“真逆”のものとなった。
トランプ大統領の発言を受けて同日の原油価格は急騰、WTI先物価格は一時1バレル=104.04ドルと、5月20日以来の高値をつけた(図表1)。

原油価格は、米国とイランの軍事攻撃がここ数日やや激しくなっていたこともあり、同90ドル台前半から半ばへじりじりと上昇していたが、トランプ大統領の発言で一気に100ドル超えとなった。中間選挙まで戦闘が終わらないということは、あと2ヶ月程度はホルムズ海峡の封鎖状態が続く公算も大きく、原油需給の逼迫は避けられないと考えられるためだ。
米国やユーロ圏の物価上昇率(前年同月比)は、5月をピークにやや鈍化した。2月末のイランへの空爆開始以降、同90~100ドル程度での推移が中心となっていた原油価格が、6月以降は同90ドル以下の水準へと下落したことに呼応している。しかし、7月以降、原油価格は再び上昇基調を辿ったことから、インフレ再加速への懸念も市場では高まっていた。実際、8月のユーロ圏HICPは前年比+3.3%と、前月の同+2.9%から伸びが拡大した。こうした市場のインフレ再加速懸念は、トランプ大統領の発言によってメインシナリオへと格上げされるインパクトがあった。
同日、ECBは先行きのインフレ高止まり懸念を背景に、追加利上げ(2.25→2.50%)を決定した(トランプ大統領の発言とは無関係)。市場では、FRBも9月のFOMCで利上げに踏み切るとの見方を強めている。将来の政策金利水準を織り込んで取引されるFF金利先物市場の動きを見ると、9月FOMCで+0.25%の政策金利引き上げが決定される確率を7割程度と織り込んでいる。
さらに、来年7月末までには、足元よりも0.75%高い4.50%までFF金利が引き上げられることを織り込んでいる(0.25%刻みで利上げが実施される場合、3回の利上げに相当)。1ヶ月前(8月10日時点)と比較すると、来年7月末までに織り込んでいる利上げ回数は1回増えたことになる(図表2)。

2. 共和党が勝てば1兆3500億ドルのバラマキによる財政悪化懸念が長期金利押し上げに
共和党大会で注目されたトランプ大統領のもう一つの発言が、選挙の結果共和党が上下両院で過半数を維持すれば、成人市民一人あたり5,000ドルを支給するというものだ。言葉通りに受け止めれば。約2億7000万人が支給対象になり、総額で1兆3500億ドルの歳出拡大となる。
米連邦政府の26年度の年間歳出額は約7.4兆ドルと見込まれているが、今回の措置はその約18%に当たり、米国の年間国防費(約1兆ドル)をも上回る。給付金と言えば、コロナ危機時にトランプ政権(第一期)とバイデン政権で合わせて3回の給付が行われたが、その合計でも一人あたりの支給額は3,500ドルであった(子供も対象、所得制限ありで総額9,310億ドル)。
給付が行われれば、米国の個人可処分所得を6%程度押し上げるため、個人消費の押し上げが期待される。一方で、足元の実質個人消費は年率2%台半ばで推移するなど好調なため、需給を逼迫させてインフレ懸念を高める要素にもなる。
この発言に反応したのが、米債券市場だ。バラマキとも取れる策による財政悪化懸念を背景に、米10年債利回りは一時4.98%と、2023年10月(5.02%)以来3年ぶりの高水準にまで上昇した(図表3)。

テクニカル分析の観点から見ると、2000年以降続いていた右肩下がりの(金利上昇への)レジスタンスライン(図中緑線:図では07年以降)を22年に切り上がり、長期的な金利低下基調が終焉していることを示唆している。加えて、23年以降の中期的な三角持ち合い(図中赤線と青線で挟まれた部分)を上抜けており、金利上昇に弾みがつきやすい形状となっている。10年債利回りが、前述した23年10月の水準を超えれば、07年のリーマンショック時以来の高水準に達することになる。当時とは異なり、米国の住宅市場は長期化する高金利で低迷しているものの、住宅市場にとっては更なる打撃に繋がる恐れが出てくる。
3. 市場は景気抑制水準への利上げをベースとしたシナリオへの変更を迫られるリスクも
一連の市場の動きは、共和党大会でのトランプ大統領の発言が招いたものだ。しかし、事態打開の糸口が見えないイラン情勢の長期化による原油価格の再高騰や、世界的なインフレ、財政悪化懸念は市場が内包していたものであり、「招いた」というよりも「表面化させた」と表現した方が適切かもしれない。
前述したように、ECBは10日に再利上げを行った結果、政策金利は2.50%とECBが試算する中立金利(1.75~2.25%)を明確に上回った。FRBが利上げを行えば、米国の政策金利も中立ゾーンを明確に上回る。利上げが一回にとどまらなければ、景気にかかるブレーキをより強く踏むことに繋がる。
株式市場においては、景気の減速を視野に入れた価格調整を余儀なくされよう。債券市場において景気の減速を視野に入れることは、長短金利差の縮小を意味する。しかし、インフレがどこまで進むか見えない中では、長期金利の上昇は続こう。加えて、日米など財政悪化懸念が強い国では、財政悪化リスクが長期金利に上乗せされる。為替市場では、不安定な中東情勢が長期化することが米ドルを支える。日本円に関しては、ここのところ日銀の利上げ加速観測などが円を押し上げて(円高)きたが、欧米の利上げに対する懸念が一段高まった状況を勘案すれば、円高への動きは抑制されることとなろう。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

