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2026.04.20
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FRBはAI革命で利下げに向かえるか?
~結局データ次第~
前田 和馬
- 要旨
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新たなFRB議長候補であるケビン・ウォーシュ氏は21日の上院公聴会に出席する。公聴会では一部が非開示である個人保有資産、イラン情勢と原油高への金融政策対応、AI普及による経済への影響、に焦点があたるとみられる。
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多くのFOMCメンバーはイラン情勢の影響を見極める「様子見」姿勢を示している。ウォーシュ氏がこうしたスタンスを踏襲するのか、或いは「混乱が短期的に収束すれば」など条件付きで利下げ姿勢を示すのかが注目される。
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AI普及が生産性「水準」を上昇させ即座に供給力を強める場合、これはディスインフレ圧力となりFRBの利下げへと繋がる。一方、生産性「成長率」を加速させ、消費や投資の需要が供給力の増加を上回る場合、AI普及はインフレ圧力となりうる。
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マクロ的な影響のほかにも、AI普及は格差や若年失業などを引き起こす懸念があり、金融政策に与える影響には不透明な部分が強い。こうしたなか、FRBが新体制においても経済・物価のデータを重視する姿勢は変わらないと見込まれる一方、ウォーシュ氏がFOMCメンバーに対して「AI普及=利下げ要因」とどれだけ主張するのか(説得できるのか)が注目される。
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新たなFRB議長に指名されたケビン・ウォーシュ氏は4月21日に上院銀行委員会の公聴会に出席する。公聴会の焦点は、①1億ドルを超えるとみられる個人保有資産と倫理上(利益相反等)の懸念の解消、②イラン情勢と原油高を踏まえた金融政策スタンスへの考え、③生成AIによる経済・物価への影響、以上の3点とみられる。①に関して、ウォーシュ氏は機密保持契約を理由に一部資産の詳細を開示しておらず、これを民主党のウォーレン上院議員が問題視している。また、共和党のティリス上院議員はパウエル現FRB議長に対する刑事捜査が終結するまでFRB人事を承認しない姿勢を示すなど、パウエル議長の任期満了(5月15日)までにウォーシュ氏が議長職に就任できるかは不透明だ。
他方、ウォーシュ氏の就任後の金融政策スタンスを占う上では②③に関する発言が注目される。
イラン情勢:現FRBは様子見スタンス
原油高はガソリン価格上昇を通じて総合インフレ率を押し上げる一方、ガソリン高による消費マインドの悪化は景気を抑制する要因となる。こうした状況下での金融政策判断は双方のリスクバランスをどう評価するかに依存する。3月FOMC(3月17~18日開催)の議事要旨では、複数(Some)の参加者が「(近年の高インフレを背景に)長期のインフレ期待がエネルギー価格に敏感な可能性」を指摘した。加えて、「声明文において、利下げと利上げの双方(two-sided)の可能性を示唆すべき」と主張した参加者が、前回1月FOMCより増加した模様だ(「Several」→「Some」)。一方、ミラン理事は3月FOMCを含めて年内3~4回の利下げを主張するなど、インフレ率が1年程度で鎮静化することを前提に、労働市場の冷え込みに対処すべきと主張する。
パウエル議長を含めた大半のFOMC参加者は「イラン情勢による米国経済の影響を評価するのは時期尚早」と考えるなど、双方のリスクがあるなかで「様子見」の姿勢を示している。トランプ大統領が積極的な利下げを主張しつづけるなか、ウォーシュ氏が影響を見極める姿勢を示すのか、それとも雇用の悪化リスクを強調する、或いは「混乱が短期的に収束すれば」など条件付きで利下げ姿勢を示すのかが注目される。
生成AI普及はインフレ圧力?
2025年11月のWall Street Journalへの寄稿において、ウォーシュ氏は「AIは生産性向上と米国の競争力強化を通じ、大きなインフレ抑制要因になる」と指摘した。一方、複数の現FRB理事は「AI普及=利下げ」との考えに慎重な見方を示している。こうした見解の相違は、AIによる供給力の拡大に対して、需要がどれだけ先んじて伸びると考えるかの違いに起因する。FRBによるマクロ経済モデル(FRB/USモデル)のシミュレーションでは下記の通り整理できる(資料1)。なお、ここでの生産性は全要素生産性(TFP)を意味する。
① 生産性水準の上昇:生産性水準の上昇は経済の供給力を直ちに高め、需給ギャップをマイナスへと転化させる(需要<供給)。これはインフレ率を抑制する要因となり、FRBに利下げを促す。
② 生産性成長率の加速:生産性成長率の加速は、経済の供給力を毎年緩やかに高める。これと同時に、家計は高成長を前提に生涯所得の拡大を予想し、前倒しで消費を増やす。前倒し消費の規模が生産性の伸びを上回る場合、需給ギャップはプラス(需要>供給)となり、インフレ圧力が増大する。こうした状況に対してFRBは利上げで対応する。

90年代後半以降のTFP上昇率の推移をみると、①よりも②の推移に近い。すなわち、生産性上昇率が加速し、それが10年程度かけて徐々に減衰していくイメージとなる。仮に②のように「需要>供給」となる場合、AI普及はインフレ圧力となる可能性がある。ただ、水準と成長率という両者のショックが複合的に生じるシナリオのほか、リアルタイムでこれらを識別しにくいことを踏まえると、実際にAIが「インフレ圧力かデフレ圧力か」を単純に結論付けることは難しい。

その他の考慮事項:格差論
こうしたマクロ要因のみならず、AI普及の影響を巡っては幾つかのミクロ的な論点もある。
まず、AI普及による格差への影響だ。例えば、AIによる労働代替で資本収益率が上がるのであれば、富は富裕層により一層集中する。一般的に富裕層の貯蓄率は低中所得層よりも高いため、これは経済全体の貯蓄率を押し上げ、資金供給の増加は中立金利(景気を熱しも冷ましもしない金利水準)を低下させる。これはFRBに利下げを促す要因となる。
また、AIがもたらす失業にどう対処するのかも焦点となる。足下ではAIによる労働代替で新卒採用が抑制される動きがみられ、こうした状況の持続は若年層の人的資本蓄積に影響を及ぼす。一方、クック理事は2月24日の講演において「こうした構造的な失業に金融政策では対処できない」と述べるなど、AI失業による利下げに否定的な見解を示している。
他方、AIブームによるデータセンターや半導体関連の強い需要がインフレ圧力となっている場合、利上げを通じてこうした需要を抑制可能かも議論になるかもしれない。例えば、David and Gourio(2023)はソフトウェア等の無形資産投資は金利に反応しづらく、金融引き締めの影響は伝統的な有形投資に影響しやすいことを主張する。利上げでAIブームを抑制しにくい一方、高金利はAI関連以外の投資を抑制する(クラウディング・アウトが生じる)懸念がある。
結局、利下げに迎えるのか?
結局、AI普及による景気と金融政策へのインプリケーションには様々な論点があり、直ぐにFRB内でのコンセンサスに達するとは思えない。こうした状況下において、FRBの政策判断は引き続き足下のインフレ及び労働市場の動向に大きく依存するだろう。イラン情勢、AI普及、トランプ関税の影響などで不確実性が非常に高いなか、パウエル現体制と同様に「金融政策は決められたコースにない」とのスタンスを維持するとみられる。加えて、こうしたデータ重視の姿勢から一定の将来予測を政策に反映するうえでは、新議長となるウォーシュ氏が合議制のFOMCでどの程度の指導力を発揮できるかが焦点となるだろう。複数のFOMCメンバーがAI普及による利下げに対して慎重姿勢を示すなか、ウォーシュ氏が「AIはディスインフレ圧力」との主張を押し通せるのであれば、中東情勢が鎮静化する状況下で年後半の利下げが現実味を帯びることとなる。
【参考文献】
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David, Joel and François Gourio(2023), “The Rise of Intangible Investment and the Transmission of Monetary Policy,” Chicago Fed Letter, No. 482, August 2023.
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Warsh, Kevin(2025), “The Federal Reserve’s Broken Leadership,” The Wall Street Journal, November 16, 2025.
前田 和馬
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 前田 和馬
まえだ かずま
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: 米国経済、世界経済、経済構造分析
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