- 要旨
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3月の金融政策決定会合は、現状維持で終わった。そうなると、次回4月の決定会合で追加利上げを決めるかどうかに一層の注目が集まる。為替レートはじわじわと円安方向に向かっている。筆者は、円安是正を念頭に置いて、4月会合での利上げをメインシナリオに据えている。ここはイラン攻撃が停戦に至り、その後の原油市況を見極めるという前提がある。
3月会合の見方
3月18・19日の金融政策決定会合は、現状維持であった。そこで注目されたのが、植田総裁の記者会見である。結局のところ、植田総裁は曖昧路線を維持したが、会見の中では仮にイラン情勢の緊迫化がなかったならばという見方に言及していた。この心理を読むと、イラン攻撃がなかりせば、追加利上げに動くタイミングは近づいていたという思いをにじませていたのではないかと思う。また、3月会合の中での議論では、利上げ方向の意見を述べる人と、下方リスクを述べる人がいたとも述べていた。ここは、物価上昇への警戒感を述べる委員がいたことを強調したいのではないかと感じた。やはり、イラン攻撃を受けて、利上げの見通しが大きく後退することに警戒して、物価上昇リスクを強調したのではないかと考えられる。そう考えると、植田総裁は曖昧路線を堅持しながらも、利上げ方向の姿勢を変えていないことを強調したかったのだと思える。
日銀が抱える円安問題
為替レートは、1ドル160円近辺まで円安が進んでいて、これが徐々に輸入インフレの圧力を強めるのではないかと警戒される。2月28日に米国とイスラエルによるイラン攻撃が始まって、3月8日に一時1ドル119台までWTIの市況は上昇した。その後も原油高止まりが続いている。これは、日本の物価高要因になる。注意すべきは、それに同調するかたちで、ドル高円安がじわじわと進んでいることだ。ここには、「有事のドル買い」や、原油高が米国の貿易収支を改善させる要因になるとの思惑も働いている。この円安は、原油関連以外の輸入物価高要因にもなって、日本の消費者物価の上昇を加速させる可能性がある。これに対応する主な手段が、日銀の利上げになる。為替レートが160円を手前に膠着するのは、為替介入の警戒感があるからだ。しかし、多くの市場参加者は、そうした介入警戒感が長続きせず、いずれ日銀の利上げが必要になることを見透かしている。だから、日銀の追加利上げが大きく遠のけば、今の均衡状態が崩れて円安進行を許してしまう。3月・4月の日銀会合は、そうした事情の下で非常に注目されることになっている。
イラン情勢の不安定さ
未だに出口が見えないイラン攻撃は、すでに厭戦ムードが漂っている。トランプ大統領は、3月17日に「かなり近い将来に撤退する」と述べた。また、ホルムズ海峡への艦船派遣も、日本や欧州など各国に一旦は求めたが、その後不要という発言も行っている。最近のトランプ大統領は、発言が二転三転するから信用することが難しいが、攻撃当初の雄弁さが完全に失われたことはよくわかる。まだ、停戦交渉や海峡交通の安全性確保については先が全く見通せないが、トランプ政権がどこかで妥協する可能性は以前よりも増している。
さて、日本への原油供給が途絶えるリスクをどう考えるべきだろうか。原油備蓄が最大254日あり、当面は湾岸からのタンカー輸送が途絶えている分を、この備蓄取り崩しで対応しなくてはいけない。焦点は、その期間内にトランプ大統領が妥協に動き、タンカー輸送が可能になるかどうかだ。ここは、米国側からの戦争協力に動けばイランからの反感を買って、海峡通過ができないままになり、米国への協力を拒み続けると有形無形に圧力を米国からの受けるというジレンマがある。日本としては、停戦を待つしかないという苦しい状況である。
日銀も、この停戦までは利上げはできないと考えられる。難しいのは、4月末の決定会合までに停戦に至った場合である。果たして高市首相は、日銀の追加利上げを許すのであろうか。鍵を握るのは、4月末までのドル円レートである。1ドル160円のラインを突破して、輸入物価上昇の圧力が意識されれば、日銀は4月会合で追加利上げをするだろう。注目されるのは、原油市況の推移である。停戦になればWTIの市況は下がるだろうが、石油関連施設の破壊などもあってそれほど原油が下がらない可能性がある。停戦で原油市況が下がれば、日銀が利上げをする切迫した状況ではなくなる。筆者は、そうではなく、原油市況がある程度まで落ち着いても、水準としてイラン攻撃前の1バレル60ドル台には戻らずに、日銀が利上げを準備する状況になると予想している。
高市政権からの圧力
日銀は、高市政権から厳しい眼でみられている。政策委員の人事でも2人のリフレ派を送り込まれることになりそうだ(人事案は3月19日時点で衆議院で承認)。植田総裁との2月24日の面会でも、高市首相は追加利上げに難色を示したと伝えられる。これまでの円安を歓迎する高市首相の発言もあり、円安是正を進めることを根拠にした日銀の利上げはなかなかに難しい側面はある。
日銀からすれば、4月末に利上げをする場合には実体経済が相当に強いという説得材料を固める必要に迫られるだろう。すでに、春闘の集中回答日では多数の企業が満額回答を提示して、2026年度も高い賃上げ率の実現が行われそうだ。これは、利上げの有力な根拠になりそうだ。
しかし、高市首相はそれで納得しない可能性もある。3~4月の経済データをみて判断すべきだと強く反論されれば、6月か7月の決定会合まで利上げを先送りする必要がある。その場合には、原油高によって促されたインフレ圧力がいくらか顕在化することになるが、日銀はそれを見て見ぬふりをしなくてはいけない。ここは植田総裁のバランス感覚が問われるところである。
総合して考えると
多くのBOJウォッチャーは、4月利上げは難しいとみているようだ。筆者も迷うところがあるが、メインシナリオは4月末の決定会合での利上げを見込む。主因は、円安進行に歯止めをかけることにある。日銀にとって嫌な記憶は、12月19日の利上げで円安是正がほとんどできなかったことである。その背景を考えると、高市政権下での財政運営などがインフレ予想を作り出し、同時にそれが円安期待にも波及していたことがある。こうした市場センチメントの下では、+0.25%ほど政策金利を上げたくらいでは円安トレンドは変化しない。つまり、インフレ予想や円安期待が高まれば、金融政策が与えるインパクトは低下するのである。
こうした原理を植田総裁が承知していない訳はない。ならば、高市政権の意向にあまりに配慮すると、市場センチメントが円安期待に走りやすい環境を自分から生み出してしまうことを失敗と考えて、政治的圧力を覚悟しながら追加利上げを決めるのではないかと筆者は考える。もちろん、これはイラン攻撃が4月末までに停戦に至るという前提でのシナリオである。
熊野 英生
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