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2026.03.25
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フィリピンがエネルギー非常事態宣言、マルコス政権は窮地に
~対外収支悪化とペソ安によるインフレ加速で金融政策見直し必至、政局不透明感が高まる懸念も~
西濵 徹
- 要旨
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フィリピンのマルコス大統領は3月24日、「国家エネルギー非常事態」を宣言した。中東情勢の緊迫化による原油や天然ガス価格の上昇を受けて、エネルギー資源の9割以上を中東輸入に頼るフィリピンでは、原油備蓄が約45日分に低下しており、供給危機への警戒感が高まっていることが背景にある。
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金融市場では、資源価格の上昇による対外収支の悪化を理由にペソ安が進んでいる。さらに、資源価格の上昇とペソ安が重なる形でインフレ加速リスクも増大している。2025年のインフレは中銀目標の下限を下回る推移が続き、中銀は利下げ路線を維持してきた。2025年の経済成長率は+4.4%にとどまり、3年連続で政府目標を下回った。よって、中銀は2月会合ではハト派姿勢を一段と強めてきた。しかし、政府内ではインフレが二桁台に達する可能性も指摘されており、中銀の政策運営にも見直しが必要になっている。
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政府は省庁横断委員会の設置や海外からの原油調達、生活必需品の流通統制など緊急措置を講じるほか、EVや再生可能エネルギー普及など長期戦略の検討も進める方針である。しかし、運輸事業者らのストライキも予定されるなど、経済への打撃は避けられない。2028年の大統領選を控え、対立するドゥテルテ副大統領が出馬を表明するなど政局も流動化しており、マルコス政権の求心力低下が一層加速しかねない。
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フィリピンのマルコス大統領は、3月24日に「国家エネルギー非常事態」を宣言する大統領令に署名した。イスラエルと米国によるイランへの軍事行動をきっかけに、中東情勢は緊迫度を増すとともに、原油や天然ガスなどエネルギー資源の供給懸念を理由に価格が上昇している。フィリピンはエネルギー資源を輸入に依存しており、その9割以上を中東からの輸入が占めている。フィリピンでは元々、2025年末時点における原油備蓄が60日分程度にとどまっていたことに加え、足元では消費水準に基づくと約45日分程度に減少している模様である。こうしたなか、宣言においては、エネルギー供給の著しい不足、もしくは差し迫った危機があるとの認識が示された。
金融市場においては、イラン情勢の悪化がアジア新興国に深刻な悪影響を与えるとの見方が広がっている(注1)。フィリピンは、原油・石油製品や天然ガスの収支(輸出と輸入の差し引き)がGDP比3%程度の赤字と試算され、原油や天然ガスの価格上昇は輸入増を通じて収支の悪化を招くことが懸念される。対外収支の悪化という悪材料に加えて、金融市場では「有事のドル買い」の動きも重なり、足元の通貨ペソ相場は最安値圏で推移している。前述のようにフィリピンはエネルギー資源の大部分を海外からの輸入に依存しており、ペソ安による輸入物価の押し上げも重なり、インフレ圧力が高まるリスクが高まっている。

一方、フィリピンでは2025年以降、インフレ率が中銀目標(2~4%)の下限を下回る伸びで推移してきた。さらに、公共事業を巡る汚職問題をきっかけに公共投資が停滞していることに加え、年末にかけて台風被害が重なったこともあり、2025年の経済成長率は+4.4%にとどまり、マルコス政権が発足して以降3年連続で政府目標に届かない事態となっている(注2)。こうしたなか、中銀は2024年から断続的な利下げを実施しており、2月の定例会合でも追加利下げを決定したうえで、利下げ局面の終了が近いとした認識を撤回するなど、ハト派姿勢を一段と強める動きをみせた(注3)。しかし、直近2月のインフレ率は前年比+2.4%と加速しているうえ、先行きは原油や天然ガスの価格上昇、金融市場におけるペソ安の進行も重なり、インフレが加速する可能性が一段と高まっている。バリサカン国家経済開発庁長官も、原油上昇に伴う様々なシナリオのうち「最悪の事態」として、インフレ率が二桁台に達する可能性に言及している。

非常事態宣言では、燃料や食料品、医薬品、農産物といった生活必需品の供給や流通の統制を目的とする省庁横断の委員会を設置することを明らかにした。さらに、備蓄確保に向けて、海外から100万バレル規模の原油調達に取り組むとともに、政府が迅速に供給確保を図るべく、燃料や石油製品の調達に関する契約金の一部前払いを可能にするとした。加えて、公共交通機関や医療施設など生活関連インフラの運用継続支援のほか、エネルギー価格上昇による影響を受けやすい事業者などに対する公的支援の強化に動く。そのうえで、長期的な戦略として、石油製品の消費削減に向けた電気自動車(EV)普及や再生可能エネルギー導入などの検討も行われる見通しである。一方、燃料価格の上昇と政府の対応が遅れていることを受けて、運輸事業者や消費者団体などは3月26日から2日間のストライキを計画しており、幅広い経済活動に悪影響が出ることは避けられない。フィリピンでは、2028年に次期大統領選の実施が予定されており、現行憲法ではマルコス氏は再出馬できない一方、ここ数年マルコス氏と対立しているサラ・ドゥテルテ=カルピオ副大統領が出馬を表明している。エネルギー供給懸念への対応に苦戦すれば、マルコス政権の「死に体」化が一段と加速することが予想されるとともに、政局もそうした流れに沿う動きをみせる可能性に注意が必要であろう。
注1 3月24日付レポート「アジア新興国にイラン情勢悪化の悪影響が色濃く出る背景とは?」
注2 1月29日付レポート「フィリピン25年成長率は+4.4%どまり、3年連続で目標未達」
注3 2月19日付レポート「フィリピン中銀、追加利下げに加えて「ハト派」姿勢を強める」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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