インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

フィリピン、2026年も経済成長率目標の達成は極めて困難か

~景気低迷とスキャンダルで政権の死に体化は必至、ペソ相場も低迷が続く可能性~

西濵 徹

要旨
  • フィリピンでは、イラン情勢の悪化による供給懸念を受けた原油高に加え、スーパーエルニーニョによる干ばつ懸念、さらにペソ安が物価上昇を招いている。4月のインフレ率は前年比+7.2%と約4年ぶりの高水準となった。これを受けて、中銀は物価と為替の安定に向け4月・6月と連続利上げを実施した。米国とイランの停戦合意により原油高は一服し、その後はインフレ率も鈍化したが、依然として目標レンジ上限を上回っている。
  • こうした逆風に加え、マルコス大統領周辺の汚職疑惑による公共投資の停滞も響き、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.25%に鈍化した。前年同期比でも+2.3%に鈍化して約5年ぶりの低成長となった。個人消費や設備投資など内需全般が低調となったことに加え、輸入減少や在庫積み増しが成長率を押し上げている面もあり、実態はより厳しいとみられる。一方、世界的なAI・半導体関連投資の旺盛さを受けた輸出拡大は下支え要因となっている。
  • 政府は2026年成長率見通しを+3.5~4.5%に下方修正したが、上半期の実績(+2.6%)はその下限をも下回った。マルコス政権は2022年発足以降、4年連続で経済成長率目標が未達となる可能性が高く、汚職問題とも相まってレームダック化が懸念される。
  • 金融市場では、対外収支悪化懸念とドル高からペソが6月に一時最安値を更新した。その後は原油高の一服や日米協調介入でやや持ち直したものの、水準は依然低い。中銀が追加利上げに慎重な姿勢を示すなか、ペソ相場は外部環境に左右されやすい展開が続くとみられる。
目次

【イラン情勢にエルニーニョ、ペソ安も重なりインフレが高止まり】

フィリピンでは3月、イラン情勢の悪化による原油・石油製品などの供給懸念の高まりを受け、「国家エネルギー非常事態」宣言が発令された。同国はエネルギー資源を輸入に依存しているうえ、その9割以上がサウジアラビアなど湾岸産油国からの輸入であった。さらに、同国の2025年末時点の原油備蓄は60日分にとどまり、供給懸念を理由に備蓄の取り崩しが進んだことも非常事態宣言の発令を後押しした。

原油や石油製品の価格上昇に加え、金融市場では通貨ペソ相場が調整して輸入物価が押し上げられたことも重なり、インフレ率は大幅に加速して4月は前年比+7.2%と約3年ぶりの高水準となった(図1)。ペソ安が進んだ背景には、イラン情勢の悪化を受けて、GDP比2%に相当する中東諸国からの移民送金が減少して対外収支が悪化するとの懸念が高まったこともある。中銀は物価と為替の安定を目的に、4月、6月と2会合連続で利上げに動いた。その後は、米国とイランの停戦合意を受けた原油高の一服を反映して、インフレ率は鈍化に転じているものの、総合・コアもともに目標レンジ(2~4%)の上限を上回る推移が続いている。

図表
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イラン情勢は依然として不透明な状況が続いており、原油価格も高止まりしている。さらに、スーパーエルニーニョの発生により、アジアでは高温、少雨・干ばつによる農業生産への悪影響が懸念される。同国は主食のコメをはじめとする農産品の多くを輸入で調達しており、農産品の価格上昇は原油高と相まって対外収支を悪化させる。食料品とエネルギーといった生活必需品を中心とする物価上昇が続くことで、経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は脆弱さが増す可能性も高まっている。このため、高金利と物価高が共存する展開が続くと見込まれ、個人消費をはじめとする内需が経済成長のけん引役となってきた同国経済にとっては逆風が強まりやすい状況にある。

【逆風が山積するなかで4-6月GDPは前期比年率+2.25%に鈍化】

このように経済成長のけん引役である内需を取り巻く環境が悪化しているうえ、同国政界では公共事業を巡る汚職疑惑がマルコス大統領の身内や側近に及ぶなか、徹底調査を受けて公共投資の進捗が停止する展開が続いている。一方、世界的なAI(人工知能)・半導体関連投資の旺盛な動きは外需を押し上げることが期待され、景気への悪影響が幾分緩和されると見込まれる。こうした状況ではあるものの、4-6月の実質GDP成長率は前期比年率+2.25%と前期(同+3.74%)から鈍化しており(図2)、3四半期ぶりの低い伸びにとどまった。中期的な基調を示す前年同期比ベースの成長率も+2.3%と約5年ぶりの低成長にとどまるなど、頭打ちの動きを強めている。

図表
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高金利と物価高の共存に加え、移民送金の頭打ちも重なり(図3)、個人消費の伸びは鈍化している。さらに、公共投資の進捗低迷のほか、原油や石油製品の不足が懸念されるなかで企業部門による設備投資にも下押し圧力がかかり、固定資本投資は大幅に減少しており、幅広く内需が低迷している。一方、世界的なAI・半導体投資の旺盛さが追い風となり、電子部品関連を中心とする輸出は堅調な動きをみせるなど景気を下支えしている。ただし、内需が弱含んだことを反映して輸入は減少しており、輸入減による成長率寄与度は前期比年率ベースで+2.22ptとプラスとなっている。さらに、在庫投資による成長率寄与度も前期比年率ベースで+3.40ptと2四半期連続のプラスと試算される。このため、足元の景気実態は数字以上に厳しい状況にあると捉えられる。

図表
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分野ごとの生産動向も、個人消費など内需の弱さが小売・卸売関連の生産を下押しする一方、IT関連やビジネス関連などの堅調さがサービス業の生産を下支えしている。さらに、原油や石油製品の供給懸念が幅広い経済活動の足かせとなるなか、製造業や鉱業部門の生産は大きく下振れして景気の足かせとなった。一方で、異常気象の影響が懸念されたものの、農林漁業関連の生産は比較的堅調な動きをみせるなど、分野ごとの生産の動きにばらつきがみられる。

フィリピン政府は、イラン情勢の悪化や汚職スキャンダルによる政府消費の鈍化などを受けて、2026年の経済成長率見通しを+3.5~4.5%に下方修正した。しかし、年前半の経済成長率は+2.6%と見通しの下限を下回る伸びにとどまっている。先行きもイラン情勢の行方に加え、スーパーエルニーニョによる異常気象の悪影響も懸念され、景気には不透明要因が山積している。2022年にマルコス政権が発足して以降、2025年まで3年連続で成長率目標が達成できない展開が続いてきたが、2026年もそのハードルは極めて高い。マルコス政権は任期満了まで約2年を残しているものの、大統領の身内や側近に汚職スキャンダルが噴出するとともに、景気低迷からの脱却の道筋を示すことができない展開が続いており、政権の「死に体(レームダック)」化が進む可能性は高まっている。

【景気の不透明感に加え、中銀の姿勢もペソ相場の重石となる展開が続くか】

金融市場では、原油高や異常気象による食料価格の上昇が懸念されるなか、対外収支の悪化やインフレが警戒されたほか、米ドル高の動きも重なりペソ相場は6月初めに最安値を更新した(図4)。足元ではイラン情勢の収束を期待した原油高の一服に加え、日本と米国による協調為替介入によるドル高一服も重なり、ペソ相場は幾分持ち直しの動きをみせている。しかし、足元の水準は依然として最安値圏にとどまるうえ、景気の不透明要因が山積するなかで上値の重い動きが続いている。先行きも景気浮揚につながる材料に乏しいなか、中銀が追加利上げに及び腰の姿勢をみせていることを勘案すれば、ペソ相場を巡る環境の大幅な改善は見通しにくく、外部環境に翻弄される展開をみせる可能性は高いであろう。

図表
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以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

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