消費者物価指数(東京都区部・2026年5月)

~水道の基本料金無償化の影響で下振れも、先行き不透明感は極めて強い~

新家 義貴

図表
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水道の基本料金無償化の影響で下振れ

本日総務省から発表された26年5月の東京都区部消費者物価指数(生鮮食品除く)は前年比+1.3%と、前月の+1.5%から上昇率が縮小し、市場予想の+1.5%を下回った。東京都で実施された水道基本料金無償化の影響により水道料が大幅に下落したことが、下振れの主因である。この措置は昨年も実施されたが、昨年(CPIへの反映:6~9月)と今年(5~8月)で実施のタイミングが異なっていることから、5月は前年比でのマイナスが大きく出た。この点が筆者を含めて事前にほぼ織り込まれておらず、その分市場予想からの下振れにつながったとみられる。

なお、今月の水道料金下落の影響は対CPIコアで約▲0.24%Ptとなっている。水道料金を除いた5月のCPIコアは前年比+1.6%と前月(+1.6%)から変わらない。水道料要因を除けば前月から大きな変化はないと言ってよいだろう。また、この水道基本料金無償化は東京都限定の措置であるため、5月分の全国CPIへの影響は限られる点に注意したい。

エネルギー以外のコアコア部分についても、日銀版コア(生鮮食品及びエネルギーを除く総合)が前年比+1.6%(4月:+1.9%)、米国型コア(食料及びエネルギー除く総合)は前年比+0.7%(4月:+0.9%)と、それぞれ前月から伸びが鈍化したが、これも水道基本料金無償化による水道料下落の影響が大きい。水道料の影響を除けば、日銀版コアは前年比+1.9%、米国型コアは前年比+1.0%となり、こちらもおおむね前月並みということになる。

以上のとおり、今月の下振れは東京都による水道基本料金無償化の影響によるところが大きい。ただし、水道料を除いても前月から伸びが高まっているわけではなく、物価の基調が強かったとは言いにくい。一部の品目で上昇はみられるものの、食料品価格(生鮮除く)は鈍化が続くなど、物価のトレンドが変化した様子はうかがえない。イラン情勢悪化による物価上振れが懸念される状況ではあるが、少なくとも5月の段階で物価の加速はみられていない。

このように、5月の東京都区部CPIは、水道料要因を除けば見た目ほど弱い結果ではないが、イラン情勢に由来する物価上昇圧力の強まりを示す内容でもない。追加利上げシナリオを否定するほどの下振れではない一方、早期利上げを後押しする材料にもなりにくい。「足元の物価の落ち着き」と「先行きの上振れ懸念」のなかで、日銀は難しい判断を迫られている。

水道料要因を除けばコアコアは概ね横ばい

電気・ガス代は前月からマイナス寄与が若干縮小した(電気・都市ガス代の前年比寄与度:4月▲0.20%Pt → 5月▲0.17%Pt)。電気・ガス代補助が4月まででいったん終了したことで前月比では+4.7%と大きく上昇したが、昨年も同じ時期に終了していたことから、前年比での影響は限られた。なお、政府は7~9月にかけて電気・ガス代補助を復活させることを表明している。これにより8~10月分のCPIは押し下げられることになるだろう((最終版)電気・ガス代補助の物価への影響 ~CPIコアを▲0.5~▲0.6%Pt、前年比で▲0.2~▲0.3%Pt押し下げか~ | 新家 義貴 | 第一ライフ資産運用経済研究所)。

食料品(生鮮除く)は前年比+4.1%(前年比寄与度:+1.03%Pt)と前月の+4.6%(同寄与度:+1.13%Pt)から鈍化した。なお、食料品(生鮮除く)の前月比は+0.4%と上昇が続いているが、昨年ほどの勢いはみられず、前年比でみればピークアウト感が鮮明となっている状況は変わらない。今月は、米類が前年比▲1.1%(4月+3.6%)と、22年8月以来の前年割れとなったことが目につく。

エネルギー以外のコアコア部分については、前述のとおり日銀版コア、米国型コアとも鈍化しているが、東京都での水道基本料金無償化の影響が大きく、それを除けばほぼ前月並みである。これまでのトレンドから大きな変化はみられない。今月は家賃、タクシー代、トレーニングパンツなどが上昇した一方、食料品価格の鈍化が続いた。

水道料金は前月比▲34.6%、前年比▲34.6%(前年比寄与度:▲0.24%Pt)と大幅に下落した。東京都が水道基本料金を無償化したことの影響が出た。前述のとおり、昨年(CPIへの反映:6~9月)と今年(5~8月)で実施のタイミングが異なっていることから、5月は前年比でのマイナスが大きく出た。6月には前年比でのマイナス寄与が消える見込みである。

先行きの不透明感は強い

先行きの物価については不透明感が非常に強い。ガソリン・灯油価格については、政府が補助金支給により価格上昇を抑制しており、ガソリン・灯油主導で物価が大きく上振れるという事態は当面回避される。電気・ガス代についても、政府が再び補助金投入・拡充で価格上昇を抑える方針を打ち出しており、少なくとも夏までは価格上昇が抑制されるだろう。

もっとも、足元ではイラン情勢に関連した調達難等により価格が上昇するものも一部にみられ始めている。現在は企業間取引の段階での価格上昇が目立つが、今後、価格上昇が川下に波及することで、消費者物価の上振れにつながる可能性がある。

また、イラン情勢に直接関係がない品目についても不透明感は強い。原油価格の高止まりや円安は、企業にとって今後の値上げの材料となり得る。かつてと異なり、企業の価格転嫁姿勢が強まっている現在、資源高や円安を理由に価格転嫁を進める企業が増える可能性があるだろう。

政府の対応にも不透明感がある。現在、補助金によりガソリン・灯油価格は抑制されているが、投入される補助額は相応の規模になることから、現行制度をいつまで維持できるかは不透明だ。補助縮小は世論の反発を招きやすいため、当面は継続される可能性が高いものの、原油調達難や財政赤字拡大の問題も絡むため、今後の政策対応には注意が必要だ。

電気・ガス代についても、夏場の補助実施により当面は上昇が抑えられるが、電気・ガス代の上昇圧力が本格化しやすいのは夏ではなく秋から冬にかけてである。補助が秋以降も継続・拡充されるのか、それとも財政懸念から抑制気味の対応にとどまるのかは、現時点では見通しにくい(電気・ガス代補助の物価への影響と今後の課題 ~夏で終わらず、秋以降の支援延長・拡大の可能性も~ | 新家 義貴 | 第一ライフ資産運用経済研究所)。

このように、原油高や調達難がいつまで続くか、円安・資源高を理由にした値上げを企業がどの程度実施するか、政府がガソリン補助金や電気・ガス代補助金をどのように運営するかによって、物価見通しは大きく左右される。先行きは決め打ちせず、状況変化に応じて見通しを柔軟に見直す必要があるだろう。

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新家 義貴


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新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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