インドは中国を超えるのか インドは中国を超えるのか

中国、11月インフレは伸び加速も、ディスインフレの根強さは変わらず

~「反内巻」の動きも価格転嫁進まず、資産・債務を巡るデフレ圧力が一段と進む可能性も~

西濵 徹

要旨
  • 中国によるレアアース輸出管理強化方針を受けて米中関係の悪化が懸念されたが、首脳会談を経て双方が関税や輸出管理措置の停止・縮小で一致し、関係改善が進んでいる。これにより貿易の底入れが期待されるほか、企業マインドも改善している。なお、11月の対米輸出は依然弱い動きが続いたが、将来の生産拡大に向けた輸入が底入れしつつあるため、先行きにおける対米輸出増加に繋がる動きがみられる。

  • 内需の弱さが続くなかで11月の消費者物価は前年比で上昇したが、前年の低水準の反動による一時的な要因が大きい。食料品価格の上昇が物価を押し上げるなか、コアインフレ率は横ばいで推移する展開が続いている。サービス価格や消費財価格は節約志向などを背景に下落しており、インフレ圧力は弱い。生鮮食品以外では財、サービスともに物価が上がりにくく、全体としてディスインフレ傾向が続いている。

  • 生産者物価は長期のマイナス基調が続くが、商品市況の持ち直しを受けて調達価格は前月比で小幅上昇している。非鉄金属やエネルギーでは上昇がみられる一方、農産品や化学製品は下落が続く。原材料価格の上昇を受けて、鉱業部門などでは価格転嫁が進んでいる。しかし、消費財、なかでも耐久消費財では節約志向の強まりで価格転嫁が進んでおらず、出荷価格は横ばいもしくは下落基調が続いている。

  • 不動産不況の長期化や若年層の雇用回復の遅れで家計の節約志向が強まり、内需停滞とディスインフレ圧力が続いている。中国当局は内需喚起に動く方針を示すも、足元では財政・金融政策による需要喚起は効果が薄れつつあり、今後もデフレ基調が続く可能性が高く、資産・債務面のリスクも拡大が懸念される。

米中関係を巡っては、10月に中国がレアアースに対する輸出規制を強化する方針を発表したことを受け、トランプ米大統領が中国に対する追加関税を100%に引き上げる方針を示し、関係が急速に悪化する懸念が強まった。しかし、その後は10月末の米中首脳会談を前に開催された閣僚級協議を経て、関係改善に向けた『地ならし』が進められた。その結果、中国はレアアースの輸出規制強化策の発動を1年延期し、米国は最大100%の追加関税という対抗措置を撤廃するとともに、合成麻薬(フェンタニル)対策を巡る中国の協力合意を受けて、この問題を理由に課してきた追加関税を引き下げた。加えて、米国は輸出制限リストへの中国企業の追加や中国船に対する入港手数料の徴収などの輸出管理強化策を1年間停止し、中国も米国関連船舶への特別港湾料の徴収を1年間停止した。また、米中双方は関税の上乗せ分(24%)の停止を1年間延長した。これにより、米中の緊張関係は一転して雪解けを迎えるとともに、両国関係の悪化を理由に下振れした米中間の貿易の底入れが進むことが期待される。米国による追加関税の引き下げを受けて、トランプ第2次政権下で米国が中国に課す追加関税は20%とASEAN主要国(19~20%)とほぼ同水準となる。米中首脳会談を経た合意を経ても、米中の間に横たわる根本的な問題は解消されていないことに鑑みれば、今回の合意は事実上の『先送り』に過ぎないことは間違いない。とはいえ、表面的ながら米中摩擦の解消に向けた糸口が探られていることは、当面の世界経済にとって米中関係が懸念材料となる可能性が後退したことを意味する。こうした動きを反映して、足元の企業マインドは外需関連を中心に改善が確認されている(注1)。ただし、一連の手続きが11月半ばであったため、11月の対米輸出は引き続き力強さを欠く一方、先行きの生産拡大を目的とする輸入は底入れするなど先行きの対米輸出の拡大に繋がる動きはみられる(注2)。

一方で、企業マインドの動きは内需の弱さを示唆する内容であるとともに、11月の輸入も中国国内における内需の弱さがあらためて示唆される内容であった。こうしたなか、11月の消費者物価(インフレ率)は前年同月比+0.7%と前月(同+0.2%)から加速して10ヶ月ぶりの伸びとなった。ただし、これは昨年11月のインフレ率が前年同月比+0.2%に留まるとともに、前月比で▲0.6%と大きく下振れした反動が影響した可能性がある。事実、前月比は▲0.1%と前月(同+0.2%)から5ヶ月ぶりの下落に転じており、前年比の伸びだけを捉えてインフレが加速していると判断するのは早計である。なお、足元の物価を押し上げているのは野菜(前月比+7.2%)など生鮮食料品で物価が上昇したことが影響している。その一方、原油をはじめとするエネルギー資源価格の調整が続いていることを反映して、エネルギー価格は落ち着いた推移をみせている。このため、食料品とエネルギーを除いたコアインフレ率は前年同月比+1.2%と前月(同+1.2%)から横ばいで推移しており、前月比も▲0.1%と前月(同+0.2%)から9ヶ月ぶりの下落に転じるなど、物価に下押し圧力が掛かっている。前月が国慶節と中秋節が重なったことも影響して、観光(前月比▲5.7%)のみならず、全般的にサービス物価が軒並み下落したことに加え、家計部門の節約志向の根強さも影響して消費財価格も下落しており、総じてインフレ圧力が後退している様子がうかがえる。

図表
図表

また、川上の段階に当たる生産者物価は長期にわたってマイナスで推移しており、ディスインフレ圧力の根強さを招く一因となっている。このところの商品市況を巡っては、米中摩擦の緩和を好感する形で一部に持ち直しの動きがみられるなか、11月の生産者物価(調達価格)は前年同月比▲2.5%と前月(同▲2.7%)からマイナス幅は縮小するも、引き続き前年を下回る水準で推移している。前月比は+0.1%と前月(同+0.1%)から3ヶ月連続で上昇しており、商品市況の上昇を受けて、非鉄金属関連やエネルギー関連で物価上昇圧力が掛かる動きがみられる一方、農産品や化学製品関連で価格下落の動きが続いている。川上段階で緩やかな物価上昇が進んでいることに加え、企業間の過当競争(内巻)による価格下落が収益悪化を招くなど社会問題となるなか、中国当局は『反内巻』に向けた取り組みを強化させている。こうした状況にもかかわらず、11月の生産者物価(出荷価格)は前年同月比▲2.2%と前月(同▲2.1%)からわずかにマイナス幅が拡大している。前月比は+0.1%と前月(同+0.1%)から2ヶ月連続で上昇しており、商品市況の上昇の動きを反映して、鉱業部門を中心とする原材料関連で物価が上昇する動きが確認されるなど、企業間取引を中心に価格転嫁の動きが進んでいる様子がうかがえる。その一方、消費財関連の出荷価格はほぼ横ばい、ないし下落傾向が続いており、なかでも耐久消費財は下落基調が続くなど、家計部門の節約志向が根強いなかで価格転嫁が進みにくい様子もうかがえる。中国当局は反内巻の動きを一段と強めるなか、先行きについては原材料価格の上昇を製品価格に転嫁する流れが広がりをみせる可能性がある一方、仮に転嫁が進まない展開が続けば、企業業績の重しとなる可能性に注意が必要である。

図表
図表

中国では、コロナ禍を経て不動産不況が長期化している上、若年層を中心とする雇用回復の遅れも重なり、家計部門は節約志向を強めており、根強いディスインフレ圧力を招く一因となっている。不動産市況の底がみえない展開が続くなかで不動産需要は低迷しており、こうした動きを反映して家計部門に対する信用残高は頭打ちしている。8日に中国共産党が開催した中央政治局会議では、来年の経済政策を巡って、引き続き「より積極的な財政政策と適度に緩和的な金融政策」を実施する方針を示している。10月に開催した4中全会(中国共産党第20期中央委員会第4回全体会議)では、来年から始まる第15次5ヵ年計画(十五五)に関する討議が行われ、内需喚起の重要性が共有された模様である。しかし、過去1年以上にわたって財政、および金融政策の方針転換を通じて需要喚起が行われてきたにもかかわらず、足元ではすでにその効果が一巡する兆しが出ている。さらに、十分な需要創出に繋がっていないことを勘案すれば、間もなく開催される中央経済工作会議で具体的な方策を伴う形で十分な方針が示されるかは不透明である。よって、先行きもデフレ基調が続く可能性は高いほか、資産や債務を巡るデフレ圧力が一段と深刻化する流れにも注意が必要になろう。

図表
図表

以 上

西濵 徹


本資料は情報提供を目的として作成されたものであり、投資勧誘を目的としたものではありません。作成時点で、第一生命経済研究所が信ずるに足ると判断した情報に基づき作成していますが、その正確性、完全性に対する責任は負いません。見通しは予告なく変更されることがあります。また、記載された内容は、第一生命保険ないしはその関連会社の投資方針と常に整合的であるとは限りません。

西濵 徹

にしはま とおる

経済調査部 主席エコノミスト
担当: アジア、中東、アフリカ、ロシア、中南米など新興国のマクロ経済・政治分析

執筆者の最近のレポート

関連テーマのレポート

関連テーマ