電気代はいつ上がるのか

~電気代が秋から冬にかけて大きく上昇する理由。支援延長・拡充が論点に~

新家 義貴

要旨
  • 政府は7~9月使用分を対象に電気・ガス料金支援を実施する方針だが、3月以降の原油価格上昇の影響が電気料金に本格的に反映されるのは、夏ではなく秋から冬にかけてとなる可能性が高い。
  • 国際原油価格が日本の原油輸入入着価格に反映されるまでには、船積み・輸送・通関などを経て1~2カ月程度のラグがある。
  • 電気料金に直接効きやすいのは原油そのものよりLNG価格。日本のLNG輸入では原油価格連動型の契約が多いため、原油高は数カ月遅れてLNG輸入価格を押し上げやすい。
  • 燃料費調整制度では、原油・LNG・石炭の3カ月平均の輸入価格をもとに調整単価を計算し、2カ月後の電気料金に反映するため、制度上も追加的なタイムラグが生じる。
  • その結果、原油価格上昇の影響が家計の電気料金に本格的に表れるのは、夏ではなく秋から冬にかけてとなる可能性が高く、支援終了後の追加対策や財源確保が今後の論点となる。

電気代の上昇が本格化するのは夏ではない

政府は今年の夏、電気・ガス料金への支援を実施する方針である。対象は7~9月の使用分で、電力需要が高まる夏場に家計や企業の負担を抑える狙いがある。猛暑が見込まれるなか、電気代を気にして冷房利用を控えれば、熱中症など健康面のリスクが高まる。したがって、夏に支援を集中させる政策には一定の合理性がある。

しかし、ここで注意したいのは、3月以降の原油価格上昇が、夏の電気代にすぐ反映されるわけではないという点である。むしろ、燃料価格上昇の影響が電気料金に本格的に表れるのは、秋から冬にかけて(特に冬)となる可能性が高い。夏場は政府支援によって料金上昇が抑えられる一方、支援が終わった後に、遅れて燃料高の影響が表面化する可能性がある。

筆者は以前からこの点について指摘していたが、過去レポート1の発行後、「なぜ、夏ではなく、秋から冬に電気代上昇が本格化するのか」という問い合わせを多くいただいている。原油価格が上昇したのは3月初めであり、秋から冬ではタイムラグとして長すぎるのではないかという疑問である。こうした燃料費上昇から電気代上昇までの時間差を理解するためには、燃料費調整制度を通じた電気料金の決まり方、日本の火力発電における燃料構成、輸入燃料価格の決まり方などを押さえる必要がある。以下では、電気代の上昇がなぜ秋から冬にかけて本格化しやすいのかについて、できるだけわかりやすく解説したい。

理由その① ~入着までのタイムラグ~

まず、国際原油価格が上昇しても、それが日本の輸入入着価格に反映されるまでには時間差がある。ニュースで報じられる原油価格は、WTIやドバイ、ブレントなど、国際市場で取引される価格である。一方、日本の貿易統計に表れる原油輸入価格は、日本に実際に入着した原油のCIF価格、つまり原油そのものの価格に輸送費や保険料などを含めた価格である。国際市場で原油価格が上昇した時に、日本の輸入統計上の価格が同時に上がるわけではない。

日本が輸入する原油は、国際市場で価格が決まり、契約・船積みを経て、タンカーで日本まで輸送される。その後、通関を経て、貿易統計上の輸入価格として反映される。この一連の流れには一定の時間がかかる。国際原油価格の変動が日本の原油輸入価格に反映されるまでには、一般に1〜2カ月程度のラグがあると考えられる。

理由その② ~輸入LNG価格の決まり方~

電気料金を考えるうえでは、原油価格そのものよりも、まずLNG(液化天然ガス)価格の動きが重要である。家庭の電気料金に直接影響するのは、発電に使われる燃料の価格だからだ。日本の電力会社は火力発電の燃料として、LNG、石炭、重油・原油などを使用している。このうち、石油系燃料(原油や重油など)の比重はかつてに比べて小さくなっており、電気料金への影響という点では、LNGや石炭の価格変動の方が大きい。したがって、電気代の先行きを見るには、原油価格だけでなく、LNG価格がどう動くかを確認する必要がある。

ここで重要なのは、日本のLNG輸入価格が原油価格の影響を受けやすいという点である。LNGは天然ガスであり、本来、原油とは別の市場で取引される。国際的なLNGスポット価格は、天然ガスの需給、欧州やアジアの在庫、気温、発電需要、輸送制約などによって決まる。一方、原油価格は産油国の生産方針、世界景気、地政学リスクなどに左右される。このため、国際LNG価格と国際原油価格は、必ずしも似た動きをするわけではない。

もっとも、日本のLNG輸入価格については事情が異なる。LNGの取引には、その都度購入するスポット契約と、長期・中期で継続的に購入するターム契約がある。スポット契約では、契約時点のLNGスポット市場の実勢価格をもとに価格が決まるのが一般的だ。これに対し、ターム契約では、あらかじめ契約期間や購入数量、価格の決め方を定めておく。日本はエネルギー資源の多くを海外に依存しているため、安定的にLNGを確保する目的から、これまでターム契約を重視してきた。実際、日本のLNG輸入では、スポット契約よりもターム契約の占める割合が大きい。

そして、日本のターム契約では、価格決定方式として、日本の原油輸入入着価格など、原油価格に連動する方式が広く使われてきた。つまり、LNGは天然ガスでありながら、日本の輸入価格では原油価格と結びつきやすい構造になっている。したがって、国際LNG価格と国際原油価格が本来別々に動くとしても、日本の輸入LNG価格は、契約上、原油価格の影響を受けやすい。

ただし、その影響はすぐには表れない。ターム契約では、一定期間の原油入着価格の平均値や数カ月前の値を参照してLNG価格を決めることが多い。このため、原油価格が上昇しても、その月のLNG輸入価格が直ちに上がるわけではない。まず、原油価格の上昇が契約上の価格に反映されるまでに時間がかかる。さらに、その価格で取引されたLNGが実際に船積みされ、日本に到着し、通関された後に、貿易統計上の輸入価格として確認される。結果的に、原油価格の上昇が統計上のLNG輸入価格に表れるまでには、契約上のラグと輸送・通関上のラグが重なることで、数か月単位の遅れが生じる。

なお、ガス料金についても、同じような構図がある。都市ガスの主原料はLNGであり、LNG価格の上昇は原料費調整制度を通じてガス料金に影響する。また、LPG(液化石油ガス)もガス料金の一部に関係する。LPGはLNGのように原油入着価格だけで説明できるわけではないが、基本的には原油・石油製品市況の影響を受けやすい。したがって、原油価格の上昇は、LNGとLPGの双方を通じて、ガス料金にも遅れて波及する。

理由その③ ~燃料費調整制度の仕組み~

次に、燃料価格の上昇が実際の電気料金に反映される仕組みを確認する。電気料金には「燃料費調整制度」という仕組みがある。これは、火力発電に使う原油、LNG、石炭の輸入価格が上がれば電気料金に上乗せし、下がれば差し引く制度である。燃料価格の変動を電気料金へ毎月自動的に反映することで、燃料価格の変動を一定のルールに沿って毎月の電気料金に織り込む仕組みである。

燃料費調整制度では、まず原油、LNG、石炭の輸入実績価格をもとに「平均燃料価格」を計算する。この平均燃料価格を、各社が設定する「基準燃料価格」と比較し、その差を燃料費調整単価に換算する。平均燃料価格が基準燃料価格を上回れば電気料金にプラスされ、下回ればマイナスされる。家庭の電気料金では、この燃料費調整額が毎月の請求額に反映される。

重要なのは、この制度でもタイムラグがあることだ。各月分の燃料費調整単価は、3か月間の貿易統計価格にもとづき算定し、2か月後の電気料金に反映される。たとえば、1~3月の平均燃料価格が、5月の電気料金に反映される。仮に4月の燃料価格が上昇した場合、2~4月の平均燃料価格として6月の電気料金から上昇分が反映され始め、4月以降の高い燃料価格だけで3カ月平均が構成されるのは、4~6月平均価格が反映される8月分となる。「3ヵ月の平均をとること」と「2か月後の料金に反映すること」により、燃料価格の上昇が電気代の上昇につながるまでには、制度上もタイムラグが生じる。

図表
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まとめ ~秋から冬にかけての支援追加の可能性はあるが、財源確保が難題~

このように、原油価格の上昇が電気料金に反映されるまでには、いくつものタイムラグが重なる。第一に、国際原油価格が上昇してから、それが日本の原油輸入入着価格に反映されるまでには、船積み・輸送・通関などを経て1〜2カ月程度のラグがある。第二に、日本のLNG輸入価格は原油価格連動型のターム契約の影響を受けやすいが、その契約価格も一定期間の原油入着価格などを参照するため、原油価格の上昇がLNG輸入価格に表れるまでにはさらに時間がかかる。第三に、上昇したLNGなどの輸入入着価格は、燃料費調整制度を通じて、3カ月平均をとったうえで2カ月後の電気料金に反映される。

つまり、原油価格が上がったとしても、その影響が「原油輸入価格」「LNG輸入価格」「燃料費調整制度」という段階を順に経て、家庭の電気料金に表れるまでにはかなりの時間がかかる。したがって、国際的な原油価格の上昇分が家計の電気代に本格的に波及するまでには少なくとも半年以上かかり、影響が出そろうまでにはさらに時間を要する可能性がある。

このため、3月以降の原油価格上昇が、電気料金に大きく反映されるのが夏頃とは想定しづらい。夏場は政府の電気・ガス料金支援によって家計負担が抑えられることもあり、燃料高の影響は見えにくいだろう。むしろ注意すべきは、支援が終わった後である。秋以降には、数カ月前の高いLNG輸入価格が燃料費調整単価に反映され始め、冬場にかけて負担がさらに増していく可能性が高い。

そのため、夏で支援を打ち切れば、秋から冬にかけて予想される電気・ガス料金の上昇によって、家計負担は大きく増加する可能性がある。これまでの政権の対応を踏まえると、秋以降も支援継続や冬場の支援拡充が検討される可能性があるだろう。

とりわけ政策判断が難しくなるのは冬である。冬場には暖房需要によって電気・ガスの使用量も増えるため、単価上昇と使用量増加が重なり、家計の負担感が強まりやすい。もっとも、すでに26年1~3月にかけての支援では、5,000億円を超える額が支出されている。仮に、27年1~3月の電気・ガス料金上昇による物価押し上げを前年比で抑制しようとすれば、これを大きく上回る規模の支出が必要になる可能性がある。冬場の支援をどの程度の規模で実施するのか、また、その財源をどのように確保するのかが、今後の大きな論点となるだろう。

図表
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新家 義貴


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一ライフ資産運用経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

新家 義貴

しんけ よしき

経済調査部・シニアエグゼクティブエコノミスト
担当: 日本経済短期予測

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