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2026.01.09
アジア経済
アジア経済見通し
中国経済
中国、家計部門は雇用・賃金が伸び悩むなかで物価上昇に直面
~家計、企業ともに厳しい状況が続くと見込まれ、中国当局の政策運営も困難さが増すであろう~
西濵 徹
- 要旨
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中国経済は供給サイド主導で拡大が続く一方、不動産不況や雇用回復の遅れにより内需は低迷している。中国当局は中央経済工作会議などにおいて、内需拡大と積極的な財政・緩和的金融政策を重視する方針を確認したほか、過当競争(内巻)是正にも取り組んでいる。しかし、過剰生産能力や省力化投資の進展により雇用増につながりにくく、当面は供給サイド優位の経済構造が続くと見込まれる。
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中国当局による反内巻政策を背景に、企業間取引を中心として原材料価格の上昇を製品価格へ転嫁する動きが進んでいる。12月の生産者物価は出荷価格が前年比▲1.9%、調達価格も同▲2.1%とともにマイナス幅が縮小して底入れの兆しを示している。しかし、消費の弱さから耐久消費財では価格転嫁が進んでいないなど、企業は調達価格の上昇を十分に販売価格へ反映できない状況が続いている。
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12月の消費者物価は前年比+0.8%と緩やかに加速して3年弱ぶりの高い伸びとなるなど、食料品や日用品を中心に緩やかに上昇している。しかし、雇用回復の遅れと賃金の伸び悩みが影響する形で、サービス価格は横ばいにとどまっている。その結果、家計にとっては実質購買力に下押し圧力が掛かりやすく、生活必需品を中心とする物価上昇が消費マインドを抑制する要因となることが懸念される状況にある。
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反内巻政策の効果は一部で現れつつあるが、省力化投資の進展により生産拡大が雇用増につながりにくい構造は変わらない。生活必需品や日用品を中心とする物価上昇は家計消費を抑える展開が見込まれる一方、企業は価格転嫁も価格競争も難しい「板挟み」の状況に置かれている。企業、家計双方にとって厳しい環境が続くなか、今後は中国当局の政策運営も一段と難しくなることは避けられないであろう。
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足元の中国経済は、供給サイドをけん引役にした拡大の動きが続いている。一方、需要サイドについては、長引く不動産不況に加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れが幅広く内需の足を引っ張るなど、力強さを欠いている。こうしたなか、昨年末にかけて開催された一連の重要会議では、内需喚起を図る方向性が示されるなど、あらためてその重要性が共有されている。今年のマクロ経済政策の方針を討議する中央経済工作会議では、最重要課題に「内需拡大を重視し、強大な国内市場を構築する」としたうえで、より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策を維持する方針を決定した。全国財政工作会議でも、最重要課題に「より積極的な財政政策による『金融・財政を組み合わせた総合的な政策パッケージ(組合拳)』の実施」を掲げるなど、財政政策の積極化を図る方針を示した。さらに、中国国内においては過剰生産能力を背景とする過当競争(内巻:ネイジュアン)が社会問題化してデフレ圧力を招く一因となっており、中国当局は『反内巻』の取り組みを強化するなど、デフレ圧力の解消を目指す姿勢をみせている。過当競争の解消そのものは望ましい動きであるものの、過剰生産能力がその元凶であるなか、その解消が進まなければ状況の改善が進むかは見通しにくい。また、過当競争の激化は幅広い分野で雇用が増えにくい一因になる一方、習近平指導部が主導する『新質生産力』も追い風に、ここ数年にわたって企業は省力化投資を活発化させてきた。その結果、雇用を伴わない生産拡大の動きが続くとともに、一向に過剰生産能力の解消に向かわないなど、内需を取り巻く環境は一段と厳しさを増している。よって、内需を巡る不透明感が払しょくできないなか、中国経済は引き続き供給サイドが優位となる展開が続くと見込まれる(注1)
前述したように、このところの中国においては、内巻がデフレ圧力を招く一因となってきたが、当局による反内巻の取り組みを反映して、企業間取引を中心に原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する動きが広がりをみせている。川上段階に当たる生産者物価(調達価格)は、昨年12月に前年同月比▲2.1%と前月(同▲2.5%)からマイナス幅が縮小しており、16ヶ月ぶりの水準となるなど底入れが進んでいる。前月比も+0.4%と4ヶ月連続で上昇するとともに、前月(同+0.1%)からペースも加速しており、非鉄金属をはじめとする商品市況の上昇を受けて、企業は原材料価格の上昇圧力に直面している。一方、生産者物価(出荷価格)は前年同月比▲1.9%と引き続きマイナスで推移するも、前月(同▲2.2%)からマイナス幅は縮小して16ヶ月ぶりの水準までマイナス幅は縮小した。前月比も+0.2%と3ヶ月連続で上昇するとともに、前月(同+0.1%)からペースも加速するなど、上昇圧力が強まっている。企業間取引を中心に価格転嫁の動きが進んでいるほか、流通コストの上昇も重なり、原材料関連や中間品、鉱物資源関連などを中心に幅広く物価が上昇基調を強めている。しかし、調達価格の上昇ペースに比べて出荷価格の上昇ペースは緩やかなものに留まるなど、企業は物価上昇圧力に直面するも、そのすべてを製品価格に転嫁することが難しい状況が続いていると捉えられる。また、日用品をはじめとする消費財関連の物価も上昇する動きが確認されているものの、個人消費が力強さを欠くなかで耐久消費財(前月比▲0.2%)は引き続き下落基調が続いており、消費者段階に向けた価格転嫁の動きが進みにくい事情もうかがえる。

川下段階に向けた価格転嫁が難しい様子がうかがえるものの、昨年12月の消費者物価は前年同月比+0.8%と前月(同+0.7%)からわずかに加速しており、2023年2月以来の高い伸びとなるなど、足元の物価は緩やかに上昇している。前月比も+0.2%と前月(同▲0.1%)から2ヶ月ぶりの上昇に転じている。果物(同+2.6%)や野菜(同+0.8%)のほか、魚介類(同+0.2%)、卵(同+0.2%)など生鮮品をはじめとする食料品価格が前月比+0.3%と、前月(同+0.5%)から5ヶ月連続で上昇しており、生活必需品を中心に物価上昇圧力が強まっている。なお、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.2%となり、前月(同+1.2%)から3ヶ月連続で同じ伸びで推移している。前月比は+0.2%と2ヶ月ぶりの上昇に転じるなど、緩やかに物価上昇圧力が強まっている。家電製品のほか、日用品関連を中心に消費財で物価上昇圧力が強まるなど、当局による反内巻の動きが影響する形で企業部門から家計部門にかけて価格転嫁の動きが広がっている模様である。ただし、一部のサービス物価は上昇しているものの、雇用回復の遅れが続くなかで全体としてのサービス物価は横ばいで推移するなど、賃金の伸び悩みを示唆する動きがみられる。よって、足元の家計部門は、雇用不安が続くとともに、賃金が伸び悩む状況が続いているにもかかわらず、生活必需品や日用品を中心とする物価上昇に直面するなど、財布の紐が一段と固くなりやすい状況にあると捉えられる。

中国当局は、反内巻の取り組みを強化することによりデフレ圧力の後退を促す姿勢を強めているが、足元においては消費財を中心にその効果が少しずつ現れていると捉えられる。ただし、前述したように、企業はここ数年、当局による支援も追い風に省力化投資を活発化させており、幅広い分野で生産活動が拡大しているにもかかわらず雇用が増えにくい構造になっている。こうした事情も雇用調整圧力を招くとともに、賃金上昇圧力が掛かりにくい要因となるなか、生活必需品や消費財を中心とする物価上昇の動きは家計部門の実質購買力を下押しすることにつながる。そうした状況は、家計消費の足かせとなるとともに、企業にとっては価格競争にも動くことができず、その一方で売り上げ減少による業績悪化懸念に晒されるなど『板挟み』状態となることが懸念される。その意味では、中国国内においては、企業、家計ともにこれまで以上に厳しい環境に直面する可能性が高まっていると判断できるほか、中国当局による対応も困難さが増す展開が続くであろう。
注1 1月5日付レポート「2026年の中国経済も「供給優位」の展開が続く可能性は高い」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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