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2025.12.05
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インド準備銀はルピー安容認か、景気下支えへ利下げと流動性拡大
~総裁は足元の経済を「ゴルディロックス」と好感、米国の動きと外部環境が今後の政策を左右か~
西濵 徹
- 要旨
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インド準備銀行(RBI)は、3~5日の日程で開催した定例会合でレポ金利を25bp引き下げ5.25%とした。今年2月以降に金融緩和を進めてきたが、すべての金融緩和の効果は現れていない。一方、GST引き下げによるインフレ鈍化を受け、金融市場では追加緩和期待が高まり、株式市場は過去最高値を更新していた。
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7-9月の実質GDP成長率は+8.2%と加速し、個人消費や投資が内需を押し上げた。しかし、今後は内需喚起が輸入増を招いて経常赤字の拡大や、GST減税による財政悪化が懸念される。株式市場は上昇する一方、財政赤字懸念で債券市場では長期金利が高止まりしており、ルピーは最安値を更新している。ルピー安はインフレ再燃リスクも伴うためRBIは一時介入したが、最近は容認姿勢に転じている様子がうかがえる。
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声明文では、世界経済は不確実性が残るも底堅いと評価。インド経済は内需が支えているが、一部先行指標に弱さもあると指摘した。しかし、今年度の経済成長率見通しを+7.0%に上方修正し、インフレ見通しは+2.0%に下方修正している。政策金利引き下げは全会一致で行われる一方、政策スタンスの維持には1名が反対したが、10月会合時点に比べて反対票が減少しており、今後は様子見姿勢が想定される。
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マルホトラ総裁は、市場流動性の拡大を目的に大規模な公開市場操作と為替スワップを実施すると発表し、インド経済は「適温」状態にあると評価した。追加利下げの背景には、印ロ協議が米国の態度硬化を招く可能性に対して先回りした対応とも考えられる。よって、今後の政策は外部環境如何の展開が続くであろう。
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インドの中央銀行であるRBI(インド準備銀行)は、今月3~5日の日程で開催した定例の金融政策決定会合において、政策金利であるレポ金利を25bp引き下げ、5.25%とすることを決定した。RBIは今年2月に約5年ぶりの利下げを実施し、その後も3会合連続の利下げを行うとともに、6月会合では利下げ幅を50bpに拡大したほか、現金準備率(預金準備率)も段階的に計4回引き下げるなど、金融緩和を進めてきた。直近の預金準備率引き下げは11月29日と会合の直前であり、現時点では一連の金融緩和に伴うすべての効果が顕在化していない。一方、モディ政権が9月末から実施しているGST(財・サービス税)の実質引き下げも追い風に、直近10月のインフレ率が前年同月比+0.25%と現基準の下で最低の伸びとなった。したがって、金融市場においては、RBIにとって一段の金融緩和の余地が拡大しているとの見方が広がった。こうした見方も後押しし、主要株式指数(ムンバイSENSEX)は先月末に最高値を更新するなど活況を呈する動きをみせた。なお、株式市場を巡っては、国内の個人投資家による資金流入の活発化が相場を押し上げる動きに繋がっているほか、RBIや政府による構造改革への期待も後押ししたと考えられる(注1)。


一方、金融市場にはインドに対する期待だけでなく、不安もくすぶっている。7-9月の実質GDP成長率は前年同期比+8.2%に加速しており、昨年来のインフレ鈍化に加え、RBIによる断続的な利下げ実施も追い風に個人消費は堅調に推移するとともに、対内直接投資の流入活発化なども背景に設備投資も拡大するなど、内需が景気を押し上げる動きが確認された。しかし、インド経済は輸入超過による慢性的な経常赤字を抱えており、GST引き下げによる需要喚起は輸入を押し上げることで対外収支の悪化を招くなど、対外収支の脆弱性を一段と高めることが懸念される。さらに、インドもコロナ禍を経て財政状況が大幅に悪化したことを受けて、財政健全化に向けた取り組みを進める途上にあるなか、『安定財源』であるGSTの引き下げは歳入減を招くなど、財政運営に対する不透明感を高めることが懸念される。こうした見方を反映して、前述のように株式市場はRBIによる一段の金融緩和を期待して相場を押し上げる一方、債券市場においては財政赤字の増大による国債増発の懸念から長期金利は高止まりする対照的な動きをみせてきた。また、対外収支の悪化懸念に加え、足元の景気の堅調さが確認されたことで、同国に50%の高関税を課しているトランプ米政権との協議の行方の見通しが立ちにくくなるとの見方を反映して、通貨ルピーは調整の動きを強めている。さらに、昨日(4日)からロシアのプーチン大統領が4年ぶりに訪印しており、モディ首相との会談内容如何では、米国がウクライナ戦争以降のロシア産原油の輸入拡大を理由に課している2次関税の行方に影響を与えることも懸念される。こうした事情も影響して、足元のルピーの対ドル相場は最安値を更新した。経常赤字を抱えるインドでは、ルピー安は輸入物価を通じてインフレ圧力を増幅させるため、相対的に高止まりするコアインフレ率が内需喚起の動きも相俟って押し上げられると懸念される。金融市場では、9月末以降にRBIが1ドル=88.8ルピー近傍で積極的な為替介入を続けたため、この水準が『防衛ライン』と見做されてきた。しかし、先月半ば以降は調整が進んだことを受けて、一転してRBIがルピー安を容認しており、今回の定例会合でルピー相場の動向を気にせず判断するとの見方が優勢となっていた。


会合後に公表された声明文では、世界経済について「想定に比べて持ち堪えている」とした上で、「米国における政府機関閉鎖の解除と通商協議の進展により不確実性は幾分後退したが、依然として高い」との認識を示している。その一方、インド経済について「外需を巡る不確実性にもかかわらず、堅調な内需に支えられている」とした上で、「足元の景気の堅調さが示唆される一方、先行指標のなかには弱含む兆しがみられる」としている。先行きについては「農業部門を巡る環境の改善、GSTの引き下げ効果、物価安定、企業や金融機関の良好なバランスシートなどが成長を促す」としている。そして、今年度の経済成長率は「+7.0%(10-12月+7.0%、1-3月+6.5%)」と10月時点(+6.8%)から上方修正するとともに、リスクについて「バランスが取れている」とした。また、物価動向について「足元の想定以上に速いインフレ鈍化は食料品価格の下落によるもの」とした上で、先行きは「堅調な農業生産が見込まれる上、一部を除けば商品市況も落ち着いた推移が続く」としている。今年度のインフレ見通しは「+2.0%(10-12月+0.6%、1-3月+2.9%)」と10月時点(+2.6%)から下方修正するとともに、リスクについて「バランスが取れている」としている。さらに、今回の決定について、政策金利は全会一致で引き下げが決定される一方、政策スタンス(中立的)は「1名(シン委員(デリー大学教授))が『緩和的』に変更すべきと主張」したことを明らかにしている。ただし、10月の前回会合では2名がスタンスの変更を主張したことを勘案すれば、今回の利下げ決定を受けて先行きは様子見姿勢を維持する可能性も考えられる。

また、会合後にオンライン会見に臨んだRBIのマルホトラ総裁は、金融市場における流動性拡大と利下げの波及効果の促進を図るべく、1兆ルピーの公開市場操作と50億ドルの為替スワップを実施することを明らかにした。その上で、足元のインド経済について、極めて稀なゴルディロックス(適温)状態にあるとの認識を示しており、急速なインフレ鈍化が進む一方で景気は依然として堅調な推移をみせていることを好感している様子がうかがえる。なお、RBIが追加利下げに動いた背景には、ロシアのプーチン大統領が訪印してモディ政権と何らかの合意が見込まれるなか、その結果を受けてトランプ米政権の態度が硬化する可能性を見越した対応とも考えられる。よって、先行きの政策運営については、印ロ首脳会談を経た米国の対応如何で方向性が変わる可能性に注意する必要がある。
注1 12月1日付レポート「金融市場が再び高めているインドへの期待は本物か?」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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