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2026.02.06
アジア経済
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インド準備銀、米印合意による金融市場の安定を受けて様子見維持
~当面は様子見が続くと見込まれるが、市場環境が金融政策を左右する可能性に要注意~
西濵 徹
- 要旨
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- インド準備銀行(RBI)は2月4~6日に開催した定例会合で政策金利を据え置いた。米国による高関税と、それを受けたGST引き下げによりインフレ率が目標下限を下回るなか、RBIはこれまで金融緩和を進めてきた。2025年12月にも追加利下げや流動性供給策を実施する方針を示した。為替市場では、従来の介入水準が防衛ラインと認識されていたが、ルピー安容認姿勢が利下げシグナルと受け止められた。
- ルピー相場は米国との関係悪化懸念を背景に軟調に推移したが、政府はこれを契機に労働法改正や銀行セクター改革を進め、投資環境の改善を図っている。金融市場では、先月末のEUとのFTA締結への最終合意や米国との関税引き下げ合意を受けて、ルピー相場や株価は持ち直している。米国との通商合意について、インド政府高官は3月の文書署名を目指す方針を示すが、先行きには不透明感が残っている。
- EUとのFTA合意や米国との通商交渉進展により金融市場が安定していることは、RBIに様子見を図る余地を与えている。RBIは声明で、世界経済は堅調、インド経済についても成長率見通しを上方修正するとともに、インフレ率見通しも小幅に引き上げたものの、景気、物価ともにリスクはおおむね均衡していると評価している。足元の景気は堅調な推移をみせていることもあり、当面は様子見姿勢を維持すると見込まれる。
- 2026-27年度予算案では、景気下支えと財政健全化の両立を目指す姿勢が示された。しかし、減税などの影響で税収の伸びは限定的と見込まれる。借入計画は過去最高水準に達するなか、国債増発観測から長期金利は高止まりしている。よって、RBIの政策運営は市場環境の影響を受けやすい状況が続くであろう。
インドの中央銀行であるRBI(インド準備銀行)は、2月4~6日の日程で開催した定例の金融政策決定会合において、政策金利であるレポ金利を5.25%に据え置くことを決定した。RBIは2025年2月に約5年ぶりの利下げに動いたうえで、その後も断続的な利下げに加え、現金準備率(預金準備率)も段階的に引き下げるなど金融緩和を進めてきた。インド経済を巡っては、トランプ米政権が同国に対する関税を50%と大幅に引き上げたことを受けて(注1)、モディ政権はその影響を軽減すべく、9月末からGST(財・サービス税)の実質引き下げに動いた。その結果、インフレ率は大きく下振れし、RBIが定める目標(4±2%)の下限を下回る伸びで推移している。よって、RBIは2025年12月の定例会合でも追加利下げを決定し、金融市場の流動性拡大を目的とする公開市場操作と為替スワップを実施するなど、景気下支えに向けた取り組みを強化している(注2)。また、金融市場においては、2025年9月末以降にRBIが1ドル=88.8ルピー近傍で積極的な為替介入(ルピー買い)を継続してきたため、この水準が「防衛ライン」と見做されてきた。しかし、12月の定例会合の前にはルピー相場の調整が進んだため、金融市場では一転してRBIがルピー安を容認しているとの見方が広がり、利下げ実施に向けたシグナルと捉えられた。

その後の金融市場では、RBIがルピー安を容認しているとの見方が広がったことに加え、米国との関係悪化の懸念もルピー相場の重しとなってきた。一方、モディ政権は米国との関係悪化を奇禍として、長年の懸案となってきた労働法の改正に着手し、労働関係法の集約化を通じて労働者の権利強化に取り組む一方、企業による人員整理を容易にするほか、ストライキ実施のハードルを高めるなど、ビジネスの円滑化や対内直接投資の拡大につながる動きをみせている。また、RBIも銀行セクターの競争力強化に向けた諸施策を実施し、国営銀行への外資出資比率の上限引き上げ、海外ファンドと金融機関による参入拡大、企業の借り入れ手続きの簡素化、銀行による合併資金の調達簡素化、企業の上場促進などの取り組みが含まれた。株式市場においては、これらの動きも追い風に、国内の個人投資家による資金流入の活発化も相場を下支えする一方、米国との関係改善の兆しがみられないことが足かせとなってきた。こうしたなか、1月末にはインドとEU(欧州連合)がFTA(自由貿易協定)の締結交渉で最終合意に至ったことを明らかにした(注3)。そして、今月にはトランプ米大統領とモディ首相が電話会談を行い、米国がインドに課している関税を18%に大幅に引き下げることで合意した(注4)。これを受けて、足元では調整の動きが続いたルピー相場、主要株式指数(ムンバイSENSEX)は共に持ち直しの動きをみせており、一連の動きを金融市場は好感している様子がうかがえる。米国との通商合意には不透明な部分が少なくないものの、インドのゴヤル商工相は数日中に共同声明を発出し、3月にも文書に署名するとのスケジュールを提示するなど楽観的な見方を示す。しかし、これまでの米国との協議を巡っても、インド政府高官は近日中に合意できると度々述べてきたものの、長時間を要してきたことを勘案すれば、スケジュールが後ずれする可能性には注意が必要と見込まれる。

他方、EUとのFTA締結に向けた最終合意、米国との通商合意の道筋が示されたことで金融市場が落ち着きを取り戻していることは、RBIにとって様子見を図る余裕につながっていると捉えられる。会合後に公表した声明文では、今回の決定について、政策金利は「全会一致」であったものの、政策スタンス(中立的)は、前回会合に続いて「1名(シン委員(デリー大学教授))が『緩和的』に変更すべきと主張」したことを明らかにしている。世界経済については「貿易の駆け込みの動き、関税の影響が想定に比べて緩やかなものにとどまり、幅広い国で財政刺激策や緩和的な金融政策が取られるなかで堅調な動きが続いている」との見方を示す。一方、インド経済について「2025-26年度の経済成長率は+7.4%になると見込まれる」一方で、先行きは「外需に不透明感は残るが、個人消費は下支えされる展開が続き、設備投資の勢いも続く」として「4-6月(+6.9%)、7-9月(+7.0%)」と前回会合から成長率を上方修正したうえで「リスクはバランスしている」との見通しを示す。また、物価動向について「短期的には堅調な雨季作(カリフ)と良好な乾季作(ラビ)が見込まれ、落ち着いた推移が続く」ものの、「地政学リスクやエネルギー価格の動向、異常気象が上振れリスクを招く懸念は残る」としつつ「2025-26年度のインフレ率は+2.1%(1-3月+3.2%、4-6月+4.0%、7-9月+4.2%)」と前回会合からわずかに上方修正するも「リスクはバランスしている」との見通しを示している。足元の企業マインドはサービス業を中心に堅調な推移をみせるなど、景気は底堅い動きが続いていることが示唆されており、前述したように通商交渉での前進による先行きにおける外需環境の改善が見込まれるなか、RBIはしばらく様子見姿勢を維持すると予想される。

なお、政府が今月1日に公表した来年度(2026-27年度)予算案では、景気下支えを重視すべく、製造業支援や公共投資の拡充に取り組む姿勢をみせる一方、財政赤字のGDP比は今年度からわずかに縮小させるなど、金融市場が注目する財政健全化路線に配慮する姿勢が示された(注 )。しかし、モディ政権が実施したGSTの実質引き下げや所得税減税が税収の足かせとなり、税収の伸びはわずかにとどまるとの見通しを示しており、財政運営は綱渡り状態の度合いを増している可能性がある。さらに、金融市場からの借入計画は過去最高の17.2兆ルピーと今年度(15.5兆ルピー)から拡大しており、国債増発が避けられない見通しとなっている。こうした懸念を反映して、金融市場においてはRBIが積極的な金融緩和を実施してきたにもかかわらず、長期金利(10年債利回り)は上昇している。その意味では、RBIの政策運営は金融市場を取り巻く環境に左右される可能性にも注意が必要と捉えられる。

注1 2025年8月27日付レポート「米国、インドへの追加関税発動、トランプ関税はブラジルと同じ50%へ」
注2 2025年12月5日付レポート「インド準備銀はルピー安容認か、景気下支えへ利下げと流動性拡大」
注3 1月28日付レポート「インド、EUとのFTAで最終合意、米国との関係悪化も交渉後押し」
注4 2月3日付レポート「インドと米国が急展開で通商合意、トランプ関税は18%に」
注5 2月2日付レポート「インド26-27年度予算案、製造業優先や公共投資拡充で景気重視へ」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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