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2025.12.15
アジア経済
米中関係
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中国経済
中国・中央経済工作会議、内需拡大の重要性認識も、具体策は不明
~「供給の強さと需要の弱さの矛盾の顕著さ」を認識も、市場期待に沿う対応は望み薄となるか~
西濵 徹
- 要旨
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今月10~11日に開催された中央経済工作会議では、内需拡大を最重要課題に位置付け、より積極的な財政政策と緩和的な金融政策を継続する方針が確認された。「内巻」の是正や不動産不況への対応、消費促進策などが示されたものの、具体策は依然として不透明であり、国家統制強化の姿勢も改めて示された。
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米中摩擦の一時的な緩和を背景に金融市場において中国本土株は堅調に推移したが、内需の弱さやディスインフレ圧力の根強さから、市場は中国当局の対応に慎重な見方を続けている。外需依存が強まるなか、株価の上値は重い動きをみせているほか、先行きへの不透明感は解消されていないと見込まれる。
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11月の鉱工業生産は前年比+4.8%と鈍化するも前月比では持ち直しがみられ、供給サイド主導の景気拡大が続く。ハイテク分野や新エネルギー関連は高成長を維持するも、不動産関連の建設資材は低迷し、分野ごとのバラつきが鮮明となっている。一方、雇用回復の遅れや不動産不況を背景に家計の節約志向が強まり、小売売上高は前年比+1.3%と大きく鈍化した。補助金政策の効果一巡や倹約令の影響もあり、耐久消費財を中心に個人消費の低迷が続く。固定資産投資は年初来前年比▲2.6%と低迷し、特に不動産投資は減少が続く。住宅価格も下落が続き、家計のバランスシート悪化を通じて消費を抑制するであろう。
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中国当局は景気の改善を強調する一方、供給の強さと需要の弱さという構造的矛盾が顕在化している。内需喚起策の実効性が不透明ななか、中国の供給力拡大は「デフレの輸出」を通じて日本を含めた他国経済への影響を強める可能性が高く、適切な対応の重要性はこれまで以上に高まっていると言えよう。
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中国では、12月10~11日の日程で、2026年のマクロ経済の運営方針が討議される中央経済工作会議が開催された。同会議は、党最高指導部(中央政治局常務委員)や国務院指導部、地方政府や国家機関、人民解放軍、国有企業などの政策責任者が一堂に会する重要な会議となる。今年は、10月末に開催された4中全会(中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議)において、来年から対象年度が始まる第15次5ヵ年計画(十五五)の基本方針や長期目標などが討議されている。そのなかで、GDPに占める家計消費の割合を『顕著に』引き上げるなど、内需喚起を図る方向性は示されたものの、その具体的な方策は示されなかった。さらに、今月8日に共産党が開催した中央政治局会議では、来年の経済政策を巡って、引き続き「より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策」を実施する方針を示した。中央経済工作会議では、来年の経済運営を巡る主要課題のうち最も重要な課題に「内需拡大を重視し、強大な国内市場を構築する」との方針を定めた。その実現に向けて「より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策」を維持する方針を決定した。また、中国国内では過剰供給能力を背景とする過当競争(内巻(ネイジュアン))が社会問題化しているが、デフレ圧力を招く消耗戦を「踏み込んで是正する」として、昨年に比べて表現を強めている。加えて、長期化する不動産不況に対応すべく、新築住宅供給の抑制を図る一方、既存住宅の買い上げによる公営住宅化する取り組み強化のほか、個人消費の促進に向けた買い替え促進策の改善、高品質な財・サービスの供給拡大、都市と農村の所得拡大を図るとしている。そして、政策運営については『カウンターシクリカル(逆周期)』と『クロスシクリカル(跨周期)』の調整強化を図り、財政支出構造を最適化する積極的な財政政策を継続するとともに、預金準備率と金利の引き下げを含む手段を柔軟に展開するとした。
一方、イノベーション主導の戦略を堅持し、新たな成長のけん引役の育成拡大を加速させるとしつつ、党中央が方向付けや統制を図る意向をあらためて強調するなど、国家資本主義色を一段と強化する考えも示されている。今回は個人消費が何度も言及されるなど、あらためてその重要性が意識される一方、供給と需要の矛盾に言及がなされる一方、政策に矛盾を孕むなかで事態好転に繋がる方策が示されるかは、現時点では依然として不透明と考えられる。金融市場においては、10月末に開催された米中首脳会談を経て、米中摩擦が事実上1年先送りされるなど事態悪化が回避されていることを受けて、主要株式指数(上海総合指数)は10年ぶりに節目となる4000を回復するなど堅調な動きをみせた。しかし、一連の会議を経ても中国当局による対応の行方は依然として明確でなく、中国当局は『反内巻』への取り組み強化も追い風に、企業は企業間取引を中心に原材料価格の上昇を製品価格に転嫁しているものの、消費財への転嫁は進まないなどディスインフレ圧力の根強さがうかがえる(注1)。さらに、足元の景気は内需が力強さを欠くなかで外需への依存を強めており(注2)、内需の行方は見通しにくい展開が見込まれる。よって、その後の株価は上値の重い展開が続くなど、自信を取り戻せていない様子がうかがえるとともに、当面は上値が抑えられる動きが続くと見込まれる。

前述したように、足元の中国経済は供給サイドをけん引役にした拡大の動きが続いているなか、11月の鉱工業生産は前年同月比+4.8%と前月(同+4.9%)からわずかに鈍化して昨年8月以来の伸びとなるなど、頭打ちの様相を強めている。しかし、前月比は+0.44%と前月(同+0.17%)から拡大ペースが加速しており、前月は中国による反内巻への取り組み強化を反映して生産活動に下押し圧力が掛かる動きがみられたものの、早くもその効果が薄れている可能性がある。分野別では、冬場のエネルギー需要を見越す形で鉱業(前年比+6.3%)の生産が底入れしたものの、製造業(同+4.6%)は鈍化する対照的な動きをみせるも、製造業のうちハイテク関連(同+8.4%)は引き続き高い伸びが続くなど、中国当局の政策支援が下支えしている様子がうかがえる。財別では、不動産不況が足を引っ張る形で粗鋼(前年比▲10.9%)や銑鉄(同▲8.7%)、鋼材(同▲2.6%)、セメント(同▲8.2%)といった建設資材の生産は軒並み前年を下回る推移が続く。その一方、習近平指導部が主導する「新質生産力」への取り組みを反映して産業用ロボット(前年比+20.6%)や集積回路(同+15.6%)のほか、輸出に向けた生産拡大の動きを反映して新エネルギー車(同+17.0%)の生産は高い伸びが続いている。よって、引き続き分野ごとに勢いのバラつきが一段と鮮明になるとともに、足元の中国景気は供給サイドがけん引役となる動きが続いていると捉えられる。

不動産不況の長期化に加え、若年層を中心とする雇用回復の遅れが家計部門の財布の紐を固くするなど節約志向を強める要因となるなか、11月の小売売上高は前年同月比+1.3%と前月(同+2.9%)から一段と鈍化しており、コロナ禍の影響が残った2022年12月以来の低い伸びとなるなど、頭打ちの動きを強めている。前月比も▲0.42%と前月(同+0.12%)から2ヶ月ぶりの減少に転じるとともに、過去1年で最大のマイナス幅で減少するなど家計消費を取り巻く環境は急速に冷え込んでいる様子がうかがえる。11月は例年、大手EC(電子商取引)サイトが大規模セールを実施するなど個人消費が喚起されやすい時期にあるが、習近平指導部が主導する腐敗防止を目的とする「倹約令」が個人消費の足を引っ張っている可能性がある。さらに、中国当局は昨年後半以降に個人消費など内需喚起を目的に、補助金や減税をはじめとする政策支援を通じて耐久消費財の買い替え促進を図る動きをみせてきたものの、足元ではその効果が一巡していることも小売売上高の足かせとなっている。財別では、新型スマホの発売が相次いだことが影響して通信機器(前年比+20.6%)で高い伸びが確認されるとともに、不動産や株式を巡る不透明感がくすぶるなかで、資金逃避先として宝飾品(同+8.5%)も高い伸びをみせる。その一方、耐久消費財の買い替え促進策の効果一巡を受けて、自動車(前年比▲8.3%)や家電製品(同▲19.4%)は下振れしているほか、不動産需要の弱さを反映して建築資材(同▲17.0%)や家具(同▲3.8%)は軒並み前年を下回る伸びで推移するなど、弱含んでいる。よって、個人消費は引き続き低迷していると捉えられる。

さらに、不動産不況を巡る状況は引き続き底がみえない一方、米中首脳会談を経て両国関係に表面的ながら改善の兆しがみられるものの、10月の固定資産投資は年初来前年比▲2.6%と前月(同▲1.7%)からマイナス幅が拡大して、2020年6月以来の伸びに鈍化している。当研究所が試算した月次ベースの前年同月比の伸びは▲4.6%と5ヶ月連続のマイナスとなるも、前月(同▲4.7%)からわずかにマイナス幅が縮小している。しかし、前月比は▲1.03%と前月(同▲1.51%)からマイナス幅は縮小するも、10ヶ月連続で減少するなど頭打ちの動きを強めている。実施主体別では、民間投資(年初来前年比▲5.3%)のみならず、国有企業(同▲1.1%)もともにマイナスとなるなど、幅広い分野で投資活動が弱含んでいる様子がうかがえる。対象別では、建設投資(年初来前年比▲6.4%)は引き続き前年を大きく下回る一方、設備投資関連(同+12.2%)は堅調な動きが続いており、中国当局による更新投資の需要喚起に向けた政策支援の効果が続いており、個人消費の喚起策の効果が息切れするのと対照的な動きをみせている。なかでも、不動産不況に底がみえない展開が続いていることを反映して、不動産投資は年初来前年比▲15.9%と前月(同▲14.7%)からマイナス幅は拡大しており、当研究所が試算した月次ベースの前年同月比の伸びも▲16.8%と前月(同▲15.2%)からマイナス幅が拡大するなど下振れしている。こうした状況を反映して、11月の新築住宅価格は前年同月比▲2.4%と前月(同▲2.2%)からマイナス幅が拡大しており、前月比も▲0.4%と前月(同▲0.5%)から7ヶ月連続で下落している。中古住宅に至っては調査対象の70都市すべてで3ヶ月連続の下落となるなど、不動産市場の需給環境に改善の兆しがみられない様子がうかがえる。中国においては、家計部門の資産に占める不動産比率が高く、市況の低迷はバランスシート調整圧力を通じて財布の紐を固くする展開が続いており、先行きも状況の好転は見通しにくい状況が見込まれる。

国家統計局は11月の中国経済を巡る状況について「改善し、安定している」との認識を示している。その一方、「外部環境の変化による影響は深刻化している」としたほか、「国内における供給の強さと需要の弱さという矛盾が顕著になっている」との見方を示している。中国のGDP統計が供給サイドの統計によって構成されていることを勘案すれば、足元では供給サイドをけん引役に拡大が続いていることが確認されたことは、足元のGDPの堅調さに繋がることが期待される。一方、需要サイドについては、特に内需は消費、投資ともに力強さを欠く一方、輸出の底堅さに支えられる展開が続いているほか、先行きは米中摩擦の緩和も下支え役となる可能性も見込まれる。一連の重要会議では、内需喚起の重要性が幾度となく確認されるなど、認識が共有されていることは望ましいものの、構造問題の深刻さに対して、具体的な方策は示されていないことに加え、その規模も不透明であることを勘案すれば、事態打開が進むかは見通しにくい。中国による供給力の高さに加え、内巻の勝者は価格、技術の両面で競争力を高めていることもあり、日本を含めて中国による「デフレの輸出」に晒されるリスクはこれまで以上に高まっていることを認識しつつ、適切な対応策を講じることがこれまで以上に重要である。
注1 12月10日付レポート「中国、11月インフレは伸び加速も、ディスインフレの根強さは変わらず」
注2 12月8日付レポート「中国11月貿易は外需の堅調さと内需の弱さをあらためて示唆」
西濵 徹
本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。
- 西濵 徹
にしはま とおる
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経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析
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