底堅い景況感、強まる物価上振れリスク(日銀短観・6月調査)

~日銀の追加利上げ路線をサポート~

新家 義貴

要旨
  • 日銀短観6月調査では、中東情勢の緊迫化や原油・ナフサ高、供給制約への懸念にもかかわらず、企業景況感は予想以上に底堅い結果となった。大企業製造業は大きく改善し、大企業非製造業も高水準を維持した。中小企業にも大きな悪化はみられない。

  • 設備投資計画は大企業を中心に堅調であり、全規模・全産業の2026年度計画も前年比+6.8%と昨年同時期並みの水準を維持した。企業金融面でも、借入金利上昇への意識は強いが、資金繰り判断や金融機関の貸出態度判断に目立った悪化はみられない。

  • 物価面では、仕入価格判断DI、販売価格判断DIがともに大きく上昇し、コスト増の販売価格への波及が確認された。企業の物価全般の見通しも1年後、3年後、5年後のすべてで上方修正されており、物価上昇圧力が一時的なものにとどまらない可能性を示している。

  • 今回の短観は、日銀の「景気の大幅下振れリスクは低下する一方、物価上振れリスクには警戒が必要」という見方を補強する内容だった。筆者は12月利上げをメインシナリオとするが、景況感の底堅さと中長期の物価見通しの上振れを踏まえると、10月利上げの可能性も幾分高まった。

1. 予想以上に底堅い景況感。強まる物価上振れリスク

本日公表された日銀短観6月調査は、企業景況感の予想以上の底堅さと物価上振れ圧力の強まりが同時に確認される結果となった。中東情勢の緊迫化や資源価格の上昇、供給制約への懸念が企業マインドを下押しする可能性が警戒されていたが、大企業製造業の業況判断DIは前回調査から大きく改善(17→22)し、大企業非製造業も高水準を維持(36→37)した。懸念されていた中小企業についても大きな悪化はみられず、景況感は良好なままだ。少なくとも足元では、地政学リスクやコスト高が企業景況感を大きく冷え込ませている状況ではない。なお、今回短観の回収期間は5月28日~6月30日だが、回収基準日は6月11日で、それまでに7割程度の回答が済んでいた模様。米国とイランの合意による先行き不透明感の和らぎについては十分反映されていないとみられるが、そのもとでも良好な景況感が示されたことは前向きに受け止められる。

設備投資や企業金融の面でも、企業活動が大きく萎縮している様子はうかがえない。中小企業に一部弱さはあるものの、設備投資計画は大企業を中心に堅調であり、省力化、デジタル化、設備更新、AI関連投資などを背景に、企業の投資意欲は大きく損なわれていない。企業金融面でも、資金繰り判断や金融機関の貸出態度判断に目立った悪化はみられなかった。少なくとも6月調査時点では、これまでの金利上昇が企業活動を大きく抑制している兆候は確認されない。

一方、物価面では全体的に上振れが目立った。仕入価格判断DI、販売価格判断DIはいずれも大きく上昇し、原油・ナフサ高などを起点とするコスト上昇が、企業間取引から販売価格へ波及しつつあることが確認された。加えて、企業の販売価格見通しだけでなく、物価全般の見通しも1年後、3年後、5年後のすべてで上方修正された。特に重要なのは、物価全般の5年後見通し(全規模・全産業)が小幅ながら上方修正され、2%台半ばの水準となっている点である。これは、足元の物価上昇圧力が一時的なコスト増にとどまらず、長期的にも物価上昇率が高めに推移すると見込む企業が増えている可能性を示している。

日銀が警戒しているのは、原油高による一時的な物価押し上げそのものではなく、それが企業の価格設定行動や中長期の予想物価上昇率を通じて、基調的な物価上昇率を押し上げることである。今回、販売価格見通しがまとまった幅で上方修正され、物価全般の5年後見通しも上振れたことは、企業の中長期的な物価観が切り上がりつつある可能性を示す。人手不足感が依然として強く、賃金・人件費面からの上昇圧力も残るなか、日銀は基調的物価が2%を超えて上振れるリスクへの警戒を強める可能性があるだろう。

このように、今回の短観では、①イラン情勢悪化のなかでも企業の景況感は予想以上に底堅い、②設備投資計画も良好で、投資先送りの動きは全体として限定的、③金融環境は緩和的、といったことが確認されており、企業部門の強さを示す結果となった。政府による代替調達が進展していることや、米イランの戦闘終結に向けた合意なども踏まえると、景気の下振れリスクはひところに比べて後退しているといえるだろう。一方、④企業がコスト増を販売価格に転嫁していく可能性が高まっていること、⑤物価上昇が一時的なものにとどまらず、基調的な物価上昇率が2%を超えて上振れていくリスクが示唆されること、など物価関連項目については全体的に上振れが目立った。今回の短観は、日銀の「景気の大幅下振れリスクは低下する一方、物価上振れリスクには警戒が必要」という見方を補強する内容であった。

金融政策について、筆者は12月利上げを予想しているが、今回の短観を踏まえると、10月利上げの可能性も幾分高まったとみている。日銀は夏場から秋口にかけてのCPIや企業物価、9月短観における企業の物価見通しや資金繰り判断などを確認したうえで、次回利上げの時期を判断することになろう。仮に、消費者物価への波及や中長期の物価見通しの上振れが一段と明確になれば、日銀が12月を待たず、10月会合で追加利上げを検討する余地もある。

2. 業況判断

業況判断DIは、事前の悪化懸念に反して総じて良好な結果となった。大企業製造業は前回3月調査の+17から+22へ5ポイント改善し、2018年3月以来の高水準となった。事前には、中東情勢の緊迫化や原油・ナフサ価格の上昇、供給制約の影響から小幅悪化が見込まれていたが、実績は市場予想を大きく上回った。大企業非製造業についても悪化が見込まれていたが、実際には+36から+37へ小幅改善し、高水準を維持した。製造業、非製造業とも想定以上に強く、企業部門の底堅さを示す結果となった。

図表
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製造業(大企業)では、AI・半導体関連需要や設備投資関連需要の強さが景況感を押し上げた。業種別には、生産用機械が+26から+36、電気機械が+22から+29、業務用機械が+15から+23、非鉄金属が+23から+36へ改善しており、半導体関連や機械関連の堅調さが目立った。原油高や資材価格上昇の影響を受けやすい石油・石炭製品は+18から+9、窯業・土石製品は+25から+11へ悪化したものの、製造業全体では、こうした一部素材業種の弱さをAI・半導体関連や設備投資関連の改善が上回った形である。

非製造業(大企業)では、小売が+26から+33、宿泊・飲食サービスが+34から+46へと改善した。足元で実質賃金が増加に転じていることもあり、個人消費は底堅く推移しているが、このことが消費関連業種の業況を支えたとみられる。一方、建設などでは小幅な悪化もみられ、コスト高の影響を受けやすい業種には慎重さも残る。

中小企業についても、大きな悪化はみられなかった。中小製造業は+7から+9へ改善し、中小非製造業は+16から+15へ小幅悪化にとどまった。いずれも事前予想(製造業:4、非製造業:14)を上回っている。中小企業は価格転嫁力や資金調達力の面で大企業より脆弱であり、今後のコスト上昇や需要鈍化への耐性には引き続き注意が必要であるものの、少なくとも足元までは、中東情勢の悪化が中小企業の景況感を大きく冷え込ませている様子は窺えない。

先行き判断DIは大幅に低下した。大企業製造業は足元の+22から先行き+17へ、大企業非製造業は+37から+28へ低下している。中小企業でも、製造業は+9から+2へ、非製造業は+15から+8へ低下した。もっとも、こうした先行き判断の悪化は割り引いてみる必要がある。短観の先行き判断DIは、現状の景況感が高水準にある局面ほど保守的に出やすい傾向がある。さらに、今回調査では米国とイランの合意による中東情勢の緊張緩和が十分織り込まれていない可能性もある。今回の先行きDIの低下は、企業が先行きについて慎重姿勢を強めていることを示すものではないだろう。

3. 設備投資計画

設備投資計画は、大企業を中心に堅調だった。2026年度の設備投資計画は大企業・全産業で前年度比+11.5%と、3月調査から大きく上方修正された。これはおおむね例年の修正パターンに沿った動きであり、修正幅も例年並みである。中東情勢の緊迫化や原油・ナフサ価格の上昇、供給制約への懸念が設備投資の先送りにつながる可能性も警戒されていたが、少なくとも大企業については、投資意欲が大きく損なわれている様子はみられない。省力化、デジタル化、設備更新、AI・半導体関連投資など、構造的な投資需要が引き続き下支えしているとみられる。

もっとも、中小企業の計画には一部で懸念もある。2026年度計画は中小企業・全産業で前年度比▲8.3%とマイナスで、通常、6月調査では上方修正されやすいにもかかわらず、今回は3月調査から小幅に下方修正されている。25年度実績が例年以上に大幅に上方修正されたことで26年度計画が低めに出ている(修正率はプラス)面が大きいとみられ、過度な懸念は不要と思われるが、コスト高や先行き不透明感が中小企業の投資判断を慎重化させている可能性も否定はできないため注意しておきたい。今後、原油価格の下落や調達難の解消等を受けて、中小企業の設備投資意欲が改善していくかどうかを、次回調査以降で確認したい。

このように中小に一部懸念はみられるものの、設備投資全体でみれば弱い結果ではない。全規模・全産業の2026年度計画は前年度比+6.8%と、3月調査から大きく上方修正された。昨年同時期の2025年6月調査における2025年度計画は+6.7%であり、今回の計画はこれとほぼ同水準である。製造業は+7.5%と昨年同時期の+12.4%を下回る一方、非製造業は+6.4%と昨年同時期の+3.6%を上回っており、非製造業の投資計画の強さが全体を支えている。中小企業の慎重さには注意が必要だが、設備投資全体としては底堅さを保っていると評価してよいだろう。

図表
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4. 企業金融関連

企業金融関連項目でも、企業の資金調達環境が大きく悪化している様子は確認されなかった。全規模・全産業の借入金利水準判断DIは+61と高水準にあり、企業は借入金利の上昇を意識している。先行きについても+67とさらに上昇しており、今後も金利上昇が続くとの見方が根強い。金融引き締めの影響は、少なくとも企業のコスト認識には表れているといえる。

ただし、借入金利の上昇が、現時点で資金繰りや金融機関の貸出姿勢を大きく悪化させているわけではない。全規模・全産業の資金繰り判断DIは+11と前回調査から改善し、金融機関の貸出態度判断DIも+13と横ばいだった。大企業だけでなく、中小企業でも資金繰り判断や貸出態度判断に目立った悪化はみられない。借入コストの上昇は企業に意識されているものの、銀行の貸出姿勢が急速に厳格化したり、企業の資金繰りが悪化したりする段階には至っていない。少なくとも6月調査時点では、企業金融環境に目立った変調はみられず、これまでの金利上昇が企業活動を大きく抑制している兆候は確認されない。

なお、6月会合で決定された政策金利引き上げの影響は、今回調査では十分反映されていないとみられる。今後、9月調査以降で資金繰り判断や貸出態度判断に悪化が出てくるかどうかを確認する必要がある。

図表
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5. 物価関連

物価面では、足元のコスト上昇圧力に加え、中長期の物価見通しにも上振れがみられた。

価格判断DIは、仕入価格、販売価格ともに大きく上昇した。大企業製造業では、仕入価格判断DIが前回調査の+46から+62へ、販売価格判断DIが+28から+40へ大幅に上昇した。大企業非製造業でも、仕入価格判断DIは+46から+56へ、販売価格判断DIは+32から+40へ上昇している。原油・ナフサ高や調達難などを起点とするコスト増が、企業間取引から販売価格へ波及しつつあることが確認された。

企業の先行きの価格転嫁姿勢も強い。販売価格判断DIは、現状だけでなく先行きでも高水準が維持されており、特に中小企業では先行きの販売価格判断DIが足元から一段と上昇している。中小製造業では足元の+40から先行き+52へ、中小非製造業では+38から+45へ上昇する見通しである。これは、価格転嫁が今後も続くとみる企業が多いことを示している。

図表
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こうした足元の価格転嫁圧力だけでなく、中長期の物価見通しにも上振れがみられた点も重要である。企業の物価全般の見通し(全規模・全産業)では、1年後が前年比+2.7%(3月調査:+2.6%)、3年後が+2.6%(同+2.5%)、5年後が+2.6%(同+2.5%)となり、いずれも前回調査から上方修正された。上方修正幅自体は大きくないが、1年後だけでなく、3年後、5年後の見通しまでそろって切り上がった点は重要である。

図表
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通常、原油高やナフサ高などによる一時的なコスト増であれば、企業の物価見通しは短期的に上振れするものの、いずれ影響は一巡し、物価上昇率も低下に向かう。一方、中長期の見通しは、賃金上昇や価格転嫁の定着度合い、企業の予想物価上昇率を反映しやすい。5年後の物価見通しが+2.6%と2%台半ばの水準になっていることは、企業が物価上昇率の高止まりをある程度織り込み始めている可能性を示すものと言えるだろう。

日銀にとって問題なのは、原油高による一時的な物価押し上げではなく、それが企業の価格改定行動や中長期の予想物価上昇率に波及し、基調的な物価上昇率が+2%を超えて上振れていくことである。今回の結果は、物価上昇圧力が一過性にとどまらず、より持続的なものになるリスクを意識させる内容であり、日銀の追加利上げ路線を支える材料になるとみられる。

新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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