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2026.06.12
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円買い介入の可能性とその効果
~米利上げ観測が残る中では効果は一時的、日銀本格利上げも必要~
嶌峰 義清
- 要旨
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- 今年1月のレートチェック、GW中の断続的な円買い介入にもかかわらず、円高の進展は限定的なものにとどまり、ドル円相場は再び円安傾向を辿っている。先物市場における投機筋の円売りポジションは積み上がっており、再び当局による円買い介入はいつ実行されてもおかしくない。
- 2022年及び2024年に行われた円買い介入では、結果だけを見れば円安に歯止めをかけ、円高への是正に成功したものの、本格的に市場の流れが変わったのは日米の金融政策によるところが大きく、介入だけで円安の流れを変えたとは言い切れない。
- 足元の円安進展には、日銀の利上げの遅れとFRBの利上げ懸念の台頭がある。新議長の下で開催されるFOMCと、総裁不在の下で開催される日銀金融政策決定会合は、今後のドル円相場の方向性や介入の効果にも大きな影響を及ぼそう。
1. 根強い円安圧力と、再び高まる円買い介入観測
ドル円相場が再び1ドル=160円台に突入し、徐々にではあるものの更に円安方向へと進んでいる。政府日銀は4月末から5月のゴールデンウィーク中に複数回の円買いドル売り介入を行ったが、当時の為替水準(ピーク時で1ドル=160.72円)にほぼ並んだ。介入により、一時は1ドル=155.04円まで円高が進んだが、それから1ヶ月強で元の水準まで押し返された格好で、ドル買い円売り圧力が根強いことが示された。
ドル買い圧力の強さは、①不透明なイラン情勢による“有事のドル買い”、②インフレ加速懸念と堅調な雇用の回復を背景にしたFRBの利下げ打ち止めと利上げ観測の高まり、がある。一方、円売り圧力としては、①日本の金利水準が相対的に低い、②日銀の利上げのテンポが緩いうえ、政府筋から利上げを歓迎しない声があるとの指摘もある、ことなどが挙げられる(このほか、中長期的な円安要因として日本の財政懸念や対外サービス収支の赤字拡大懸念なども挙げられることが多い)。
このように、為替の水準はともかく、方向性としてはドル高円安を促す環境下にあることは間違いない。これに対し、政府日銀は投機的な円安の動きには「断固たる措置」を取ると、円買いドル売り介入を行う用意があることを繰り返している。
そこで、為替市場における“投機的な動き”の指針とされている円先物の非商業部門(主にヘッジファンドとされる)の建玉を見ると(図表1)、直近(6月2日)で円売り(ショート)ポジションは24万4416枚(1枚の取引単位は1250万円)と、GWの介入時を上回り、円キャリートレードがブームとなっていた2007年以来の高水準に達している。また、買い(ロング)ポジションとの差引でみたネットポジションは12万9567枚と、こちらもGW介入時を上回っている。

このように、円の売りポジションが膨大に積み上がっていることは、投機による円安が進んでいると解釈されやすい。ただし、見方を変えれば「将来、円を買い戻して決済しなければならない潜在的な需要」も大きいとも言える。
こうした状態で円買い介入を行い、ドル円相場の水準を円高にシフトすることができれば、損切りを迫られる投資家が現れ、それが新たな円高を招くことで損切りの連鎖を生む“ショートスクイーズ”が発生し、急激で大幅な円高に繋がる可能性もある。したがって、円売りポジションが大きいということは、潜在的な円高圧力も大きいということになる。政府日銀は、大規模な為替介入によってショートスクイーズを起こし、積み上がっている過剰な円売りポジションの解消と、日本円の水準調整を実現することを狙っていると言えよう。
もっとも、そうした事態を引き起こすことに成功しても、それが一時的なものにとどまる可能性もある。例えば、GWの介入額は11兆7349億円(4月28日~5月27日までの1ヶ月間の総額)と、一局面の円買い介入としては過去最大規模となり、ドル円相場を5円ほど円高にシフトさせることに成功したものの、前述したようにその後は介入時の水準にまで円安に戻してしまった。これは、円高にシフトしたことで投機筋の一定の損切りなどを招くことには成功したものの、円高になったことで安くなったドルに魅力を感じた投資家の新たな円売り需要が大きく、結果として円売りポジションの減少は一時的なものとなり、再び円安基調に戻ったと考えられる。
このように、ある程度円売りポジションを解消しても、また新たな円売りポジションによって相場が元に戻る背景には、ドル円相場を取り巻く環境が、ドル高円安圧力を促す状態にとどまっていることが挙げられる。
2. 過去の介入でも、環境がそろって初めて基調変化に成功していた
ここ数年、政府日銀は円買い介入を何度か行ってきた。
2022年には、9月から10月に3回に渡って円買い介入を行った(図表2)。介入規模は合計で9.1兆円とされる。円買い介入は日本の金融危機、アジア通貨危機に見舞われていた1998年以来24年ぶりとなる。

介入の理由は、円安の急伸だ。ロシアによるウクライナ侵攻を受けた資源高により、世界的に中央銀行が利上げを始め、米国は3会合連続での大幅利上げ(6~9月FOMC:それぞれ0.75%引き上げ)に踏み切る一方、日本ではマイナス金利政策を維持したことで円安が加速、8月に1ドル=130円台だったドル円相場は、9月には同145円台をつけるなど、1ヶ月で15円も円高が進んだ。
このときの1回目の介入は1ドル=145円を超えたタイミングで実施され、ドル円相場は一時1ドル=140円台にまで円高に修正されたものの、翌日以降は再び円安基調に戻り、円安は更に進んだ。その後、1ドル=151円を超えた10月には2回の覆面介入(介入をアナウンスしない)を実施した。これによりドル円相場は7円程度円高に振れたものの、3回目の介入実施後には再び円安に戻している。
最終的に円安基調に歯止めがかかり、円高基調に転じる引き金を引いたのは、11月のFOMCで4会合連続となる0.75%の利上げが実施されたことだ。米国の利上げ自体はドル高要因になるものの、この利上げによって①米景気の先行きに対する不安感が台頭したこと、②その後発表された米消費者物価統計が市場予想を下回り、利上げが最終局面に入りつつあるとの期待が高まったこと、③これらの要因により米長期金利が低下基調を辿ったこと、などにより、ドル安円高基調へと転じたと判断される。
2023年以降、ドル円相場は再び円安基調に転じると、2024年には1ドル=150円台での推移が定着した。3月半ばに日銀は黒田前総裁下での“異次元緩和”後初となる利上げを行ったものの、①利上げ幅がわずか(▲0.1%→0.0~+0.1%程度)だったこと、②緩和的な環境は当面続くとの姿勢が強調されたこと、により4月に入ると円安が一気に加速した。
介入は、同151円台から160円まで円安が進んだところで実施された(図表3)。ちょうどGWと重なったタイミングで取引が比較的薄い中、4月29日には1日としては過去最大となる5.9兆円の覆面介入が実施された。介入はもう一度実施されたこともあり、ドル円相場はGW中に同151円台まで8円強の円高に修正された。

しかし、その後はじりじりと円安が進み、6月には同160円を突破したことで、政府日銀は7月に再び介入を実施した。これにより、市場では1ドル=160円が政府日銀の“防衛ライン”と強く認識され、その後は円高が徐々に進んだ。4月と7月の計4回にわたる介入規模は15.3兆円と過去最大規模に達したことも、当局の“本気度合い”を確認させる格好となった。
ただし、円高基調が強まったのは7月末の日銀による利上げがきっかけである。利上げは0.25%への小幅なものにとどまったが、①同時に長期国債の買い入れを減額する計画を示したこと、②今後の更なる利上げに前向きな姿勢を示したこと、が市場にとってのサプライズとなった。なお、この利上げと日銀の姿勢は株価の急落(8月5日:日経平均株価▲4451.28円と過去最大の下落幅を記録)を招いたが、それだけ市場へのインパクトが大きかったということだ。
為替に影響を与える金利差を見ると、4月以降の日米の長期金利差は緩やかな縮小傾向を辿っている。米国の長期金利が高止まりする一方、日本の長期金利は3月に行われた日銀の金融政策決定会合でイールドカーブコントロールが撤廃されたことで、じりじりと上昇したことが日米長期金利差縮小に繋がった。しかし、それでもドル円相場には影響しなかったことは、為替市場には金融政策のインパクトがより大きいということの証左だろう。
3. 再び介入が実施される可能性は十分にあるが、基調を変えるほどのものとなるかは金融政策次第
前述したように、足元で再び進む円安に対し、当局は牽制姿勢を強めつつある。投機筋のポジションを見ても、介入の機は熟しつつあるように見える。介入が実施されれば、再び為替水準を円高にシフトすることに繋がろう。過去のパターンから判断すれば、介入規模にもよるが、5円程度の円高に繋がる可能性がある。しかし、介入したとしても、その後も円高基調が続くか、あるいは近いうちに再度円安基調に転じるかどうかは、日米の金融政策次第だ。
日銀の金融政策決定会合の結果は6月16日に発表される。植田日銀総裁は入院のため欠席する。植田総裁は決定会合に書面で意見を提出するとされているが、議決には参加しない。しかし、すでに各メディアで報道されているように、今回の決定会合で0.25%の利上げが実施される見込みだ。これにより、政策金利(コール無担保翌日物金利)は1.00%となるが、それでも物価上昇率(直近の消費者物価の前年対比上昇率は+1.4%:4月分)に届かず、実質ベースではマイナスのままだ。さらに、日銀は日本の中立金利水準を従来から下限値を0.1%引き上げ(引き上げは今年3月)、1.1~2.5%程度と試算しており、今回0.25%の利上げが行われたとしても中立金利水準には届かない。つまり、予想通りの利上げが行われたとしても、景気にかかる圧力は“緩和的”なままだ。
したがって、円安圧力を軽減するためには、将来的な追加利上げを示唆するなどの“タカ派的”な姿勢を示すことが求められよう。しかし、注目される決定会合後の記者会見は、入院している植田総裁の代わりに内田副総裁が行う。ピンチヒッターとしての立場で、踏み込んだ発言ができないようであれば、市場の失望を買う恐れもある。
一方、FOMCの結果は17日(米国時間:日本時間では18日未明)に発表される。FOMCについては、今回は金融政策の変更は行われないというのが市場コンセンサスだ。とはいえ、5月に就任したウォーシュ新議長の下で開催される初めてのFOMCということもあり、先行きのスタンスについてどのような示唆が行われるのかが未知数だ。市場では、強めの雇用統計と、加速する物価統計を受けて年内に利上げが実施されるとの見方が固まりつつある。
ウォーシュ新議長は、そうした市場の見方よりもハト派的なスタンスをみせるのか、それともより早い段階での利上げを示唆するようなタカ派的なスタンスを示すのかによって、市場への影響は全く異なってくる。また、合わせて発表される経済予測(ドット・チャート)も注目される。
仮に、経済予測に大きな変更がなく、利上げを急がないハト派的と受け止められる姿勢をFOMC後の記者会見で議長が示せば、米金利の低下とドル安圧力に繋がろう。そのタイミングで政府日銀が円買い介入を行えば、ドル円相場の方向性を変える可能性もある。逆に、FRBが予想以上のタカ派スタンスになっていると市場が受け止めるような内容となれば、介入を行ったとしてもその効果は限定的なものとなろう。無論、日本と米国の金融政策を待ってから介入するとは限らない。どうなるか分からない金融政策後の市場の動きが出る前に、予防的に円高へある程度修正しておくような介入が実施される可能性にも注意が必要だろう。
嶌峰 義清
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

